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知っておくべきこと 時事問題

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覚せい剤を使うとどうなるのか、なぜ1回だけで済まないのか、なぜ止められないのか~脳の「ドパミン」の動態と依存性

 「覚せい剤」に関連したニュースが多いですが、「覚せい剤」はダメと何となく知っていても、そもそも「覚せい剤」を使うと身体に何が起こるのか、なぜ1回だけで済まないのか、なぜ止められないのか、具体的な怖さについては知らない人も多いはずです。
 「覚せい剤」の怖さを知るための一つの方法として、脳の「ドパミン」に注目して考えると理解しやすいと思います。

「覚せい剤」は「ドパミン」を分泌させる

 「覚せい剤」は、脳に「ドパミン」を分泌させます。「ドパミン」は、脳で快感や多幸感に関わっているため、一時的に強力な爽快感を得ることができます。
 この「ドパミン」分泌は、スポーツの勝負で勝ったときや仕事で成功したときなど、自然な欲求が達成された際、通常の爽快感を感じるときにも分泌されています。
覚せい剤とドパミン
 しかし自然な達成感と異なり、「覚せい剤」は「ドパミン」を長時間にわたって強制的に大量分泌させるため、錯乱や幻覚も引き起こし、更に極めて強い依存性を形成します。

なぜ「覚せい剤」は1回だけで済まないのか

 「覚せい剤」を使ってしまった人の大部分が、「1回だけなら大丈夫と思った」という趣旨の話をすると言われています。ところが、必ずといって良いほど1回だけで済まず、強い依存によって止められなくなってしまいます。

 そもそも、「ドパミン」は自然な状態でも脳の神経細胞が分泌しています。
 ところが、「覚せい剤」によって異常な「ドパミン」量の爽快感を一度味わってしまうと、次から自然な量の「ドパミン」では物足りなくなります
覚せい剤と欲求の達成によるドパミンの差
 つまり、一度使っただけで、スポーツや仕事など自然な欲求達成では十分な快感・達成感を得られない身体になってしまいます。だから、一度だけでは済まないのです。

※実際には、他にも大量のカテコールアミン(ドパミンやノルアドレナリン)の放出によって脳の神経細胞が変質するなど、様々なトラブルが同時に起こります。

なぜ「覚せい剤」を止められないのか

 「覚せい剤」を使い続けていると、本来は「ドパミン」を分泌していた神経細胞が活躍する機会が少なくなってきます。
 使わない筋肉は衰えていくのと同様、「ドパミン」を分泌する機会が少なくなった脳は、だんだん自力で「ドパミン」を分泌しなくなってしまいます(ゼロになるわけではありません)。
覚せい剤とドパミン分泌能力

 その結果、「覚せい剤」が無ければ脳が常に「ドパミン不足」の状態となり、「ドパミン」を渇望するようになります。
 そのため、24時間365日ずっと、どうしても「覚せい剤」を使いたいという欲求が生じてきます。だから、止めようと思っても止められなくなります。

 脳が直接「ドパミン」を欲求するようになるので、意志ではどうしようもありません。

手が震えて涎が垂れている、という中毒者のイメージはどこから

 「覚せい剤」中毒者のイメージとして、手がブルブルと震え、口からは涎が垂れ流しになっている、といったイメージがあります。これは事実無根なものではなく、きちんと根拠のあるイメージです。

 「ドパミン」は、筋肉を動かす運動神経の調節にも関わっています。通常、「ドパミン」と「アセチルコリン」という2つの伝達物質のバランスによって、緊張と弛緩が調節されています。
 ところが、「覚せい剤」の使用によって身体が「ドパミン」不足に陥ると、「アセチルコリン」が不自然に多い状態となり、バランスが崩れます。
ドパミンとアセチルコリンのバランス
 その結果、筋肉をうまく動かすことができず、手はブルブルと震えるようになります。
 また、「アセチルコリン」は涎の分泌を促し、筋肉を弛緩させる作用もあるため、口元が緩んで涎が垂れ流しになります。

薬剤師としてのアドバイス:人間やめますか、の標語は脅しではない

 以上のように、「覚せい剤」は一度でも使えば、もう脳は自然な状態で爽快感を得ることができなくなります。そして、24時間365日ずっと「覚せい剤」を渇望し続けるようになります。

 全国各地で、多くの人が「覚せい剤」に対する注意喚起や啓蒙活動を行っていますが、「人間やめますか」の標語は決して大げさな脅しではありません。一度でも手を出せば、普通の幸福を感じることはできなくなり、薬を我慢できない状態になってしまいます。

 その結果、薬だけを欲しがるようになり、家族も友人も仕事もお金も全てが薬よりも後回しになってしまうのです。

 だから、絶対に、一度たりとも手を出してはいけないのです。

※こちらの記事(BuzzFeed)も大変勉強になります →「ペットボトルの水を見るだけでクスリを思い出す」 覚せい剤依存症患者の日常と治療

+αの情報①:覚せい剤原料の医薬品『エフピー』

 パーキンソン病に用いる『エフピー(一般名:セレギリン)』は、脳の「ドパミン」を増やす作用があるため、「覚せい剤原料」に分類される医薬品です。
 これは、パーキンソン病が「ドパミン」不足によって様々な症状を起こすからです。

 この『エフピー』は非常に厳密な管理が必要なうえ、当然ながら海外への持ち出しなども禁止されています。

+αの情報②:麻薬との違い

 「覚せい剤」と「麻薬」は、どちらも禁止薬物として有名ですが、それぞれ薬理作用や分類も全く異なります。そのため、それぞれ取り締まる法律も「覚せい剤取締法」、「麻薬及び向精神薬取締法」と、別で定められています。

 「アンフェタミン」などが分類される「覚せい剤」は、先述のように脳の「ドパミン」を分泌させ、中枢神経や交感神経を異常な興奮状態にする作用を持っています。
 一方、「モルヒネ」や「コカイン」などが分類される「麻薬」は、呼吸などの中枢に対して主に抑制的に働きます。また、特にオピオイド受容体や下行性抑制系神経などを介した鎮痛効果は医薬品としても広く利用されています。

 ※細かな分類は、東京都西多摩保健所のWebサイトに詳しく記載があります。

 どちらも強い依存性が問題になりますが、医療用麻薬を鎮痛薬として使用する場合、依存性は問題になりません。これは、強い痛みがある時に麻薬を使用しても、「ドパミン」の放出が起こらないこと等が要因と考えられています1,2,3)。

 1) Neuroscience.116(1):89-97,(2003) PMID:12535942
 2) Trend s Pharmacol Sci.31:299-305,(2010) PMID:20471111
 3) Neuropsychopharmacology.30:111-118,(2005) PMID:15257306

+αの情報③:ギャンブルやゲームなどの嗜好

 ギャンブルやゲームなどの依存症にも、「ドパミン」が関与していると考えられています。

 勝負に勝ったときの快感には、「ドパミン」が大きく関係しています。また、負けた際の不快感や悔しさが、勝った時の快感をより大きくしています。
 こうした快・不快のバランスも常識の範囲内であれば何の問題もありません。しかし、勝ったときの快感を得るために、明らかに生活に支障を来たすような行動をとったり、借金をしてまでお金をつぎ込んだりすることは異常です。

 こういった依存症に陥る人も、健常な人と比べると脳の「ドパミン」分泌に異常があることが示唆されています。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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