『ハルシオン』と『マイスリー』、同じ睡眠薬の違いは?~ω受容体の選択性


回答:『ハルシオン』の3つの弱点を改良した『マイスリー』

 『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』と『マイスリー(一般名:ゾルピデム)』は、どちらも不眠症に使う睡眠薬です。
 『ハルシオン』は、寝付きが悪いタイプの不眠によく効きますが、以下の3つの弱点があり、使いづらいケースが少なくありません。

①筋肉を弛緩させるため、足元がふらついて転ぶ恐れがある(筋弛緩)
②薬を飲んだ前後や、夜中の記憶が飛んでしまうことがある(健忘)
水虫の薬など、飲み合わせの悪い薬が多い(相互作用)

 特に高齢者の場合、夜間にトイレに起きることがよくあります。その際、足元がふらついて転倒すると、骨折などの大きなリスクになります。

 『マイスリー』は、『ハルシオン』のこうした弱点を補うように改良され、高齢者や併用薬の多い人でも使いやすい睡眠薬です。



回答の根拠①:筋肉と記憶への影響~ω1とω2受容体の違い

 『ハルシオン』と『マイスリー』は、どちらも同じ中枢の「ω受容体」に作用し、眠気を誘います。
 しかし、この「ω受容体」には2種類あり、それぞれ異なる生理活性を持っています1,2)。

ω1受容体・・・睡眠に関与する「小脳」や「大脳新皮質」に多い
ω2受容体・・・筋肉の緊張に関与する「脊髄」や、記憶に関与する「海馬」に多い
ハルシオンとマイスリー~ω受容体
 1) マイスリー錠 インタビューフォーム
 2) Science.290(5489):131-4,(2000) PMID:11021797


 『ハルシオン』は、「ω1受容体」と「ω2受容体」の両方に作用します。そのため、催眠作用のほかに、筋弛緩作用も持ち、また副作用として記憶が飛ぶ”健忘”を起こすことがあります。

 一方、『マイスリー』は「ω1受容体」だけに作用します1)。そのため、筋肉や記憶に対する副作用が少ないのが特徴です。



回答の根拠②:『ハルシオン』の相互作用が多い理由

 『ハルシオン』は、主に「CYP3A4」という酵素で代謝されます3)。

 3) ハルシオン錠 添付文書

 この「CYP3A4」は、他にも多くの薬の代謝にも使われる上、薬によってはこの「CYP3A4」を阻害する作用を持っているものもたくさんあります。
 そうした薬と『ハルシオン』を一緒に使うと、代謝酵素「CYP3A4」が競合・阻害されるために『ハルシオン』の解毒・分解が遅くなり、必要以上に血中濃度が高くなって中毒症状を起こす恐れがあります3)。

 そのため、『ハルシオン』には一緒に使えない薬が非常にたくさんあります。

 一方、『マイスリー』は「CYP3A4」だけでなく「CYP2C9」や「CYP1A2」など他の代謝酵素によっても解毒・分解されます。そのため、「CYP3A4」が競合・阻害されても大きな影響を受けません。
ハルシオンとマイスリーの代謝酵素
 実際、『マイスリー』には併用禁忌の薬もありません4)。

 4) マイスリー錠 添付文書



薬剤師としてのアドバイス:寝付きが悪い不眠症と、熟睡できない不眠症は別の薬が必要

 ひとことに「不眠症」と言っても、寝付きが悪い不眠症(入眠障害)と、熟睡できず何度も目が覚めてしまう不眠症(中途覚醒)は、全く別の症状であり、薬もそれぞれ別のものが必要です。


 『ハルシオン』や『マイスリー』は、どちらも作用時間の短い睡眠薬で、寝付きの悪い「入眠障害」の治療に用いる睡眠薬です。
 夜中に何度も目が覚めてしまう、という症状がある場合には、作用時間の長い別の睡眠薬の方が症状に適している可能性があります。

 主治医と不眠について相談する場合には、寝付きが悪いのか、熟睡できないのか、あるいはその両方なのか、できるだけ症状は具体的に伝えるようにしてください。
 


+αの情報:保険適用上の注意

 『マイスリー』は、躁うつ病や統合失調症に伴う不眠症状には適応がありません。そのため、こうした疾患に伴う不眠に使う場合は、保険適用外になることに注意が必要です。



添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆適応症
ハルシオン:不眠症、麻薬前投薬
マイスリー:不眠症(統合失調症・躁うつ病に伴う不眠症は除く

◆最高血中濃度到達時間(tmax)
ハルシオン:1.2時間
マイスリー:0.7~0.9時間

◆半減期
ハルシオン:2.91時間
マイスリー:1.78~2.3時間

◆併用禁忌の薬
ハルシオン:抗真菌薬、HIVプロテアーゼ阻害薬など多数
マイスリー:なし

◆錠剤のバリエーション
ハルシオン:0.125mg、0.25mg
マイスリー:5mg、10mg

◆製造販売元
ハルシオン:ファイザー
マイスリー:アステラス製薬



 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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