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似た薬の違い 抗凝固薬

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『プラザキサ』・『イグザレルト』・『エリキュース』・『リクシアナ』、同じDOACの違いは?~効果と安全性、小児や高齢者への使用

回答:最初に登場した『プラザキサ』、小児にも適応のある『イグザレルト』、出血が少なめの『エリキュース』、高齢者に使いやすい『リクシアナ』

 『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』・『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』・『エリキュース(一般名:アピキサバン)』・『リクシアナ(一般名:エドキサバン)』は、いずれも心房細動による脳卒中の予防などに使うDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)です。

 『プラザキサ』は、最初に登場したDOACで、作用メカニズムの違いなどから今でも切り札になる薬です。
 『イグザレルト』は、小児にも適応のある薬です。
 『エリキュース』は、出血がやや少なめで安全性に優れた薬です。
 『リクシアナ』は、80歳以上の高齢者にも使いやすい薬です。

 基本的な効果に目立った差はないため、こういった薬の特性や、あるいは1日の服用回数や腎機能による投与制限といった使い方の違いも重要な使い分けのポイントになります。

 

回答の根拠①:最初のDOAC「ダビガトラン」~今でも切り札として使われる薬

 長らく、抗凝固薬には1950年代に登場した「ワルファリン」しか選択肢がありませんでした。そんな中、2011年に「ダビガトラン」は「ワルファリン」よりも優れた抗凝固薬1)として登場し、心房細動による脳卒中や全身性塞栓症の予防治療を大きく変革しました。

 その後、「リバーロキサバン」2)、「アピキサバン」3)、「エドキサバン」4)といった他のDOACも続きますが、これら4つのDOACの基本的な効果に大きな差は確認されていません5,6,7,8)。概ねどのDOACも「ワルファリン」と同等かそれ以上の効果を、より安全に得られることがわかっています9)。

 ガイドラインでも基本的にDOACとしてひとくくりで扱われている10)ため、1日の服用回数や腎機能による投与制限といった使い勝手の違いで使い分けられることがあります。

※1日の服用回数(心房細動に用いる場合)
1日1回:リバーロキサバン、エドキサバン
1日2回:ダビガトラン、アピキサバン

※腎機能による投与制限(心房細動に用いる場合)
CCr<30mL/minは禁忌:ダビガトラン
CCr<15mL/minは禁忌:リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン

1) N Engl J Med.361(12):1139-51,(2009) PMID:19717844
2) N Engl J Med.365(10):883-91,(2011) PMID:21830957
3) N Engl J Med.365(11):981-92,(2011) PMID:21870978
4) N Engl J Med.369(22):2093-104,(2013) PMID:24251359

5) Biol Pharm Bull.44(9):1294-1302,(2021) PMID:34471057
6) Am J Cardiol.120(9):1689-1695,(2017) PMID:28844510
7) Front Pharmacol.14:1125576,(2023) PMID:36817122
8) BMJ Open.12(2):e048619,(2022) PMID:35190410

9) Lancet.383(9921):955-62,(2014) PMID:24315724
10) 日本循環器学会 「不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)」

作用メカニズムが1つだけ異なる「ダビガトラン」

 「ダビガトラン」は、1回150mgの通常用量で使うことができれば、「ワルファリン」よりも優れた効果を期待できます1)。また、他のDOACは凝固因子Xaを阻害するのに対し、「ダビガトラン」はトロンビンを阻害する11)ため、作用のメカニズムも1つだけ異なります。

 こうした点から「ダビガトラン」は、他のDOACでは十分な効果が得られない場合などの”切り札”として使われることがあります。

11) プラザキサカプセル インタビューフォーム

 

回答の根拠②:小児にも適応のある「リバーロキサバン」

 基本的にDOACは高齢者に使われることが多いですが、静脈血栓塞栓症は小児にも稀に起こることがあります。また、心臓の先天性異常などで特殊な手術(例:Fontan手術)を受けた子どもでは、手術後の血栓形成を防ぐ目的で抗凝固薬を使うことがあります。
 こうした小児の抗凝固療法において有効性・安全性が確認され、保険適用が認められているのは「リバーロキサバン」だけです12)。

 そのため、「リバーロキサバン」には小児用のドライシロップ製剤があるなど、子どもでも服用しやすい剤型も開発されています。

 12) イグザレルト錠 インタビューフォーム

 

回答の根拠③:出血が少なめで安全性に優れる「アピキサバン」

 効果に明確な差はあまり確認されていない一方、「アピキサバン」は他のDOACよりも出血リスクが低い6,7,8,13,14,15)という報告が多く、安全性の面でやや優れている特徴があります。
 そのため、「アピキサバン」は多くの場面で”安全性を重視”した抗凝固治療の選択肢として用いられています。

 ただし、「アピキサバン」はこうした安全性重視で選ばれやすい一方、必要以上に減量してしまうことで血栓予防の効果が弱まってしまう事態16,17)がしばしば起こる、という点には注意が必要です。

13) BMJ.359:j5058,(2017) PMID:29183961
14) Ann Intern Med.174(9):1214-1223,(2021) PMID:34280330
15) Ann Intern Med.175(11):1515-1524,(2022) PMID:36315950
16) J Am Coll Cardiol.69(23):2779-2790,(2017) PMID:28595692
17) Am J Med.134(6):788-796,(2021) PMID:33444586

 

回答の根拠④:80歳以上の高齢者でも使いやすい「エドキサバン」

 出血リスクの高い超高齢者では、一般的な減量基準よりも更に少ない量でDOACを使いたいケースもあります。しかし、こうした超低用量のDOACでは効果も弱まってしまうため、薬を使うことのメリット・デメリットを評価しにくい面がありました。
 その点「エドキサバン」は、通常の使い方4)だけでなく、80歳以上の高齢者が1日15mgという低用量で使った場合の有効性・安全性も確認されており18)、高齢者向けの「15mg錠」も販売されています。

 そのため「エドキサバン」は、出血リスクが高く、他のDOACを使いにくい高齢者でも選択肢にできる場面があります。

18) N Engl J Med.383(18):1735-1745,(2020) PMID:32865374 

 

薬剤師としてのアドバイス:DOACの効果や副作用に影響を与える”相互作用”に注意

 DOACは、代謝酵素CYP3A4やP-gp(P-糖タンパク)の影響を受けて血中濃度が変動しやすい性質があります。そのため、CYP3A4やP-gpを阻害する作用を持つ薬と併用すると血中濃度が上昇して出血を、CYP3A4やP-gpを誘導する作用を持つ薬と併用すると血中濃度が低下して血栓を、それぞれ起こしやすくなります19,20)。

 このことから、併用薬の状況によってもDOACの”適切な用量”は変わることがあります。複数の病院にかかっている場合は、必ず「お薬手帳」を作成し、他で使っている薬の詳細な情報を医師・薬剤師に共有するようにしてください。

19) Clin Pharmacol Ther.110(6):1526-1536,(2021) PMID:34287842
20) Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.9(8):722-730,(2023) PMID:37791408

 

ポイントのまとめ

1. 『プラザキサ(ダビガトラン)』は、作用機序の違いなどから、今でも”切り札”として使われる
2. 『イグザレルト(リバーロキサバン)』は、子どもでも使える唯一のDOAC
3. 『エリキュース(アピキサバン)』は、出血リスクが低く安全性に優れる

4. 『リクシアナ(エドキサバン)』は、他のDOACが使いにくい超高齢者用の低用量製剤がある

 
 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

ダビガトランリバーロキサバンアピキサバンエドキサバン
先発医薬品名プラザキサイグザレルトエリキュースリクシアナ
作用機序トロンビン阻害Xa阻害Xa阻害Xa阻害
適応症非弁膜症性の心房細動非弁膜症性の心房細動、静脈血栓塞栓症、下肢血行再建術後、Fontan手術後非弁膜症性の心房細動、静脈血栓塞栓症非弁膜症性の心房細動、静脈血栓塞栓症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、股関節手術後
基本的な用法1日2回1日1回1日2回1日1回
腎機能による投与制限(心房細動)CCr<30mL/minCCr<15mL/minCCr<15mL/minCCr<15mL/min
腎機能による投与制限(それ以外)下肢血行再建術:CCr<15mL/min
静脈血栓塞栓症、Fontan手術後:CCr<30mL/min
CCr<30mL/min静脈血栓症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症:CCr<15mL/min
股関節手術後:CCr<30mL/min
その他の減量基準P-gp阻害薬の併用、70歳以上、消化管出血の既往CCr<50mL/min下記2つ以上該当(80歳以上、60kg以下、血清Cre≧1.5mg/dL)CCr<50mL/min、80歳以上かつ下記1つ以上該当(重要器官の出血既往、45kg以下、CCr<30mL/min、NSAIDsや抗血小板薬の併用)
代謝・排泄に関わるものP-gpCYP3A4、P-gpCYP3A4、P-gpCYP3A4、P-gp
併用禁忌イトラコナゾールリトナビル、ダルナビル、ホスアンプレナビル、コビシスタット、イトラコナゾール、ボサコナゾール、ボリコナゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、エンシトレルビル、ロナファルニブ
中和剤イダルシズマブアンデキサネットαアンデキサネットαアンデキサネットα
一包化不可(服用直前にPTPシートから出す必要がある)
薬価収載年2011年2012年2013年2011年
(※心房細動の承認は2014年)
妊娠中の安全性評価オーストラリア基準【C】オーストラリア基準【C】オーストラリア基準【C】
授乳中の安全性評価MMM【L3】MMM【L3】MMM【L4】
世界での販売状況世界106ヵ国世界130ヵ国以上世界100ヵ国以上世界70ヵ国以上
剤型の規格カプセル(75mg,110mg)錠・OD錠(2.5mg,10mg,15mg)、顆粒(10mg,15mg)、DS(51.7mg)錠(2.5mg,5mg)錠(15mg,30mg,60mg)
先発医薬品の製造販売元ベーリンガーインゲルハイムバイエルブリストル・マイヤーズ第一三共
同成分のOTC医薬品(販売されていない)(販売されていない)(販売されていない)(販売されていない)

 

 

 +αの情報①:今でも「ワルファリン」が優先される場面がある

 抗凝固薬には、DOACの他にも「ワルファリン」があります。「ワルファリン」は古い薬ですが、それでもDOACよりも優先的に使われる場面がいくつかあります。抗凝固薬を使うすべての状況でDOACが優れるわけではない、という点に注意が必要です。

※DOACよりもワルファリンが優先される場面の例
・弁膜症性の心房細動(僧帽弁狭窄症、機械弁への置換術後)
・DOACが禁忌になる腎機能低下
・抗リン脂質抗体症候群

 

+αの情報②:日本の「リバーロキサバン」は用量が少なめ

 「リバーロキサバン」は、海外では通常1日20mgで使われていますが、日本では通常1日15mgとやや少なめの量で使われています。これは、欧米人に比べてアジア人ではバイオアベイラビリティが高くなる傾向にあり、欧米人の20mgと日本人の15mgでほぼ同程度の作用になると算出されたからです12)。

 

+αの情報③:DOACは、作用メカニズムによって中和剤も異なる

 DOACによる重大な出血に対しては、作用を打ち消す中和剤を使うことがあります。このとき、トロンビンを阻害する「ダビガトラン」と、Xa因子を阻害する「リバーロキサバン」・「アピキサバン」・「エドキサバン」では、用いる中和剤が異なります。

※DOACの中和剤
プリズバインド(一般名:イダルシズマブ):ダビガトランの中和剤
オンデキサ(一般名:アンデキサネットアルファ):リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの中和剤

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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