『デパケン』と『テグレトール』、同じ抗てんかん薬の違いは?~全般発作と焦点発作の第一選択薬
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回答:『デパケン』は全般発作、『テグレトール』は焦点発作の第一選択薬
『デパケン(一般名:バルプロ酸)』と『テグレトール(一般名:カルバマゼピン)』は、どちらも古くからある「てんかん」の薬です。
『デパケン』は、「全般発作」の第一選択薬です。
『テグレトール』は、「焦点発作」の第一選択薬です。

どちらも安価に使える薬ですが、てんかんの病態によって明確に使い分ける必要があります。
回答の根拠①:全般発作の第一選択薬「バルプロ酸」
「てんかん」は、脳のどこで過剰な興奮が起こっているか、によって「全般発作」と「焦点発作」の2つに大きく分類されます。
「バルプロ酸」は、このうち「全般発作」に対して最も効果的な薬1)で、「全般発作」の全てのタイプ(欠神発作、強直間代発作、ミオクロニー発作)で第一選択薬に選ばれています2)。

※てんかんの分類
全般発作・・・脳全体で過剰な興奮が起こっているもの
焦点発作・・・脳の一部で過剰な興奮が起こっているもの(部分発作)
1) Cochrane Database Syst Rev . 2022 Apr 1;4(4):CD011412. PMID:35363878
2) 日本神経学会 「てんかん治療ガイドライン (2018)」
「バルプロ酸」は「焦点発作」にも有効だが、優先順位は低い
「バルプロ酸」では、脱毛や振戦のほか、低カルニチン血症といった厄介な副作用が起こることがあります3)。また、「バルプロ酸」には催奇形性がある4)ため、妊娠中の女性は避ける(※やむを得ない場合は600mg/日以下で用いる)必要があります2)。
「バルプロ酸」は「焦点発作」にも有効ですが、他の薬に比べて特に優れるわけではなく、こうした副作用も多いことから、その優先順位は低く”第二選択”の扱いになっています2)。
3) デパケンR錠 インタビューフォーム
4) JAMA Neurol.81(5):481-489,(2021) PMID:38497990
回答の根拠②:焦点発作の第一選択薬「カルバマゼピン」
「焦点発作」に対して、「カルバマゼピン」は「バルプロ酸」よりも効果的1)で、「焦点発作」の第一選択薬の1つに選ばれています2)。
中でも「カルバマゼピン」は古くから使われている薬のため、薬価も安く、経済的負担を抑えた治療が可能です。

※焦点発作の第一選択薬
カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ゾニサミド、トピラマート
ただし、「全般発作」と「焦点発作」の両方に有効な「バルプロ酸」と違い、「カルバマゼピン」は「全般発作(特に欠神発作、ミオクロニー発作)」に使うと症状を悪化させる恐れがある5,6)ため、病態には注意して扱う必要があります。
5) Neurology.55(8):1106-9,(2000) PMID:11071486
6) Brain.129(Pt 5):1281-92,(2006) PMID:16513683
「カルバマゼピン」も副作用や催奇形性、相互作用が問題になりやすい
「カルバマゼピン」は安価な薬ですが、飲み始めに眠気やめまいの副作用が多い、稀に重篤な皮膚症状を起こす7)など、さらに催奇形性もある4)といった弱点があります。
また、「カルバマゼピン」は代謝酵素CYP3A4の影響を受けるだけでなく、このCYP3A4を誘導する作用も持っている7)ため、非常に多くの薬と相互作用を起こすことが知られています。
そのため近年は、同じ第一選択薬の中でもこうした弱点の少ない『ラミクタール(一般名:ラモトリギン)』や『イーケプラ(一般名:レベチラセタム)』といった新しい薬が選ばれる機会も多くなっています。
7) テグレトール錠 インタビューフォーム
薬剤師としてのアドバイス:てんかん治療にも「ジェネリック医薬品」を活用して良いが、治療途中での変更には注意が必要
てんかん治療にも「ジェネリック医薬品」を活用してもらって問題ありません。基本的に、「先発医薬品」と「ジェネリック医薬品」で薬の性能に差はないからです。
「ジェネリック医薬品」が承認される際には、「生物学的同等性試験」を行って「先発医薬品」と同じように吸収・代謝されることが確認されており、実際に日本で用いられている「ジェネリック医薬品」と「先発医薬品」では、服用した際の薬物血中濃度に3~4%程度の差しか生じない8)ことも確認されています。
しかし、てんかん治療では、こうした薬物血中濃度の小さな変動でも病状に影響する恐れがあることから、既に治療が安定している人の薬を途中で安易に変更することは推奨されていません2)。
ただし、これは「ジェネリック医薬品」の品質に問題があるからではなく、わずかな血中濃度の変動も避けた方が良いから、というのが理由です。つまり、「先発医薬品からジェネリック医薬品への変更」に限らず、「ジェネリック医薬品から先発医薬品への変更」、あるいは「先発医薬品の普通錠からOD錠への変更」なども含まれる9)、ということに注意が必要です(※OD錠などが承認される際の試験も「生物学的同等性試験」です)。

8) 厚生労働省「ジェネリック医薬品の疑問に答えます~ジェネリック医薬品Q&A」(※PDF)
9) Ann Neurol.84(6):918-925,(2018) PMID:30298621
ポイントのまとめ
1. 『デパケン(バルプロ酸)』は「全般発作」の第一選択薬、「焦点発作」にも使う
2. 『テグレトール(カルバマゼピン)』は「焦点発作」の第一選択薬、「全般発作」への使用は注意が必要
3. てんかん治療にも「ジェネリック医薬品」は活用できるが、治療途中での安易な変更は避けた方が良い(※ジェネリック医薬品への変更に限らず)
薬のカタログスペックの比較
| バルプロ酸 | カルバマゼピン | |
| 先発医薬品名 | デパケン | テグレトール |
| 適応症(てんかん) | 各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)、およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療 | 精神運動発作、てんかん性格及びてんかんに伴う精神障害、てんかんの痙攣発作:強直間代発作(全般痙攣発作・大発作) |
| 適応症(てんかん以外) | 躁病および躁うつ病の躁状態の治療、片頭痛発作の発症抑制 | 躁病・躁うつ病の躁状態、統合失調症の興奮状態、三叉神経痛 |
| 全般発作に対する位置づけ 2) | 第一選択薬 | 慎重投与すべき薬剤 |
| 焦点発作に対する位置づけ 2) | 第二選択薬 | 第一選択薬 |
| 特徴的な副作用 | 吐き気、脱毛、振戦、低カルニチン血症、高アンモニア血症、急性膵炎など | 吐き気、皮膚症状、低Na血症、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) |
| 代謝酵素CYPの関与 | わずか(10%程度) | CYP3A4で代謝される CYP3A4を誘導する |
| 併用禁忌の薬 | カルバペネム系抗菌薬 | CYP3A4で代謝される薬、CYP3A4を阻害/誘導する薬、P-gp(P糖タンパク質)を誘導する薬など多数 |
| 国際登場年 | 1967年 | 1963年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【D】 ※原則禁忌 | オーストラリア基準【D】 ※禁忌の指定は無し |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L4】 | MMM【L2】 |
| 世界での販売状況 | 世界各国 | 世界各国 |
| 剤型の規格 | 錠(100mg,200mg)、R錠(100mg,200mg)、細粒(20%,40%)、シロップ | 錠(100mg,200mg)、細粒 |
| 先発医薬品の製造販売元 | 日医工岐阜工場 | サンファーマ |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:”人生の節目”で薬を変更することがある
「てんかん」の治療は、年単位で長く続ける必要があります。そのため、治療を続ける中で人生のライフステージが変わり、運転免許を取得したい、結婚して子どもを産みたい、といったことが起こることも珍しくありません。
こういった場合には、”今までの治療に最適だった薬”と”これからの治療に最適な薬”が変わることがあります。
抗てんかん薬は、2006年以降に新しい薬が10種類以上登場し、さまざまな状況に応じてより適した薬を選べるようになっています。人生の節目を迎えた際には、一度主治医と相談して治療方針の見直しを検討することも大切です。
+αの情報②:「バルプロ酸」や「カルバマゼピン」を服用中は「葉酸」の欠乏に注意
「バルプロ酸」や「カルバマゼピン」には血中の葉酸濃度を下げる作用があるため、葉酸欠乏症を起こすことがあります3,7)。
葉酸欠乏は胎児にも悪影響を及ぼすため、女性がこれらの薬を服用する場合は、妊娠前の段階から0.4mg/日程度の葉酸を補充しておくことが推奨されています2)。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。












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