がんに「モルヒネ」を使うと、寿命が縮まる?~時期・量・依存の誤解と早期緩和ケアの効果


回答:縮まらない、むしろ早めに緩和ケアを始めると寿命が延びる可能性も

 がんの治療において、「モルヒネ」を使うことに躊躇する人は少なくありません。
 その一因として、「モルヒネ」=終末期の最終手段というイメージや、「モルヒネ」を使うと寿命が縮まるという誤解があります。

 しかし実際には、早い時期から、十分に痛みが和らぐ量の「モルヒネ」を使った方が、生活の質(QOL)は高くなり、更に生存期間も長くなることが知られています。
 また、がん治療の痛み止めとして適切に「モルヒネ」を使っている限り、精神依存も問題にならないこともわかっています。
モルヒネの誤解
 そのため、「モルヒネ」の使用をギリギリまで我慢したり、多少の痛みは我慢してでも「モルヒネ」の使用量を少なく抑えたり、といったことをする必要はありません。

 特にがんのような病気では、患者やその家族が積極的に情報収集をする結果、誤った情報や極端な意見によって不必要な不安を煽られるケースが少なくありません。疑問や不安を感じた際には、かかりつけの医師・薬剤師など、専門家の意見を聞くようにしてください。



回答の根拠①:「モルヒネ」を使い始める時期
~早めの緩和ケアが、QOLと生存期間に好影響を与える

 早い段階から「モルヒネ」を使って痛みをコントロールする「早期緩和ケア」を行うことで、生活の質(QOL)が高くなるばかりか、生存期間も3ヶ月ほど長くなるという報告があります1)。

 1) N Engl J Med.363(8):733-742,(2010) PMID:20818875

 「モルヒネ」を使うと聞くと、「もはやモルヒネしか方法がないほどの時期なのか」と悲観的に捉える人が少なくありません。しかし、最近ではこうした「早期緩和ケア」が注目され、早いうちから「モルヒネ」を使うことが増えています。
早期緩和ケアによる効果
 つまり、今では「モルヒネ」=終末期の最終手段、ではなくなっているということです。



回答の根拠②:「モルヒネ」を使う量
~十分に効く量を使って痛みを和らげた方が、生存期間は長くなる

 がん治療の際、「モルヒネ」を300mg未満の低用量で使うよりも、300mg以上の高用量を使った方が、生存期間が長くなることが報告されています2)。

 2) Cancer.101(6):1473-1477,(2004) PMID:15368335

 ただし、「モルヒネ」の効果には個人差も大きく、患者ごとの個別な量で使うのが原則です3)。
 そのため、「モルヒネ」の量を単に300mg以上に増やせば良いというわけではなく、十分に痛みを和らげることができるかどうかが問題です。

 3) WHO方式がん疼痛治療法の5原則

 実際、がんによる痛みの強さが生存期間と強く相関するという報告もあります4)。
モルヒネ~痛みの強さと生存期間
 4) J Pain Symptom Manage.32:532-540,(2006) PMID:17157755


 このことから、「モルヒネ」の量を少なく抑えて痛みを我慢するよりも、むしろ「モルヒネ」を適切に使って十分に痛みを和らげた方が、生存期間が長くなると言えます。



回答の根拠③:「モルヒネ」で精神依存が起こらない理由

 がん治療において、痛み止めとして「モルヒネ」を適切に使っている限り、精神依存は問題にならないことが長年の臨床実績からわかっています5)。
 これは気休めでもなんでもなく、きちんと原理が証明されている生理現象によるものです(後述)。

 5) 日本緩和医療学会 「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」


薬剤師としてのアドバイス①:因果関係を逆向きに解釈してしまうことに注意

 がん治療において、「モルヒネ」の使用量が多い人ほど寿命が短い、という「イメージ」は確かにあります。

 これは、がんが進行すればするほど痛みも強くなり、痛みが強くなればなるほど「モルヒネ」の使用量も多くなる傾向があるからです。
 しかし、これは「モルヒネ」の使用量が生存期間に影響しているわけではありません。因果関係が逆になっていることに注意が必要です。 
モルヒネと生存期間の因果関係



薬剤師としてのアドバイス②:痛みの強さは、具体的・客観的に医師に伝える

 「モルヒネ」は強力な痛み止めである反面、様々な副作用もあります。少ない量で痛みを抑えられるのであれば、薬の量は少ないに越したことはありません。

 少ない量で痛みを抑えるためには、主観的で伝えにくい痛みの強さについて、数値化した記録を見せるなど、できるだけ具体的かつ客観的に主治医に伝える必要があります。
 どのような方法が伝わりやすいのか、様々な尺度が開発されているため、気になる場合は医師・薬剤師・看護師など緩和ケアの担当者に尋ねるようにしてください。

※伝えるべき内容の例
1.定期的に使っている痛み止めの名前と、飲んだ時間
2.臨時(レスキュー)で使った痛み止めの名前と、飲んだ時間
3.痛みの強さ(例:0~10の数値で)
4.どんな時に痛むのか(例:1日中、動いた時、寝るときなど)
5.夜は眠れているか
6.吐き気や便秘はあるか



+αの情報:精神依存が起こらないメカニズム

 薬による精神依存は、主に薬が脳で「ドパミン」を異常に放出させることによって起こります
 「モルヒネ」も、健康な人が使うと脳のμ受容体に作用して「ドパミン」を遊離させ、精神依存を形成する恐れがあります。

 しかし、がんなどで痛みを感じている場合、この「ドパミン」遊離が少なくなることがわかっています。

炎症性疼痛の場合

 炎症性疼痛が生じている場合には、脳では「ダイノルフィン」の遊離が起こっています。
 この「ダイノルフィン」が、μ受容体とは逆の作用を持つκ受容体に作用するため、「モルヒネ」による「ドパミン」遊離にブレーキがかかります6)。
モルヒネの精神依存~炎症性疼痛とダイノルフィン
 6) Neuropsychopharmacology.30:111-118,(2005) PMID:15257306

神経障害性疼痛の場合

 神経障害性疼痛が生じている場合には、脳では「β-エンドルフィン」の遊離が起こっています。この「β-エンドルフィン」がμ受容体へ継続的に作用すると、μ受容体は機能低下を起こすため、「モルヒネ」による「ドパミン」遊離は少なくなります7,8)。
モルヒネの精神依存~神経の痛みとβエンドルフィン
 7) Neuroscience.116(1):89-97,(2003) PMID:12535942
 8) Trend s Pharmacol Sci.31:299-305,(2010) PMID:20471111


 

 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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