『エンシュア』と『エレンタール』、同じ栄養剤の違いは?~タンパク質・脂質の配合と風味・浸透圧
記事の内容
回答:三大栄養素のバランスが良い『エンシュア』、消化が不要の『エレンタール』
『エンシュア』と『エレンタール』は、どちらも経口・経腸で栄養やビタミン・微量元素を補給するための栄養製剤です。
『エンシュア』は、三大栄養素をバランス良く配合した「半消化態栄養剤」です。
『エレンタール』は、体内で消化する必要がない「成分栄養剤」です。

通常、栄養補給には『エンシュア』が選ばれますが、消化管を安静にする必要がある場合には消化が不要の『エレンタール』を使います。
回答の根拠①:栄養素のバランスが良く飲みやすい『エンシュア』~半消化態栄養剤の特徴
『エンシュア』は、三大栄養素(タンパク質14.0%・糖質54.5%・脂質31.5%)がバランスよく配合された「半消化態栄養剤」です。「タンパク質」や「脂質」などはまだ”半消化”の状態で配合されている1)ため、体内で改めて消化・分解する必要があります。

一方で、「アミノ酸」特有の独特な匂いや味がないため、口からでも飲みやすい製剤になっています。
また、元から液体状に調製されているため、水に溶かしたりする必要がなく服用も簡単です。そのため、消化・吸収機能に異常がない場合の栄養補給は『エンシュア』のような「半消化態栄養剤」が第一選択になります2)。
ただし、『エンシュア』の「タンパク質」は乳と大豆タンパクで構成されているため、乳アレルギーの人には禁忌です1)。
1) エンシュア・リキッド インタビューフォーム
2) 日本静脈経腸栄養学会「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」
回答の根拠②:タンパク質や脂質の消化が必要ない『エレンタール』~成分栄養剤の特徴
『エレンタール』は、最初から「アミノ酸」の状態で配合されているため、体内で「タンパク質」を改めて消化・分解する必要がありません3)。また、「脂質」も1袋80g中に509mgと最低限の量しか含まれておらず、消化管への負担を極力少なく抑えられる3)ように設計されています。

このことから『エレンタール』などの「成分栄養剤」は、消化・吸収能力に問題がある場合や、潰瘍性大腸炎・クローン病、あるいは手術後などで消化管を安静に保つ必要がある場合の栄養補給に使われます2)。
3) エレンタール配合内用剤 インタビューフォーム
「アミノ酸」であることの欠点①~独特の風味
牛乳が発酵したチーズ、大豆が発酵した納豆に特有の味や香りがあるように、「タンパク質」が分解されて「アミノ酸」になると、独特の強い風味を発するようになります。

『エレンタール』などの「成分栄養剤」は主成分が「アミノ酸」のため、独特の強い風味があります。そのため、通常は専用のフレーバーを使って味を整える、ゼリーやムースにしてから服用する3)といった工夫が必要になります。
「アミノ酸」であることの欠点②~浸透圧が高くなる
「アミノ酸」が主体の『エレンタール』は、『エンシュア』よりも浸透圧が高くなり、摂取後に下痢を起こしやすい傾向があります4)。そのため、投与スピードなどにも注意する必要があります。
※浸透圧・浸透圧比の比較 1,3)
『エンシュア』・・・・330mOsm/kg=浸透圧比 1.15
『エレンタール』・・・913mOsm/kg=浸透圧比 3.19(※1kcal/mLの通常溶解時)
4) 日本口腔外科学会雑誌.32(12): 2437-2442,(1986)
「脂肪」がほとんど含まれないことの欠点~必須脂肪酸の欠乏症
『エレンタール』などの「成分栄養剤」には「脂肪」がほとんど含まれていないため、使い続けていると必須脂肪酸が不足することがあります1)。こうした欠乏症を防ぐためには、脂肪乳剤などを併用して必須脂肪酸を補充する必要があります2)。
薬剤師としてのアドバイス:食品扱いの商品を使うという選択肢も
『エンシュア』のような「半消化態栄養剤」は、医薬品以外にも”食品”としてたくさんの商品が販売されています(例::『メイバランス』、『アイソカル』など)。

食品は医薬品と違って全額が自己負担となりますが、医師の処方が必要ありません。また、非常に多くの商品があるため、食物繊維やビタミン・微量元素を強化したもの、脂質の組成が工夫されたもの、飲みやすい味にこだわったもの等、自分にとって飲みやすいものを選べるようになっています。
半消化態栄養剤の味がどうしても苦手な際は、こうした”食品”の活用も視野に、一度医師・薬剤師に相談してみることをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『エンシュア』は三大栄養素のバランスが良い「半消化態栄養剤」、消化管が機能している際に使う
2. 『エレンタール』は消化がほぼ不要の「成分栄養剤」、消化管を安静にする必要がある際に使う
3. 「アミノ酸」の状態であれば消化の必要はないが、独特の味や匂い・浸透圧の高さといった問題を生じる
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| エンシュア | エレンタール | |
| 分類 | 半消化態栄養剤 | 成分栄養剤 |
| 性状 | 液体 | 粉末 |
| 用途 | 手術後患者の栄養保持、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給 | 未消化態蛋白を含む経管栄養剤による栄養管理が困難な時 |
| 窒素源(タンパク質) | 牛乳・大豆由来のタンパク質の状態で配合 (消化が必要) | アミノ酸の状態で配合 (消化は不要) |
| 脂肪 | 8.8g(1缶250mL) | 0.509g(1袋80g) |
| カロリー | 250kcal(1缶250mL) | 300kcal(1袋80g) |
| 粘度 | 9.0mPa・s | 3.7mPa・s(1kcal/mLの通常溶解時) |
| 浸透圧 | 330mOsm/L=浸透圧比 1.15 | 913mOsm/kg=浸透圧比 3.19(1kcal/mLの通常溶解時) |
| 矯味の種類 | (バニラ・ストロベリー・コーヒーの3種) | 矯味(ドリンクミックス10種、フルーツミックス、ムースベース、ゼリーミックス2種) |
| 乳タンパクの含有 | あり | なし(※アミノ酸に抗原性はない) |
| 同種同効薬 | ラコール、エネーボ、イノラス | – |
| 規格の種類 | リキッド、H(高カロリー用) | 配合内用剤、P乳幼児用配合内用剤 |
| 代表製剤の製造販売元 | アボットジャパン | EAファーマ |
| 同じ目的で使う食品 | 『メイバランス』など | (販売されていない) |
+αの情報①:微量元素の不足に注意
『エンシュア』や『エレンタール』といった栄養剤には、「セレン」や「クロム」「モリブデン」など一部の微量元素が配合されていないため、これら微量元素の欠乏症を起こすことがあります5)。そのため、長期的に栄養剤を使う場合には、状況に応じてサプリメント等による補充を検討する必要があります。
なお、これら微量元素も配合した『エネーボ』や『イノラス』といった新しい商品も登場しています。
5) J Clin Biochem Nutr.41(3):197-201,(2007) PMID:18299716
+αの情報②:乳幼児用の『エレンタールP』は組成が特別
新生児・乳幼児では、成人よりも脂質の需要が高いことから、子ども用の『エレンタールP』は脂質の配合量が多くなっています6)。また、アミノ酸も母乳の組成を参考に作られている6)など、特別な構成になっています。
※80g中の脂質量 1,6)
『エレンタール(成人用)』・・・・ 509mg
『エレンタールP(小児用)』・・・2,800mg
6) エレンタールP乳幼児用配合内用剤 インタビューフォーム
+αの情報③:カロリーが1.5倍の『エンシュアH』
『エンシュア』には、通常の『エンシュア』と、1mLあたりのカロリーが1.5倍に強化されている『エンシュアH』があります7)。

飲む量は同じでも、より多くのカロリーを摂取できるようになっているため、胃が小さい人でも必要な熱量を摂取しやすい製剤です。味のバリエーションも7種(バニラ、珈琲、バナナ、黒糖、メロン、ストロベリー、抹茶)と豊富です。
値段もそれほど変わらないため、カロリー摂取には効率の良い製剤と言えますが、栄養の濃い『エンシュアH』は粘度や浸透圧がやや高めになっていることに注意が必要です。
※1缶あたりの熱量と薬価(2025年改訂時)
『エンシュア』・・・・1.0kcal/mL(1缶250mL:106.5円)
『エンシュアH』・・・1.5kcal/mL(1缶250mL:136.5円)
※『エンシュア』の粘度と浸透圧 4,7)
『エンシュア』・・・・粘度 9.0mPa・s、浸透圧 330mOsm/kg=浸透圧比 1.15
『エンシュアH』・・・粘度17.0mPa・s、浸透圧 540mOsm/kg=浸透圧比 1.89
7) エンシュアH インタビューフォーム
+αの情報④:『エンシュア』の味は、香料の違い
『エンシュア』にはバニラ味・コーヒー味・ストロベリー味がありますが、その違いは「香料」だけです1)。実際にコーヒーやイチゴの成分が入っているわけではありません(※『エンシュアH』の味も同様です7))。
そのため、鼻をつまんで飲むとほとんど違いはわからなくなります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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