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新型コロナウイルス(COVID-19) 知っておくべきこと

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「期待の新薬」をダメ元で使ってはいけない理由、プラセボと比較する理由、「社会が期待する効果」と「臨床試験から見える効果」の乖離

 

 2020年5月11日現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して有効性・安全性が確立した治療薬は存在しません。ところが、テレビのワイドショー等では連日のようにコメンテーターや有名人らが特定の薬を「特効薬」であるかのように扱い、「全員に薬を配るべきだ」「薬を使わないなんておかしい」といった発言を繰り返しています。こうした感情的な薬の使い方は、非常に危険です。有効性や安全性がまだ確立していないということは、つまり「薬を使わない方がマシ」という可能性も大いに残っているからです。

 

ダメ元でも良いから使ってみたら良いのでは?という意見が危険な理由

 「有効性・安全性が確立していない」とは言え、効くかもしれないのだったら、ダメ元で使えば良いのではないか。

 このところ、そういう意見をよく目にします。しかし、これは非常に危険な考え方です。

 もしも薬が全くの無害な物質であったとしたら、薬を使った結果は「有効」か「無効」かのどちらかになります。最悪でも「無効」、つまりプラスマイナスゼロの状態です。であれば、「効けばラッキー」というダメ元の感覚で使ってみるのもアリかもしれません。

 しかし、実際のところ薬には副作用がつきものです。使ってみて効果が得られなかったとしても、副作用のリスクや実害は負わなければなりません(お金もかかります、点滴なら針も刺されます)。つまり効かなかったら「無効」ではなく「有害」、「飲まない方がマシだった」という結果も起こり得るということです。そのため、いくら社会が「効果を期待」する薬であっても、その感情論だけで使おうとするのは非常に危険です。

 

 実際、「効果が期待されていた新薬」を使ったら死亡率が上がってしまい、「薬を飲まない方がマシだった」という結果が示されたような臨床試験はたくさんあります。有効性・安全性が確立していない薬をダメ元で使ったら「意味なかったわ、テヘ」では済まないことになる可能性が大いにあるのです。

※期待の新薬を使ったら、かえって死亡率が上がってしまった、という臨床試験の例
N Engl J Med.324:781-788,(1991) PMID:1900101(CAST試験)
 心筋梗塞後の不整脈患者に、当時期待の新薬だったIc群抗不整脈薬(エンカイニド・フレカイニド)を投与したところ、「プラセボ(偽薬)」を投与されたグループよりも不整脈の症状は減らせたが、かえって死亡率は高くなってしまった、という臨床試験。

※期待の新薬を使っても、効果はなくて副作用だけが増えてしまった、という臨床試験の例
・N Engl J Med.376(12):1111-1120,(2017) PMID:28328324
 座骨神経痛の患者に、期待の新薬「プレガバリン」を投与したところ、52週後でも「プラセボ(偽薬)」を投与されたグループと痛みの強さは変わらず、有害事象は2倍近く多かった、という臨床試験。

「有効性・安全性が確立された薬」とは

 現状、医療現場で広く使われている薬は、基本的に「有効性・安全性が確立された」ものです。
 これは「100%効果的で100%安全」という意味ではなく、「もちろん副作用のリスクはあるが、適切に使用している限りはリスクよりも有益性の方が常に上回るほどに十分大きな効果がある…ということが統計学的に保証されている」くらいに考えておいてもらえたら良いと思います。

 

「プラセボ(偽薬)」を対照に臨床試験を行うことは非人道的なのか?

 病気の人を対象にした臨床試験で、何の薬理作用も持たない「プラセボ(偽薬)」を使うことは非人道的だ、あり得ない。

 こうした批判もよく耳にします。

 確かに、既にそれなりの治療法が確立された病気を治療するにあたって、その治療を患者から奪って「プラセボ(偽薬)」しか飲ませない群を設定する…というのは、倫理上も非常に大きな問題があります(そのような臨床試験は、基本的に倫理審査に通らず、実施できません)。そのため、比較対照に「既存の薬」を設定して、「期待の新薬と既存の薬、どちらがより優れているのか?」という比較検証が行われます。
 しかし、これができるのは「既にそれなりの有効性・安全性が確立した薬が存在する」場合の話です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)には、現状そのような治療法は存在しません。

 まだ有効性・安全性の確立した薬が存在しない場合は、まず「期待の新薬を使えば、薬を使わない場合よりも良い結果が得られるか?」というところから検証しなければなりません。
 当然、薬の有効性や安全性はまだ不明ですので、現段階では何の薬理作用も持たない「プラセボ」を使った方が良い結果が得られるかもしれない、「効果を期待された新薬だったが、害の方が大きく、使わない方がマシだった」という結果になる可能性も大いにあるわけです。だから「プラセボ」を比較対照に、「期待の新薬は本当に患者へ使うメリットがあるのか?」を確認する臨床試験を行うのです(そもそも、「プラセボ」を投与することが不利益になると「確定している」のであれば、わざわざ臨床試験で検証する必要はないですね)。

「プラセボ群=何の治療も受けられない放置群」ではない

 なお、「プラセボ(偽薬)」を投与されるグループは、何の治療も受けられず放置される人たち、という意味でもありません(先述の通り、患者が明らかな不利益を被るとわかっているような臨床試験は、倫理上の問題から実施できません)。

 患者の生活の質を改善するために行われる治療やケア(例:酸素吸入や解熱鎮痛など)、もしくはその疾患の治療で現れる副作用を軽減するような支持療法はベースで行いつつ、そこに「期待の新薬」を追加するグループと、「プラセボ」を追加するグループで比較する、といったものが基本パターンになります(厳密には検証したい疑問や臨床試験が行われる状況などによって、色々な患者背景が設定されます)。

※新薬を使うグループも、新薬以外の治療やケアを一切奪われる…なんてことはありません。

 

 「効果が期待されている新薬」という表現への違和感

 テレビなどでは「効果が期待される新薬」という表現がよく使われています。確かに、薬理作用などの観点から「効果を期待」することは妥当と思います。効果が期待できるからこそ、実際に臨床試験で患者に使ってその効果を検証するのです。

 しかし、「効果が期待されている」ということが、現段階での有効性や安全性を保証するわけでは全くありません。つまり「効果が期待される新薬」というのは、同時に「使わない方がマシかもしれない新薬」でもあるのですが、こうしたニュアンスを全く感じさせないところに、この表現の危うさを強く感じます。

※有効性・安全性が確立していない段階では、厳密には「新薬」ではなく「候補薬」などと表現した方がより適切です。

 

 2020年5月11日現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して世界では1,000以上の臨床試験が行われています。中には『ベクルリー(一般名:レムデシビル)』や『アビガン(一般名:ファビピラビル)』のように、社会全体が大きく期待を寄せている候補薬もあります。
 その期待は、「薬を飲めばたちどころに症状が改善し、重症化や死亡リスクも大きく抑制できる」といった『夢の特効薬(しかもNNTは2~3)』であるかのように語られていることもあります(いま報告されている臨床試験の結果を見る限り、今後多少の効果が示される可能性はあるかもしれませんが、少なくともこんな”劇的な特効薬”にはなり得なさそう…というのが私の雑感です)。

 中には、このくらいの絶大な効果が実証されているけど、手続き上の問題だけでまだ承認されず現場で使われていない…そんな風に思っている方も多いようです。それなら、確かに「なぜ使わないんだ」「プラセボと比較するなんて非人道的」と怒る意味もわかります。

 こうした「効果が期待されている新薬」が意味するところ、「社会が期待する効果」と「臨床試験から見える効果」に大きな乖離があることは、非常に危険だと思います。「期待」という感情に流されて新薬を祭り上げた先に待っているのは、「期待外れだ」という落胆と手のひら返し、そして残るのは副作用や耐性ウイルスなどの実害です(『ゾフルーザ』でも同じことが起きていたことは記憶に新しいと思います)。
 ”夢の新薬”が切望される状況だからこそ、いま一度、「期待できる効果」とは実際にどの程度のものなのか、きちんと論文報告などを基に冷静&客観的に評価することが大事です。「夢の新薬など存在するわけがない」といった絶望でも、「この薬が承認されさえすればかつての日常をすぐに取り戻せる」といった幻の期待でもなく、現実問題としてCOVID-19と戦っていくために必要なことです。

 

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