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似た薬の違い 甲状腺疾患

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『チラーヂン』と『メルカゾール』、同じ甲状腺の薬の違いは?~逆の作用の薬を併用する目的

回答:甲状腺ホルモンを増やす『チラーヂン』、減らす『メルカゾール』

 『チラーヂン(一般名:レボチロキシン)』と『メルカゾール(一般名:チアマゾール)』は、どちらも甲状腺機能の調節に使う薬です。

 『チラーヂン』は、甲状腺ホルモンを増やす薬です。
 『メルカゾール』は、甲状腺ホルモンを減らす薬です。

 甲状腺ホルモンは少な過ぎても多過ぎても問題があるため、これらの薬を使って適切なホルモン量に調節します。用量調節だけでは効果が安定しない場合には、一時的に併用することもあります。

        

回答の根拠①:甲状腺ホルモンを増やす「レボチロキシン」

 甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンが少なくなると、新陳代謝やエネルギー生産能力が低下します。その結果、皮膚がカサカサになったり、体温が低くなったり、食べる量は少ないのに体重が増えたり、疲れやすくなったり、といった症状が現れるほか、うつ病1)や心不全2)なども起こしやすくなります。

 そのため、体内で甲状腺ホルモンとして作用する「レボチロキシン」3)を使って、不足している甲状腺ホルモンを補充する治療を行います。

1) JAMA Psychiatry.78(12):1375-1383,(2021) PMID:34524390
2) JAMA.322(2):153-160,(2019) PMID:31287527
3) チラーヂンS錠 インタビューフォーム

 

「レボチロキシン」は甲状腺機能低下症の第一選択薬

 甲状腺ホルモンを増やす薬には、「レボチロキシン」のほかに『チロナミン(一般名:リオチロニン)』もあります。
 通常、血中濃度が安定しやすい「レボチロキシン」が第一選択薬ですが、この薬が適さない状況では「リオチロニン」が用いられます。たとえば、「レボチロキシン」では症状が残ってしまう場合、「リオチロニン」に変更することで症状が改善することも報告されています4)。

4) Front Endocrinol (Lausanne).13:816566,(2022) PMID:35273566

 

回答の根拠②:甲状腺ホルモンを抑える「チアマゾール」

 甲状腺ホルモンが異常に働き、甲状腺ホルモンが多くなると、新陳代謝やエネルギー生産能力が過剰になります。その結果、体温が上がって暑がりになったり、いくら食べても体重が減ったり、じっとしていても動悸や息切れを起こしたり、指先が震えたり、といった症状が現れるほか、骨折5)や心房細動6)なども起こしやすくなります。

 そのため、甲状腺ホルモンの産生を減らす「チアマゾール」7)を使って、甲状腺機能を抑える治療を行います。

5) Thyroid.13(6):585-93,(2003) PMID:12930603
6) N Engl J Med.331(19):1249-52,(1994) PMID:7935681
7) メルカゾール錠 インタビューフォーム

 

「チアマゾール」は甲状腺機能亢進症の第一選択薬

 甲状腺ホルモンを減らす薬には、「チアマゾール」のほかに『チウラジール(一般名:プロピルチオウラシル)』や「ヨウ化カリウム」などもあります。
 通常、効果が高く副作用も少ない「チアマゾール」が第一選択薬ですが、妊娠初期には胎児への影響が少ない「プロピルチオウラシル」や「ヨウ化カリウム」が優先して使われます8)。

8) 日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン2019」

 

回答の根拠③:「レボチロキシン」と「チアマゾール」を併用する目的

 甲状腺機能亢進症である「バセドウ病」の治療初期には、病気として甲状腺ホルモンが多いのに、「チアマゾール」の作用によって甲状腺機能低下症と同じ症状が一時的に現れることがあります。

 この場合、通常は「チアマゾール」の量を減らすことで対応します。

 しかし、中には薬の量を調節するだけではうまくコントロールできないことがあります。こういった場合、甲状腺ホルモンの作用を安定させる(症状を抑える)目的で、「チアマゾール」に「レボチロキシン」を重ねて使用することがあります9)。ただし、この併用で特に治療効果が高くなるわけではないため、あくまで”症状を抑える”ための一時的なものです。

9) Cochrane Datebase of Syst Rev.18;(2):CD003420,(2005) PMID:15846664

 

薬剤師としてのアドバイス:朝の「コーヒー」と共に服用、に注意

 「レボチロキシン」の吸収や効果は、色々な食品の影響を受けやすい10)ため、ため、就寝前や起床時など食事の時間とは離れたタイミングで使うことがあります。特に、コーヒーと一緒に服用しても効果が弱まることが確認されている11)ため、”朝のコーヒーと共に服用”するのは避けた方が無難です。

 薬の有効性や安全性は、思わぬ飲食物や生活習慣によって大きく影響を受けることがあります。治療上の問題となるような組み合わせを避けるためにも、特に薬剤師には嗜好品なども詳しく伝えておくことをお勧めします。

10) Pharmaceuticals (Basel).14(3):206,(2021) PMID:33801406
11) Thyroid.18(3):293-301,(2008) PMID:18341376

 

ポイントのまとめ

1. 『チラーヂン(レボチロキシン)』は、甲状腺ホルモンを増やす「甲状腺機能低下症」の薬
2. 『メルカゾール(チアマゾール)』は、甲状腺ホルモンを減らす「甲状腺機能亢進症」の薬
3. 薬の用量調節だけでは症状をコントロールできない場合、一時的に併用することもある

 

 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

レボチロキシンチアマゾール
先発医薬品の名称チラーヂンメルカゾール
主な適応症甲状腺機能低下甲状腺機能亢進
同種同効薬『チロナミン(一般名:リオチロニン)』『チウラジール(一般名:プロピルチオウラシル)』
用法1日1回1日3~4回
国際誕生年1964年1940年代
WHOの必須医薬品モデル・リスト掲載あり(掲載なし)
妊娠中の安全性評価オーストラリア基準【A】※妊娠5週0日から9週6日の期間は、特に避ける8)
授乳中の安全性評価MMM【L1】MMM【L2】
世界での販売状況世界各国世界各国
規格の種類S錠(12.5μg,25μg,50μg,75μg,100μg)、散(0.01%)、静注液(200μg)錠(2.5mg,5.0mg)、注(10mg)
代表製剤の製造販売元あすか製薬あすか製薬
同成分のOTC医薬品(販売されていない)(販売されていない)

 

 

+αの情報①:妊娠中の「レボチロキシン」

 甲状腺機能が低下したまま妊娠すると、妊娠高血圧や妊娠糖尿病、妊娠中毒症、胎児の早産や先天異常のリスクが高くなりますが、「レボチロキシン」を使って治療していれば、これらのリスクは軽減される可能性があります12)。
 そのため、「レボチロキシン」は妊娠を理由に中断する必要はありません。むしろ、妊娠5~8週目から出産まで薬の必要量は高まるため、妊娠早期から30%程度の増量を行うこともあります13)。

12) Thyroid.29(1):135-141,(2019) PMID:30417761
13) N Engl J Med.351(3):241-9,(2004) PMID:15254282

 

+αの情報②:甲状腺刺激ホルモン(TSH)の意義

 甲状腺の機能に多少の異常が起きても、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が巧くバランスを調節してしまうため、自覚症状が全く現れないケースがあります。

 甲状腺ホルモンの量は正常でも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い場合、ちょっとの刺激でホルモンが分泌されていることを意味します。これは、潜在的に「甲状腺機能亢進症」が起こっている状態です。

 逆に、甲状腺ホルモンの量は正常でも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い場合、ホルモン分泌のためには通常よりも強い刺激が必要であることを意味します。そのため、将来的に「甲状腺機能低下症」を起こすリスクが高いと言えます。

 そのため、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定は甲状腺の状態を知るために重要で、治療方針を決める際や将来的なリスクの評価に活用されています。

 

+αの情報③:高齢者の、無症状の甲状腺機能低下症

 80歳以上で自覚症状に乏しい甲状腺機能低下症では、「レボチロキシン」を使っても特に明確な効果は得られない可能性があります14)。高齢になると、「レボチロキシン」では甲状腺機能が過剰に活発になる甲状腺中毒症を起こしやすくもなる15)ため、画一的に薬物治療を行うのではなく、個々の状況に応じて薬の必要性を検討することが重要になります。

14) JAMA.322(20):1977-1986,(2019) PMID:31664429
15) JAMA.322(2):153-160,(2019) PMID:31287527

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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