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解熱鎮痛薬・NSAIDs 薬学コラム

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ヒトの体温は何故36℃なのか?~マグロやナマケモノの体温から考える、高温と低温のメリット・デメリット

回答:36℃付近が最もコストパフォーマンスが良かった

 ヒトの体温が36℃付近に落ち着いたのは、高温と低温のメリット・デメリットの兼ね合いで、最もコストパフォーマンスが良かったからと考えられています。
ヒトの体温が36℃な理由
 36℃より高いと、運動能力は高くなるものの、必要となる餌の量が増え餓死するリスクが高くなります。また、発生する活性酸素の量も増え、細胞へのダメージも増えてしまいます。
 36℃より低いと、必要な餌の量は少なくなるものの、活動量が低下して外敵に襲われるリスクが高くなります。

 これと同様に、他の生物もそれぞれの活動のコストパフォーマンスが最も良くなる体温に落ち着いたと考えられています。そのため、生物によって体温は様々に異なります。

回答の根拠①:体温が高くなることのメリットとデメリット

 生物は、体温が高くなると体内の酵素の働きも活発になり、運動機能は上昇する傾向にあります。

 例えば回遊魚として有名なマグロは、同じサイズの他の魚よりも遊泳速度が約2.7倍年間回遊距離が約2.5倍と、非常に活動量が多いことが知られていますが、この高い運動能力は、海水よりも約15℃も高い体温によって維持されていると考えられています1)。
マグロの高い運動能力と高い体温
 1) Proc Natl Acad Sci U S A.112(19):6104-9,(2005) PMID:25902489

 一方で、この高い体温を維持するためには必要な餌の量も多くなります。また、活性酸素の発生量も増えるため、体温を高くすることはメリットばかりではありません。

回答の根拠②:体温が低くなることのメリット・デメリット

 体温が低いと、維持する熱量も少なくなるため、必要な食餌量が減ります。

 例えば、ナマケモノ(哺乳類で変温動物)の体温は24~35℃と低く、そのため1日に8g程度の植物だけで生命活動を維持できることが知られています2)。
 コアラも見たところ同じような動き・活動をしていますが、体温は36℃程度です。そのため、必要とする植物の量も500g以上と桁違いに多くなっています3)。
ナマケモノとコアラの餌の量の違い
 2) Biol Bull.99(2):259-71,(1950) PMID:14791423
 3) Australian Journal of Zoology.33(5):655-65,(1985) ※PubMed外

 つまり、体温が低ければ必要な餌の量も少なくなる、ということです。

 しかし、体温が低くなると活動量も当然少なくなるため、活発に動き回ったりすることはできなくなります。 

回答の根拠③:ヒトはどこまで高温・低温でも生きていられるのか

 ヒトの体温は、間脳の視床下部にある「体温中枢」で調節され、通常は36~37℃程度に設定されています。
ヒトの深部体温

 生卵を温かい白米の上に乗せると固まってしまうことからもわかるように、タンパク質は熱に弱い性質を持っています。ヒトの身体も大部分はタンパク質で構成されているため、あまり高熱になると悪影響が出ます。
 例えば、熱中症などで体温が上昇した場合、脱水症状を合併していなくとも、深部体温が40℃を超えると独立した死亡因子になることが報告されています4)。

 4) Intensive Care Med.36(2):272-80,(2010) PMID:19841896

 一方で体温が低くなると、生命活動を維持している各種酵素の働きが低下し、全身の臓器の機能も低下します。
 腎臓では老廃物を濾過できなくなり、毒素が全身に溜まるようになります。また心臓のポンプ機能も低下するため、脳は酸素不足になり、また血流が滞るために血栓もできやすくなります。
 具体的には、深部体温が35℃以下になると「低体温症」と定義され、31℃を下回ると死に至る恐れがあります5)。

 5) メルクマニュアル 「低体温症」

熱が出た時には、解熱剤を使うべきか?

 これらのことから、ヒトが生命活動を維持するためには体温を36~38℃程度で維持する必要があります。

 熱が出た時には解熱剤を使いますが、解熱剤はあくまで高熱による辛さを解消するためのもので、根本的治療にはなりません。そのため、38℃以下の発熱では、無理に解熱剤を使う必要はないとも言えます。
 実際に感染症法でも、37.5~38.0℃は正常な「発熱」、38.0℃以上を治療が必要な「高熱」と定義されています6)。

 6) 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

夢の新薬は、深海の底や火山の近くにあるかもしれない

 ヒトの生命活動に関与している様々な酵素は、通常の体温である36~38℃付近で最もよく働きます。
 0℃以下の海水で生きる深海生物は、氷点下でも活動するような酵素を持っています。海底火山などの高温の海水で生きる生物は、80℃以上でも活動するような酵素を持っています。

 このように、生物が持つ酵素は、その生物の体温で最もよく働くようにできています。こうした極限環境でも働く酵素はヒトにとっても有用である可能性があり、夢の新薬を作るきっかけになるかもしれません。

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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