『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』、同じ半消化態栄養剤の違いは?~栄養バランスと微量元素
記事の内容
回答:安価な『エンシュア』、日本人の食事内容に合った『ラコール』、微量元素を強化した『エネーボ』
『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』は、経口・経腸で使う半消化態栄養剤です。
『エンシュア』は、カロリー当たりの価格が最も安い製剤です。
『ラコール』は、脂質の割合が低く、日本人の食事内容に合った栄養バランスの製剤です。
『エネーボ』は、栄養剤で不足しがちなセレン・クロム・モリブデンの微量元素が強化された製剤です。

基本的な使い方は同じですが、値段や栄養バランス、味、粘度や浸透圧などの違いによって選ぶのが一般的です。
回答の根拠①:最も値段の安い『エンシュア』
『エンシュア』は最初に登場した半消化態栄養剤で、最も標準的な栄養組成(糖質54.5%、脂質31.5%、タンパク質14.0%)をしています1)。値段も安いため、現在も栄養剤のスタンダードとして広く使われています。
特に、カロリーを1.5倍に強化した『エンシュアH』2)は、最もカロリー効率が高く、さらに1kcal当たりの値段も安いため、コストパフォーマンスに優れた製剤になっています。

※半消化態栄養剤の値段(2025年改訂時)
| 薬価 | 1単位 | 効率 | |
| エンシュア | 0.71円/mL | 177.5円 (1缶250mLで250kcal) | 1.0kcal/mL 0.71円/kcal |
| エンシュアH | 0.91円/mL | 227.5円 (1缶250mLで375kcal) | 1.5kcal/mL 0.61円/kcal |
| ラコール | 1.08円/mL | 216.0円 (1袋200mLで200kcal) | 1.0kcal/mL 1.08円/kcal |
| エネーボ | 0.83円/mL | 207.5円 (1缶250mLで300kcal) | 1.2kcal/mL 0.69円/kcal |
1) エンシュア・リキッド インタビューフォーム
2) エンシュアH インタビューフォーム
回答の根拠②:日本人の食事内容・栄養バランスに合った『ラコール』
『ラコール』は日本人の食事内容・栄養バランスに合わせて作られた日本製の半消化態栄養剤です。
具体的には、三大栄養素のうち「脂質」の割合を20.0%にまで減らすとともに、その「脂質」もω-3系必須脂肪酸を多く含むシソ油が使われています3)。さらに、「タンパク質」も大豆食品の摂取量が多い日本人の食事内容に合わせ、植物性タンパク質を全体の1/3と多めの配合に設計されています3)。

※三大栄養素のカロリー比 1,3,4)
エンシュア・・・・糖質54.5%、タンパク質14.0%、脂質31.5%(※Hも同じ)
ラコール・・・・・糖質62.0%、タンパク質18.0%、脂質20.0%
エネーボ・・・・・糖質53.0%、タンパク質18.0%、脂質29.0%
※タンパク質の動物性(乳):植物性(大豆)の比率 1,3,4)
エンシュア・・・・86.9:13.1(※Hもほぼ同じ)
ラコール・・・・・66.6:33.3
エネーボ・・・・・90.5: 9.5
3) ラコールNF配合経腸用液 インタビューフォーム
4) エネーボ配合経腸用液 インタビューフォーム
『ラコール』は製剤の粘度が低い
経腸栄養剤は、液体の粘度が高過ぎると管やチューブの中で詰まる原因にもなります。この点、『ラコール』は水分が約85%を占めているため粘度が低く、経管投与する際にも使いやすい栄養剤です3)。
※半消化態栄養剤の粘度 1,3,4)
エンシュア・・・・・・・・9.0mPa・s
エンシュアH・・・・・・ 17.0mPa・s
ラコール・・・・・5.51~6.52mPa・s
エネーボ・・・・・・・・ 16.0mPa・s
回答の根拠③:不足が指摘されてきた微量元素を強化した『エネーボ』
『エネーボ』は、2014年に登場した新しい半消化態栄養剤です。従来の栄養剤では、長期使用時に欠乏症が指摘されていた「セレン」・「クロム」・「モリブデン」といった微量元素を強化した配合になっています4)。
特に、「セレン」の不足は慢性心不全のリスクになる5)ことから、サプリメント等での補充が必要とされてきました。その点、『エネーボ』であればこうした欠乏症リスクを低く抑えることができます。

※セレン・クロム・モリブデンの含有量 1,3,4)
エンシュア・・・・配合なし(※Hも同じ)
ラコール・・・・・セレン 5μg、クロム・モリブデンの配合なし
エネーボ・・・・・セレン20μg、クロム31μg、モリブデン34μg
5) 日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版
「カルニチン」などの成分も強化
他にも『エネーボ』では、高齢者では不足傾向にある「L-カルニチン」や、条件付き必須アミノ酸の「タウリン」などが配合されている4)ことから、高齢者の長期的な栄養管理に適した製剤になっています。
薬剤師としてのアドバイス:過加熱や細菌繁殖に注意
卵を火にかけると固まるように、「タンパク質」は熱に弱い性質があります。つまり、『エンシュア』や『ラコール』・『エネーボ』のように「タンパク質」を含む半消化態栄養剤は、高い温度に曝すと成分が変性してしまう原因になります。
そのため、これらの栄養剤を温める際は直火や高温による加熱は避け、30~40℃程度の湯煎で行う必要があります。レシピサイト等で公開されているクッキーやケーキ等への調理は、余ったものの活用以外では行わないように注意してください。
また、ヒトにとっての栄養は、細菌などにとっても同じように栄養になります。開封して放置していると雑菌が繁殖する原因になるため、開封後は早めに服用し、どうしても保管が必要な場合には密閉の上で冷蔵庫に入れ、48時間以内に使い切るようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『エンシュア』は、安価でコストパフォーマンスの良い半消化態栄養剤の代表
2. 『ラコール』は、日本人の食事(脂質が少なめ、植物性タンパク質が多め)に合わせた栄養バランス
3. 『エネーボ』は、従来の栄養剤では不足していたセレン・クロム・モリブデンを強化
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| エンシュア | ラコール | エネーボ | |
| 分類 | 半消化態栄養剤 | 半消化態栄養剤 | 半消化態栄養剤 |
| 包装 | 1缶250mL(250kcal) | 1袋200mL(200kcal) | 1缶250mL (300kcal) |
| カロリー効率 | 1.0kcal/mL | 1.0kcal/mL | 1.2kcal/mL |
| 三大栄養素の比率 | 糖質54.5% タンパク質14.0% 脂質31.5% | 糖質62.0% タンパク質18.0% 脂質20.0% | 糖質53.0% タンパク質18.0% 脂質29.0% |
| 糖質 | デキストリン、 精製白糖 | マルトデキストリン、精製白糖 | デキストリン、精製白糖、フラクトオリゴ糖、大豆多糖類 |
| 窒素源(タンパク質) | 乳86.9% 大豆13.1% | 乳66.6% 大豆33.3% | 乳90.5 大豆9.5 |
| 脂質 | トウモロコシ油 | 大豆油、シソ油、パーム油 | ヒマワリ油、ナタネ油、魚油 |
| 粘度 | 9.0mPa・s | 5.51~6.52mPa・s | 16.0mPa・s |
| 浸透圧 | 330mOsm/L | 330~360mOsm/L | 350mOsm/L |
| セレン・クロム・モリブデンの配合 | なし | セレン 約5μg | セレン20μg クロム31μg モリブデン34μg |
| 矯味の種類 | 3種(バニラ、ストロベリー、コーヒー) | 5種(ミルク、コーヒー、バナナ、コーン、抹茶) | 1種(バニラ) |
| 乳タンパクの含有 | あり | あり | あり |
| 誕生年 | 1988年 | 1999年 | 2014年 |
| 規格の種類 | リキッド、H(高カロリー用) | – | – |
| 製造販売元 | アボットジャパン | イーエヌ大塚製薬 | アボットジャパン |
+αの情報①:「食品」扱いの栄養剤も選択肢に
『エンシュア』のような「半消化態栄養剤」は、医薬品以外にも”食品”としてたくさんの商品が販売されています(例:『メイバランス』、『アイソカル』など)。

食品は医薬品と違って全額が自己負担となりますが、医師の処方が必要ありません。また、非常に多くの商品があるため、食物繊維やビタミン・微量元素を強化したもの、脂質の組成が工夫されたもの、飲みやすい味にこだわったもの等、自分にとって飲みやすいものを選べるようになっています。
+αの情報②:『ラコール』は東日本大震災の影響で配合が変わった
『ラコール』は、当初「ビタミンK(フィトナジオン)」を125μg/200mLで配合した製剤『ラコール配合経腸用液』で販売されていました。しかし、2011年3月11日に起こった東日本大震災の影響で薬の供給が不足し、栄養剤の切り替えをしなければならない患者が急増した際、この配合量では『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』の作用を大きく弱めてしまう恐れがありました。
このことから、2011年6月に「ビタミンK(フィトナジオン)」の含有量を12.5μg/200mLにまで減らした新しい製剤『ラコールNF配合経腸用液』に切り替えられています6)。
その結果、「ビタミンK(フィトナジオン)」の含有量は『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』で大差はなくなっています。
※ビタミンKの含有量 1,2,4)
エンシュア・・・・17.5μg/250mL
エンシュアH・・・26.3μg/250mL
ラコール・・・・・12.5μg/200mL
エネーボ・・・・・26.3μg/250mL
6) 大塚製薬 2011年6月 「ラコールNF配合経腸用液新発売・ラコール配合経腸用販売中止 ご案内」
+αの情報③:カロリーや微量元素を改良した『イノラス』
半消化態栄養剤には、2019年に新しい『イノラス』が登場しています。
『イノラス』は1袋125mLで200kcal、あるいは1袋187.5mLで300kcalを摂取できる高カロリー製剤(1.6kcal/mL)で、なおかつ「セレン」「クロム」「モリブデン」に加えて「ヨウ素」も補充できる製剤になっています7)。
ただし、他の製剤に比べて粘度や浸透圧は高め、という点には注意が必要です。
※『イノラス』の性状 7)
粘度:17.0mPa・s
浸透圧:670mOsm/L
7) イノラス配合経腸用液 インタビューフォーム
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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【修正情報】
2024年10月4日
「+αの情報②」のビタミンK含有量を加筆修正しました