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時事問題 ノーベル医学・生理学賞

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【ノーベル賞】「オートファジー」って何?~認知症やパーキンソン病、がんの治療抵抗性に関わる細胞内リサイクル機構

 2015年の「イベルメクチン」の受賞に続き、2016年も「オートファジー」の研究でノーベル医学・生理学賞を日本人が受賞し、話題になっています。
 「オートファジー」はヒトに限らず、動物・植物・細菌など、細胞を持つ全ての生命に関わる基本的な現象です。今回の受賞は、こうした生命活動の基本的現象を明らかにし、医学・生物学の進歩に大きく貢献したことに対するものです。

 「オートファジー」の研究が進めば、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病など、現在は進行を食い止める治療しかできない病気の”根本的な治療方法”や、既存の薬では治療が難しいがんの新たな治療方法が見つかる可能性もあります。

細胞内のリサイクル機構~「オートファジー[autophagy]:(自食作用)」

 「オートファジー」とは、細胞内で劣化したり不要になったりしたタンパク質をアミノ酸に分解し、再び栄養源としてリサイクルするシステムのことです。

 細胞内には、酸素を使ってエネルギーを生み出す「ミトコンドリア」や細胞内で作られた物質の運搬に関わる「小胞体」など、様々な小器官があります。
 これらの小器官も、長年使い続けられていると古くなって劣化してきます。細胞には、古くなって劣化した小器官を細胞内で分解処理し、新たに作る小器官の材料としてリサイクルするシステムが備わっています。
オートファジーの流れと目的

 「オートファジー」は、こうした古くなった器官などを集めた「タンパク質凝集態」を、「オートファゴソーム」という膜の中に捕捉し、タンパク分解酵素である「リソソーム」によって分解処理を行う、という秩序立てられた制御システムです1)。

 1) Cell.132(1):27-42,(2008) PMID:18191218

何故そんなリサイクルが必要なのか?

 動物は食事、植物は光合成をすることで栄養源(アミノ酸やタンパク質)を摂取します。

 しかし、動物は常に餌が豊富にあるとは限りませんし、植物も常に日光を十分に浴びられるとは限りません。つまり、いつなんどき、急な「飢餓状態」に陥るかわからない状態と言えます。
 そのため、限りある栄養源を大切に使うため、栄養が豊富な状態でも、「オートファジー」による不要なタンパク質分解とリサイクルは行われています2)。
オートファジー~外からの摂取と既にある物質の再利用
 2) Cell.147(4):728-41,(2011) PMID:22078875

 また、いざ栄養源を外から摂取できない「飢餓状態」に陥った際には、既に体にある物質で何とかやりくりする必要があります。
 もし「オートファジー」によるリサイクル機構が無ければ、外から栄養源を摂取できなくなった時点で、新陳代謝ができなくなり、あっという間に体は朽ち果ててしまいます。

※細胞内に侵入してきた外敵を膜で囲んで分解してしまう防衛手段も、広い意味で「オートファジー」による作用の一つです。

「オートファジー」に関わる遺伝子を解明すれば、病気の根本治療につながる

 多くの病気を克服してきた現代医学・薬学でも、根本治療が難しいために、進行を食い止めることしかできない病気がたくさんあります。

 最も有名なものに「アルツハイマー型認知症」があります。2010年には280万人だった患者数が、9年後の2025年には730万人にまで増えるという推計も出されているほど、いまの日本に差し迫った大きな問題です3)。

 3) 平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」

 しかし「アルツハイマー型認知症」は、『アリセプト(一般名:トネペジル)』や『メマリー(一般名:メマンチン)』などの薬によって進行を食い止めることはできても、病気そのものを根本治療することができません(そのため早期発見・早期治療が大切です)。

 既に、「オートファジー」を誘導することで、アルツハイマー型認知症の原因となる異常タンパク(例:β-アミロイド)を分解・除去し、認知症の症状を改善できることが報告されています4)。
オートファジーと認知症
 4) Nat Genet.36(6):585-95,(2004) PMID:15146184

 こうした「オートファジー」の詳細なメカニズムが明らかになれば、アルツハイマー型認知症の根本的な治療方法を確立できる可能性があります。
 他にも、同様に異常なタンパクの蓄積が一因となるパーキンソン病やハンチントン舞踏病などと「オートファジー」との関連も研究が進んでいます。

「オートファジー」を利用する「がん細胞」~常に生命にとって有利に働くわけではない

 「オートファジー」は、常に生命にとって有利に働くシステムではありません。

 例えば、抗がん剤によってがん細胞への栄養供給を遮断しても、がん細胞が「オートファジー」によって栄養源を確保し、細胞死を免れることがあります。
オートファジー~がん細胞が治療抵抗性を示す
 このように、がん細胞が「オートファジー」を巧く利用することで、治療抵抗性を獲得していることが多く報告されています5)。

 5) Exp Mol Med.44(2):109-120,(2012) PMID:22257886

 そのため、「オートファジー」の原理を解明し制御することができれば、がん治療をさらに容易にできる可能性があります。

日本発の難病治療方法へ向けて

 「オートファジー」は、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病など、これまで根本治療が難しいとされてきた難病に対して、一つの大きな可能性を示すものです。

 今回のノーベル賞受賞によって、多くの企業や団体が「オートファジー」に興味・関心を寄せています。
 これによって研究が更に進み、日本発の難病治療として確立させることができれば、日本の医療が世界をリードするような時代も来るはずです。

 しかし、当然ながら海外の企業や団体も「オートファジー」の研究を進めています。研究費が削減され続けている現在の日本ですが、せっかく日本人がノーベル賞を受賞した領域、日本企業の国際競争力向上につながって欲しいと思います。 

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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