『メジコン』と「コデイン」、同じ咳止めの違いは?~風邪の咳に対する効果と副作用
記事の内容
回答:効果も安全性も優れる『メジコン』、鎮静・鎮痛作用がある「コデイン」
『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』と「コデイン(リン酸コデイン/ジヒドロコデインリン酸)」は、どちらも咳止めの薬です。
『メジコン』は、風邪の咳に効果があり、副作用も少なめの薬です。
「コデイン」は、鎮静・鎮痛効果も持っている薬です。

通常は、咳止めとして効果・安全性の両面で優れる『メジコン』が優先的に使われますが、鎮静や鎮痛の効果が求められる特定の状況では「コデイン」を選ぶこともあります。
回答の根拠①:風邪などの「急性の咳」に対する効果
咳中枢に作用する鎮咳薬は、理論上はどんな咳にも効果があるはずです。しかし、多くの鎮咳薬は風邪などの「急性の咳」には効果がないことが明らかになっています1)。これは、”最強の咳止め”という印象で用いられることが多い麻薬性鎮咳薬の「コデイン」でも同様です1,2)。
そんな中で「デキストロメトルファン」は風邪の咳にも一定の効果が確認されている数少ない鎮咳薬です4,5)。そのため、風邪などの「急性の咳」に薬を使うのであれば、「デキストロメトルファン」を選ぶのが薬学的には妥当です。

1) Cochrane Database Syst Rev.(11):CD001831,(2014) PMID:25420096
2) J Clin Pharm Ther.17(3):175-80,(1992) PMID:1639879
3) J Pharm Pharmacol.49(10):1045-9,(1997) PMID:9364418
4) Pediatr Pulmonol.58(8):2229-2239,(2023) PMID:37232330
5) Cochrane Database Syst Rev. 4:CD007094,(2018) PMID:29633783
回答の根拠②:長引く「慢性の咳」に対する効果
一方で、3~8週以上続くような「慢性の咳」、特に痰(たん)の絡まない乾いた咳に対しては「コデイン」の効果も期待できます6)が、「デキストロメトルファン」との優劣は明らかになっていません7)。通常の用量で使う場合、ほぼ効果は同じくらいと考えられます8,9)。

ただ、「コデイン」には鎮咳作用のほかに鎮静・鎮痛作用も少し持っている9)ため、長引く夜間の咳で著しく睡眠を妨げられている場合、咳のし過ぎで強い筋肉痛がある場合には、これらの作用による付加効果を期待して「コデイン」が選ばれることもあります。
6) Lung.202(2):97-106,(2024) PMID:38411774
7) Chest.144(6):1827-1838,(2013) PMID:23928798
8) メジコン錠 インタビューフォーム
9) コデインリン酸/ジヒドロコデインリン酸塩散1% インタビューフォーム
回答の根拠③:「デキストロメトルファン」では、麻薬作用に伴う副作用が少ない
麻薬性鎮咳薬の「コデイン」は、非常に厄介なリスクやデメリットを多く抱えています。
まず、下痢止めとしても使う薬のため、便秘の副作用が多く起こります9)。また、気道分泌を妨げるため、痰(たん)の粘度を高める方向に作用します9)。そのため気管支喘息には禁忌9)で、たんの絡む湿った咳の症状に対してはかえって悪化させる恐れもあります。
さらに、連用によって薬物依存を生じる恐れがあり、過量摂取すると呼吸抑制という重篤な副作用を起こす恐れもあります9)。

「デキストロメトルファン」は、こうした麻薬としての作用に基づくリスクやデメリットを軽減するように改良された薬8)で、実際に「コデイン」よりも少ない副作用で使えることが確認されています10)。
そのため通常は、効果だけでなく安全性の面でも優れる「デキストロメトルファン」の方が優先的に使われています。
10) J Int Med Res.11(2):92-100,(1983) PMID:6852361
子どもに対する咳止めの安全性と選択肢
麻薬性鎮咳薬の「コデイン」は、12歳未満の子どもには使うことはできません9)。これは、海外で報告されている呼吸抑制による死亡例の多くが年少者であることが主な理由です。
ところが、「デキストロメトルファン」も子どもでは副作用が現れやすい11)など、あまり気軽に使えるものではありません。そのため、よほど酷い咳でなければ、効果よりも安全性を重視して『アスベリン(一般名:チペピジン)』などの薬を使うこともあります。
11) Indian J Pediatr.80(11):891-5,(2013) PMID:23592248
薬剤師としてのアドバイス:「コデイン」の入った風邪薬は避けるのが無難
日本ではまだまだ「コデイン」が”最強の咳止め”として人気で、多くの総合感冒薬(風邪薬)にも「コデイン」が配合されているなど、薬学的な効果を期待できない使い方が横行しています。

「コデイン」も”慢性”の咳には一定の効果が確認されているなど、使いどころが全くない薬ではありませんが、決して副作用も少なくありません。特に風邪の咳のような、効果を期待できない症状に対して安易に使うのは控えることを強くお勧めします(※アメリカでは既に全ての風邪薬から「コデイン」は削除されています)。
ポイントのまとめ
1. 『メジコン(デキストロメトルファン)』は、急性の咳(例:風邪の咳)にも効果が確認されている
2. 「コデイン」は、慢性の咳に対して鎮静・鎮痛効果も期待して使うことがある
3. 『メジコン(デキストロメトルファン)』は「コデイン」よりも少ない副作用で使えるが、濫用などの問題は抱えている
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
デキストロメトルファン | コデイン | |
先発医薬品名 | メジコン | (販売なし) |
分類 | 非麻薬性鎮咳薬 | 麻薬性鎮咳薬 |
適応症 | 感冒、気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)、気管支造影術及び気管支鏡検査時の咳嗽 | 各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静、疼痛時における鎮痛、激しい下痢症状の改善 |
小児に対する使用 | (制限なし) | 12歳未満には禁忌※2019年から |
気管支喘息に対する使用 | (制限なし) | 禁忌 |
風邪の咳に対する効果 | 確認されている | 否定されている |
依存性 | なし | あり |
服用後の自動車運転 | 禁止 | 禁止 |
妊娠中の安全性 | オーストラリア基準【A】 | オーストラリア基準【A】 |
授乳中の安全性 | Medications and Mothers’ Milk 17th ed【L3】 | Medications and Mothers’ Milk 17th ed【L4】 |
剤型の規格 | 錠(15mg)、散10%、配合シロップ | 散(1%)、錠(20mg) |
先発医薬品の製造販売元 | シオノギファーマ | – |
同成分のOTC医薬品 | 『メジコン咳止め錠Pro』など | 総合感冒薬などに配合 |
+αの情報①:妊娠・授乳中の安全性評価
「デキストロメトルファン」と「コデイン」は、どちらも催奇形性が否定されています12,13)。ただ、「コデイン」では新生児に一時的な退薬症状が現れたという報告もあります14)。
また、「コデイン」を「CYP2D6」の代謝能力が強いUltrarapid Metabolizerの母親が服用した際、授乳によって代謝物の「モルヒネ」が胎児に移行し、胎児が呼吸抑制を起こして死亡した事例15)が報告されています(※この体質の人は日本人にも1%未満と少ないながらも存在します16))。
これらのことから、「コデイン」を妊娠中・授乳中に使うのは避けた方が無難です。
12) Chest.119(2):466-9,(2001) PMID:11171724
13) JAMA.246(4):343-6,(1981) PMID:7241780
14) Pediatrics.65(1):159-60,(1980) PMID:7355017
15) Lancet.368(9536):704,(2006) PMID:16920476
16) Medical Genetics Summaries. PMID:28520350
+αの情報②:近年は「デキストロメトルファン」の濫用も社会問題に
麻薬性鎮咳薬の「コデイン」は1980年以前から濫用されていたため、リスクの低い「デキストロメトルファン」に置き換わってきたという経緯があります。しかし、その「デキストロメトルファン」も近年は”ドラッグ”として悪用されることが日本でも多発し17)、大きな社会問題になっています。
こうした濫用の問題には、「デキストロメトルファン」のOTC医薬品の発売も少なからず関係していると考えられますが、海外では購入時の身分証明書提示を義務付ける、店内の商品に盗難防止センサーを設置するなどの対策で濫用を大きく減らすことに成功しています18)。
17) Neuropsychopharmacol Rep.44(1):176-186,(2024) PMID:38299253
18) Mil Med.185(7-8):e926-e929,(2020) PMID:32236409
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
前略
初めまして。お忙しいところ失礼いたします。
twitterで(研究に偏りがちですが)薬の話題も取り上げております。
ご存じだと思いますが、今年から12歳未満の鎮咳薬にリン酸コデインが禁止となり、ほぼメジコン一択になりました。
文字数の関係や筆者の力不足ゆえ、読み手に変な誤解を与えそうなので7月3日付のツイートで「総合感冒薬にはリン酸コデインが含まれている場合があるので小児の手が届かないように保管して下さい」とだけ書きました。
問題は貴ブログでも言及されている通りドラッグとしての乱用の可能性です。
アメリカでは2010年から若者に向けたキャンペーンを行い、35%乱用を減らしたと報告がありました。
出典:Subst Abuse Treat Prev Policy. 2016 Jun 23;11(1):22. doi: 10.1186/s13011-016-0067-0.
また、日本の薬理学雑誌でも精神症状のメカニズムは解明されております。
出典:日本薬理学雑誌 / 150 巻 (2017) 3 号 /
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/150/3/150_124/_pdf/-char/ja
これが依存性形成なのか過量摂取による一時的な脳内伝達物質の変化なのか判断が付かず、ご教授して頂きたく連絡いたしました。
お手すきの際で構いませんので何らかのご意見を頂けたら幸甚です。
草々
コメントありがとうございます、改めて調べ直してみますので少々お時間頂ければと思いますm(__)m