『ロキソニン』と『カロナール』、同じ解熱鎮痛薬の違いは?~効果の強さとインフルエンザ・子ども・妊婦への安全性
回答:効果が強めの『ロキソニン』、インフルエンザの時や子ども・妊婦でも使える『カロナール』
『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』と『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』は、どちらも熱や痛みを和らげる「解熱鎮痛薬」です。
『ロキソニン』の方が痛み止めとして強力で、また炎症を抑える効果もあります。
『カロナール』は、インフルエンザの時や子ども・妊婦でも使える解熱鎮痛薬です。
また、『ロキソニン』は胃や腎臓に、『カロナール』は肝臓に負担をかけやすいという傾向があるため、体質や年齢・持病によって使い分けることもあります。
回答の根拠①:解熱・鎮痛・抗炎症の効果の違い
『ロキソニン』や『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と比べると、『カロナール』の解熱・鎮痛効果は「やさしめ」とされています1,2,3,4)。また、『カロナール』には抗炎症効果もほとんどありません2)。
1) カロナール錠 インタビューフォーム
2) Korean J Fam Med.33(5):262-71,(2012) PMID:23115700
3) Cochrane Database Syst Rev. 2013 Dec 12;(12):CD004624. PMID:24338830
4) Am J Dis Child.146(5):622-5,(1992) PMID:1621668
そのため、『カロナール』では痛みが治まらない場合や、炎症を抑える必要がある場合には『ロキソニン』などのNSAIDsを使うのが一般的です。
効果の差を生む、『ロキソニン』と『カロナール』の作用の違い
『ロキソニン』などのNSAIDsは、「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害し、痛み・発熱・炎症の原因物質(プロスタグランジン)を減らすことで効果を発揮します5)。
『カロナール』にこの「COX阻害作用」はほとんどなく、中枢に作用して、痛み・発熱を和らげると考えられています1)。
5) ロキソニン錠 添付文書
※カロナールの作用機序 1)
鎮痛効果:視床と大脳皮質の痛覚閾値を高める
解熱効果:視床下部の体温調節中枢に作用し、皮膚血管を広げる
こうした作用の違いが、鎮痛効果の強弱、抗炎症効果の有無といった差の要因と考えられています。
回答の根拠②:「インフルエンザ脳症」のリスク~『カロナール』の安全性
『カロナール』などの「アセトアミノフェン」は、 インフルエンザの時でも安全に使える解熱鎮痛薬と評価されています6)。
一方、『ボルタレン』や『バファリン(一般名:アスピリン)』、『ポンタール(一般名:メフェナム酸)』といった一部の「NSAIDs」は、「インフルエンザ脳症」のリスクを高める恐れがあるため、インフルエンザの際には禁忌とされています7)。
6) 日本小児神経学会 「インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?」
7) 厚生労働省 インフルエンザ脳症ガイドライン(改定版)
『ロキソニン』でも同様のリスクが上昇するかどうかははっきりとわかっていませんが、以下の理由から、大人であっても高熱があってインフルエンザの疑いがある場合には、『カロナール』を選ぶのが無難です。
※インフルエンザの疑いがある時に、『ロキソニン』を含めたNSAIDs全般を避けた方が良い理由
・基本的にNSAIDsで作用が共通しているため、理論上は同様のリスクが生じ得る
・実際に『ロキソニン』でも合併症の報告がある8)
・「インフルエンザ脳症」は致命率が高く、後遺症が残るリスクも高い
・代替案として「アセトアミノフェン」という良い選択肢がある
・乳幼児で多いが、大人でも絶対に起こらないわけではない
8) 第627回 日本内科学会関東地方会25 「ロキソプロフェンナトリウムによるReye症候群」
回答の根拠③:子ども(小児)への使用
『ロキソニン』を含めた大半のNSAIDsは小児に使うことはできませんが、『カロナール』は乳幼児の段階から、体重に合わせて(10~15mg/kg)使うことができます1)。
なお『カロナール』では熱や痛みが治まらない場合には、1歳から使える『ボルタレン』の坐薬(サポ)や、5歳から使える『ブルフェン(一般名:イブプロフェン)』などが選択肢になります。
回答の根拠④:妊婦に対する安全性~オーストラリア基準の差
妊娠の初期~中期は、基本的にどの解熱鎮痛薬を使っていても大きな問題はありません。しかし、妊娠後期(12週以降)には『ロキソニン』などのNSAIDsが胎児の血管系に悪影響を及ぼす恐れがあるため、禁忌とされています9)。
一方、『カロナール』は先天異常のリスクを高めることもなく10)、全期間を通して安全に使用できるため、妊娠中の解熱鎮痛薬として最も優先的に選ばれています。妊娠中の薬に対する安全性評価「オーストラリア基準」でも、最も安全性の高い【A】と評価されています。
9) 日本産科婦人科学会 「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」
10) Am J Obstet Gynecol.198(2):178.e1-7,(2008) PMID:18226618
授乳中はどちらの薬でも良い
『ロキソニン』と『カロナール』は、どちらも授乳中には安全に使える薬とされています11)。
若い女性には、妊娠・授乳中どちらも安全に使える『カロナール』を選ぶ機会が多いですが、『ロキソニン』もヒトでは母乳中へほとんど以降しないことが確認されています12)。
11) 国立成育医療研究センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」
12) 医療薬学.40(3):186-92,(2014)
先述の通り『カロナール』の鎮痛効果はやや弱めな傾向にあります。痛みなどの状況によっては『ロキソニン』を選ぶことも視野に入れて考える必要があります。
回答の根拠⑤:胃や腎臓、肝臓への影響
『ロキソニン』などのNSAIDsは、痛み・炎症・発熱の原因物質である「プロスタグランジン」の生成を抑えることで効果を発揮します5)が、この「プロスタグランジン」には胃の粘膜を守る作用も持っています。そのため、『ロキソニン』などのNSAIDsでは胃が荒れてしまう副作用が多い傾向にあります。また、「プロスタグランジン」は腎臓の血流にも関係しています。そのため、『ロキソニン』などのNSAIDsでは腎臓に負担をかけることがあります。
このことから、胃が弱い人だけでなく、腎機能が低下している人・高齢者の慢性的な痛みのコントロールにはNSAIDsではなく『カロナール』を推奨する見解もあります13)。
13) J Am Geriatr Soc.57(8):1331-46,(2009) PMID:19573219
一方、『カロナール』も過量になると分解・代謝が追い付かず、肝臓に負担をかける(NAPQIの蓄積)ことがあります1)。
薬剤師としてのアドバイス:同じ解熱鎮痛薬でも、状況によって使い分ける
『ロキソニン』は頭痛や生理痛などに広く使われている解熱鎮痛薬ですが、病気や年齢、妊娠などの状況によっては『カロナール』を選んだ方が良いこともあります。
どちらも頓服薬として処方されることが多く、飲み残した薬が家に残っているといったケースも少なくありませんが、安易な自己判断で使わず、必ず医師・薬剤師に相談の上で使うようにしてください。
※『カロナール』を選んだ方が良い状況の例
①15歳未満の子ども
②妊娠中の女性
③インフルエンザの疑いがある
また、『ロキソニン』や『カロナール』で痛みが治まらない場合には、そもそも薬の選び方が適切ではない可能性があります。薬の量を増やすのではなく、痛みの原因をはっきりさせるために一度病院を受診するようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:成分の重複に注意
『カロナール』などの「アセトアミノフェン」は、市販の風邪薬や痛み止めにも多く含まれている成分のため、気付かない間に薬が重複し、服用量が増えてしまうことが多々あります。
病院で処方された薬だけでなく、普段よく使う市販薬についてもお薬手帳などに記載し、必ず医師・薬剤師に伝えるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ロキソニン』などのNSAIDsは、解熱・鎮痛・抗炎症効果は高い
2. 『カロナール』は、インフルエンザの時や子ども・妊婦でも使える
3. 同じ解熱鎮痛薬でも、病気や年齢・妊娠などの状況によって使い分けが必要
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ロキソニン:解熱・鎮痛・消炎
カロナール:解熱・鎮痛、小児科領域における解熱・鎮痛
◆薬効分類名
ロキソニン:鎮痛・抗炎症・解熱剤
カロナール:解熱鎮痛剤
◆用法
ロキソニン:1日3回、もしくは頓服
カロナール:1日2回、または4~6時間ごと
◆最大用量
ロキソニン:通常は180mgまで
カロナール:1日総量4,000mg、小児は60mg/kgまで ※ただし1,500mgを超えて長期使用する場合は、定期的に肝機能検査をすることが推奨
◆小児の用量
ロキソニン:なし
カロナール:体重1kgあたり、1回10~15mg
◆妊婦への投与
ロキソニン:禁忌(妊娠後期:12週以降)
カロナール:可(オーストラリア基準:【A】)
◆剤型の種類(内服薬)
ロキソニン:錠(60mg)、細粒
カロナール:錠(200mg、300mg、500mg)、細粒、シロップ、原末
◆同一成分の市販薬
ロキソニン:『ロキソニンS』
カロナール:『バファリンルナJ』など
◆製造販売元
ロキソニン:第一三共
カロナール:あゆみ製薬
+αの情報①:NSAIDsの厳密な分類
NSAIDsとは「非ステロイド性抗炎症薬」のことで、『ロキソニン』や『ボルタレン』・『セレコックス(一般名:セレコキシブ)』などの一般的な痛み止めが該当します。
『カロナール』はこれらNSAIDsとは作用が異なるため、厳密にはNSAIDsには分類されず、ガイドライン等でも「NSAIDsやアセトアミノフェンは」と個別に分けて表記されています。
ただし、使う目的がほとんど同じため、一緒に扱われることもあります。
+αの情報②:『カロナール』の解熱効果は、飲み薬と坐薬で変わらない
『カロナール』には、飲み薬(経口投与)と坐薬(直腸投与)の2種類の剤型があります。
坐薬の方が速く効くようなイメージを持つ人は多いですが、実際の解熱効果はどちらでも変わらないことが報告されています14,15)。
そのため、通常は飲み薬(経口投与)、吐き気などの問題で内服が難しい場合には坐薬(直腸投与)を使うのが一般的です。
14) Arch Pediatr Adolesc Med.162(11):1042-6,(2008) PMID:18981352
15) J Pediatr (Rio J).86(3):228-32,(2010) PMID:20436978
+αの情報③:オピオイド鎮痛薬との相乗効果
『カロナール』の鎮痛効果は、『ロキソニン』などの「NSAIDs」と異なり、中枢神経系を介して発揮されます1,16)。そのため、オピオイド鎮痛薬の「トラマドール」と相乗効果が発揮されることが確認されています17)。
16) Proc Natl Acad Sci USA.96(13):7563-8,(1999) PMID:10377455
17) Pain.139(1):190-200,(2008) PMID:18485596
『トラムセット(一般名:トラマドール + アセトアミノフェン)』は、この相乗効果を利用した鎮痛薬です。
本記事は、2016年3月30日の「MEDLEYニュース」にも寄稿しました。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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