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薬剤師のありかた 統計学

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”エビデンス”がない薬、使っても良いの?~「エビデンスがない」が示す5つの状況

回答:エビデンスがない、の意味する中身を知る必要がある

 ”エビデンスがない”と言うとき、いくつかの状況が考えられます。

①臨床研究は存在しているが、知らない
②「効果がある」と結論付けた臨床研究がない
③「効果がない」と結論付けた臨床研究がない
④臨床研究が実施されたことがない
⑤臨床研究は実施されているが、データが妥当ではない

 ”エビデンス”とは「科学的根拠」のことで、「薬は正しく使えば効果が出る」と科学的根拠によって裏付けされているのが一番の特徴です。そして、その根拠のある使い方が、用法・用量として認められます。

 しかし、薬は患者の状況に応じて臨機応変に使用します。時には未だ効果や安全性が確認されていない新しい使い方をしたり、厚生労働省は認めてはいないものの、経験上効果があるだろうということで、保険適用外の使い方をすることもあります。

 こうした場合に”エビデンスがない”と表現されますが、①~⑤のどれに該当するかによって、治療の妥当性もかなり変わります。

①臨床研究は存在しているが、知らない

 実は論文もあるのに、知らないだけということもあります。これは単に医療従事者の不勉強です。

 確かに医学・薬学は日進月歩なので、常に最新の情報を網羅しておくことは困難ですが、新しい薬の使い方に出逢ったときなどは一度調べてみる必要があります。

②「効果がある」と結論づけた臨床研究がない

 一般的に「エビデンスがない」と表現した際は、これに該当します。効果を裏付ける科学的根拠がない場合を指します。

 その薬の使い方をしても効果があるかどうかわかりません。効果があるように思えても、それは偶然か、あるいは思い込みである可能性もあります。乱暴な言い方をすれば、おまじないや呪術と同じ分類の治療です。

 また、「効果」を裏付ける科学的根拠がない場合、「安全性」を裏付ける科学的根拠にも乏しいことがよくあります。こうした効果や安全性の科学的根拠に乏しい薬の使い方は、決してするべきではありません。

 ※薬と異なり、健康食品は効果・効能を謳えないかわりに、多額の費用がかかるこの「科学的根拠」を整える必要がありません。つまり、効果を裏付ける科学的根拠はないが、好きで摂取するのは構わない、というのが健康食品です。

③「効果がない」と結論づけた臨床研究がない

 その薬の使い方では効果がありません、と決まったわけではないものを指します。

 「効果がない」と証明されてしまえば、その薬の使い方を選ぶメリットはなくなります。しかし、いま発展途上にある薬の使い方などは、今のところ「効果がない」とも言い切れない、という非常に曖昧な状態にあることがあります。

 実験的に薬を使うことは決して許されることではありませんが、医学・薬学的に考えて、その方法が患者にとって最も良い選択である、と判断した場合には、こうした使用方法が選択されることがあります。

④臨床試験が実施されたことがない

 効果があるかどうか?安全かどうか?・・・といった検討が行われていない、ということです。そういった薬の使い方を試すのは、倫理的にも問題があります。

 一方、昔から広く普及してきた経験的治療方法がこれに該当する場合もありますが、敢えてそれを科学的根拠の点から否定するのも非合理的です。こうした際は、今後の臨床研究が進むことを期待することになります。

 

⑤臨床試験は実施されているが、データが妥当ではない

 最もややこしいのがこの⑤です。臨床試験が行われ論文も確かに存在するものの、エビデンスレベルが低い臨床に即していないなど、科学的根拠の質としてあまり良いものではないケースがあります。

 例えば、被験者が10人だけの臨床試験、外国人だけで行った臨床試験、様々な持病のある患者を混ぜこぜにして行った臨床試験、途中で離脱した被験者が多い臨床試験・・・色々と例を挙げればキリがありません。

 テレビ番組の実験や健康食品のお話であれば、そういった”一例を紹介”するだけでも良いですが、薬に関してはそういうわけにはいきません。きちんと正しい手法で、質の高い臨床研究のデータを元に考える必要があります。

まとめ:エビデンスはあくまで判断基準

 基本的に、科学的根拠に乏しい治療方法は行うべきではない、ということは言うまでもありません。

 しかし、科学的根拠の質や量の善し悪しは、判断する人によって基準も異なります。また、どれだけ質の高い臨床試験を行っても、統計で処理したデータには一定の振れ幅や誤差も含まれます。
 更に、質の高い科学的根拠があればそれに頼れば良い、と安易な選択をすることもまた問題です。

 「エビデンス=科学的根拠」はあくまで判断基準であって、本当に大切なことは、個々の患者の状況や価値観などを考慮して、その人に最も適した治療方法を選択することです。 

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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