『ノルバデックス』と『アリミデックス』、同じ乳がん治療薬の違いは?~閉経の前後で異なる効果と、注意すべき副作用の差
記事の内容
- 1 回答:閉経前は『ノルバデックス』、閉経後は『アリミデックス』がメイン
- 2 回答の根拠①:閉経の前後で異なる治療法~「エストロゲン」の作られ方と薬の作用
- 3 回答の根拠②:閉経後の乳がんには、「アナストロゾール」の方が効果的
- 4 薬剤師としてのアドバイス:「タモキシフェン」や「アナストロゾール」の治療は、5~10年続けるのが一般的
- 5 薬のカタログスペックの比較
- 6 +αの情報①:「タモキシフェン」や「アナストロゾール」の副作用対策
- 7 +αの情報②:「タモキシフェン」と「CYP2D6阻害薬」の併用に注意
- 8 +αの情報③:「アナストロゾール」と「SERM」の併用に注意
- 9 +αの情報④:乳がんには、「エストロゲン」があまり関係しないものもある
回答:閉経前は『ノルバデックス』、閉経後は『アリミデックス』がメイン
『ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)』と『アリミデックス(一般名:アナストロゾール)』は、どちらもホルモン受容性陽性の乳がんの治療薬です。
『ノルバデックス』は、閉経前と閉経後、どちらの乳がんにも効果がある薬です。
『アリミデックス』は、閉経後の乳がんに効果の高い薬です。

そのため、主に閉経の前か後かで使い分けを行います。閉経後乳がんの治療では、『ノルバデックス』では血栓ができやすくなる、『アリミデックス』では骨密度が低下する、といった副作用の違いから選ぶこともあります。
回答の根拠①:閉経の前後で異なる治療法~「エストロゲン」の作られ方と薬の作用
乳がんは、女性ホルモンの「エストロゲン」によって増殖する”ホルモン受容体陽性”のものが一般的です。このタイプの乳がんは、「タモキシフェン」や「アナストロゾール」といった、「エストロゲン」の作用を弱める薬で再発や転移・死亡リスクを抑えることができます1,2)。
ただし、閉経前と閉経後で「エストロゲン」の作られ方が大きく変わるため、使える薬が明確に異なります。
閉経前は、卵巣から「エストロゲン」が分泌されています。
閉経後は、この卵巣からの分泌が減る代わりに、副腎から分泌されている「アンドロゲン(男性ホルモン)」を、「アロマターゼ」という酵素で「エストロゲン」に変換して補っています。

「タモキシフェン」は、「エストロゲン」の受容体を阻害します3)。そのため、閉経前でも後でも「エストロゲン」の作用を弱めることができます。
「アナストロゾール」は、「アンドロゲン」を「エストロゲン」に変換する「アロマターゼ」という酵素を阻害します4)。そのため、この変換が行われている閉経後の「エストロゲン」しか減らすことができません。
「タモキシフェン」は閉経の前後を問わず使えるのに対し、「アナストロゾール」は基本的に閉経後の乳がんにしか使わないのは、これが理由です。
※乳がん治療薬の適応症 3,4)
タモキシフェン :乳がん
アナストロゾール:閉経後乳がん
1) 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版」
2) Lancet.386(10001):1341-52,(2015) PMID:26211827
3) ノルバデックス錠 インタビューフォーム
4) アリミデックス錠 インタビューフォーム
閉経前の乳がんでも、「アナストロゾール」を使えるケース
閉経前の乳がんでも、『リュープリン(一般名:リュープロレリン)』などの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニスト製剤を使うと、卵巣で「エストロゲン」は作られなくなります。
こうした薬で一時的に”閉経”と同じ状態になれば、閉経前の乳がんでも「アナストロゾール」を使うことは可能です1)。
回答の根拠②:閉経後の乳がんには、「アナストロゾール」の方が効果的
閉経後の乳がんには、「タモキシフェン」と「アナストロゾール」どちらを選ぶこともできます。
しかし、再発や転移を抑える効果は「アナストロゾール」の方が高いことがわかっています2,5,6)。そのため、閉経後の乳がんに対しては、基本的に「アナストロゾール」が優先的に選ばれます1)。

※閉経後の乳がん(ホルモン受容体陽性)に対する薬の推奨度 1)
タモキフェン :推奨の強さ【2】
アナストロゾール:推奨の強さ【1】
5) Lancet.359(9324):2131-9,(2002) PMID:12090977
6) Lancet Oncol.11(12):1135-41,(2010) PMID:21087898
”よく起こる副作用”の違いで薬を選ぶこともある
「アナストロゾール」は、副作用として骨密度の低下を起こしやすいことが知られています5,6,7)。そのため、もともと骨密度の低い高齢女性が使うと、薬の副作用で骨粗鬆症が加速し、重大な骨折に繋がってしまうこともあります。
そういったリスクが懸念される場合には、閉経後の乳がんでも「タモキフェン」を選ぶことがあります(※「タモキシフェン」は骨粗鬆症の治療薬SERMと同じ作用を持ち、骨を強化する方向に作用する)。
しかし、「タモキシフェン」を選ぶと今度は血栓ができやすくなる5)ため、血栓症には注意する必要があります。

特に、乳がんを非常に早期に発見できたような場合には、「タモキシフェン」と「アナストロゾール」の効果にほとんど差は無くなってくる8)ため、こうした副作用の差が重要な選択基準になる場合があります。
7) Clin Breast Cancer.11(1):52-60,(2011) PMID:21421523
8) Lancet.387(10021):866-73,(2016) PMID:26686313
薬剤師としてのアドバイス:「タモキシフェン」や「アナストロゾール」の治療は、5~10年続けるのが一般的
乳がんは、早期に発見・手術できていたとしても、既にがん細胞が他の場所に移動してしまっていることがあります。そのため、基本的には手術の後に「タモキシフェン」や「アナストロゾール」といった薬を使って、このがん細胞が悪さをしないよう抑え込む治療(術後内分泌療法)を行います1)。

この治療を術後5年間しっかり継続することで、乳がんの再発・転移のリスクを大きく軽減することができます2)が、5年で辞めずに10年間続けることで、さらにその効果は上乗せすることもできます9,10)。
ただし、薬を使い続けることで血栓や骨折などの副作用リスクもそれぞれ高くなるため、がんの進行度や年齢などを踏まえて、個々に薬の種類や期間を検討する必要があります。
※5年間の術後内分泌療法を終えてからの追加 1)
タモキシフェン :5年の追加投与、推奨の強さ【1~2】
アナストロゾール:2~5年の追加投与、推奨の強さ【2】
9) Lancet.381(9869):805-16,(2013) PMID:23219286
10) N Engl J Med.375(3):209-19,(2016) PMID:27264120
ポイントのまとめ
1. 『ノルバデックス(タモキシフェン)』は、閉経前と閉経後どちらの乳がんにも使えるが、血栓に注意
2. 『アリミデックス(アナストロゾール)』は、閉経後の乳がんに対して効果が高いが、骨粗鬆症に注意
3. 早期発見・手術できた乳がんでも、術後の内分泌療法を5~10年続けるメリットがある
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| タモキシフェン | アナストロゾール | |
| 先発医薬品名 | ノルバデックス | アリミデックス |
| 薬効分類 | SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター) | アロマターゼ阻害薬 |
| 適応症 | 乳がん | 閉経後乳がん |
| 術後内分泌療法(閉経前)1) | 推奨の強さ【1】 | – |
| 術後内分泌療法(閉経後)1) | 推奨の強さ【2】 | 推奨の強さ【1】 |
| 用法 | 1日1~2回 | 1日1回 |
| 注意が必要な副作用 | 血栓症、子宮体がん(※稀) | 骨粗鬆症・骨折、高コレステロール血症 |
| 注意が必要な相互作用 | CYP2D6阻害薬で効果減弱 | SERMで効果減弱の可能性 |
| 国際登場年 | 1963年 | 1995年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | オーストラリア基準【C】 |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L5】 | MMM【L5】 |
| 世界での販売状況 | 世界50ヵ国以上 | 世界70ヵ国以上 |
| 同種同効薬 | 『フェアストン(一般名:トレミフェン)』 | 『アロマシン(一般名:エキセメスタン)』、『フェマーラ(一般名:レトロゾール)』 |
| 剤型の規格 | 錠(10mg,20mg) | 錠(1mg) |
| 先発医薬品の製造販売元 | アストラゼネカ | アストラゼネカ |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:「タモキシフェン」や「アナストロゾール」の副作用対策
「タモキシフェン」や「アナストロゾール」などの薬を使っていると体内の「エストロゲン」の作用が弱まるため、”ほてり”や”のぼせ”、急な汗、動悸といった、更年期障害と似たような症状(ホット・フラッシュ)が現れることがあります。
通常、こうした副作用は薬を飲み続けているうちに治まっていくため、気温や室温に合わせて調節しやすい服装を選ぶ、首元の汗はスカーフなどで隠すといった対応をしますが、仕事や日常生活に支障を来たす場合には薬を使うこともできます。
また、「タモキシフェン」で起こりやすい血栓症に対しては、水分補給を心掛けること、飛行機や電車などで長時間同じ姿勢を続ける際にはこまめに足を動かすこと、「アナストロゾール」で起こりやすい骨粗鬆症に対しては、カルシウム・ビタミンDの豊富な食品の摂取、定期的な運動、場合によっては骨粗鬆症の薬の活用などが、それぞれ重要な対策になります11)。
11) 日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」
+αの情報②:「タモキシフェン」と「CYP2D6阻害薬」の併用に注意
「タモキシフェン」は、肝臓の代謝酵素「CYP2D6」の代謝を受けることで活性化し、薬として作用するようになります3)。そのため、この代謝酵素「CYP2D6」を阻害する薬を併用すると、「タモキシフェン」の効果は弱まってしまう恐れがあります。
実際、「タモキシフェン」を服用している期間の半分以上で「CYP2D6」阻害薬を併用していると、乳がんの再発リスクは24%ほど高くなってしまうことがわかっています12)。

「タモキシフェン」を服用している人は、できるだけ「CYP2D6」を阻害する作用を持つ薬の併用を避け、必要に応じて同種同効薬への切り替えなどを相談するようにしてください。
※強力な「CYP2D6」阻害作用をもつ薬の例 13)
パロキセチン(SSRI:抗うつ薬)
テルビナフィン(抗真菌薬)
12) Pharmacoepidemiol Drug Saf.34(5):e70157,(2025) PMID:40364655
13) Drug Metab Pharmacokinet.41:100414,(2021) PMID:34666290
+αの情報③:「アナストロゾール」と「SERM」の併用に注意
「アナストロゾール」の効果は、「タモキシフェン」と併用することで減弱してしまう可能性が示唆されています5)。
そのため、「アナストロゾール」のようなアロマターゼ阻害薬で治療を行っている人は、「タモキシフェン」と同じ作用を持つ骨粗鬆症治療薬「SERM(選択的エストロゲン受容体調節薬)」の『ビビアント(一般名:バゼドキシフェン)』や『エビスタ(一般名:ラロキシフェン)』との併用は避けた方が無難です1)。

+αの情報④:乳がんには、「エストロゲン」があまり関係しないものもある
乳がんの中には、女性ホルモン「エストロゲン」では増殖しないタイプのもの(※ホルモン受容体陰性)のものもあります。こういったタイプの乳がんには「タモキシフェン」や「アナストロゾール」の効果は期待できません。
そのためこれまでは治療成績が悪かったのですが、近年は抗HER2療法や免疫チェックポイント阻害薬などの登場で大きく進歩しています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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