『メリスロン』と『セファドール』、同じめまいの薬の違いは?~メニエール病への効果、よくある副作用の差
記事の内容
回答:ガイドラインでも推奨度の高い『メリスロン』、吐き気にも効果的な『セファドール』
『メリスロン(一般名:ベタヒスチン)』と『セファドール(一般名:ジフェニドール)』は、どちらも眩暈(めまい)の薬です。
『メリスロン』は、使用実績が豊富で、ガイドラインの推奨度も高い薬です。
『セファドール』は、めまいに伴う吐き気にも効果を期待できる薬です。

そのため、めまいの治療では『メリスロン』を中心にしつつ、吐き気の症状がある場合には『セファドール』も用いる、といった使い分けをするのが一般的です。
回答の根拠①:めまい治療によく使われ、推奨度も高い「ベタヒスチン」
「ベタヒスチン」は、メニエール病や前庭神経炎を含めた様々な疾患のめまい症状に対して、一定の効果が確認されています1,2)。
そのため各種ガイドラインでも、「ジフェニドール」に比べるとめまいの症状に対する推奨度は高く、特に発症してすぐの薬物治療としては第一選択薬として扱われています3,4)。
ベタヒスチン | ジフェニドール | |
メニエール病 3) | 推奨の強さ【1】 エビデンスレベル【A】 | 推奨の強さ【2】 エビデンスレベル【C】 |
前庭神経炎 4) | めまいに対し 推奨度【C1】 | 嘔吐に対し 推奨度【B】 |
1) Cochrane Database Syst Rev . 2016 Jun 21;2016(6):CD010696.PMID:27327415
2) Eur Arch Otorhinolaryngol.271(5):887-97,(2014) PMID:23778722
3) 日本めまい平衡医学会「メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン(2025)」
4) 日本めまい平衡医学会「前庭神経炎診療ガイドライン(2021)」
「ベタヒスチン」ではヒスタミン類似作用に注意
「ベタヒスチン」は「ヒスタミン」と似た構造をしています。そのため、H1受容体を介した気管支喘息の悪化、H2受容体を介した消化性潰瘍の悪化の恐れがあるほか、褐色細胞腫などでもカテコールアミンの過剰分泌を促す5)ことがある、といった点に注意が必要です。

5) メリスロン錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:吐き気に対する効果を期待できる「ジフェニドール」
「ジフェニドール」も、メニエール病などのめまいに対する効果は報告されています6,7)が、「ベタヒスチン」に比べると使用実績は乏しく、優先順位はやや低めです3,4)。
ただ、「ジフェニドール」には”吐き気”を抑える効果が期待できます8)。そのため、前庭神経炎などで、めまいに伴って吐き気・嘔吐の症状がある場合には優先的に使われる4)ことがあります。

6) Acta Otolaryngol Suppl.330:120-8,(1975) PMID:1103563
7) 耳鼻咽喉科臨床.65(1):85-105,(1972)
8) Ann Emerg Med.36(4):310-9,(2000) PMID:11020677
「ジフェニドール」では抗コリン作用に注意
「ジフェニドール」は「抗コリン作用」をもつため、前立腺肥大による排尿障害や緑内障などの症状を悪化させる恐れがあります9)。

添付文書では”禁忌”の指定はありませんが、その抗コリン作用の強さは「日本版抗コリン薬リスクスケール」では最大の【3】と評価されており10)、これは『ポララミン(一般名:クロルフェニラミン)』や『ブスコパン(一般名:ブチルスコポラミン)』などと同列である点には注意が必要です。
9) セファドール錠 添付文書
10) 日本老年医学会「日本版抗コリン薬リスクスケール 第2版」
薬剤師としてのアドバイス:併用することもよくある
「ベタヒスチン」は、内耳の血流を改善し、内リンパの浮腫を解消することで、めまいの症状を和らげます5)。「ジフェニドール」は、内耳の左右の血流のアンバランスや異常な神経興奮を解消することで、めまいの症状を和らげます9)。
どちらも”めまいの薬”としてよく使われる薬ですが、めまいの症状に対するアプローチが異なるため、両方の薬を併用することもよくあります。
めまいの症状は原因の特定が難しく、また”劇的”に効く薬もないため、「ベタヒスチン」や「ジフェニドール」といった薬を色々試しつつ様子を見る、といった治療が一般的です。薬の種類はやや多めになることが多いですが、しばらくは根気強く治療を続けることが大切です。
※めまいの治療によく用いられる薬の例
・『イソバイド(一般名:イソソルビド)』
・『アデホスコーワ(一般名:アデノシン三リン酸)』
・『ケタス(一般名:イブジラスト)』
・『セロクラール(一般名:イフェンプロジル)』
・『苓桂朮甘湯』などの漢方薬
ポイントのまとめ
1. 『メリスロン(ベタヒスチン)』は、ガイドラインでも推奨度の高い、実質的な第一選択薬
2. 『セファドール(ジフェニドール)』は、吐き気を伴うめまいに便利
3. 『メリスロン(ベタヒスチン)』ではヒスタミン類似作用、『セファドール(ジフェニドール)』では抗コリン作用による副作用に注意
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ベタヒスチン | ジフェニドール | |
先発医薬品の名称 | メリスロン | セファドール |
適応症(成人) | メニエール病、メニエール症候群、眩暈症に伴うめまい・めまい感 | 内耳障害にもとづくめまい |
用法 | 1日3回、食後 | 1日3回 |
注意が必要な患者 | 気管支喘息、消化性潰瘍、褐色細胞腫・パラガングリオーマ | 前立腺肥大による排尿障害、緑内障、胃腸管閉塞、重篤な腎機能障害 |
メニエール病治療における位置づけ3) | 推奨の強さ【1】 エビデンスレベル【A】 | 推奨の強さ【2】 エビデンスレベル【C】 |
前庭神経炎治療における位置づけ4) | めまいに対し 推奨度【C1】 | 嘔吐に対し 推奨度【B】 |
抗コリン薬リスクスケール | – | 【3】 |
国際誕生年 | 1966年 | 1973年 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B2】 | – |
授乳中の安全性評価 | MMM【L4】 | – |
世界での販売状況 | 中国、インド、タイ、ミャンマーなど | アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジルなど |
規格の種類 | 錠(6mg,12mg) | 錠(25mg)、顆粒(10%) |
代表製剤の製造販売元 | エーザイ | 日本新薬 |
同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | 『トラベルミンR』に配合 |
+αの情報①:日本と海外の「ベタヒスチン」
海外で先に発売されていた「ベタヒスチン塩酸塩」には吸湿性があったため、日本では湿度の高い環境に合わせて改良した「ベタヒスチン メシル酸」が用いられています5)。
「ベタヒスチン塩酸塩」16mgと「ベタヒスチン メシル酸」24mgでおおむね同等の効果とされている3)ため、海外の論文報告等を参照する際には注意が必要(※日本では用量が少なくなりがち)です。

+αの情報②:『トラベルミンR』に配合された「ジフェニドール」
乗り物酔いの薬『トラベルミンR』は、眠くなる抗ヒスタミン薬が入っていないため、移動時間も楽しみながら乗り物酔い対策をしたい場合に適した製剤です。
この『トラベルミンR』には、乗り物酔いに効果のある抗コリン作用と”吐き気”に対する効果を併せ持つ「ジフェニドール」が活用されています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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