『ハルナール』・『ユリーフ』・『フリバス』、同じ前立腺肥大の薬の違いは?~α1Aとα1Dの分布差と効果・副作用
記事の内容
回答:効果の安定した『ハルナール』、起立性低血圧の少ない『ユリーフ』、夜間頻尿向きの『フリバス』
『ハルナール(一般名:タムスロシン)』・『ユリーフ(一般名:シロドシン)』・『フリバス(一般名:ナフトピジル)』は、「アドレナリンα1受容体」をブロックして、前立腺肥大の排尿障害を改善する薬です。
『ハルナール』は「α1A」と「α1D」の受容体に作用し、安定して高い効果の得られる薬です。
『ユリーフ』は「α1A」に対する選択性が高く、起立性低血圧が少なめです。
『フリバス』は「α1D」に対する選択性が高く、夜間頻尿の症状に効果的です。

そのため、「α1A」「α1D」の分布の個人差や、前立腺肥大に伴う症状、副作用リスクから、その人に最も合った薬を選ぶことができるようになっています。
回答の根拠①:「α1A」と「α1D」への選択性と個人差
「タムスロシン」「シロドシン」「ナフトピジル」は、いずれも排尿に関わる前立腺と膀胱の「アドレナリンα1受容体」をブロックし、尿道周囲の平滑筋を弛緩させて圧迫を和らげることで排尿障害を解消する薬です。
いずれも、前立腺肥大による排尿障害に対する”第一選択薬”に選ばれており1)、特に明確な使い分けの基準はありません。
ただ、前立腺や膀胱にある「α1受容体」には「α1A受容体」と「α1D受容体」という2つのサブタイプがあり、この分布には個人差があります2)。そのため、薬の作用・選択性と個人差がうまくマッチングすると、最も高い効果を期待できることになります。
※サブタイプに対する薬の作用・選択性 3)
タムスロシン:「α1A」「α1D」両方に作用する(α1A:α1D=5:2)
シロドシン :「α1A」への選択性が非常に高い(α1A:α1D=56.4:1)
ナフトピジル:「α1D」への選択性が高い(α1A:α1D=1:5.2)

実際、どれか1つの薬で効果が不十分だった場合でも、別の薬に切り替えると高い効果を得られる可能性があります4)。
1) 日本泌尿器科学会 「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン(2017)」
2) Prostate.66(7):761-7,(2006) PMID:16425183
3) Drugs R D.19(1):47-55,(2019) PMID:30607819
4) ユリーフ錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:安定した効果の「タムスロシン」
前立腺や膀胱に広く存在する「α1A受容体」と「α1D受容体」の両方に作用する「タムスロシン」は最も安定した高い効果を発揮する5)ため、前立腺肥大治療の最も基本的な薬として扱われています。

最初に登場した薬ということもあり、前立腺肥大の治療実績も豊富なため、特別な事情がなければ「タムスロシン」を選ぶのが一般的です。
5) Sci Rep.14(1):11116,(2024) PMID:38750153
回答の根拠③:起立性低血圧が少なめの「シロドシン」~α1Aへの高い選択性
「α1受容体」のうち、前立腺に多く存在する「α1A受容体」への選択性が特に強い「シロドシン」1)は血圧への影響が少なく、起立性低血圧を起こしにくい6,7)という特徴があります。
実際、高血圧治療を行っている高齢者であっても、「シロドシン」による治療であれば降圧薬の調整は不要だったという報告8)もあります。

起立性低血圧は、高齢者では転倒や骨折に繋がる厄介な副作用です。「シロドシン」は、こうしたリスクを抑えたい場合の良い選択肢になります。
6) BJU Int.108(11):1843-8,(2011) PMID:21592295
7) Indian J Pharmacol.46(6):601-7,(2014) PMID:25538330
8) Prostate Int.5(3):113-118,(2017) PMID:28828355
「シロドシン」の射精障害~「α1A受容体」は精嚢にも多い
「α1A受容体」は精嚢にも分布しています。そのため、「α1A受容体」への選択性が強い「シロドシン」では、他の薬に比べて射精障害などの副作用が多く起こります6,7,9)。
そのため、まだ性活動が活発な人にはやや不向きです。

9) Int J Urol.20(12):1234-8,(2013) PMID:23731168
回答の根拠④:夜間頻尿などの膀胱刺激症状に効果的な「ナフトピジル」~α1Dへの選択性
「α1D受容体」は、前立腺だけでなく膀胱にも多く分布しています1)。そのため、この「α1D受容体」に対する選択性が高い「ナフトピジル」は、夜間頻尿のような膀胱刺激症状に対する効果が高い傾向にあります10)。

”尿を出しやすくする薬”と表現される「ナフトピジル」が”頻尿”に使われることがあるのには、こうした背景があります。
10) Urology.111:145-150,(2018) PMID:28624553
薬剤師としてのアドバイス:前立腺肥大の人は、市販の薬を選ぶ際にも要注意
前立腺肥大のある人が「抗コリン作用」を持つ薬を使うと、排尿障害の症状が悪化し、場合によっては、強い尿意はあるのに尿が全く出ない”尿閉”を起こすことがあります。
この「抗コリン作用」を持つ薬というのは世の中に非常にたくさんあり、特に市販の風邪薬(総合感冒薬)などにもよく配合されています。そのため、前立腺肥大を指摘されたことがある人は、ドラッグストアで市販薬を購入する際にも必ず「お薬手帳」を薬剤師・登録販売者に見せて、安全に使える薬を選んでもらうことをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『ハルナール(タムスロシン)』は、最も安定して高い効果を期待できる
2. 『ユリーフ(シロドシン)』は、起立性低血圧は少ないが、射精障害は多め(α1A選択性)
3. 『フリバス(ナフトピジル)』は、夜間頻尿などの膀胱刺激症状への効果が高い(α1D選択性)
4. 前立腺肥大の人は、市販の風邪薬でも症状悪化を起こすことがあるため、必ず薬剤師・登録販売者に相談する
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
タムスロシン | シロドシン | ナフトピジル | |
先発医薬品名 | ハルナール | ユリーフ | フリバス |
適応症 | 前立腺肥大症に伴う排尿障害 | 前立腺肥大症に伴う排尿障害 | 前立腺肥大症に伴う排尿障害 |
用法用量 | 1日1回、食後 | 1日2回、食後 | 1日1回、食後 |
前立腺肥大のガイドライン1) | 推奨グレード【A】 | 推奨グレード【A】 | 推奨グレード【A】 |
受容体への選択性3) | α1A:α1D =5:2 | α1A:α1D =56.4:1 | α1A:α1D =1:5.2 |
CYPの関与 | 3A4、2D6 | 3A4 | 2C9、3A4、2A6、2C19、2D6など |
CYP3A4阻害薬との併用注意 | (記載なし) | 併用注意 | (記載なし) |
起立性低血圧の注意喚起 | 記載あり | 記載あり | 記載あり |
射精障害の注意喚起 | (記載なし) | 「重要な基本的注意」に記載あり | (記載なし) |
国際誕生年 | 1993年 | 2006年 | 1999年 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B2】 | オーストラリア基準【B3】 | – |
授乳中の安全性評価 | MMM【L2】 | MMM【L2】 | – |
剤型の規格 | D錠(0.1mg、0.2mg) | 錠・OD錠(2mg、4mg) | 錠・OD錠(25mg、50mg、75mg) |
世界での販売状況 | 世界90ヵ国以上 | 世界50ヵ国以上 | 日本、中国、韓国 |
先発医薬品の製造販売元 | アステラス製薬 | キッセイ薬品 | 旭化成ファーマ |
同成分のOTC医薬品 | (なし) | (なし) | (なし) |
+αの情報①:軽症例には、植物エキスの薬も
前立腺肥大に伴う排尿障害は、症状が軽症であれば副作用の少ない『エビプロスタット』という薬を使うこともあります。
この薬は「オオウメガサソウ」と「ハコヤナギ」という植物のエキスを配合した薬で、前立腺肥大症で生じる酸化ストレスを軽減し、排尿困難や頻尿といった尿トラブルの症状を緩和する効果があります11)。
ただし、ガイドラインでも推奨グレードは【C1】と、「タムスロシン」等に比べると優先順位は低めに設定されています1)。
11) エビプロスタット配合錠 添付文書
+αの情報②:前立腺の薬なのに、女性も使う?
「タムスロシン」などのα1遮断薬は、尿路結石の痛みを和らげる、自然排石を促す効果があります12)。前立腺のない女性でも”前立腺肥大の薬”を使うことがあるのは、このためです。
なお、尿路結石の自然排石を促す薬としては「タムスロシン」などのα1遮断薬が第一選択とされています13)が、保険適用はないという点に注意が必要です。
12) Cochrane Database Syst Rev . 2018 Apr 5;4(4):CD008509. PMID:29620795
13) 日本泌尿器学会「尿路結石症診療ガイドライン第3版(2023年版)」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
薬剤と受容体の差異に伴う効能についてよく解りました。