『ヒルドイド』と『プロペト』、同じ保湿剤の違いは?~保湿効果と副作用、値段の比較
記事の内容
回答:効果の高い『ヒルドイド』、刺激が少ない『プロペト』
『ヒルドイド(一般名:ヘパリン類似物質)』と『プロペト(一般名:白色ワセリン)』は、どちらも保湿効果のある塗り薬です。
『ヒルドイド』は、保湿効果の高い薬です。
『プロペト』は、皮膚への刺激が少ない薬です。

『ヒルドイド』の方が値段は高いため、皮膚の状態や、保湿剤にどこまでコストをかけられるか、といった観点から使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:保湿効果の高い「ヘパリン類似物質」
「ヘパリン類似物質」は、周囲の水分を集めることで皮膚の保水力を高めることで保湿効果(モイスチャー効果)を発揮します1)。
「白色ワセリン」に比べると、塗布した際のベタつきが少ないほか、角質の水分保持力も2.5倍ほど高い2,3)とされ、使用感と効果の高い保湿剤として重宝されています。

1) ヒルドイドソフト軟膏 添付文書
2) 日皮会誌.121(7):1421-6,(2011)
3) 臨床皮膚科.61(7):563-568,(2007)
使用感は、ジェネリック医薬品の方が良いこともある
「ヘパリン類似物質」は、先発医薬品『ヒルドイド』の人気が強いですが、「白色ワセリン」に比べると7.5倍近くもする高額な値段がややネックになります。
そのため、必要に応じて安価なジェネリック医薬品を活用することも選択肢になりますが、ジェネリック医薬品に変更したからといって使用感が悪くなるとは限りません。むしろ、”塗り広げやすさ”に関してはジェネリック医薬品の方が優れている面もあります4)。
※値段の比較(2025年改訂時)
白色ワセリン:2.43円/g
ヘパリン類似物質:先発医薬品 18.20円/g、ジェネリック医薬品 3.00~5.60円/g
4) 日本老年薬学会雑誌.2(2):19-26,(2019)
回答の根拠②:副作用がほとんど無い「白色ワセリン」
「白色ワセリン」を塗ると皮膚が油分に覆われるため、皮膚からの水分の蒸発を防ぐことで保湿効果(エモリエント効果)が発揮されます5)。
「白色ワセリン」は、ステロイド外用剤をはじめ様々な軟膏薬の基剤(ベース)としても使われているもので、これ自体には副作用を起こすような薬理作用がほとんどありません(添付文書に記載のある「接触性皮膚炎」は、繊維や金属・植物などでも起こるものです)。
さらに、「白色ワセリン」製剤の多くは、基本的にアルコールなどの添加物も含まれておらず、塗布した際の刺激も少ないのが特徴です。「白色ワセリン」は値段も安いため、副作用やコストをあまり気にせず、必要な量をしっかりと使いやすい保湿剤と言えます。

なお、特に『プロペト』は眼科用にも使えるよう不純物も除去して精製された「白色ワセリン」製剤5)のため、より安全性は高く、ベタツキも軽減されています6)。
5) プロペト 添付文書
6) Yakugaku Zasshi.135(12):1371-5,(2015) PMID:26632153
薬剤師としてのアドバイス:保湿剤は、思っているよりもたくさん塗る必要がある
「ヘパリン類似物質」や「白色ワセリン」といった保湿剤を、乳液のように薄く延ばして擦り込むように使う人は少なくありませんが、保湿剤はあまりに薄く延ばしてしまうと、薬の効果が弱まってしまいます7)。
そのため、保湿剤はたっぷりと塗布する必要がありますが、その目安としては、大人の指の第一関節の長さをチューブから出した量(1FTU / 1 Finger Tip Unit)を、手のひら2枚分の面積に使うくらいの量です。

これは多くの人が思っている”適量”よりも2倍ほど多い量7)になりますが、このくらいの量を塗布した場合、塗布後の皮膚にティッシュをかぶせると、そのティッシュはさらりと落ちずにひっかかるようになります。
「ヘパリン類似物質」では値段が高くてそんなにたっぷり使えないという場合には、安価な「白色ワセリン」を豪快に使ってもらった方が、得られる保湿効果は高くなるケースもありますので、一度医師・薬剤師に相談をしてみてください。
7) 皮膚の科学.5(4):311-316,(2006)
ポイントのまとめ
1. 『ヒルドイド(ヘパリン類似物質)』は、高価だが使用感がよく、保湿効果にも優れる
2. 『プロペト(白色ワセリン)』は、安価で刺激も少ない
3. 保湿剤は薄く延ばし過ぎないよう、「1FTU」を目安にたっぷりと使うことが大事
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ヘパリン類似物質 | 白色ワセリン | |
代表的な医薬品 | ヒルドイド | プロペト |
保湿効果 | モイスチャー効果 (皮膚に潤いを与える) | エモリエント効果 (皮膚の乾燥を防ぐ) |
禁忌 | 出血性の疾患 | 制限なし |
傷のある部位への使用 | 潰瘍・びらん面への使用は避ける | 制限なし |
添加物の配合 | あり | なし |
1gあたりの値段 | 先発:18.20円/g 後発: 3.00~5.60円/g | 2.43円/g |
剤型の規格 | クリーム、ソフト軟膏、ローション、ゲル、フォーム | (白色ワセリンのみ) |
代表的な製剤の製造販売元 | マルホ | 丸石製薬 |
同成分のOTC医薬品 | 『ビーソフテンクリーム』など | 『プロペトピュアベール』など |
+αの情報①:どちらも市販薬として購入できる
「白色ワセリン」と「ヘパリン類似物質」は、どちらも医療用医薬品と同じものをOTC医薬品としてドラッグストア等で購入することができます。
病院へ行くほどでもないが、ちょっとした保湿剤として使いたいという場合には、これらのOTC医薬品が非常に便利なため、ドラッグストア等で薬剤師に相談してみてください。
※「ヘパリン類似物質」の商品
ビーソフテンクリーム:『ヒルドイド』と同じ「ヘパリン類似物質」の製剤
※「白色ワセリン」の商品
プロペトピュアベール:柔らかく、延びが良い高品質な白色ワセリン
日本薬局方「白色ワセリン」:1,500円程度で500gも買える安価な商品
+αの情報②:保湿剤は「お風呂上がり」が効果的
お風呂から上がって20~30分が経過すると、肌は入浴前よりも乾燥してきて7)、痒みなどの症状が悪化してしまう恐れがあります。そのため、保湿剤は肌が乾燥し始める前に、なるべく”お風呂上がりすぐ”に塗布するよう指導されることがよくあります。
しかし、アトピー性皮膚炎の子どもに対する保湿剤の効果は、入浴1分後でも30分後でも大きな差はなかったことも報告されています8)。そのため、親が髪も身体も拭くことなく、びしょびしょのままで風邪をひきそうになりながら子どもの保湿剤を塗る…といったことまでする必要はなさそうです。
8) Pediatr Dermatol.26:273–8,(2009) PMID:19706087
+αの情報③:「ヘパリン類似物質」と「白色ワセリン」を混ぜると、保湿効果は低下する
「ヘパリン類似物質」と「白色ワセリン」を混合すると、保湿効果は低下することが報告されています9)。値段の高い「ヘパリン類似物質」をかさ増しする、使用感を変えるなどの目的で混合するのは1つの選択肢ですが、保湿効果は劣化してしまうという点には注意が必要です。
9) 薬学雑誌.137(6):763-6,(2017)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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