「エビデンスレベル」って何?~ランダム化比較試験のメタ解析から、専門家個人の意見まで


回答①:エビデンスとは

 「エビデンス」とは、診療行為に対する「科学的根拠」のことです。

 医療に対して何か情報を入手した際、その情報は本当に正しいと言えるのか、その裏付けとなる「科学的根拠」があるかどうか、を確認する必要があります。

 この「科学的根拠」は、主に研究者の研究論文という形でまとめられ、学会の学術雑誌で公表されています。日本の論文であれば「医学中央雑誌(医中誌)」、海外のものであれば「アメリカ国立医学図書館の論文データベース(PubMed)」で主に探すことができます。



回答②:エビデンスレベルとは

 「科学的根拠」のレベルとは、その研究の結果が「どれだけ一般的なものか?」ということです。

 「偏り」が全くない研究は存在しません。しかし、どれだけ「偏り」を減らすように研究が行われているか、という視点から、「科学的根拠」を8つにランク付けしています。
エビデンスレベル~診療行為に対する科学的根拠とそのレベル


「偏り」とは?

 「偏り」は「バイアス」とも呼びます。何かの調査をする際に、ある特徴を持つ偏った集団が対象となってしまうことによって生まれます。

※結果が偏る例
 スポーツジムに通う人を対象に健康調査をしたとします。そもそも、スポーツジムに通う人というのは健康意識の高い人です。そのため、調査結果は一般的なものよりも、健康のために努力する方向に偏ります。

※対象が偏る例
 職場で持病の調査をしたとします。この時、病気になって退職したような人は対象から外れてしまいます。そのため、健康な労働者ばかりを調査することになってしまいます。

※情報が偏る例
 病院に生涯通うことがない健康な人が居ます。こういった人が天寿を全うした際、実は小さな癌があったことが後になってわかることがあります。
 一方、病弱な人は頻繁に病院に通うため、小さな癌でも発見され、癌であると診断されることがあります。
 このように、検査を受ける回数が多い方が、疾患が見つかる頻度が高くなります。

※交絡バイアス(最も注意すべき偏り)
 「運動不足」と「癌の発症」の因果関係を調査するとします。その際、運動をしないグループと、運動をよくするグループに分け、それぞれの癌の発症率を調査することになります。
 ところが、実は運動をしないグループは全員「喫煙者」で、運動をするグループは全員「禁煙者」である、という事実が隠れていることもあります。すると、調査結果として出てきた「運動量」と「癌」の因果関係には、「喫煙量」と「癌」の因果関係も上乗せされていることになります。
交絡バイアス~関係ない要素が混じり込むこと
 このように、原因でも結果でもない、全く別の第三の要因によって、検討している因果関係が影響を受けることを「交絡バイアス」と呼びます。


 つまり、何かの研究・調査を行う際にはこうした「偏り」を排除し、できる限り「一般的なもの」に近づけられるような方法を選ぶ必要があります。



研究デザインのレベル分類

 「エビデンスレベル」は、ヒトを対象にした研究が対象になります。動物実験や細胞実験にはエビデンスのレベル分けはありません。


※8つに分類される臨床研究のエビデンスレベル
(高いエビデンスレベル)
 1a:ランダム化比較試験のメタ解析
 1b:少なくとも一つのランダム化比較試験
 2a:ランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究
 2b:ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究
 3  :症例対象研究
 4  :処置前後の比較など、前後比較や対照群を伴わない研究
 5  :症例報告
 6  :専門家個人の意見、専門家委員会報告
(低いエビデンスレベル)



 ※説明をわかりやすくするため、エビデンスレベルが低い順に説明します。

6、権威の主観:専門家個人の意見

◆概要
 大学病院の教授や、学会の評議員などに当たる人物が、主観的に述べた意見のことです。

◆強み
 権威を持った人物の意見のため、説得力があります。

◆弱み
 あくまで主観的な意見なので、その人物の利害関係や気分によっても変わることがあります。



5、ある1つの事例:症例報告

◆概要
 ある1人の患者の実例を報告したものです。

◆強み
 1例だけであっても実際に客観的なデータが存在するため、専門家の意見よりも高いエビデンスレベルで扱えます。

◆弱み
 例えば1日500本の喫煙者だったり、130kgの巨漢だったり、毎日20km走るランナーであったりと、その患者の背景が極めて特殊なこともあります。そこまで極端ではなくとも、どんな薬を使っていたか、普段どんな生活をしているか、どんな持病があるかといった背景によって、別の人でも同じ結果が得られるとは限りません。



4、ある1つの観察報告:処置前後の比較など、前後比較や対照群を伴わない研究

◆概要
 ある程度の集団に治療を行い、その治療の前後でどのような変化が現れたかを比較するものです。

◆強み
 ある程度の集団に行うため、1例だけの症例報告よりも高いエビデンスレベルで扱えます。

◆弱み
 その治療方法を行わなかった場合にどうなったか、という対照群がないため、本当にその治療の効果かどうかを判定することができません。



3、過去にさかのぼる:症例対照研究

◆概要
 「血圧」と「喫煙」の関係を調査をするとします。いま、同じ薬を飲んでいたにも関わらず、血圧が下がった人と下がらなかった人が居ます。このように血圧の下がり具合に差が出たのは何故か、過去を遡りその要因として「喫煙」の有無を探る方法です。
エビデンスレベル3~過去に遡って原因究明
 例えば、いま血圧がうまく下がっている人の中には、過去に禁煙をできている人が多かった、といったような報告になります。

◆強み
 「禁煙」していれば「血圧」が下がった、というだけでなく、「喫煙」していたら「血圧」が下がらなかった、という比較対照を置いているため、エビデンスレベルは症例報告より高く扱えます。

◆弱み
 研究を始める時点で、「血圧が下がった」という結果が判明しています。そのため、研究をする際にどうしても偏見が入ってしまいます。



2a~2b、未来に向かって行う:コホート研究

◆概要
 「血圧」と「喫煙」の関係を調査しようとするとき、高血圧で、かつ喫煙者である患者を追跡調査します。そして、ある程度の期間が経った時点で、禁煙したかどうか、血圧が下がったかどうかを調査します。
エビデンスレベル2~未来に向かって追跡する

◆強み
 調査を始める時点では結果が未知なので、対象者を選ぶ際に偏見が入り込む余地がありません。そのため、症例対照研究よりも高いエビデンスレベルで扱えます。

◆弱み
 例えば、自発的に禁煙するような人は、他にも運動をしたり、食事に気を付けていたりと、健康意識が高い生活を送っている可能性が非常に高いと言えます。こうした生活習慣が結果に影響した可能性(交絡バイアス)を排除できません。



1b、同じ背景で比較する:ランダム化比較試験(RCT)

◆概要
 「血圧」と「喫煙」の因果関係を調査しようとするとき、日常的に喫煙し、かつ、高血圧である患者をまずランダムに集めます。続いて更にランダムに「喫煙を続けるグループ」と「禁煙するグループ」に振り分けます。そして、この2つのグループにどんな差が出るか、を調査するものです。
エビデンスレベル1b~背景を揃える

◆強み
 ランダム(無作為)に集団を選び振り分けるため、「喫煙」以外に差のない2グループ間で比較することができ、他の要因による差を排除することができます。

◆弱み
 確かに比較する2つのグループ間には「喫煙」以外の差はありません。しかし、例えば日本人で行った研究と、アメリカ人で行った研究とでは、対象者の食文化も違えば、生活環境も異なるため、同じ結果が得られるとは限りません。



1a、現在最高ランクのエビデンス:ランダム化比較試験のメタ解析

◆概要
 現在最もエビデンスレベルが高いとされる研究のデザインです。公表されている論文の中うち、複数のランダム化比較試験(1b)の結果を、まとめて再解析するものです。
エビデンスレベル1a~まとめて解析

◆強み
 背景が異なる様々な集団に行った研究結果を、まとめて再解析することになるため、複数の研究結果を総合的に判断できます。そのため、単独のランダム化比較試験よりも、広く一般に適用しやすくなります。

◆弱み
 この研究デザインも万能ではありません。そもそも研究者にとって都合の悪い研究結果は、論文になっていない可能性があります。そのため、論文の選び方によっては、結果が偏ってしまう危険性があります。
 重要なのは、こうした高い「エビデンスレベル」の結果を踏まえて、実際にどういった医療として活かしていくのか、という点です。



薬剤師としてのアドバイス:専門家個人の意見は最もエビデンスレベルが低い

 注目すべきは、専門家の意見(エキスパート・オピニオン)が最も低いレベル6に設定されていることです。どれだけ権威ある人の意見であっても、それはきちんとデザインされた研究結果には及ばない、としているところが重要です。

 このときの「専門家」とは、大学教授や学会の評議員といった水準の人たちを指します。
 一介の医師・薬剤師といった専門職、会社の担当者といった人の意見であっても、臨床的なエビデンスになり得ないことにも注意が必要です(そのため、本Q&Aでは意見の根拠となった文献を明記しています)。

 
 医薬品が健康食品と大きく異なるのは、こうした明確なエビデンスに裏付けされた効能・効果があることとも言えます。



 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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