『ロキソニン』と『ボルタレン』、同じ鎮痛薬の違いは?~効果の速さ・強さと副作用
回答:速く効く『ロキソニン』、強く効く『ボルタレン』
『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』と『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』は、どちらも同じNSAIDsに分類される痛み止めです。
速く効くのは『ロキソニン』、強く効くのは『ボルタレン』です。
そのため、頓服など速く効いて欲しい場合は『ロキソニン』、痛みが強い場合は『ボルタレン』を使うのが一般的です。ただし、強力な『ボルタレン』の方が胃を荒らしやすい傾向にあります。
基本的に妊娠後期(28週以降)や子どもには使わないこと、インフルエンザの時には避けた方が良いこと、「アスピリン喘息」に使えないことなど、注意すべきことは同じです。
回答の根拠①:速効性の比較~『ロキソニン』の速い効果
『ロキソニン』は、『ボルタレン』よりも速く炎症部位に届き、鎮痛効果を発揮します1)。
実際、『ロキソニン』は速くて15分、遅くとも1時間以内に効き始める、速効性に優れた鎮痛薬です。これは、吸収の速さ(Tmax)を比較してもわかります。
※最高血中濃度に到達する時間(Tmax) 1,2)
『ロキソニン』・・・0.79時間
『ボルタレン』・・・2.72時間
1) ロキソニン錠 インタビューフォーム
2) ボルタレン錠 インタビューフォーム
このことから、痛みを感じたときに飲む頓服薬としては、速く効く『ロキソニン』がよく使われます。
回答の根拠②:鎮痛効果の比較~『ボルタレン』の強い効果
『ボルタレン』は、『ロキソニン』よりも強い鎮痛効果を持っています2)。そのため、『ボルタレン』は他のNSAIDsが効かない場合などにもよく使われますが、消化性潰瘍などの副作用も多い傾向が報告されている3)ことにも注意が必要です。
3) Pharmacoepidemiol Drug Saf.27(11):1223-30,(2018) PMID:30232832
回答の根拠③:妊婦や子ども、インフルエンザの時の使用
『ロキソニン』と『ボルタレン』は、妊娠後期(28週以降)に服用すると胎児が動脈管狭窄を起こす恐れがあるため、どちらも添付文書上は妊娠後期の使用は「禁忌」とされ1,2)、「オーストラリア基準」でも【C】と評価されています。
また、成人の用量しか設定されていないため、子どもにも使うこともできません1,2)。
更に、インフルエンザの際に『ボルタレン』や「アスピリン」など一部のNSAIDsを使うと、インフルエンザ脳症のリスクが高まることが報告されています4)。一方『ロキソニン』で明確なリスクの報告はありませんが、NSAIDs全般を避けるべきとする見解もあります5)。
4) Acta Neurol Scand.115(4 Suppl):45-56,(2007) PMID:17362276
5) 日本小児神経学会 「インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?」
そのため、妊娠中の女性や子ども、インフルエンザの患者に解熱鎮痛薬を使う場合には、安全性が確認されている『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』を選ぶのが一般的です。
薬剤師としてのアドバイス:『ロキソニン』や『ボルタレン』も万能の痛み止めではない
『ロキソニン』や『ボルタレン』などのNSAIDsは、様々な痛みに効果を発揮するため、さも万能の痛み止めのように思われがちです。
しかし、痛みの種類によっては効かないもの、逆効果になるものもあるため、安易に痛み止めを使うのではなく、まずは原因を明確にする必要があります。
頭痛であっても、片頭痛であれば「トリプタン製剤」を使う必要があります。
腹痛であっても、胃潰瘍の痛みであればNSAIDsは避け、PPIやH2ブロッカーを使う必要があります。
ビリビリとした神経の痛みであれば、『リリカ(一般名:プレガバリン)』や『ノイロトロピン(一般名:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液)』といった神経痛専用の痛み止めを使う必要があります。
痛み止めを使っても治りが悪い場合には、安易に薬の量を増やすのではなく、病院で医師に症状を正しく伝え、痛みの原因を特定することをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 速さは『ロキソニン』、強さは『ボルタレン』が優れる
2. どちらも胃を荒らしやすく、妊婦や子ども・インフルエンザの人には使わないのが一般的
3. 『ロキソニン』や『ボルタレン』では効かない痛みもあるので、安易に薬を増やさない
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆規制区分
ロキソニン:なし
ボルタレン:劇薬
◆用法
ロキソニン:1日3回、もしくは頓服
ボルタレン:1日3回、もしくは頓服
◆通常の1日上限量
ロキソニン:60mgの錠剤で3錠まで(180mg)
ボルタレン:25mgの錠剤で4錠まで(100mg)
◆消化器系の副作用の頻度
ロキソニン:2.25%
ボルタレン:6.63%
◆妊婦への投与
ロキソニン:禁忌(オーストラリア基準【C】)
ボルタレン:禁忌(オーストラリア基準【C】)
※妊婦に鎮痛薬が必要な場合は『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』を使うのが一般的
◆最高血中濃度到達時間(Tmax)
ロキソニン:0.79時間
ボルタレン:2.72時間
◆半減期
ロキソニン:1.31時間
ボルタレン:1.2時間
※長続きする薬が必要な場合は『セレコックス(一般名:セレコキシブ)』などを利用するのが一般的
◆市販薬
ロキソニン:同じ成分の『ロキソニンS』がある
ボルタレン:内服薬は市販されていない
◆剤型の種類
ロキソニン:錠、細粒、外用剤(ゲル・テープ・パップ)
ボルタレン:錠、カプセル、坐薬、外用剤(ゲル・テープ・ローション)
◆上市されている国
ロキソニン:28ヵ国
ボルタレン:137ヵ国
◆製造販売元
ロキソニン:第一三共
ボルタレン:ノバルティス
+αの情報:強さと速さを兼ね備えた『ボルタレン』の「坐薬(サポ)」
『ボルタレン』には飲み薬だけでなく、「坐薬(サポ)」があります。
「坐薬(サポ)」は飲み薬と比べると速く効き、胃を荒らす副作用が少なく、また1歳の子どもからでも使えるという利点があります。
そのため、急な強い痛みに対する頓服薬としては『ボルタレン』の「坐薬(サポ)」が処方されることもあります。
ただし、坐薬は冷所保存が必要など管理も難しいため、よほどの事情がない限りは「飲み薬」を使うのが一般的です。
※最高血中濃度に到達する時間(Tmax) 2,6)
『ボルタレン(錠剤)』・・・2.72時間
『ボルタレン(坐薬)』・・・0.81~1.00時間
※消化器系の副作用頻度 2,4)
『ボルタレン(錠剤)』・・・6.63~9.43%
『ボルタレン(坐薬)』・・・0.83~4.93%
6) ボルタレンサポ 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
ボルタレンとボルタレンSRとの違いは?
ボルタレンSRは徐放性の「カプセル製剤」なので、1日2回の服用で済むことや、胃などでの副作用軽減が期待できること等の違いがあります。
>aさん
コメントありがとうございます。
確かに「劇薬指定=強い薬」ではありませんし、市販されている薬は安全というわけではありませんので、絶対的な指標とはなりません。その旨は別記事でも言及しております(https://www.fizz-di.jp/archives/1007556497.html)。
あくまで根拠は先述の文献であって、市販している点は現状で『ロキソニン』と『ボルタレン』の比較をする際に、一般の方でも参考にできるわかりやすい指標・傾向として挙げております。紛らわしい表現で申し訳ありません、少し加筆・修正を検討したいと思います。
記事興味深く拝読させて頂きました
回答の根拠②の市販されているからというのは、理由にならないのでないでしょうか?
元々ロキソニンは劇薬区分だったのが、販売戦略上市販させたいため劇薬指定を外れた経緯があったと思います。今の劇薬区分は根拠にはならないと思っているのですが
なるほど、服用時からの時間と勘違いしていました。
迅速な回答ありがとうございました。
■Tmax(最高血中濃度到達時間)
薬を服用してから、血液中の薬の濃度がピークに達するまでに要する時間
■t1/2(半減期)
血液中の薬の濃度がピークに達した後、半分にまで低下する時間
・・・という定義になっています。薬を飲んでいきなり半分に減っていくわけではないので、スタートラインが異なります。
http://blog.livedoor.jp/fizz_di/archives/1032808733.html の記事にグラフを掲載しているので、参考にしてください。
ボルタレンのTmaxが2.7時間で半減期が1.2時間というのはおかしくないでしょうか?
確かに添付文書にもそのようにかかれていますが・・・