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ステロイド(外用) 薬の誤解

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「ステロイド外用剤」は、保湿剤やワセリンと混合すれば弱くなる?~基剤と有効成分の動態

回答:弱くなるわけではない

 「ステロイド外用剤」は、『ヒルドイド(一般名:ヘパリン類似物質)』などの「保湿剤」や、『プロペト(一般名:白色ワセリン)』などと混合して使うことがあります。

 しかし、「ステロイド外用剤」と「保湿剤」やワセリンを1:1で混合したとしても、「ステロイド外用剤」の効果が半分になるわけではありません。
 特に、軟膏であればおよそ16倍希釈まで、同じ効果を発揮するとされています。

 そのため、混合した薬であっても、指示された場所以外に塗布することは危険です。

 こうした混合は、「ステロイド外用剤」の効果を弱めるためではなく、使うステロイドの総量を減らすことや、塗りやすさや塗り心地など使い勝手を良くする目的で行われることがあります。

回答の根拠①:「ステロイド外用剤」の基剤と有効成分

 シロップを水で1:1に薄めれば、有効成分の量は半分になります。
 しかし、「ステロイド外用剤」の場合は、そう単純な話ではありません。

基剤と有効成分の関係~食塩水に例えるとわかりやすい

 「ステロイド外用剤」は、軟膏やクリームなどベースとなる「基剤」と、薬の「有効成分」の2つで構成されています。
 食塩水に例えると、「水」が基剤で、「食塩」が有効成分です。
ステロイド外用剤~基剤と有効成分

 「ステロイド外用剤」が効果を発揮するためには、「有効成分」が皮膚に浸透していく必要があります。このとき、皮膚に浸透できるのは、「基剤」に溶け込んだ「有効成分」だけです。
 「水」に溶けた「食塩」だけが効果を発揮し、塊のまま溶けずに残っている「食塩」は効果を発揮できない、ということです。
ステロイド外用剤~基剤と有効成分2

 「ステロイド外用剤」では、はじめから全ての「有効成分」が「基剤」に溶け込んでいるわけではありません1)。

※基剤に溶けている「有効成分」の割合 1)
『デルモベート(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)』・・・・・・・・・・・1/50
『アンテベート(一般名:ベタメタゾン酪酸エステスプロピオン酸エステル)』・・・1/16
『リドメックス(一般名:プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)』・・・・・・1/130
『ロコイド(一般名:ヒドロコルチゾン酪酸エステル)』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1/130

 1) Monthly Book Derma. No.153 「ステロイドの上手な使い方」,(2009)

 皮膚に「有効成分」が浸透していくにつれ、元々は「基剤」に溶け込んでいなかった「有効成分」が代わりに「基剤」に溶け込んでいくようになっています。つまり、「基剤」に溶け込んでいる「有効成分」は一定の濃度に保たれる、ということです。
 食塩水に例えると、「水」に溶けた「食塩」が減っていくにつれ、塊のまま溶けずに残っていた「食塩」が溶けはじめ、「食塩水の濃度」は一定に保たれる、ということです。
ステロイド外用剤~基剤と有効成分3

 そのため、保湿剤やワセリンなどと混合し「基剤」が倍の量に増えたとしても、その「基剤」にはこれまで溶け込んでいなかった「有効成分」が新たに溶け出してくるため、塗り薬全体に溶け込んだ「有効成分の濃度」は同じになります。
 塊のままの「食塩」が残っている食塩水に水を注ぎ足しても、塊のまま残っていた「食塩」が新たに溶けるため、「食塩水の濃度」は変わらない、ということです。
ステロイド外用剤~基剤と有効成分4

回答の根拠②:軟膏は、16倍の希釈まで同じ効果を発揮する

 「ステロイド外用剤」は、軟膏であればおよそ16倍の希釈まで、同程度の作用を発揮することが報告されています2)。そのため、混合は少ないステロイドの総量で、同じだけの治療効果を得られるための工夫と言えます。

 2) 臨床医薬 Vol.6 No.8:1671-81,(1990)

 「ステロイド外用剤」は、副作用を回避するために大量使用は避ける必要があります。そのため、同じ効果が得られるのであれば、使うステロイドの総量は少ないに越したことはありません。

※ステロイド外用剤の安全量の目安 3)
Ⅰ群:成人で1日5g以下、小児で2g以下
Ⅱ群:成人で1日10g以下、小児で5g以下
Ⅲ群:成人で1日20g以下、小児で7g以下

 3) 日本医事新報 3625:135-136,(1993)

 こうした目安はあくまで副作用の発生リスクのみを考慮したものです。皮膚症状が酷く、治療を優先すべき場合にはこれを上回る量を使用することもあります。

 ただし、クリームなど別の剤型では効果が希釈倍率と相関して作用が減弱することが報告されている2)ほか、軟膏であっても後発(ジェネリック)医薬品では混合によって作用が減弱する恐れがあります4)。

 4) 日皮会誌.114:2080-2087,(2004)

薬剤師としてのアドバイス:混ぜられない薬や、混ぜると保管が難しい薬もある

 「ステロイド外用剤」の混合は、使うステロイドの総量を減らしたり、使い心地を良くしたり、といった目的で行われることがあります。

 混合した方が良いのか、別々に重ね塗りをした方が良いのか、といった判断は医師が行います。
 また、混ぜても良い薬の組み合わせや、混ぜたあとの保管方法などは、薬剤師が一つずつ確認を行います。

 中には、混合してしまうと作用が弱くなって治療に支障を来たすものや、水と油が分離してしまって使いものにならなくなってしまうものもあります。

 自己判断で混合するなど、処方された薬には勝手に手を加えないようにしてください。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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