記事の内容
- 1 回答:使用実績が豊富な『ベルソムラ』、入眠・睡眠維持の効果が高い『デエビゴ』、朝まで薬が残りにくい『クービビック』
- 2 回答の根拠①:最初のオレキシン受容体拮抗薬「スボレキサント」~豊富な国内の使用実績
- 3 回答の根拠②:入眠・睡眠維持の両面で効果が高めの「レンボレキサント」~”悪夢”の副作用も増えやすい
- 4 回答の根拠③:中途・早朝覚醒に効果がありながら、日中のパフォーマンスに悪影響を与えない「ダリドレキサント」
- 5 薬剤師としてのアドバイス:どの薬も”他の薬との飲み合わせ”に注意が必要
- 6 薬のカタログスペックの比較
- 7 +αの情報①:「レンボレキサント」に”併用禁忌”の薬がない理由
- 8 +αの情報②:4つ目のオレキシン受容体拮抗薬『ボルズィ』
- 9 +αの情報③:オレキシン受容体拮抗薬の転倒・骨折リスク
回答:使用実績が豊富な『ベルソムラ』、入眠・睡眠維持の効果が高い『デエビゴ』、朝まで薬が残りにくい『クービビック』
『ベルソムラ(一般名:スボレキサント)』、『デエビゴ(一般名:レンボレキサント)』、『クービビック(一般名:ダリドレキサント)』は、いずれもオレキシン受容体拮抗薬に分類される睡眠薬です。
『ベルソムラ』は、最初に登場したオレキシン受容体拮抗薬で、特に国内での使用実績が豊富です。
『デエビゴ』は、入眠と睡眠維持の両方で効果の高い薬です。
『クービビック』は、日中の眠気を避けたい人に適した薬です。

そのため、薬に何を求めるのか、不眠の症状や治療状況によって使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:最初のオレキシン受容体拮抗薬「スボレキサント」~豊富な国内の使用実績
「スボレキサント」「レンボレキサント」「ダリドレキサント」は、いずれもオレキシン受容体拮抗薬という、覚醒を維持する「オレキシン」の作用に拮抗することで眠気を催す、新しいタイプの睡眠薬です。
これまでよく使われていたベンゾジアゼピン系の睡眠薬に比べると、筋弛緩作用が弱く1)、依存・耐性2)や離脱症状3)を起こしにくいという安全性、1つの薬で入眠と睡眠維持の両方に効果がある4)という有効性の両面で優れた性質を持っています。
そのため、近年は不眠治療の中心的存在はベンゾジアゼピン系の睡眠薬から、このオレキシン受容体拮抗薬へと移行しつつあります。
「スボレキサント」は日本で開発され、世界で初めて承認されたオレキシン受容体拮抗薬1)です。5年以上、”唯一”のオレキシン受容体拮抗薬だったため、使い慣れている医師や患者さんも多い薬と言えます。

※オレキシン受容体拮抗薬の国際登場年
スボレキサント:2014年
レンボレキサント:2020年
ダリドレキサント:2024年
1) ベルソムラ錠 インタビューフォーム
2) J Sleep Res.32(6):e13902,(2023) PMID:37086045
3) Transl Psychiatry.15(1):211,(2025) PMID:40555730
4) JAMA Netw Open.2(12):e1918254,(2019) PMID:31880796
回答の根拠②:入眠・睡眠維持の両面で効果が高めの「レンボレキサント」~”悪夢”の副作用も増えやすい
「レンボレキサント」と「スボレキサント」で、基本的な効果にほとんど差はない5)とされています。
しかし、「スボレキサント」から「レンボレキサント」に切り替えると入眠困難がより改善する6)、「レンボレキサント」はオレキシン受容体拮抗薬の中でも睡眠維持効果でやや優れる傾向にある7)といった報告もあり、入眠と睡眠維持の両方の面で効果が高い可能性があります。
これは、「レンボレキサント」は継続服用していると血中濃度の上昇スピードが速くなる8)こと、AUCから算出した血中濃度半減期が7~9時間程度とやや長め8)であることなどが関係していると考えられます。

ただし、「レンボレキサント」は翌日にも眠気がやや残りやすい9)、薬の量に応じて”悪夢”の副作用が増えやすい10)という点には注意が必要です。
5) J Psychiatr Res.128:68-74,(2020) PMID:32531478
6) Psychogeriatrics.22(5):595-604,(2022) PMID:35689366
7) Front Pharmacol.14:1175372,(2023) PMID:37261282
8) Neuropsychopharmacol Rep.41(4):450-458,(2021) PMID:34553844
9) J Clin Psychiatry.84(6):23m14851,(2023) PMID:37796657
10) Front Psychiatry.13:1070522,(2022) PMID:36578296
回答の根拠③:中途・早朝覚醒に効果がありながら、日中のパフォーマンスに悪影響を与えない「ダリドレキサント」
「ダリドレキサント」は、血中濃度の半減期が6~7時間と短め11)なため、翌朝まで眠気が残るリスクが少ない傾向9)にあります。
実際、「ダリドレキサント」は入眠困難と中途・早朝覚醒の両方に効果を発揮しながらも、日中のパフォーマンスにも悪影響を与えない12)ことが確認されています。

そのため、中途・早朝覚醒にも効果のある薬を使いたいが、他の薬では翌朝・日中に眠気や疲労感が残る、といった場合に良い選択肢になります。
11) クービビック錠 インタビューフォーム
12) Lancet Neurol.21(2):125-139,(2022) PMID:35065036
薬剤師としてのアドバイス:どの薬も”他の薬との飲み合わせ”に注意が必要
「スボレキサント」「レンボレキサント」「ダリドレキサント」といったオレキシン受容体拮抗薬は、どの薬も代謝酵素CYP3A4によって代謝されます。そのため、CYP3A4を阻害する作用を持つ薬と併用すると、薬の血中濃度が大きく上昇し、副作用を起こす恐れがあります。
このことから、3つの薬はいずれもCYP3A4阻害作用を持つ薬との併用は”禁忌”や”注意”の指定がされています。
特に、抗菌薬の「クラリスロマイシン」や新型コロナウイルス感染症に用いる抗ウイルス薬『ゾコーバ(一般名:エンシトレルビル)』などは、体調の悪いときに予期せず急に処方される薬のため、うっかり併用してしまわないよう注意が必要です。病院を受診する際には、日頃から必ず「お薬手帳」を持参するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ベルソムラ(スボレキサント)』は、日本で開発され、長らく1種しかなかった最初のオレキシン受容体拮抗薬
2. 『デエビゴ(レンボレキサント)』は、効果が高めだが、眠気の持ち越しや悪夢は起こりやすい
3. 『クービビック(ダリドレキサント)』は、作用時間が短めで、日中のパフォーマンスに影響しにくい
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
スボレキサント | レンボレキサント | ダリドレキサント | |
先発医薬品名 | ベルソムラ | デエビゴ | クービビック |
薬効分類 | オレキシン受容体拮抗薬 | オレキシン受容体拮抗薬 | オレキシン受容体拮抗薬 |
適応症 | 不眠症 | 不眠症 | 不眠症 |
Tmax | 1.0~2.0時間 | 1.0~1.5時間 | 0.75~1.42時間 |
t1/2 | 10~12時間 | 47~50時間 ※二相性のため、実質的には7~9時間 8) | 6.16~6.92時間 |
成人の用量 | 1回20mg | 1回5~10mg | 1回25~50mg |
高齢者の用量 | 1回15mg | – | – |
代謝酵素 | CYP3A4 | CYP3A4 | CYP3A4 |
併用禁忌の薬 | あり | なし | あり |
一包化 | 不可(服用直前にPTPシートから出す必要がある) | 可 | 可 |
国際登場年 | 2014年 | 2020年 | 2024年 |
妊娠中の安全性評価 | – | オーストラリア基準【B3】 | – |
授乳中の安全性評価 | MMM【L3】 | – | – |
世界での販売状況 | アメリカ、オーストラリア | アメリカ、カナダ、オーストラリア、香港、中国など22ヵ国 | 欧米、カナダなど33ヵ国 |
剤型の規格 | 錠(10mg,15mg,20mg) | 錠(2.5mg,5mg,10mg) | 錠(25mg,50mg) |
先発医薬品の製造販売元 | 第一三共/MSD | エーザイ | ネクセラファーマ |
同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:「レンボレキサント」に”併用禁忌”の薬がない理由
「レンボレキサント」は、強力なCYP3A4阻害作用を持つ「イトラコナゾール」や「クラリスロマイシン」との併用が”禁忌”ではありません13)。
これは、「レンボレキサント」では相互作用リスクが低いからではなく、”併用する場合には1回2.5mgで用いる”という明確な減量基準がわかっているからです。減量せず不用意に併用すると、血中濃度の上昇によって副作用を起こす恐れがあるため注意が必要です。

(同様の事例)
アロプリノールとアザチオプリンの併用
13) デエビゴ錠 インタビューフォーム
+αの情報②:4つ目のオレキシン受容体拮抗薬『ボルズィ』
オレキシン受容体拮抗薬には、2025年9月に『ボルズィ(一般名:ボルノレキサント)』という4種目の薬が登場しています。
他の薬との比較データはまだ少ないですが、脂溶性を低減させることで、Tmaxを0.5時間、半減期を2.13時間と作用時間をさらに短くする14)ことに成功した薬です。
14) ボルズィ錠 インタビューフォーム
+αの情報③:オレキシン受容体拮抗薬の転倒・骨折リスク
オレキシン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬に比べて筋弛緩作用が弱い1)とされていますが、転倒・骨折のリスクまで明確に低いかどうかはまだよくわかっていません15,16)。
15) J Psychiatr Res.176:393-402,(2024) PMID:38944018
16) J Am Geriatr Soc.71(1):109-120,(2023) PMID:36184747
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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