『セララ』と『アルダクトン』、同じアルドステロン拮抗薬の違いは？～女性化乳房の副作用とアルドステロン・ブレイクスルー

回答：『セララ』は、『アルダクトン』の副作用を減らした薬

　『セララ（一般名：エプレレノン）』と『アルダクトン（一般名：スピロノラクトン）』は、どちらも高血圧や心不全に使う「アルドステロン拮抗薬」または「カリウム保持性利尿薬」に分類される薬です。

　『セララ』は、『アルダクトン』の女性化乳房や月経不順といった、性機能に関する副作用を減らすように改良された薬です。

　効き目に大きな違いはないため、その人に合わせた適応症や副作用の有無から選ぶのが一般的です。

回答の根拠①：『セララ』の改良点～「アルドステロン」の選択性と副作用

　『セララ』と『アルダクトン』は、どちらも「アルドステロン」の働きを阻害することで、血圧を下げ、心臓や腎臓を保護する効果を発揮します。

　しかし、『アルダクトン』は「アルドステロン」だけでなく、よく似た構造の「アンドロゲン（男性ホルモン）」や「プロゲステロン（女性ホルモン）」にも作用してしまいます。そのため、長く使い続けていると、男性では胸が膨らんでしまう女性化乳房、女性では月経不順といった性機能に関する副作用を起こすことがあります。

　『セララ』は、こうした性ホルモンには作用せず、「アルドステロン」だけを選択的に阻害するよう改良された薬です1)。

※『セララ』の各受容体への親和性（「アルドステロン」への親和性との比） 1)
「糖質コルチコイド」の受容体に対する親和性・・・1/20以下
「アンドロゲン（男性ホルモン）」の受容体に対する親和性・・・1/100以下
「プロゲステロン（女性ホルモン）」の受容体に対する親和性・・・1/100以下

　1) セララ錠　インタビューフォーム

　特に、『アルダクトン』では10%程度の男性で起きていた女性化乳房の副作用が、『セララ』では0.5%程度と20分の1にまで減らせることも報告されています2)。

　2) N Engl J Med.348(14):1309-21,(2003) PMID:12668699

性機能に関する副作用は、元に戻る

　こうした性機能に関する副作用は、薬を減量・中止すれば通常1～2ヶ月で元に戻ります。ごく稀に持続するケースもありますが、そういった場合にはホルモン療法による治療もできます3)。

　3) アルダクトンA錠　インタビューフォーム

回答の根拠②：「アルドステロン」とは～アルドステロン拮抗薬の位置づけ

　「アルドステロン」は、昇圧システムである「レニン・アンジオテンシン系」の最終産物で、血圧を高めて維持する働きがあります。しかし、あまり増え過ぎると高血圧や動脈硬化の原因なり、心臓や腎臓に悪影響を及ぼすこともあります。

　『セララ』や『アルダクトン』は、この「アルドステロン」をブロックする「アルドステロン拮抗薬」で、心不全や心筋梗塞の予後を改善すること4,5)、また腎臓に対しても保護効果を発揮すること6)が報告されています。

　4) Eur Heart J.30(4):469-77,(2009) PMID:19066207
　5) N Engl J Med.364(1):11-21,(2011) PMID:21073363
　6) Am J Kidney Dis.51(2):199-211,(2008) PMID:18215698

　高血圧の治療に使う場合は、こうした臓器保護効果を期待し、ARB・ACE阻害薬やCa拮抗薬などの薬と併せて使われるのが一般的です。

「アルドステロン・ブレイクスルー」への効果

　ARBやACE阻害薬によって「レニン・アンジオテンシン系」をブロックしているにも関わらず、別の経路で「アルドステロン」が増えてしまう現象を「アルドステロン・ブレイクスルー」と呼びます。

　この「アルドステロン・ブレイクスルー」では、時に血圧が明確に上昇しないまま起こり、気づかないうちに血管や臓器にダメージが蓄積するといったことが起こってしまうこともあります。

　『セララ』や『アルダクトン』は、こうした「アルドステロン・ブレイクスルー」を阻止できることが報告されています7)。

　7) Hypertension.41(1):64-8,(2003) PMID:12511531

薬剤師としてのアドバイス：性機能に関するトラブルは、早めに医師・薬剤師に相談を

　性機能に関する副作用は、医師・薬剤師に相談しにくいと感じる人が少なくありません。

　しかし、実際には『アルダクトン』をはじめ比較的たくさんの薬で起こる副作用で、本人に問題があるわけでもありません。薬を減らしたり変えたりといった方法によって元に戻りますので、気になった場合は早めに相談することをお勧めします。

　その際薬局では、例えば同性の薬剤師を指名することや、個室での相談を願い出るなど、相談しやすい環境を整えてもらうことも可能ですので、遠慮なく相談して頂ければと思います。

ポイントのまとめ

1. 『セララ』は、『アルダクトン』のような性機能に関する副作用が少ない
2. 『セララ』や『アルダクトン』は、心臓や腎臓を守る効果が高い
3. 性機能に関する副作用については、同性の薬剤師の指名や、個室での相談をお願いする

添付文書・インタビューフォーム記載項目の比較

◆適応症
セララ：高血圧症、慢性心不全
アルダクトン：高血圧症（本態性、腎性等）、うっ血性心不全、腎性浮腫、肝性浮腫、特発性浮腫、悪性腫瘍に伴う浮腫及び腹水、栄養失調性浮腫、原発性アルドステロン症

◆性機能に関する副作用の頻度
セララ：女性化乳房、月経異常（0.5%未満）
アルダクトン：女性化乳房、乳房腫脹、性欲減退、月経不順、音声低音化（～5%）

◆女性化乳房の副作用の頻度 2)
セララ：0.5%
アルダクトン：10%

◆用法
セララ：1日1回
アルダクトン：数回に分割

◆剤型の種類
セララ：錠剤（25mg、50mg、100mg）
アルダクトン：錠剤（25mg、50mg）、細粒

◆薬が誕生した年
セララ：2002年
アルダクトン：1959年

◆製造販売元
セララ：ファイザー
アルダクトン：ファイザー

+αの情報：降圧効果は、『アルダクトン』の方がやや優れる

　『セララ』と『アルダクトン』の効果には大きな違いはありませんが、作用時間の長い『アルダクトン』の方が降圧効果の点でやや優れるとする報告もあります8)。
　そのため、血圧を下げる効果を期待する場合には『アルダクトン』を選ぶ場合があります。

　8) J Hypertens.29(5):980-90,(2011) PMID:21451421

～注意事項～

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。