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知っておくべきこと 子どもの薬

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1歳未満の乳児に「ハチミツ」がダメなのは何故?~「乳児ボツリヌス症」と、加熱や国産に対する誤解

回答:「乳児ボツリヌス症」のリスクがあるから

 「ハチミツ」には、土などに生息するボツリヌス菌が混入している場合があります。
 通常、このような少量の菌が入り込んでも免疫機能によって身体は守られますが、免疫が未発達な1歳未満の乳児では「乳児ボツリヌス症」を起こしてしまう恐れがあります。

 苦い薬を飲ませる場合に「ハチミツ」を混ぜたり、咳止めとして「ハチミツ」を使ったりする方法がインターネット等で紹介されていることも多いですが、1歳未満の乳児には「ハチミツ」を食べさせないようにしてください。
 加熱調理すれば大丈夫、国産のものなら大丈夫…といった情報も全て誤りです。調理方法や産地などに関わらず、全ての「ハチミツ」を避ける必要があります。

 また、これは1986年6月に初めて確認されたリスクのため、それ以前に子育てをした世代は知らない可能性があります。

回答の根拠①:「乳児ボツリヌス症」とは~なぜ1歳未満で注意が必要なのか

 「ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)」は珍しい菌ではなく、土や水の中をはじめ、自然界のどこにでも広く存在する細菌です。そのため、蜜蜂が花などの自然物から収集した「ハチミツ」にも、「ボツリヌス菌」が混ざり込むことがあります。

 通常、この「ボツリヌス菌」が多少体内に侵入しても、腸内細菌の働きや免疫機能によって駆逐され、感染が成立してしまうことはありません。
 しかし、1歳未満の乳児は腸内細菌や免疫機能が未発達なため、「ハチミツ」に含まれる少量の「ボツリヌス菌」でも感染が成立してしまうことがあります。その結果、体内で「ボツリヌス菌」が増殖して毒素を産生し、中毒症状を起こす恐れがあります1)。
ボツリヌスと腸内細菌~1歳未満
 1) 東京都福祉保健局 「食中毒を起こす微生物:ボツリヌス菌」

 これまでのところ、1歳以上で「乳児ボツリヌス症」を起こしたとする報告はありません。そのため、基本的に1歳以上になれば「ハチミツ」の摂取は問題ないとされています。
 ただし、1歳以上であっても、抗生物質の長期使用などで腸内細菌のバランスが大きく崩れている時は注意が必要です。

回答の根拠②:加熱調理をしてもダメ、国産のハチミツでもダメ

 「ハチミツ」を加熱調理すれば良い、国産のハチミツを選べば安心…といった情報が出回ることもありますが、いずれも大丈夫ではありません。
 「乳児ボツリヌス症」の原因になる「ボツリヌス菌」は、加熱調理くらいでは殺菌されず、国産・外国産を問わず混入のリスクがあります。

加熱調理してもダメな理由~「芽胞」による熱耐性

 「ボツリヌス菌」は、80℃で30分、100℃で数分加熱すれば死滅します。
 しかし、「ハチミツ」に含まれる「ボツリヌス菌」は、ほとんどの場合「芽胞」と呼ばれる休眠状態になっています。この「芽胞」の状態は熱に極めて強く、確実な滅菌には120℃で30分間の「湿式滅菌」という特別な滅菌を行う必要があります2)。
ボツリヌス菌の殺菌と芽胞
 通常の加熱処理では「ボツリヌス菌」を退治できないため、全く安全にはなりません。

 2) メルクマニュアル 「ボツリヌス中毒」

国産のものでもダメな理由~ボツリヌス菌はどこにでも居る

 「ボツリヌス菌」は、外国だけでなく日本の土にも広く生息している菌です。そのため、国産のものでも「乳児ボツリヌス症」の観点からは全く安全ではありません。
 実際、国内産・海外産を問わず、約5%程度のハチミツが「ボツリヌス菌」陽性であったことが報告されています3)。

 3) 千葉衛研報告 第11号 39-41,(1987) 「乳児ボツリヌス症の原因食品に関する調査~ハチミツのボツリヌス菌汚染について」

 この報告は30年近く前のものですが、「ボツリヌス菌」の生息域は特に変わっていないため、特に国産のものだけは大丈夫になったというようなことはありません。

薬剤師としてのアドバイス:世代によっては知らないこともあるため要注意

 「ハチミツ」による乳児ボツリヌス症は、1986年6月に初めて確認されたものです。それ以前は、こうしたリスクは知られておらず、乳幼児にも広く使われていました。

 特に、現在の祖父母世代には「乳児ボツリヌス症」を知らず、「ハチミツは添加物もなくて安心」と考えている人も少なくありません。実家に帰った際の間食などでうっかり食べてしまわないよう、家族間では食べて良いもの・食べてはいけないものをしっかりと共有しておくようにしてください。

ポイントのまとめ

1. ハチミツには、土などから「ボツリヌス菌」が混入していることがあるが、普通は食べても平気
2. 免疫が未発達な1歳未満の乳児が「ボツリヌス菌」の混入したハチミツを食べると、感染・発症することがある
3. 「ボツリヌス菌」は、国内産・外国産を問わず混入のリスクがあり、普通の加熱では処理できない

 

+αの情報①:「ハチミツ」は、小児や成人の咳に有効

 「ハチミツ」は小児の咳4)や、成人の夜間の咳5)に対して有効であるとする報告があります。

 4) Cochrane Database Syst Rev.(3):CD007094,(2012) PMID:22419319
 5) Pediatrics.130(3):465-71,(2012) PMID:22869830

 小児の咳には、安易に「リン酸コデイン」『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』などの鎮咳薬は使用できないため、「ハチミツ」は優秀な咳止め効果を持つ食品として貴重な選択肢になります。

+αの情報②:「ボツリヌス」の食中毒との違い

 成人であっても、大量の「ボツリヌス菌」の毒素に汚染された食品を摂取すると、食中毒を起こすことがあります。
ボツリヌス症と食中毒
 この場合、既に毒素で汚染された食品を摂取することによって起こります。「ボツリヌス菌」に感染し、体内で菌が増殖、毒素を産生する「乳児ボツリヌス症」とは、発症するメカニズムが異なります。

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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