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似た薬の違い インフルエンザ

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『ゾフルーザ』と『タミフル』、同じインフルエンザ治療薬の違いは?~治療効果と服用回数・薬の値段・使用実績

回答:1回の服用で良い『ゾフルーザ』、安価で使用実績も豊富な『タミフル』

 『ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)』と『タミフル(一般名:オセルタミビル)』は、どちらもインフルエンザの治療に使う抗ウイルス薬です。

 『ゾフルーザ』は、1回の服用で治療が終わる、服用の手間が非常に少ない薬です。
 『タミフル』は、安価使用実績も豊富な薬です。

 治療効果に大きな違いはありませんが、1回の服用で治療が完了する『ゾフルーザ』は服薬が簡単です。しかし『タミフル』と比べると高価で、80kg以上の人では薬の値段が3倍以上もかかってしまうことや、使用実績も乏しいことに注意が必要です。

回答の根拠①:1回の服用で治療が終わる『ゾフルーザ』の利点

 『ゾフルーザ』は『タミフル』と同じ内服(飲み薬)のインフルエンザ治療薬ですが、1回だけの服用で『タミフル』と同等の効果が得られます1)。これは『ゾフルーザ』の半減期が95.8時間と非常に長い2)ことが関係しています。

※内服インフルエンザ治療薬の用法 2,3)
『ゾフルーザ』:1回だけ
『タミフル』:1日2回、5日間

 1) N Engl J Med.379(10):913-923,(2018) PMID:30184455
 2) ゾフルーザ錠 インタビューフォーム
 3) タミフルカプセル インタビューフォーム

 1回で薬を全て飲み切ってしまうため、症状が治まってきた時点で薬の服用を自己判断で止めてしまったり、余った薬を他人に譲渡してしまったりといった、耐性化のリスクにつながる不適切な使用も起こり得ません。

 既存の薬にも1回の使用で治療が完了する『イナビル(一般名:ラニナミビル)』がありますが、これは吸入薬です。熱でぼんやりしている時に、初めて使う吸入器を正確に使うことは難しく、吸入と同時に咳き込んでしまうといったトラブルもよく起こります。内服薬である『ゾフルーザ』は、こういった点からも服薬の手間が非常に少なく、便利な薬と言えます。

家庭内での感染リスクは、『タミフル』と変わらない

 『ゾフルーザ』は、テレビ等で「ウイルス排出期間」が短くなることから家庭内での感染リスクを抑えられる、といった長所が紹介されることがあります。
 確かに、患者からウイルスが排出されなくなれば家庭内での感染リスクを軽減できる可能性があります。しかし、実際には3日目までの家庭内感染は『ゾフルーザ』3.9%、『タミフル』5.2%で、有意差は得られていません4)。

 現時点では、「家庭内の感染リスクを大きく下げる」とは言えないことに注意が必要です。

 4) FDA 「CENTER FOR DRUG EVALUATION AND RESEARCH APPLICATION」 NUMBER:210854Orig1s000 

 

回答の根拠②:安価で使用実績も豊富な『タミフル』~半減期が短いことの利点

 2001年2月から使われている『タミフル』は、2018年3月に登場した新薬である『ゾフルーザ』と比べると、薬の値段が安い使用実績が豊富という長所があります。
 得られる効果も同じ1)ため、服薬の手間が問題にならないのであれば、わざわざ高額で、しかも使用実績が乏しく未知の副作用リスクがある薬を使う必要はありません。

『ゾフルーザ』での治療は、かなり高額になる

 『ゾフルーザ』は1回の服用で治療が済みますが、非常に高価な薬です。
 40kg未満の人であれば薬の量も少ないため『タミフル』とほぼ同じくらいの金額で済みますが、成人で最も一般的な体重である40~80kgの人でも1.7倍、80kg以上の人では3.5倍も費用がかかることになります。
 特に、『タミフル』にはより安価な後発(ジェネリック)医薬品もあるため、値段の差はより大きくなります。

※治療1回分の薬価(2018年改定時)
『タミフル』:272.00(1Cap)
→1日2回を5日間、合計で2720.00円
(※後発医薬品であれば、1360.00円

※既存薬『イナビル(一般名:ラニナミビル)』:2139.90円
※既存薬『リレンザ(一般名:ザナミビル)』:2942.00円

『ゾフルーザ』:1507.50(10mg)、2394.50(20mg)
→10~20kgの人:10mgを1錠=1507.50円
→20~40kgの人:20mgを1錠=2367.50円
→40~80kgの人:20mgを2錠=4789.00円
→80kg以上の人 :20mgを4錠=9578.00円

『タミフル』は子ども・高齢者・重症例に対する使用実績が豊富

 12歳未満の小児に対する適応は、『ゾフルーザ』と『タミフル』どちらにもあります2,3)。
 しかし、『タミフル』には用量調節が簡単な「ドライシロップ」製剤があり、新生児や乳児から使用することもできます3)。また、65歳以上の高齢者に対する効果も認められている3)ほか、重症例に対する使用が推奨されている5)など、様々な症例に対する使用実績が豊富にあります。

 特に、『ゾフルーザ』の臨床試験では、薬を服用した患者の9.7%(※小児では77例中18例:23.37%)で薬に対する感受性の低下が起こり1,2)、こうした変異ウイルスが生じた場合には症状の遷延化も起こるという報告があります6)。

 新薬には、こうした未知の副作用、未知の相互作用のリスクが付き物であることを考えると、子どもや高齢者の場合、重症化リスクがある患者の場合は、使用実績が豊富な『タミフル』を選ぶのが無難と思われます。
 実際、日本小児科学会は小児に対する『ゾフルーザ』は、慎重に投与を検討するよう注意喚起しています7)。

 5) 日本感染症学会 「抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版)」,(2019)
 6) Clin Infect Dis. 2019 Sep 20.[Epub ahead of print] PMID:31538644
 7) 日本小児科学会 「2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針」

 

 

薬剤師としてのアドバイス:薬の有無に関わらず「異常行動」には注意を

 『タミフル』が発売された直後、薬を服用した患者が興奮状態になって窓から飛び降りる等の異常行動を起こしたことが話題になりました。こうした「異常行動」は薬の有無に関わらず起こっているため、薬ではなくインフルエンザという病気が原因と考えられています。
 しかし、現在もメディアは「薬が原因だ」と決めつけるような報道を行うことがあるため、未だに「薬を飲んでいなければ安心」といった誤解は根強く残っています。

 小児や未成年のインフルエンザ患者は、薬を飲んでいなくても「異常行動」を起こす恐れがあります。住居から外に飛び出してケガや事故に巻き込まれないよう、高層階では窓や玄関のドアを施錠する、できるだけ1階で寝かせるなどの対応が必要です。

ポイントのまとめ

1. 『ゾフルーザ』は1回の服用で治療が完了するため、非常に手間が少なく便利
2. 『タミフル』は安価で、小児や高齢者・妊婦・重症例に対する使用実績も豊富
3. インフルエンザの際の「異常行動」は、薬の有無に関わらず注意が必要

 

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆適応症
ゾフルーザ:A型・B型インフルエンザウイルス感染症
タミフル:A型・B型インフルエンザウイルス感染症と、その予防

◆治療の際の用法
ゾフルーザ:1回のみ
タミフル:1日2回、5日間

◆血中濃度の半減期
ゾフルーザ:95.8~99.6時間
タミフル:5.1~7.0時間

◆薬価収載年月
ゾフルーザ:2018年3月
タミフル:2001年2月

◆1錠・1Capあたりの薬価 (※2018改訂時)
ゾフルーザ:1507.50(10mg)、2394.50(20mg)
タミフル:272.00(75mg)

◆12歳未満の小児に対する適応
ゾフルーザ:10kg以上から用量設定あり
タミフル:新生児・乳児から使用可(※ドライシロップ)

◆妊娠中の安全性評価
ゾフルーザ:データなし
タミフル:オーストラリア基準【B1】

◆薬理作用上の分類
ゾフルーザ:エンドヌクレアーゼ阻害薬
タミフル:ノイラミニダーゼ阻害薬(※同効薬『イナビル』・『リレンザ』・『ラピアクタ』

◆剤型の種類
ゾフルーザ:錠(10mg、20mg)、顆粒
タミフル:カプセル(75mg)、ドライシロップ

◆資料請求先
ゾフルーザ:塩野義製薬
タミフル:中外製薬

+αの情報①:1日で治療が終わっても、学校に行って良くなるわけではない

 『ゾフルーザ』や『タミフル』を服用すると、2日程度で症状が治まってくることがあります。しかし、症状が治まったからといって外出すると、ウイルスをばら撒き、周囲の人にインフルエンザを拡げてしまうことになります。
 そのため学校などは「発症した後5日間を経過し、かつ解熱した後2日(幼児では3日)を経過するまで」が出席停止の期間と定められています8)。

 8) 学校保健安全法施行規則第19条

 特に、5日間の服薬が必要な『タミフル』に比べ、1回で服薬が完了してしまう『ゾフルーザ』では「症状も治ったし、薬も飲んでいないし、もう治っただろう」と感じやすいため、無自覚にウイルスをばら撒いてしまうようなことが無いよう、注意が必要です。

+αの情報②:インフルエンザの治療に、薬は必要か?

 持病などのリスクがなければ、基本的にインフルエンザは薬無しでも3日(約80時間)ほどで自然に軽快するため、『ゾフルーザ』や『タミフル』といった薬は必ずしも必要ではありません。
 薬を使えば、この症状のある期間を1日(24時間)ほど短縮できます1)が、病院へ行くのが大変な場合などには、無理に病院を受診して薬を処方してもらう必要はありません。

 ただし、インフルエンザが重症化しやすいリスク要因を抱える人や、インフルエンザが重症化する兆候が見られた場合には、すぐに病院を受診することをお勧めします。

※インフルエンザ重症化のリスク要因(病院受診した方が良い人)9)
・5歳未満(特に2歳未満)、または65歳以上
・妊娠中、産後2週間以内
・介護施設の長期居住者
・BMIが40以上
・糖尿病
・腎機能、肝機能障害
・免疫不全疾患、ステロイドの内服中
・先天性の心疾患、心不全、不整脈
・喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・長期で「アスピリン」を服用している小児

※インフルエンザ重症化の兆候(緊急で病院受診した方が良い状況)10)
(成人)
・呼吸困難や息切れ
・胸や腹部に痛みや圧迫感
・突然のめまい
・意識の混濁、混乱
・ひどい嘔吐、持続する嘔吐
・一旦症状が治まってからの再悪化

(小児)
・呼吸困難、呼吸が速い
・肌が青みがかっている
・十分に水を飲まない
・反応が鈍い、反応がない
・抱っこを嫌がるほどイライラしている
・一旦症状が治まってからの再悪化

 9) CDC 「People at High Risk of Developing Serious Flu–Related Complications」
 10) CDC 「Influenza(Flu) What are the emergency warning signs of flu sickness?」

 

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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