『タナトリル』・『レニベース』・『コバシル』、同じACE阻害薬の違いは?~降圧効果とT/P比、適応症


回答:適応症や、効き目の安定性が異なる

 『タナトリル(一般名:イミダプリル)』、『レニベース(一般名:エナラプリル)』、『コバシル(一般名:ペリンドプリル)』は、いずれも高血圧に使う「ACE阻害薬」です。
タナトリル、レニベース、コバシル
 高血圧以外にも、『タナトリル』は糖尿病性腎症、『レニベース』は慢性心不全に保険適用があります。
 また、『コバシル』は「ACE阻害薬」の中でも最も安定した効き目が持続するため、24時間の安定した降圧に適した薬と言えます。

 「ACE阻害薬」の治療効果に大きな差はありませんが、こうした適応症や効果の持続性によって使い分けることがあります。



回答の根拠①:適応症の違い

 「ACE阻害薬」は主に高血圧の治療に使う降圧薬ですが、古い薬である分豊富な使用実績があり、高血圧以外にも使えるものがあります。

 『タナトリル』は「1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症」、『レニベース』は「軽症~中等度の慢性心不全」に、それぞれ適応があります1,2)。

 1) タナトリル錠 添付文書 (※2.5mg錠、5mg錠のみ)
 2) レニベース錠 添付文書




回答の根拠②:降圧効果の持続性~トラフ・ピーク(T/P)比

 血圧は単に下げれば良いというわけではなく、24時間全体を通して安定して下げることが重要です。このとき、「トラフ・ピーク(T/P)比」が一つの指標となります。

※「トラフ・ピーク(T/P)比」とは
「トラフ値」を「ピーク値」で割った比のこと。
 トラフ値・・・次回の薬を飲む直前、つまり薬の効果が切れる時の降圧値(trough:谷)
 ピーク値・・・最も薬がよく効いている時の降圧値(peak:峰)
ピーク値とトラフ値
 T/P比が100%ということは、最大の降圧効果が次回の服用直前にまで維持されている、ということを意味します。つまり100%に近いほど、継続して飲んだ場合に降圧効果が安定して長続きします。

トラフピーク比
『タナトリル』のT/P比・・・55%程度 3)
『レニベース』のT/P比・・・40~64% 4)
『コバシル』のT/P比・・・75~100% 4,5)

 3) Br J Clin Pharmacol.45(4):377-80,(1998) PMID:9578185
 4) J Hum Hypertens.18(9):599-606,(2004) PMID:15190263
 5) Clin Exp Pharmacol Physiol Suppl.19:61-5,(1992) PMID:1395118

T/P比は50%以上が推奨

 高血圧では、朝に目覚めた時に急激な血圧上昇(早朝高血圧:Morning surge)を起こすことがあります。こうした血圧の急上昇は、朝の脳卒中や心筋梗塞などの大きな要因と考えられています6)。

 6) J Am Soc Hypertens.2(6):397-402,(2008) PMID:20409923

 前日の朝食後に飲んだ薬の効き目が、今朝起きる時間には既に切れている、といった状況になると、このような血圧の急上昇が起こってしまいます。
 そのため、「トラフ・ピーク比(T/P)比」ができるだけ高い、安定して効き目が長続きする降圧薬を選ぶ必要があります。

 このことから米国食品医薬品局(FDA)は、「トラフ・ピーク(T/P)比」が50%以上の降圧薬を選ぶことを推奨しています7)。
トラフピーク比とFDAの提唱
 7) 日本循環器学会 「24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン(2010年改訂版)」

 『タナトリル』・『レニベース』・『コバシル』はいずれも50%以上で、安定した降圧効果が得られる薬ですが、中でも『コバシル』は特に優れた安定性・持続性を持つ薬だと言えます。



回答の根拠③:実際の治療効果

 『タナトリル』や『コバシル』は試験段階で『レニベース』との比較試験を行っていますが、血圧を下げる効果には差が無いことが確認されています8,9)。

 8) J Hypertens Suppl.13(3):523-30,(1995) PMID:8592249
 9) 臨床医薬.13(16):4259-97,(1997)

 実際に、ガイドラインでも「ACE阻害薬」として一括りにされています10)。そのため、「ACE阻害薬」の細かな違いによって厳密な使い分けをしなければならない、というわけではありません。

 10) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン (2014)」



薬剤師としてのアドバイス:空咳の副作用が問題にならなければ、安くて優秀

 新しい薬や話題になっている薬であっても、必ずしも自分の治療に最適とは限りません。
 最近は、色々な配合剤が発売されている「ARB」の方が注目されがちですが、新しい「ARB」よりも古くから使われている「ACE阻害薬」の方が、心臓や血管を守る効果は豊富に報告されています。

 「ACE阻害薬」では空咳の副作用が原因で薬を続けられない、というケースが少なくありませんが、この空咳が問題にならなければ、『タナトリル』や『レニベース』、『コバシル』などの「ACE阻害薬」は値段も安くて優秀な薬です。


ポイントのまとめ
1. 『タナトリル』は「糖尿病性腎症」、『レニベース』は「慢性心不全」にも適用がある
2. 『コバシル』はT/P比100%と、安定した効果が得られる
3. 血圧は、ただ下げれば良いのではなく、24時間安定して降圧させる必要がある





添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆商品名と一般名
タナトリル:イミダプリル
レニベース:エナラプリル
コバシル:ペリンドプリル

◆適応症
タナトリル:高血圧症、腎実質性高血圧症、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症(2.5mg錠、5mg錠のみ)
レニベース:高血圧症(本態性、腎性、腎血管性、悪性)、軽症~中等症の慢性心不全(ジギタリス製剤・利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合)
コバシル:高血圧症のみ

◆用法
タナトリル:1日1回
レニベース:1日1回
コバシル:1日1回

◆咳の副作用頻度
タナトリル:4.76%
レニベース:2.13%
コバシル:8.3%

◆製造販売元
タナトリル:田辺三菱
レニベース:MSD
コバシル:協和発酵キリン



+αの情報:「空咳」を利用した、誤嚥性肺炎の予防

 「ACE阻害薬」の副作用である「空咳」を利用すると、誤嚥性肺炎を防ぐことができます。
 実際、「ACE阻害薬」を使うことで高齢者の肺炎発症率を3分の1にまで減らすことができた、とする報告もあります11)。
ACE阻害薬と誤嚥性肺炎
 11) Neurology.64(3):573-4,(2005) PMID:15699404

 このことから、誤嚥性肺炎のリスクが高い場合には、「ACE阻害薬」を積極的に使うことが推奨されています10)。



 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
このエントリーをはてなブックマークに追加 Clip to Evernote

カスタム検索



コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット

トラックバック

トラックバックURL