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知っておくべきこと 薬学コラム

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検索結果に医薬品の違法・不正流通サイトを見つけた時は~フィードバックと薬剤師の情報発信

 
 インターネットには不適切な医療情報が非常に多いことが問題視される昨今ですが、医薬品の名前で検索した際にはどのような情報が表示されるかご存知でしょうか。
 「クラビット」・「バルトレックス」・「ラシックス」といった言葉で実際に検索してみてください。そこには、医薬品の適正使用を促すような情報提供ではなく、医薬品の安易な個人輸入・使用を勧めるWebサイトがたくさん出てきます。

 薬剤師のように専門知識を持っていれば、こうしたWebサイトは無意識でも避けることができます。
 しかし専門知識がなければ、これらの違法性・危険性に気付かず「ネットで買って使っても良いんだ」と誤解し、購入・使用してしまうかもしれません。

 つまり、検索結果がこうしたWebサイトで埋め尽くされている現状は、医薬品の不適切な流通や使用を助長し、薬害・副作用や耐性菌の蔓延などの大きなリスクになっているのです。
(※海外の医薬品は日本の薬機法では取り締まれないため、厳密には違法ではないものもあります)

「ボタン1つで抗菌薬を買える地獄」をまず知る

 実際に「クラビット」・「バルトレックス」・「ラシックス」とgoogleで検索した際に表示される画面がこちらです。
 (※アカウント・位置情報による影響を軽減するため「シークレットタブ」で検索)
  
『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』・・・・抗菌薬、処方箋医薬品
『バルトレックス(一般名:バラシクロビル)』・・・抗ウイルス薬、処方箋医薬品
『ラシックス(一般名:フロセミド)』・・・・・・・利尿薬、処方箋医薬品

 検索結果は流動的な部分もありますが、2017年9月末の時点では検索結果の1ページ目に表示される10件のうち、以下のように違法・不正流通サイトに占拠されています。いずれも、安易な使用を勧める危険な情報が記載されたWebサイトです。

「クラビット」では3・7番目の全2件
「バルトレックス」では4・5・7・8・9・10番目の全6件
「ラシックス」では2・3・5・8・9・10番目の全6件

 「抗菌薬」や「抗ウイルス薬」は、自己判断で使えるような薬ではありません。間違った使い方をすれば薬の効かない「耐性菌」・「耐性ウイルス」を生み出し、治療がより難しくなってしまいます。また「利尿薬」をダイエット目的で安易に使うことも非常に危険です。
 また海外からの個人輸入品では有効成分にムラがある・全く別の薬物が混ざっている、という品質上の問題もあり、実際に海外の模造医薬品で死亡した事例も報告されています1)。ところが、このような方法で手に入れた薬を使った場合、もし大きな副作用が起こっても補償の対象外になってしまうのです。

 1) 奈良県薬務課 「模造医薬品による健康被害に対する注意喚起」 (2011)

 スマートホンやパソコンで医薬品の名前を検索した際には、否応なしにこうした通販サイトを訪問してしまう危険な状態が続いています。どうしても必要な場合の例外的な措置ではなく、単なる体調不良やダイエットなどのためにこうした医薬品を個人で買って使うことは絶対に止めるべきです。

その地獄は、実際どれだけの国民を危険に曝しているか?

 「所詮、ネットの情報だからそんなもん」と考えている人も少なくありません。そんな人に見て頂きたいデータがあります。

 「クラビット」という単語は月に約10万回、「バルトレックス」や「ラシックス」という単語は月に約5万回ほど検索されています2)。
 また検索結果では、上位に表示されるWebサイトほど多くの人が訪れる傾向にあります。実際に調査会社の報告では、以下のような検索順位とクリック率のデータがあります3)。

※検索順位とクリック率
 1位 :21.12%
 2位 :10.65%
 3位 : 7.57%
 4位 : 4.66%
 5位 : 3.42%
 6位 : 2.56%
 7位 : 2.69%
 8位 : 1.74%
 9位 : 1.74%
10位: 1.64%

 2) Google Adwardsによるデータ
 3) Internet Marketing Ninjas社の調査による2017年の検索順位とクリック率

 このことから、実際にどのくらいの国民が医薬品の違法・不正流通サイトをクリックし、訪問してしまっているかを算出します。

※「クラビット」の場合
3・7番目の表示 → 7.57%+2.69%=10.26%がクリック
月100,000回の検索 × 10.26% = 月のべ約10,000人が訪問(年間120,000人

※「バルトレックス」の場合
4・5・7~10番目の表示 → 4.66%+3.42%+2.69%+1.74%+1.74%+1.64%=15.89%がクリック
月50,000回の検索 × 15.89% = 月のべ約8,000人が訪問(年間96,000人

※「ラシックス」の場合
2・3・5・8~10番目の表示 → 10.65%+7.57%+3.42%+1.74%+1.74%+1.64%=26.76%がクリック
月50,000回の検索 × 26.76% = 月のべ約13,500人が訪問(年間162,000人

 訪問者のうち何%の人が実際に薬を購入しているか正確なデータはありませんが、インターネットでの一般的なコンバージョン率が1%程度であることを考えると、これら3つの薬だけでも最大で年間に1,000~3,000回程度の売買が行われていると概算することができます。

 実際にはこれら3つの薬以外にも、鎮痛薬や睡眠薬など多くの医薬品名の検索結果でも同じような事態が起こっています。しかも、1箱100錠~500錠という単位で販売されているため、購入された際の使用量は非常に大きいものと考えられます。
 ネットオークションやフリーマケットアプリで流されている医薬品の中には、処方されて余ったものだけでなく、こうして購入されたものも含まれているものと思われます。

薬剤師にできること~現状の問題に気付き、改善のための行動を

 「薬剤師綱領」では、薬剤師の職能が以下のように表記されています。

一.薬剤師は国から付託された資格に基づき、医薬品の製造・調剤・供給において、その固有の任務を遂行することにより、医療水準の向上に資することを本領とする。
一.薬剤師は広く薬事衛生をつかさどる専門職としてその職能を発揮し、国民の健康増進に寄与する社会的責任を担う。
一.薬剤師はその業務が人の生命健康にかかわることに深く思いを致し、絶えず薬学・医学の成果を吸収して、人類の福祉に貢献するよう努める。

 薬害に困る人が増えれば社会問題として大きく採り上げられるようになるかもしれません。しかし薬剤師として、そのような悲劇は起こる前に何とかしたいと考えています。
 厚生労働省などへ働きかけることと同時に、薬剤師が検索結果の改善に向けてできる行動を提案したいと思います。

①違法・不正流通のサイトを見つけたら、Googleに通知する

 Google検索には、検索結果について意見や要望をフィードバックとして送信できる機能がついています。薬についての調べ物をしていて違法・不正流通のサイトを見つけた際には、ここから不適切なWebサイトを表示させないよう意見・要望を送るようにしてください。

▼パソコンでのフィードバック(画面の一番下)

▼スマホでのフィードバック(画面の一番下)

※このフィードバックでは、氏名やメールアドレスなどといった個人情報を記載する必要はありません。

②薬剤師による「責任感のある情報発信」を増やす~読んだ人がどう行動するか

 医療に関する情報は、多くの人の不安に直結します。そのため読んだ人に大きな影響を与え、場合によっては健康・生命にも関わる可能性があります。「情報として明らかな間違いが無ければそれで良い」というわけではありません

 例えば、薬剤師は薬の説明をする際、極めて稀にしか起こらない副作用までを全て画一的に説明することはありません。そんなことをすれば、患者が不安に思って薬を飲まなくなり、必要な治療ができなくなるからです。
 ところがインターネット上には、起こり得る副作用をひたすら列挙しているようなWebサイトもあります。こうした情報は、確かに科学的には間違った情報ではありませんが、不安を煽るだけで適切な情報提供とは言えません。

 特に、こうした情報の垂れ流しは、ときに無責任な情報提供になってしまう恐れがあります。
 実際に今年6月、「睡眠薬は飲んでから効き始めるまで少し時間がかかる」という情報をインターネットで見て、服薬後に自動車運転をしてしまった事件も大きく報道されました。これは、情報提供の際に「それを受け取った後の行動」までを見据えていなかったために起こってしまった不幸な事例だと思います。

 薬剤師は日ごろから、患者の年齢や性別・体質・併用薬・生活環境・職業など非常に細かな状況から、適切な情報や言葉遣いを選び服薬指導しています。これは「自分の指導によって患者の行動が良くも悪くも変わってしまう」可能性を日々痛感しているからです。

 この「相手の行動にどう影響するか」を日々考えながら働いている薬剤師は、インターネット上でも「読んだ人がどう行動するか」までを考えた、責任感ある情報提供ができると考えています。
 勉強会で面白いと感じたこと、業務中に感じた疑問、実際の使用と添付文書の間に感じた矛盾などから、勉強の備忘録も兼ねた情報発信を始める人が増えれば、検索結果を有益な情報・適切な情報で埋め尽くすことも夢ではないと思います。

薬の検索結果は、薬剤師が中心となって声を挙げる

 ググれば何でも調べられると言われていたのはもはや昔、今はググっても変な情報しか出てこないとまで言われています。
 特に医療に関する情報はここ最近、その信憑性や情報提供のあり方について何度も議論が起こっています。このような状況が続けば、いずれ「インターネットでは医療や健康に関する適切な情報は得られない」という不便な世界になってしまいます。

 こうした事態をただ嘆くだけでは、現状は変えられません。声を挙げたからといってすぐに変わるわけではありませんが、動かなければ変わる可能性もありません。

 インターネット上では、多くのライター・アフィリエイターたちが非常に魅力的な文章・デザインで情報発信をしています。薬剤師による情報発信は、面白さや読みやすさといった点で大きく後れをとっているため、いくら適切な情報提供をしてもなかなか届きにくい傾向があります。
 しかし、腸内環境と同じように、薬剤師の発信する責任感ある有益な情報(善玉菌)が増えれば、Webの環境も良くなっていくはずです(※アフィリエイターの方にも良い影響を与えることができれば、強力な味方にすることもできるはずです)。

 今回、ブログを運営している薬剤師がそれぞれの観点から、検索結果についての問題提起を行っています。一人一人の発信力は弱くとも、より適切な情報にアクセスできる世の中を目指すために協力しようという意図で集まりました。色々な視点からの論考になっていますので、是非ご一読ください。

薬剤師による問題提起の記事

※今回の問題提起企画に賛同・協力してくださった薬剤師の方々とそのブログ
るるーしゅ 先生 『黒の薬剤師会』
青島周一 先生 『思想的、疫学的、医療について』
熊谷信 先生 『薬局のオモテとウラ』
小嶋慎二 先生 『アポネットR研究会・最近の話題』
桑原秀徳 先生 『はぐれ薬剤師のココロ』
ミニ丸 先生 『pharmacist’s record』
リンコ 先生 『さあ、薬剤師に目覚めよう!』
ふーた 先生『パパ薬剤師の日々彼是』
けいしゅけ 先生 『けいしゅけのブログ薬局』
zuratomo 先生 『窓際さんのお勉強な日々』
みやQ 先生 『「くすりや」の「現場」』
kuriedit 先生 『ドラッグストアとジャーナリズム』
ネーヤ 先生 『おねぇ系薬剤師の言いたい放題』
むむ 先生 『むむろぐセカンド』
やくちち 先生 『薬剤師ときどき父』
よっしー 先生 『薬剤師よっしーのブログ』

※一連のモーメント

※日経DIでもこの試みをとり挙げて頂きました

 

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  • コメント: 2

コメント

  • コメント (2)

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    • Ns
    • 2017年 11月 08日

    抗菌薬、中枢作用薬などの不正使用により公衆衛生に悪影響を及ぼす薬は取り締まっても構わないかもしれませんが、その他の医薬品に関しては自己責任の基である程度消費者に選択の権利を与えてあげてもよいのではないでしょうか?
    日本では一般人は医療用医薬品を自由に購入することができず、薬が欲しいだけでも医師の診察を受け、薬代以外のお金を払わなければなりません。
    また、適応外での使用は保険の兼ね合いから処方してくれないこともあります。
    私も論文情報などを基にメトホルミンを健康のため購入し、使用しています(腎機能低下や相互作用により乳酸アシドーシスが生じること、投与初期に消化器症状が出ること、ヨード系造影剤で休薬なしではショックが生じる事は理解してます)。

    薬剤師が個人輸入などのサイトを糾弾してしまうと、患者さんは怒られるのが嫌で薬局の窓口で自分で購入した薬を飲んでいる事を隠してしまうのでは無いでしょうか?
    その方が相互作用確認などが漏れてしまい重大な転帰に至ってしまう気がします…
    薬剤師や医師は簡単に薬が手に入る環境だからいいかもしれませんが、一般人になんでも規制規制って迫っていくのは利権団体の医師会の真似事のようで、なんか違う気がします…

      • Fizz-DI
      • 2017年 11月 08日

      貴重なご意見ありがとうございます。
      確かに、個人輸入の全てが悪というわけではありません。適応の問題などから、必要に応じてある程度の自由が効いた方が良いケースも中にはあると思っています。少し、この点を考慮した加筆修正を致しました。

      しかし現在Googleの検索結果は、「感染症の心配があったらクラビット」、「ダイエットにラシックス」、「眠れない人はハルシオン」…などなど、やむを得ず使う人に対する門戸開放というより、不適切な使用を助長する温床と化しています。このような状況を放置することは、選択肢を広げるメリットよりも薬害を生むデメリットの方が遥かに大きいと私は考えています。

      もしこうした安易な個人輸入が横行して薬害が起これば、完全規制となってしまい、それこそ選択肢を広げることもできなくなってしまいます。

      そのような事態を避けるためにも、今のような安易な使用を勧めるようなWebサイトで検索結果が埋め尽くされている状況は変えなければならないと思っています。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

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