『ランタス』・『レベミル』・『トレシーバ』、同じ持効型インスリン製剤の違いは?~値段や注射回数、体重増加と低血糖
記事の内容
回答:価格の安い『ランタス』、2回に分けて調節できて体重が増えにくい『レベミル』、時間のズレに寛容で低血糖の少ない『トレシーバ』
『ランタス(一般名:インスリン グラルギン)』、『レベミル(一般名:インスリン デテミル)』、『トレシーバ(一般名:インスリン デグルデク)』は、いずれもインスリンの注射薬(持効型)です。
『ランタス』は最初に登場した持効型のインスリン注射で、値段が最も安い製剤です。
『レベミル』は朝と夕で薬の量を細かく調節できるほか、体重増加も少ない傾向にあります。
『トレシーバ』は注射の時間が多少ズレても安全で、低血糖のリスクも低いのが特徴です。

基本的な効果は同じため、値段や注射の時間・回数、避けたい副作用、デバイスの使い勝手の良さなどから、最も都合の良いものを選ぶことができます。
回答の根拠①:「インスリン グラルギン」~値段が最も安い、最初の”持効型インスリン”
「インスリン グラルギン」は、1日1回で24時間の安定した効果が続く”持効型のインスリン”として初めて登場した薬です。そのためバイオシミラー製剤も含めて、最も値段が安くなっています。
適切に使えていれば血糖値を下げる効果はどれも変わらない1)ため、通常は最も経済的負担の少ない「インスリン グラルギン」が多く選ばれます。

※販売開始年と、代表的なキットの薬価(2025改訂時)
ランタス(グラルギン) :2001年(ソロスター1キット 1,049円)
レベミル(デテミル) :2007年(フレックスペン1キット 1,424円)
トレシーバ(デグルデク):2013年(フレックスタッチ1キット 1,841円)
1) Diabetes Obes Metab.21(4):984-992,(2019) PMID:30552792
より効果が安定する『ランタスXR』~3倍濃度の「インスリン グラルギン」製剤
『ランタスXR』は、「インスリン グラルギン」の濃度を3倍にすることで、効果の持続性を向上させた製剤です2)。吸収がより穏やかになることで、低血糖を起こしにくくなっている3)のが特徴です。

2) Diabetes Care.38(4):637-43,(2015) PMID:25150159
3) Diabetes Care.43(6):1242-1248,(2020) PMID:32273271
回答の根拠②:「インスリン デテミル」~1日2回に分けて調節できる
「インスリン デテミル」は、持効型のインスリン製剤の中で唯一、1日2回に分けて使うことができます4)。
1日1回の注射で安定している場合、わざわざ手間を増やす必要はありません。しかし、1日の中で血糖値が大きく変動し、朝と夕で必要なインスリン量が異なるような場合には、「インスリン デテミル」を1日2回に分けて使い、それぞれの時間帯に合わせたインスリンの量を設定することができます。

4) レベミル注フレックスタッチ インタビューフォーム
「インスリン デテミル」は体重も増やしにくい
「インスリン」を使った治療を始めると、これまで血液中に溢れていた糖分が細胞に取り込まれるようになるため、体重が増えることがあります。
その点、「インスリン デテミル」は他の持効型インスリンに比べて体重が増加しにくい1,5)傾向にあります。これは、作用時間が比較的短めで、必要以上のインスリン作用が残りにくいことなどが要因と考えられています。
5) Ann Intern Med.169(3):165-174,(2018) PMID:29987326
妊娠中の安全性評価の違い
インスリン治療は、基本的に妊娠中でもよく選択肢になりますが、特に「インスリン デテミル」は、他の持効型インスリンに比べて妊娠中の安全性と使用実績が高く評価されています6)。
※オーストラリア医薬品評価委員会による安全性評価
ランタス(グラルギン)・・・・ B3
レベミル(デテミル)・・・・・A
トレシーバ(デグルデク)・・・ B3
6) Expert Opin Drug Saf.15(7):963-73,(2016) PMID:27145344
回答の根拠③:「インスリン デグルデク」~注射の時間が少しズレても問題がない
「インスリン デグルデク」は、毎日一定の時間であれば、朝・昼・夕どのタイミングで使っても良い薬です7)。そのため、介護施設等で朝食前や夕食前・就寝前といった忙しい時間帯の注射が難しい場合にも使いやすい薬と言えます。
さらに、「インスリン デグルデク」は作用時間が42時間以上と長いため、注射を忘れた場合でもすぐには血糖値に影響しにくい、という性質があります。実際に、注射時刻を曜日ごとに変更し、月・水・金は朝、火・木・土・日は夕方、というバラバラな時間での使い方でも、長期的な血糖値のコントロールには影響しなかったことが確認されています7)。

このことから、「インスリン デグルデク」は注射を忘れていた場合でも、次の投与まで8時間以上の間隔があれば気づいた時点で注射して良い7)とされているなど、注射を忘れていてもリカバリーしやすい薬でもあります。
7) トレシーバ注フレックスタッチ インタビューフォーム
低血糖も少なめの「インスリン デグルデク」
「インスリン デグルデク」は最も作用時間が長く、おだやかに効果を発揮するため、他の薬よりも低血糖を起こしにくい1)ことがわかっています。
特に、夜間の低血糖や重篤な低血糖リスクについては『ランタスXR』に比べても少ない可能性8)があり、低血糖を避けたい場合の良い選択肢になります。
8) Diabetologia.63(4):698-710,(2020) PMID:31984443
薬剤師としてのアドバイス:使いやすさで選ぶことも多い
持効型インスリン製剤の「グラルギン」「デテミル」「デグルデク」は、薬としての性能差のほか、注射の時間や回数、デバイスの使い勝手の良さなどを重視して選ぶこともあります。
たとえば『レベミル』の「イノレット」は文字が大きいため、用量設定のときに注射器に書かれた小さな文字が老眼で見えづらい、という人でも扱いやすいデバイスになっています。あるいは、『トレシーバ』の「フレックスタッチ」は弱い力でも注射ができるため、手指が不自由で注射がしづらい、という人でも無理なく注射することができます。
こうしたデバイスの差から、負担なく治療を続けられるデバイスを見つける、ということも重要です。ただし、使い続けているうちに注射の手技は”自己流”に偏っていってしまうこともよくあります9)。適したデバイスを選べたとしても、正しく使い続けられるよう定期的に手技を確認することが大切です。
9) Mayo Clin Proc.91(9):1224-30,(2016) PMID:27594186
ポイントのまとめ
1. 『ランタス(グラルギン)』は、値段が安くてコスパが良い
2. 『レベミル(デテミル)』は、1日2回に分けて調節できて、体重も増えにくい
3. 『トレシーバ(デグルデク)』は、注射時間がよくズレる人や、低血糖を避けたい人向き
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
グラルギン | デテミル | デグルデク | |
先発医薬品名 | ランタス | レベミル | トレシーバ |
適応症 | インスリン療法が適応となる糖尿病 | インスリン療法が適応となる糖尿病 | インスリン療法が適応となる糖尿病 |
登場年 | 2001年 | 2007年 | 2013年 |
用法 | 1日1回(朝食前または就寝前) | 1日1回(夕食前または就寝前)、または1日2回(朝食前と、夕食前/就寝前) | 1日1回(タイミングの指定なし) |
作用時間 | 約24時間 | 約24時間(最大効力は3~14時間) | 42時間以上 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | オーストラリア基準【A】 | オーストラリア基準【B3】 |
世界での販売状況 | 世界141ヵ国 | 世界100ヵ国以上 | 世界95ヵ国 |
剤型の規格 | 注射(カート、ソロスター) | 注射(ペンフィル、フレックスペン、イノレット) | 注射(ペンフィル、フレックスタッチ) |
先発医薬品の製造販売元 | サノフィ | ノボノルディスクファーマ | ノボノルディスクファーマ |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:週1回の注射で良い『アウィクリ(イコデク)』
『アウィクリ(一般名:インスリン イコデク)』は、持効型インスリンの効果持続時間をさらに長くして、”週1回”の注射で良いように改良した薬です10)。
「インスリン グラルギン」や「インスリン デグルデク」に比べて、少ない注射回数(365回→52回)で同等、もしくはやや良い血糖コントロールを得られる11)、とされていますが、使い始めに低血糖がやや多い傾向も確認されている12)ことに注意が必要です。
10) アウィクリ注 フレックスタッチ インタビューフォーム
11) Diabet Med.41(10):e15414,(2024) PMID:39046097
12) Ann Pharmacother.59(6):554-569,(2025) PMID:39425483
+αの情報②:効果を持続化させる工夫の違い
「インスリン グラルギン」、「インスリン デテミル」、「インスリン デグルデク」は、どれも作用が長続きするように工夫されたインスリンですが、この工夫の内容は異なります。
※「インスリン グラルギン」(ランタス)
構造:ヒトインスリンA鎖21位のアスパラギンをグリシンに置換、B鎖C末端のスレオニンにアルギニンを2つ付加
※「インスリン デテミル」(レベミル)
構造:ヒトインスリンB鎖30位のスレオニンを欠損、29位のリジン残基にミリスチン酸を結合
※「インスリン デグルデク」(トレシーバ)
構造:ヒトインスリンB鎖30位のスレオニンを欠損、29位のリジンにグルタミン酸を介してヘキサデカン二酸を結合
「グラルギン」の作用が続く理由~pH差による等電点沈殿を利用した方法
「インスリン グラルギン」は、等電点がpH7.4に設計されています。そのため皮下注射すると、生体のpHでは溶解度が低くなり、一旦沈殿物を形成します(等電点沈殿)。
その後、この沈殿物がゆっくりと溶けて血液中に移行するため、インスリンが徐々に作用する、という効果が得られます。
濃度の高い『ランタスXR』では注射する液量が少なくなるため、生成される沈殿物が小さくなります。そのため溶けるスピードが遅くなり、より吸収が穏やかになります。
「デテミル」の作用が続く理由~アルブミンとの結合
「インスリン デテミル」は血液中に吸収された後、97%近くが血液中の「アルブミン」と結合します。
その結果、「アルブミン」と結合した「結合型」と結合しなかった「非結合型」が平衡状態となり、薬として作用する「非結合型」のインスリンは量が少ない状態が長く維持されます3)。
「デグルデク」の作用が続く理由~複合体の形成
「インスリン」は、「インスリン」同士で複合体を形成する性質(自己会合)があります。しかし、薬として作用を発揮するのは、複合体を形成していない「単量体」だけです。
「インスリン デグルデク」は、もともと6つの「インスリン」からなる「6量体」が2個くっついた状態になっています。皮下注射すると、これらがいくつも連なった複合体を作ります。ここから少しずつ「単量体」の「インスリン」を解離していくため、作用も徐々に発揮され、長続きします。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。