『キサラタン』と『チモプトール』、同じ緑内障の点眼薬の違いは?~プロスタノイド受容体関連薬とβ遮断薬、局所と全身の副作用
記事の内容
回答:全身性の副作用が少ない『キサラタン』、局所の副作用が少ない『チモプトール』
『キサラタン(一般名:ラタノプロスト)』と『チモプトール(一般名:チモロール)』は、どちらも緑内障の治療薬です。
『キサラタン』は、気管支収縮や徐脈・血圧低下といった全身性の副作用が少ない「プロスタノイド受容体関連薬」です。
『チモプトール』は、眼の充血や皮膚の色素沈着、彫りが深くなるといった局所の副作用が少ない「β遮断薬」です。

どちらも緑内障の第一選択薬ですが、気管支喘息や不整脈などの持病の有無、外観変化への抵抗感などから適した薬を選ぶことができます。片方で効果が不十分な場合は、併用することもあります。
回答の根拠①:作用の違いと緑内障の第一選択薬
眼圧は、眼球内の水分である「房水」の流出と産生によって調節されています。そのため「房水」の増え過ぎを解消することで眼圧を下げ、緑内障を治療することができます。
「ラタノプロスト」などの「プロスタノイド受容体関連薬」は、「房水」の流出を促すことで眼圧を下げます1)。
「チモロール」などの「β遮断薬」は、「房水」の産生を抑えることで眼圧を下げます2)。

眼圧を下げる効果は、「プロスタノイド受容体関連薬」の方がやや優れています3,4)が、そこまで大きな差ではないため、緑内障の薬物治療ではどちらも第一選択薬として使われています5)。
1) キサラタン点眼液 添付文書
2) チモプトール点眼液 添付文書
3) Ophthalmology.123(1):129-40,(2016) PMID:26526633
4) J Ocul Pharmacol Ther.41(5):251-258,(2025) PMID:40229142
5) 日本眼科学会 「緑内障診療ガイドライン(第5版)」 (2022)
回答の根拠②:全身性の副作用と局所の副作用
「ラタノプロスト」などの「プロスタノイド受容体関連薬」は、交感神経に作用する「β遮断薬」と比べて、気管支収縮や徐脈・血圧低下といった全身性の副作用を起こしにくい点眼薬です6,7)。
「チモロール」などの「β遮断薬」は、「プロスタノイド受容体関連薬」と比べて、眼の充血や皮膚の色素沈着、まつ毛が太くなる・彫りが深くなる(上眼瞼溝深化)といった局所の副作用を起こしにくい点眼薬です6,7)。

そのため、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、不整脈といった持病の有無、外観変化への抵抗感などから適した薬を選ぶことができます。
6) Ophthalmology.103(1):138-47,(1996) PMID:8628544
7) Curr Med Res Opin.26(3):511-28,(2010) PMID:20014995
「プロスタノイド受容体関連薬」の副作用を防ぐためには
「プロスタノイド受容体関連薬」による皮膚の色素沈着は、薬液が目の周りの皮膚に残っていると起こりやすくなります。そのため、点眼後は溢れた薬液を丁寧に拭き取ることや、あるいは点眼のタイミングを”入浴前”にすることで、副作用を避けることができます。

「β遮断薬」の全身移行を防ぐためには
点眼薬は”眼だけで作用する薬”と思われていますが、「チモロール」のような「β遮断薬」は、点眼であっても慢性閉塞性肺疾患の悪化8)、血圧や脈拍数の変動9)といった、明確な全身作用を起こしやすい薬です。
なお、こうした全身作用は、主に鼻涙管を通って消化管に流れていった点眼液が消化管から吸収されることによって起こりますが、点眼後に目頭を軽く押さえて目を閉じる方法で、薬の全身移行は60%以上減らすことができます10)。「β遮断薬」による全身性の副作用リスク回避のためには、こうした適切な方法での点眼が重要です。

8) Br J Clin Pharmacol.82(3):814-22,(2016) PMID:27161880
9) Clin Exp Ophthalmol.48(1):24-30,(2020) PMID:31525271
10) Arch Ophthalmol.102(4):551-3,(1984) PMID:6704011
回答の根拠③:併用のメリットと配合薬
緑内障は、まずは1つの薬で治療するのが基本ですが、効果が不十分な場合には作用の異なる薬を併用することが推奨されています5)。
薬の組み合わせによる大きな優劣は特にありませんが、「プロスタノイド受容体関連薬」と「β遮断薬」はそれぞれ眼圧を下げるメカニズムが異なり、またどちらも緑内障治療の第一選択薬として広く使われているため、よく併用される組み合わせです。
また、こうしたよくある組み合わせは配合剤としても販売されています。配合剤では、点眼の手間が減るだけでなく、防腐剤や保存料などの使用量を減らすこともできるため、色々な面で治療に有益とされています11)。
※「プロスタグランジン関連薬」と「β遮断薬」の配合薬
ザラカム・・・・・ラタノプロスト + チモロール
ミケルナ・・・・・ラタノプロスト + カルテオロール
デュオトラバ・・・トラボプロスト + チモロール
タプコム・・・・・タフルプロスト + チモロール
11) Expert Opin Pharmacother.15(12):1737-47,(2014) PMID:24998246
薬剤師としてのアドバイス:緑内障の治療は挫折しやすい
緑内障の治療は、点眼が面倒なこともあって非常に継続しづらく、挫折しやすいことが知られています。しかし、薬をきちんと使えていないと、緑内障が悪化して失明してしまうリスクは確実に高まります12)。
幸い、緑内障の治療薬には「プロスタノイド受容体関連薬」や「β遮断薬」のほかにも色々な種類の薬があります。できるだけしっかりと治療を続けられるよう、自分の持病や価値観にあった薬を選ぶ、配合薬を活用して手間を減らす、といった工夫を行うことをお勧めします。
12) Ophthalmology.110(4):726-33,(2003) PMID:12689894
ポイントのまとめ
1. 『キサラタン(ラタノプロスト)』と『チモプトール(チモロール)』は、どちらも緑内障の第一選択薬
2. 『キサラタン(ラタノプロスト)』は、全身性の副作用は少ないが、眼の充血・皮膚の色素沈着といった局所の副作用が多い
3. 『チモプトール(チモロール)』は、局所の副作用は少ないが、気管支収縮や徐脈・血圧低下などの全身性の副作用が多い
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ラタノプロスト | チモロール | |
先発医薬品名 | キサラタン | チモプトール |
適応症 | 緑内障・高眼圧症 | 緑内障・高眼圧症 |
薬効分類 | プロスタグランジンF2α誘導体 | β遮断薬 |
用法 | 1日1回 | 1日2回 (※XEは1日1回) |
基礎疾患に関連した禁忌 | 特になし | 気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患、重度の心不全など |
特徴的な副作用 | 虹彩・眼瞼色素沈着、眼瞼溝深化、まつ毛の異常 | 気管支痙攣、徐脈などの不整脈 |
pHと浸透圧比 (※先発医薬品) | pH 6.5~6.9 浸透圧比 約1.0 | pH 6.5~7.5 浸透圧比 約1.0 |
世界での販売状況 | 世界130ヵ国 | 日本、アメリカ、イギリス、フランスなど世界各国 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | オーストラリア基準【C】 |
規格の種類 | 点眼液(0.005%) | 点眼液(0.25%、0.5%)、XE点眼液(0.25%、0.5%) |
同種同効薬 | タプロス(タフルプロスト)、トラバタンズ(トラボプロスト)、ルミガン(ビマトプロスト) | ミケラン(カルテオロール)、ハイパジール(ニプラジロール)、ベタキソロール、レボブノロール |
先発医薬品の製造販売元 | ヴィアトリス | 参天製薬 |
同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:1日1回の点眼で良い『チモプトールXE点眼液』
「チモロール」の点眼液は、通常は1日2回の点眼が必要ですが、『チモプトールXE点眼液』は1日1回で良い製剤です。これは、「ジェランガム」を添加することで、”点眼した際にゲル化して眼の表面に長く留まる”ように設計されている13)からです。

なお、こうしたゲル化する点眼液は、点眼後に”眼のかすみ”を感じることが時々あります。また、他の点眼液で洗い流してしまうことがないよう、すべての点眼液を使い終わってから最後に点眼する必要がある13)など、扱いにはやや注意が必要です。
13) チモプトールXE点眼液 インタビューフォーム
+αの情報②:点眼をするタイミングは朝と夜どちらが良いか
「プロスタノイド受容体関連薬」や「β遮断薬」を点眼するタイミングについては、朝のほうが良いという報告14)もあれば、夜のほうが良いという報告15)もあり、意見は分かれています。
そのため、その人にとって点眼を忘れにくいタイミングで使うのが、現状は最も妥当な選択と言えます。
14) Transl Vis Sci Technol.13(1):21,(2024) PMID:38285464
15) Eur J Ophthalmol.18(1):60-5,(2008) PMID:18203086
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【修正】
『チモプトール』による全身性の副作用
誤)「血圧上昇」 → 正)「血圧低下」
※β遮断薬は高血圧治療薬にも使われている、血圧を下げる薬剤です