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免疫システム がん治療

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『オプジーボ』ってどんな薬?~T細胞を活性化し、免疫が見逃していた「がん細胞」を見つける「抗体医薬品」の作用機序

回答:「がん細胞」ではなく「免疫」に作用する、新しい抗がん剤

 『オプジーボ(一般名:ニボルマブ)』は、これまで「免疫」が見逃していた「がん細胞」を再び見つけ、攻撃できるようにする抗がん剤です。

 従来の抗がん剤は、多くが「がん細胞」に作用する薬でしたが、『オプジーボ』はヒトの「免疫」に作用する全く新しい発想の抗がん剤です。
オプジーボ~従来の抗がん剤との大きな違い
 2016年には適応が悪性黒色腫(メラノーマ)・非小細胞肺癌・腎細胞癌の3つに広がり、多くの人の治療に役立っている一方、年間の薬剤費が3000万円を超えるほど大変高額な薬のため、医療費の圧迫という点でも注目されている薬です。

回答の根拠①:免疫の攻撃対象~「PD-L1」があるものは攻撃しない

 免疫細胞の一つ「T細胞」は、外敵や異物を見つけ次第、片っ端から攻撃して回っています。

 このとき「T細胞」は、攻撃して良い相手かどうかを見分けるために、「PD-L1」という標識(身分証明書)があるかどうかで判断しています。
T細胞とPD-L1~攻撃対象の判断
 通常の細胞には「PD-L1」があるため、これは自分の正常な細胞だと判断し、攻撃しません。
 外敵や異物、異常が起こった細胞には「PD-L1」がないため、これは攻撃対象だと判断し、攻撃します。

 つまり、「PD-L1」は免疫からの攻撃から逃れるための「免罪符」と言えます。

一部のがん細胞は「PD-L1」を利用し、免疫の攻撃から逃れる

 普通、異常が起こった細胞である「がん細胞」には「PD-L1」がないため、「T細胞」の攻撃対象となり、死滅させられます。ところが、性質の悪い一部の「がん細胞」は「PD-L1」を持ち、身分を偽称しています。
T細胞とPD-L1~がん細胞に対して不応答になる
 「PD-L1」を持つ「がん細胞」は、「T細胞」が攻撃対象だと判断できないため、生き残ることになります。

 こうして免疫が働かなくなってしまった「がん細胞」が増えてくると、実際に「がん」として様々な臓器・組織に機能障害を起こすようになります。

回答の根拠②:『オプジーボ』の作用機序~「T細胞」が再び「がん細胞」と判断できるようになる

 『オプジーボ』は、「抗PD-1抗体」という抗体医薬品です。

 「T細胞」には、「PD-L1」を感知する受容体「PD-1」があります。「PD-1」が「PD-L1」を感知すると、その細胞は攻撃対象にはなりません。
オプジーボ1~PD-1抗体としての作用機序

 『オプジーボ』は、抗体としてこの「PD-1」と強力に結合します。その結果、「T細胞」は「PD-L1」を感知しなくなり、「PD-L1」を持つ「がん細胞」も攻撃対象と判断できるようになります1)。
オプジーボ2~PD-1抗体としての作用機序
 1) オプジーボ点滴静注 インタビューフォーム

 従来の抗がん剤は、「がん細胞」に作用して死滅させるような「細胞毒性」を持ったものが主流でした。しかし、『オプジーボ』は免疫側に作用することで「がん細胞」を攻撃する、全く新しいタイプの抗がん剤です。

正常な細胞は、「PD-L1」以外にも様々な標識を色々持っている

 正常な細胞は「PD-L1」以外にも様々な「正常な細胞であることを示す標識」を持っています。
 「T細胞」は、こうした他の標識によっても攻撃対象かどうかを総合的に判断するため、『オプジーボ』によって「PD-L1」を感知できなくなった「T細胞」が、他の正常な細胞を攻撃してしまうことは、通常ありません。

薬剤師としてのアドバイス:使える医療機関、使える患者はより厳しく選別されるように

 『オプジーボ』は2016年に適応が3つに広がり、多くの患者にとって治療の新たな選択肢となりました。しかし、非常に高額な薬であることから、たくさん使われれば使われるほど国の医療費を圧迫し、日本の医療全体を破綻させかねない事態となっています。

 このことから、『オプジーボ』の値段を下げることや、『オプジーボ』を使える医療機関や対象となる患者の選別を、より厳しく行うような対応が検討されています。

 実際に、『オプジーボ』は「新規作用機序医薬品の最適な使用を進めるためのガイドライン」において患者の選択基準や医師・医療機関等の要件などが明記され、この要件を満たさない場合には保険が適用されないなど、より厳正に使用するよう制限を設けるとされています。

 新しい薬が登場すると、その効果や副作用について様々な情報が飛び交いますが、その中から自分にとって都合の良い情報だけを信じてしまうケースが少なくありません。
 多くの人にとって良い薬が、本当に自分にとっても最適かどうかは、きちんと主治医と相談しながら考えていく必要があります。

+αの情報:適応追加は、生存期間の延長が証明されたから

 『オプジーボ』は2014年7月に「悪性黒色腫(メラノーマ)」の薬として登場しましたが、その後の研究によって他の癌に対する適応も追加されています。

 2015年12月には「非小細胞肺癌」の適応が追加されています。
 これは「非小細胞肺癌」の治療に対して、『オプジーボ』が『タキソテール(一般名:ドセタキセル)』よりも高い効果を発揮することが示されたからです。

※「非小細胞肺癌」に対する、『オプジーボ』と『タキソテール』の治療効果 2)
奏効率:19.2% vs 12.4%
生存期間:12.19ヶ月 vs 9.36ヶ月

 2) N Engl J Med.373(17):1627-39,(2015) PMID:26412456

 2016年8月には「腎細胞癌」の適応が追加されています。
 これは「腎細胞癌」の治療に対して、『オプジーボ』が『アフィニトール(一般名:エベロリムス)』よりも高い効果を発揮することが示されたからです。

※「腎細胞癌」に対する、『オプジーボ』と『アフィニトール』の治療効果 3)
奏効率:25.1% vs 5.4% (日本人に限れば、43.2% vs 7.7%)
生存期間:25.00ヶ月 vs 19.55ヶ月

 3) N Engl J Med.373(19):1803-13,(2015) PMID:26406148

 しかし、このように『オプジーボ』の活躍の場が広がるにつれ、高額な薬剤費によって国の医療費を圧迫するという事態にもつながり、緊急の薬価引き下げが議論されるなど、別の面からも注目されています。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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