スポンサードリンク

時事問題 市販薬・OTC

/

スイッチOTC薬、年間2万円を超えた購入費は「所得控除」の対象へ~日本のセルフメディケーションは実現するのか

回答:2万円を超えた購入額が、所得控除になる

 一般用医薬品(市販薬)を購入すると、その金額に応じて所得税を減らせる新しい制度が始まる見込みとなっています。

 この制度では、市販薬の中でも効能・効果が高く、処方薬としても使われている成分の「スイッチOTC薬」が対象です。
 また、1世帯あたり2万円以上購入すると、それを超えた金額を所得から控除できる、という方向で調整されています1)。
スイッチOTCの所得控除対象

 1) 読売新聞 12月2日「市販薬の所得控除、「スイッチOTC薬」限定で

 こうした動きは、医療費削減に向けた動きの一つで、自分で治療できる軽い症状のものは、病院にかからず自分で治しましょう、という「セルフメディケーション」を推進するものと言えます。

 ※2017年から「セルフメディケーション税制」が始まります。

詳しい回答:「スイッチOTC薬」とは

 「スイッチOTC薬」とは、もともと医療用医薬品として使われていた成分のもののうち、有効性や安全性についてのデータが十分に集まり、店頭販売しても問題ない、と判断された薬です。

 元来は医療用医薬品だったものが、市販薬に転換(スイッチ)しているため、「スイッチOTC薬」と呼ばれます。

 現在販売されている「スイッチOTC薬」には、胃薬の『ガスター10』鎮痛薬の『ロキソニンS』抗アレルギー薬の『アレグラFX』などがあります。いずれも、有効成分は医療用の薬と同一のものです。

よく引き合いに出される、アメリカのセルフメディケーション

 このテーマの議論になると、たいていアメリカの「セルフメディケーション」が話題に上がります。アメリカでは、国民は何でもかんでも病院に行くのではなく、軽い症状のものであれば薬局で薬を購入して、自分で治そうとする、というものです。

 しかし、こうしたアメリカの「セルフメディケーション」は、アメリカの制度に適したからこそ発達しているのであって、医療制度が全く異なる日本にも適しているかどうかは、全くわかりません。

日本とアメリカの医療制度の違いと、それによる習慣の差

 

国民皆保険制度という違い

 そもそも、アメリカには日本と異なり、「国民皆保険制度」が存在しません。そのため、国民は任意で保険に加入しなければなりません。
 当然、保険に加入している人は、いざ病気になった際、保険を利用して医療を受けることができます。

 ところが、保険に加入していない人は、いざ病気になった際、病院での検査から医師の診察まで、全て”自費”で行わなければなりません。

 そもそも、保険に加入していない人は、なぜ加入していないのでしょうか。個人的な価値観から加入しない人も中には居ますが、多くは”生活で精一杯、保険料を払っていられない”という貧困が原因です。そんな人が、自費で高額の医療費を払えるわけがありません。

 事実、こうした理由で医療保険に加入していない人が、全国民3億1千万人中、4000万人以上いるとされています2)。

 2) AFP/Jim WATSON

 そのため、こういった人たちは病気になると病院ではなく薬局へ向かい、薬剤師と相談して薬を購入し、自分で治そうとするのです。病院には、金銭的な理由から”行けない”のです。

 これが、アメリカの「セルフメディケーション」が発達している要因の一つです。

日本とアメリカの習慣の違い

 日本では、全国民が「国民皆保険制度」に加入しているため、薬局で薬を購入しても、内科で薬を処方してもらっても、自己負担額はそれほど変わりません。そのため、日本では、まず病院へ行くのが習慣となっています。

 アメリカでも日本の「国民皆保険制度」を見習おうとする意見もある中、日本の制度や習慣にもそれほど適しているとは思えない「セルフメディケーション」を、金銭的な面から強引に推し進めることが、果たして本当に日本の医療にとって有益なのか、もっと慎重に考えなければならないのではないかとも思います。

もともと健康な人は、薬を買わない

 また、この制度の問題点は他にもあります。もともと健康な人は、薬を買わない、ということです。つまり、健康な人は税制上の優遇を全く受けることができない、ということです。
スイッチOTCの所得控除対象2

 例えば、腰痛にならないよう、定期的にスポーツジムに通って運動し、筋力を維持している人が居るとします。この人が運動を続けることにかかる費用は、一切、控除されません。
 しかし、運動不足で腰痛になってしまった人が『ロキソニンS』を購入すると、その費用は所得控除の対象になります。

 これでは、もともと健康な人、健康であろうと努力している人が不利であると言えます。

 以前、メタボリック症候群から脱却した人を優遇する、といった案が話題になった際にも、元からメタボでない人には何のメリットもないではないか、という、至極当然の意見があがりました。
 今回も同様、薬がもとから必要ない人には何のメリットもないではないか、という声が既にあがっています。

市販薬による副作用や、病気発見の遅れが増えるリスクも

 薬剤師としては、正しく「スイッチOTC薬」を使えば、病院にかかる頻度を下げることができ、医療費を削減できる、という”理想”には、賛同します。
 しかし、その”理想”の実現には、日本の「国民皆保険制度」との解離や、優遇する対象のズレなど、様々な問題があると思っています。

 そもそも、国民が市販薬をよく使うようになれば、当然、市販薬による副作用被害も増えてきます。

 更に、年間2万円以上もの「スイッチOTC薬」を使うという状況が、果たして良い状況なのかどうか、という議論もあります。

 例えば「スイッチOTC薬」である『ガスター10』は、あくまで症状を緩和するための対症療法であって、ピロリ菌感染など、胃炎や胃潰瘍の根本的原因を治療できるものではありません。
 また、胃がんなど大きな病気を見落とすリスクもあることから、2週間以上に渡っての長期使用は制限されており、一度病院を受診するように注意書きがされています3)。

 3) ガスター10 用法上の注意

 こうした薬を年間で2万円以上も使うという状況は、注意書きにもある薬の安全使用に反するものなのではないか、とも言えます。
スイッチOTCの所得控除対象3

 そんな習慣が国民の間で広まってしまうと、大きな病気を見落とし、気が付いた時には手遅れ、というような事態が増えてしまうのではないでしょうか。

 こうした副作用の増加や大きな病気の見落としに対して、本来であれば薬剤師がリスク回避・管理にその真価を発揮すべきと言えますが、果たして薬剤師側は、このための準備や教育が十分に整っているのでしょうか。今よりももっと研鑽を積む必要があるでしょう。

薬剤師としてのアドバイス:信頼できる薬剤師を見つけておく

 現状、医師を選ぶ人は居ても、薬剤師を選んでいる人は少ないと思います。
 しかし、こうした制度によって市販薬を使う機会も増え、「セルフメディケーション」の重要性はますます高まってくることが予想されます。

 こうした中で、自分にとって良い薬の選び方や、副作用の避け方、大きな病気を見落とさないための教育など、信頼できる薬剤師が居れば得られるメリットは、極めて大きなものがあります。

 今のうちから、厳しい目で薬剤師を選び、信頼できる薬剤師を見つけておくことをお勧めします。

+αの情報:アメリカの薬剤師は、高い地位の代わりに、大きな責任も負っている

 社会的地位の高い”アメリカの薬剤師”に憧れる”日本の薬剤師”は少なくありませんが、アメリカの薬剤師はこうした市販薬の購入に関して、膨大な知識と情報を持っています。
 また、アメリカの薬剤師は、医療従事者間のコミュニケーション不足や、流通システムのエラー、従業員の教育不足などについても法的責任を負うこととされています4)。

 4) 米国誤投薬報告および予防連絡協議会(NCC MERP; National Coordinating Council for Medication Error Reporting and Prevention)

 アメリカの薬剤師は、こうした大きな責任を負うことで、高い社会的地位を得ていると言えます。

 無理やり、制度も習慣も法律も異なるアメリカの薬剤師と比較しても、あまり意味はありません。日本では、日本の制度や習慣に合わせて、薬剤師が国民の健康に貢献できる方法を考えるべきです。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動


★6月22日のフジテレビ「直撃LIVE グッディ!」に薬剤師としてコメントを寄せました。
★3月23日発売の「異世界薬局(コミック版)」に薬学監修として携わりました。
★12月28日のYahoo!ニュース動画「抗生物質が効かなくなる日」に監修として携わりました。

★PharmaTribuneにて連載中

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■お勧め書籍

recommended

■提携・協力先リンク


オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

  1. 活動実績

    【活動実績】コミック版「異世界薬局」に監修として携わりました
  2. 活動実績

    【活動実績】日経新聞の土曜版「日経プラスワン」に取材協力しました
  3. 活動実績

    【活動実績】情報番組「直撃LIVE グッディ!」に薬剤師としてコメントを寄せまし…
  4. 活動実績

    【活動実績】Yahoo!ニュース動画「抗生物質が効かなくなる日」の監修に携わりま…
  5. 活動実績

    【活動実績】日経トレンディ3月号の「花粉症対策記事」に情報提供しました
PAGE TOP