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薬の誤解 インフルエンザ

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今さら聞けないインフルエンザの予防接種の話~ワクチンの効果と、よくある誤解

 

 インフルエンザは、ワクチンを接種しても感染・発症することがあります。また、発症すれば38℃を超える高熱や強い関節痛を感じるため「重症化」したように思えます。こうした経験から「ワクチンは無意味」と思われがちですが、まずはワクチンの効果を正確に知ることが大切です。

インフルエンザのワクチンに「予防効果」は無い?

 インフルエンザは年によって流行する型も変わるため多少の変動はありますが、感染・発症を予防する効果がある程度期待できます。
 例えば、最も罹患するリスクの高い小児に対しては平均して60%程度の「予防効果」1,2)、特に持病のない健康な就労年齢(18~64歳)の成人に対する接種でも、病院の受診回数や欠勤日数を40%程度減らせることが報告されています3,4)。

 1) Vaccine.29(9):1844-9,(2011) PMID:21195802
 2) N Engl J Med.369(26):2481-91,(2013) PMID:24328444
 3) N Engl J Med.333(14):889-93,(1995) PMID:7666874
 4) JAMA.284(13):1655-63,(2000) PMID:11015795

 確かに、インフルエンザのワクチンには、麻疹(はしか)のワクチン(※1回接種で95%、2回接種で99%を予防)のように劇的な効果があるわけではありません。しかし、現時点で行える手段としては、最も堅実に高い効果がある予防法と言えます。
 実際、WHO(世界保健機関)も「The best way to avoid getting the flu is to get the flu vaccine every year.」と、ワクチン接種を最も効果的な予防方法として提示しています5)。

 5) WHO 「How can I avoid getting the flu?

「予防効果60%」とは~ワクチンの予防効果の正確な意味

 ワクチン接種による予防効果60%の意味を、「ワクチン接種した人の10人中6人が罹患しない」だと誤解している人も少なくありません。しかしこれでは、そもそもインフルエンザが流行しなかった年にワクチンの効果が過大評価されてしまうことになります。

 正しくは、「ワクチンを非接種で発症した人の60%は、もしワクチンを接種していれば発症しなかったと推算される」ことを意味します。 
 この時、「非接種でも発症しなかった人」や「接種したけど発症した人」は明らかに自覚できるため、その経験談が非常に目立ってしまう一方、「ワクチンのお陰で発症しなかった人」は非常にわかりにくくなっています。このことが、「ワクチンなんて意味がない」と思われてしまう大きな原因の1つになっています。

インフルエンザのワクチンが防ぐ「重症化」の意味

 インフルエンザのワクチンは感染・発症だけでなく、「重症化」を防ぐ効果も報告されています。
 例えば、18歳未満の「インフルエンザ関連死」を65%軽減する6)、18歳以上の成人が「入院が必要になる事態」に陥るリスクを51~53%軽減する7)といったものが挙げられます。

 6) Pediatrics.139(5):e20164244,(2017) PMID:28557757
 7) J Infect Dis.Dec 14,(2018) [Epub ahead of print] PMID:30561689

 つまり、インフルエンザのワクチンには「インフルエンザに感染・発症するリスクを減らす(リスク回避)」効果と、「もしインフルエンザを発症しても重症化するリスクを減らす(リスク管理)」効果と、2つの効果があるということです。

多くの人が勘違いする「重症化」

 インフルエンザを発症すると、普通の風邪とは異なり「38℃を超える高熱」が出たり、「ひどい関節痛・筋肉痛」を感じたりするため、十分に「重症化」したように思えます。そのため、「予防接種をしていたのに発症した、しかも重症化した」と考えてしまうのに無理はありません。

 しかし、ワクチンの効果を述べる際に使う「重症化」とは、「生命に関わる事態」「入院が必要になる事態」に陥ることを指す、ということに注意が必要です。

 健康な成人であれば、インフルエンザは基本的に薬を使わなくても73~87時間程度で治癒します8)。ところが、5歳未満の小児や65歳以上の高齢者、喘息や糖尿病・免疫疾患などの持病を持つ人では、インフルエンザを発症すると「重症化」しやすい9)ため、特にワクチンによる予防が重要になります。

 8) N Engl J Med.379(10):913-23,(2018) PMID:30184455
 9) 厚生労働省「新型インフルエンザのハイリスク群について」

インフルエンザのワクチン接種率が下がった今の日本で起こっていること

 1962年から、社会全体のインフルエンザを制圧する目的で、全ての学童生徒を対象にワクチンの集団接種が行われていました。しかし、ワクチンに対する誤解と偏見がマスメディアによって増幅させられていった結果、接種率も低下し、1994年に集団接種は中止されました。
 これによって「ワクチンは無意味と国が認めたから集団接種は中止になった」という間違った解釈が広まり、現在も非常にワクチン接種率が低い状態が続いています10)。

 こうしたワクチン接種率の低下によって、いま日本では小学校での学級閉鎖の日数が2倍以上に増えていること11)や、インフルエンザの流行によって高齢者の死亡が増加していること12)などが確認されており、集団接種中止の弊害が浮き彫りになってきています。

 10) 国立感染症研究所 「インフルエンザワクチンについて
 11) インフルエンザ.8(4):29-33,(2007)
 12) N Engl J Med.344(12):889-96,(2001) PMID:11259722

集団接種中止のきっかけの1つ「前橋レポート」

 なお、この集団接種中止のきっかけになったとも言われる調査に「前橋レポート」と呼ばれるものがあります。これは、集団接種の効果を測定するために、ワクチンの接種地域と非接種地域を比較し、インフルエンザの予防効果があるかどうかを検討したものです。
 ワクチンが不要と主張する人の多くはこの報告を根拠にしていますが、1979年に行われたこの報告には色々と問題があります。

※前橋レポートの主な問題点
①比較する群の設定
 本来ワクチンの効果を検討するためには、「ワクチンを接種した人」と「ワクチンを接種していない人」を比較する必要があります。しかしこの研究では、ワクチンの接種率が「50%程度の地域」と「20~30%程度の地域」を比較しています。つまり、「接種地域」とされた群でも半数の人がワクチンを接種していない、非常に大雑把な全体比較しかできていないことになります。
 なお、同一市内の「2回接種者」と「非接種者」のデータを比較した場合、インフルエンザの発症率は下がっています。

②インフルエンザ罹患者の定義
 この「前橋レポート」が報告された1979年は、まだインフルエンザの検査キットも無かった時代です。そのため、「37℃以上の発熱で2日以上欠席した人」や「理由を問わず3日以上欠席した人」も、インフルエンザ罹患者に定義されています。
 つまり、インフルエンザ以外の病気で欠席した人やズル休みした人も「インフルエンザ罹患者」に含まれる、非常にノイズの大きな定義になってしまっています。

 近年行われた「接種者」と「非接種者」を純粋に比較した研究や、インフルエンザかどうかを検査で確認した研究で、ワクチンの効果や有益性が数多く報告されている中、こうした古い時代の大雑把なデザインで行われた1研究の結果にこだわるのは、賢明とは言えません。

 

薬剤師としてのアドバイス~偏った情報を基に判断しないで

 インフルエンザのワクチンについて、インターネットやSNSでは「接種しても発症した」「接種したのに高熱が出た」といった個人の経験談が非常に多く投稿されています。こうした経験談が目立つために、まるで「ワクチンは無意味なのではないか?」と感じてしまうことに無理ありません。
 また、そうした不安や疑問につけこみ、WHOはインフルエンザのワクチン接種を推奨していない、ワクチンには毒が入っている、といったデマも非常に頻繁に出回ります。

 医療では、自分自身で情報収集して判断することは大切ですが、このような偏った情報を基にした判断は自分や家族にとって非常に不利益なものになってしまう恐れがあります。目にした情報は「誰が」「どんな目的で」「どういった根拠に基づいて」発信されたものなのかに注意し、もし不安や疑問が膨らんできた際には、かかりつけの医師・薬剤師に直接相談するようにしてください。

ポイントのまとめ

1. インフルエンザのワクチンは、感染・発症のリスクを60%ほど軽減する効果がある
2. インフルエンザのワクチンが防ぐ「重症化」とは、生命に関わる事態・入院が必要になる事態のことを指す
3. 調べ物をしていてワクチンに関する不安や疑問が強くなってきた時は、かかりつけの医師・薬剤師に直接相談する

 

ワクチンを接種すると「自閉症」になる、というデマ

 インフルエンザのワクチンに限らず、ワクチンを接種すると「自閉症」になる、といった情報が出回ることがあります。

 この情報の基となったのは、1998年にWakefield AJ氏が発表した「MMRワクチン接種で自閉症が増える」という可能性を指摘した論文です13)。しかし、この論文は内容に虚偽があるとして2010年に既に撤回され、著者は英国医事委員会から医師免許剥奪の処分も受けています。
 なお、後の12万例以上の小児を対象にした研究によって、小児に対するワクチン接種が自閉症リスクとは関連しないこと14)、複数のワクチンを接種しても自閉症は増えないこと15)などが報告され、この仮説は否定されています。

 13) Lancet.351(9103):637-41,(1998) PMID:9500320 ※撤回論文:RETRACTEDと警告
 14) Vaccine.32(29):3623-9,(2014) PMID:24814559
 15) J Pediatr.163(2):561-7,(2013) PMID:23545349

 虚偽が見つかり撤回され、既に別の報告によって否定もされたような仮説を、今さらさも真実かのように引っ張り出してくるのは、決して冷静な議論とは言えません。

ワクチンに「水銀」が入っているという話

 ワクチンには水俣病で問題になった「水銀」が入っている、と主張する意見があります。
 確かに、一部のワクチンには殺菌剤として水銀化合物「チメロサール」がごく微量含まれていますが、これから分解生成されるのは「エチル水銀」であり、水俣病で問題になった「メチル水銀」とは性質が大きく異なります(例:半減期が1週間未満と短く体内に蓄積しにくい)。
 「エチルアルコール(エタノール:飲料)」と「メチルアルコール(毒物)」が同一で語れないのと同様、これら2つの物質も全く別の物として考える必要があります。

 なお、国内で使われる季節性インフルエンザのワクチンに含まれる「チメロサール」の濃度は0.004~0.008mg/mLとされ16)、1回の接種(0.25~0.5mL)で体内に入る量は0.001~0.004mg(=1~4μg)と、ごく微量です。これは魚介類を食べた時に摂取する水銀化合物量と比べても少なく、農林水産省の定めた総水銀の基準摂取量4μg/kgを大きく下回る量です17)。

※例:3歳児にインフルエンザワクチンを接種した際の概算
・1回のワクチン接種量:0.5mL
・含有するチメロサールの量:0.004~0.008mg/mL×0.5mL=2~4μg
・3歳児の耐容週間摂取量:平均13~14kg換算で、52~56μg
→ワクチン接種で体内に入る量2~4μg<耐容週間摂取量52~56μg

 16) 厚生労働省 「国内外ワクチンのチメロサール含有量に関する状況」
 17) 農林水産省 「水銀・メチル水銀の暫定耐容一週間摂取量」

 また、この「チメロサール」が自閉症を起こすリスクについては、上記の研究によって否定されています11)。

ワクチンに「ホルムアルデヒド」が入っているという話

 一部のワクチンの製造工程ではウイルスなどを不活化させる際に「ホルムアルデヒド」を使うことがあるため、完成したワクチンに「ホルムアルデヒド」がごく微量残存することがあります。しかし、ワクチンに含まれる可能性のあるごく微量では、健康への影響は無視できるものと結論づけられています18)。

 18) 食品安全委員会「H5N2亜型不活化ワクチン」

 多量を摂取すれば毒になるのは「水」や「醤油」・「塩」・「砂糖」なども同じです。量を無視して危険性を語ることはできません。

 

補足:現在主流の、ワクチンの効果判定

 現在は「インフルエンザを発症した人」と「発症しなかった人」の、事前のワクチン接種状況を振り返る方法で、相対リスクの近似値を算出する方法が主流です。

 なお、日本ではインフルエンザの診断に「迅速診断キット」がよく使われているため、このキットの精度が算出されるワクチンの効果に影響してしまう問題点が指摘されています。

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コメント

  • コメント (2)

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    • ゆうきち
    • 2019年 2月 16日

    インフルエンザワクチンは毎年ワクチンを打つことで前回接種時や感染時の獲得免疫のブースター効果は望めるのでしょうか?
    また、インフルエンザに限らず、ワクチン接種後に感染者やウイルスに遭遇することでブースター効果を望むことができるのでしょうか?

      • Fizz-DI
      • 2019年 2月 18日

      様々なワクチンを十把一絡げには語れないので、あくまでインフルエンザのワクチンに関しての見解です。

      前年のワクチン接種が抗体価に影響することを示唆した文献はありますが、それが臨床的にどの程度の効果として現われるのかはわかっていません。
      WHOが毎シーズンの接種を推奨しているのは、シーズンによって流行するインフルエンザの型が異なることが主な理由です。

      また、インフルエンザに関してはワクチンで得られる予防効果は6割程度です。
      明確な根拠のないブースター効果を期待して感染者と濃厚接触すると、単にインフルエンザを発症するだけで終わる可能性もあり、お勧めはできません。

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