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【立てよ薬剤師2】薬剤師の情報発信を増やしたい理由~日薬学術大会の発表報告と今後の課題

 2018年9月23~24日に金沢で開催された「第51回日本薬剤師会学術大会」にて、「【P-22-09】インターネット上で氾濫する不適切な医療情報に対し、薬剤師がブログやSNSを活用して情報発信すること」をテーマに、いまの医療情報の問題点や薬剤師による情報発信の意義について発表をしてきました。

→発表したポスターのPDFはこちらからダウンロードできます(Evernoteへのリンクです)。

 インターネットは、日進月歩で発達し続ける医学・薬学を学ぶ手段としてだけでなく、病院や薬局を訪れる機会の少ない「いま健康な人」にまで医療の情報を届ける方法として、非常に優れたツールです。うまく活用し、薬剤師が国民の健康増進に寄与できることを、世の中に示していけたら良いなと思っています。
そこで今回は、薬剤師がブログやSNSを活用することの意義や目的について、学会の示説で多く頂いた質問に対する回答も含め、私なりの考えをまとめたいと思います。

患者だけでなく、国民全体の健康増進に寄与するために

 「薬剤師は、広く薬事衛生を司る専門職としてその職能を発揮し、国民の健康増進に寄与する社会的責務を担う」(薬剤師綱領より)

 薬剤師が職能を発揮すべき対象は、日頃から接することの多い「患者」だけではなく、病院や薬局に訪れる機会が少ない「いま健康な人」も含めた国民全体です。

これまで何の病気も経験していない健康だった人が、ある日、聞いたこともない病気だと診断され、見たこともない薬を処方される。このとき、その場で医師・薬剤師に対し、すぐに自分の不安や疑問を言語化して的確な質問をし、納得する返答をもらって帰宅する…果たしてこんなことは可能でしょうか。
恐らくは非常に困難だと思います。漠然とした不安と疑問を感じながら、テレビや書籍・インターネットなどを使って、少しずつ自分なりに病気や薬について調べ始めることも多いはずです。

 では、そうやってアクセス・入手できる医療情報の質は、どのようなものになっているでしょうか。

 病気や治療に対し、正確で誠実な情報発信を行うテレビ番組や書籍、Webサイトももちろんありますが、残念ながら不正確で不誠実な情報を広めるものもたくさん混ざっています。専門知識を持つ人間からすれば、あまりにバカバカしい陰謀論や、少し考えればデタラメだとわかるような情報もありますが、専門知識がなく、強い不安と疑問を感じていると、これらの情報を冷静に見極めることはできません

特に、科学に誠実な医療情報よりも、恐怖心や驚きを刺激するような煽動的な情報の方が斬新に感じられ、「目からウロコ」のように思えてしまいます。
また、一度医療や薬に対して誤解・偏見が生まれてしまうと、次から情報収集した際には、その自分の誤解や偏見を支持し、裏付けてくれるような情報ばかりを集めてしまうようになります(確証バイアス)。
その結果、何かを調べるたびに副作用を強調して不安を煽るような情報、根拠のない美辞麗句で高額な商品を買わせるような情報に触れ続け、不必要な不安を抱き、大切なお金を失い、健康も損なってしまうことに繋がります。

 「いま健康な人」は、普段あまり病院や薬局を訪れないため、予め信頼できる医師や薬剤師を見つけておく、ということが難しいケースもあります。そういった病院・薬局で接する機会の少ない人が、情報の負の連鎖に陥らないようにするためには、対面業務だけでなくWebを活用した情報共有・発信も非常に重要だと考えています。

インターネット上に「善玉」の情報を増やそうとする理由~On-Demandで求められる医療情報

 医療情報は「On-Demand」の要素が非常に強いものです。
自分や家族が病気にでもならない限り、わざわざその病気や薬について調べることはありません。そのため、普段から医療情報を一方的に流し続けても、なかなか身にはつきません。しかし、いざ自分や家族が病気になった際には、その病気や治療・薬についての専門的な情報が強く求められることになります。

 このとき、「ゴシップ感覚で読めるだけの当たり障りのない記事」や「不安を煽るような情報」、「不必要な高額商品を勧める情報」ではなく、「専門家が書いた正確で誠実な医療情報」にたどり着ける情報環境が整っていれば、インターネットを使って病気や薬について調べるという患者の行動は、医療に対して非常に有益なものになります。

 情報は、触れる機会の多いものほど受け入れやすくなります。特に、患者さんは、医療従事者が思いもしなかったようなワードで病気や薬のことを検索することもあるため、公的機関や企業の情報をすり抜けてしまうことが多々あります。
そのため、どんな検索の仕方をしても、どちらかと言えば正確で誠実な要素が多い
「善玉」の医療情報にたどり着くことが多くなるよう、専門家による情報発信の数と種類を日頃から増やし、至るところにセーフティネットを張っておくことが大切です。

※「完璧」ではなく、「善玉」な情報を世の中に増やそうとする理由
①国民全員にとって100%の完璧な医療情報…というものは、実現が極めて困難であるから
②多様な表現方法・切り口から情報発信しておくことで、その情報にたどり着く可能性が増えるから
③1つの「完璧」に依存するより、多くの「善玉」で支える情報環境の方が、変化に強く維持しやすいから

読んだ人の行動変容まで考えた「誠実な情報発信」を

 インターネット上で情報発信する際には、「情報に明らかな誤りがなければ良い」というわけではない、という点に注意が必要です。

 昨年、「睡眠薬は、服用してから効果が得られるまでしばらく時間がかかる」という情報をネットで見た芸能人が、その情報を根拠に「少しくらいなら自動車運転をしても大丈夫」と誤った判断をし、交通事故を起こしかけた事例がありました。
確かに、どんな睡眠薬も服用して10秒で効果が得られるようなものではないため、「しばらく時間がかかる」という情報は科学的に何ら誤ったものではありません。しかし、「しばらく時間がかかる」という情報を受け取った人がどんな事を考え、どんな行動に出る可能性があるか、そこまでを考えた誠実な情報とは言えません。

 よく問題になる、週刊誌などの副作用特集も同じです。
確かに、どんな薬にもリスクは付きものです。しかし、副作用のリスクばかりを誇張した書き方をすれば、薬を怖がって自己判断で中断してしまう人が出てくるかもしれない。薬を自己判断で中断すれば、体調を崩し、場合によっては生命に関わる事態になる恐れもある。…こうした潜在的なリスクを全く考慮しない、無責任な情報発信だと言わざるを得ません。

現場で日頃から患者対応をしている薬剤師は、自分のふとしたひとことや言い回しが、患者の考えや行動に大きな影響を与えるということを、たくさん経験しています。情報を受け取った人の、その後の行動変容まで考えた情報発信をできるのは、現場に立っている薬剤師の大きな強みです。
こうした「情報の扱い」の難しさを知る薬剤師が行う「誠実な情報発信」もまた、医療の情報環境を良くするために必要不可欠な要素だと思います。

「立てよ薬剤師」で発信者を増やしていきたい

 今回、「立てよ薬剤師」の第2回として、既にブログやSNSで誠実な情報発信を続けている薬剤師に、その情報発信の目的や意図をテーマにして、各々の理念を語ってもらうことにしました。

 薬剤師にとって最も必要な薬の知識・情報を広く共有することで、薬剤師という職業全体のレベルアップを図る。
薬剤師の現場対応のレベルを高めたり、活動の幅を広げることで、国民からの信頼を得る。
自分が現場で出会った疑問や調べた内容を、きちんと言語化して記録する。
日々の自己研鑽のモチベーション維持や、他の薬剤師と意見交換・交流するきっかけにする。

 …100人いれば100通りの目的や手段がある(※本ブログの理念はこちら)と思いますが、薬剤師がどんな事を考えてブログやSNSを活用しているのかを知ったり、新たに情報発信に挑戦したりといった契機になると思います。

 1人でどれだけ頑張って叫んでも、なかなかその声は広くは届きません。しかし、今回の発表でもとり挙げたように、薬剤師が連携して情報発信することで、その影響力は強めることができます。まだまだ試行錯誤の活動ですが、薬剤師界隈に留まらず国民にまで広く確実に情報を届けるにはどうすれば良いか、こうした活動の精度をより高めていくことで医療全体の情報発信力を鍛え、病気や薬に対する誤解や偏見を防ぎ「正しく知っていれば防げた」ような悲劇は少しでも減らしていきたいと考えています。
(今回のポスター発表に対しても、貴重なご意見をたくさんありがとうございました)。

今回の参加ブログ一覧(随時更新中)

 参加ブログとその記事を、「私が感じた大切なテーマ」と共に紹介しています。お忙しい中、たくさんご参加頂きありがとうございました。
悪意ある情報で不安を煽り、高額な健康食品や民間療法を販売するような手法をとった方が、遙かに「儲かる」ため、善意だけで立ち向かうのは圧倒的に不利です。
そこで、色々な先生に情報発信を行う目的や得られるメリットを色々な角度から書いて頂きました。これらを参考にして、誠実な情報発信に取り組む医療職が増えたら良いなと思います。

①知識や技術の蓄積、次世代への継承

僕がブログを続ける理由(立てよ薬剤師プロジェクト)
【薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師】山本雄一郎先生
→テーマ:薬局薬剤師の”技術の継承”

WEBでの情報発信16年間を振り返る~簡単に入手できる最新の副作用情報と国内外の薬剤師を巡る動向
【アポネットR研究会・最近の話題】小嶋慎二先生
→テーマ:Webを使った国内・海外情報の利活用のメリット

薬剤師が情報発信することで得るものは?〜「薬剤師の脳みそ」を続けている理由
【薬剤師の脳みそ】ぺんぎん先生
→テーマ:後輩に薬や仕事のことを伝え、同じ悩み・不安を抱く薬剤師の役に立ちたい

立てよ薬剤師
【松江出張所便り】奥村雪夫先生
→テーマ:次の人が先へ進むための”足がかり”に

情報は発信すればするほど、自分を大きく成長させる
【新米管理薬剤師の独立への道】ふぁるめど先生
→テーマ:自分の”知っていること”は、誰かの”知らないこと”

②ブログ・SNS活用において気をつけるべきこと

何でブログ書いてるんですか?
【pharmacist’s record】ミニ丸先生
→テーマ:鵜呑みにしてはいけない”食レポ”としてのブログ
(※発信者のバイアスに注意し、ブログを足掛かりとして自ら原典を調べる重要性はこちらでも言及しています)

薬剤師としてブログを書く理念や理由・目的
【リンコ’s diary】リンコ先生
→テーマ:著作権やプライバシーに対する倫理観

私はなぜブログを書くのか
【pharm-niiyan’s diary】にいやん先生
→テーマ:著作権・個人情報・表現方法に対する注意喚起

③疑問や思考を「言語化」することの意義

薬剤師によるブログのススメ
【はぐれ薬剤師のココロ】桑原秀徳先生
→テーマ:ブログを客観的に書くことは、論文を書くことに繋がる

自分を体現するためにぼくは今日も文章を綴る〜正解のない世界で『応え』を創造せよ〜
【よろず屋「雅(miyabi)」のみたて】山本雅洋先生
→テーマ:正解のない問題に対する”応え”を出すための場

人見知りこそブログを書こう!一石三鳥のブログ活用術♪
【ぼうそう医薬情報室】小石まり子先生
→テーマ:モヤモヤを言語化し、現場で働く人の”情報格差”を減らす

「立てよ薬剤師」第二弾:薬剤師が情報発信をする意味?
【窓際さんのお勉強な日々】zuratomo先生
→テーマ:思考や願いは”言語化”しなければ伝わらない

立てよ薬剤師!語れ市販薬!!
【ドラッグストアとジャーナリズム】kuriedits先生
→テーマ:消費者に近い”市販薬”に、もっと関心・議論を

④患者やその家族に対する情報提供

薬剤師の情報発信を増やしたい理由
【お薬Q&A~Fizz Drug Information】(本ブログ)
→テーマ:不安に駆られた検索に備え、色々な”セーフティネット”を張っておくこと

薬剤師としてブログやSNSで情報発信をする目的は?
【けいしゅけのブログ薬局 情報館】けいしゅけ先生
→テーマ:”誰かの家族”という存在への情報提供

ブログやSNSでの発信、その目的とその先にあるもの
【「くすりや」の「現場」】みやQ先生
→テーマ:患者-医療側の間にある溝の是正

薬剤師がブログを書く理由・目的
【薬剤師よっしーのブログ】よっしー先生
→テーマ:普段の業務では届かない人に情報を届けられる

⑤医療職の情報共有・意見交換

信頼の、架け橋。
【note】ほむほむ@アレルギー専門医先生
→テーマ:自分にできる情報発信から、その共有まで

■「差異を許容することと、「より生きやすい」というアウトカム
【思想的、疫学的、医療について】青島周一先生
→テーマ:EBMに対する黄川田先生との取り組み

立てよ薬剤師(2018Ver)
【黒の薬剤師会】るるーしゅ先生
→テーマ:馴れ合いではない、EBMを学べる仲間を増やす

なぜ私はブログを書こうと思ったのか
【〜学びと気付きの場所作り〜】ゴリ油先生
→テーマ:自分の”気付き”を共有する

なぜブログを書くのか
【病院薬剤師pharma.ponの備忘録】ぽん先生
→テーマ:1人では網羅しきれない薬の情報・知識の共有

「日本薬剤師会学術大会@金沢はやっぱり最高だった!」
【薬剤師ときどき父】やくちち先生
→テーマ:交流や情報収集が増え、仕事が楽しくなる

⑥勉強(インプット)と、現場での活用(アウトプット)の好循環

猫がブログを書く理由 〜インプットとアウトプットのハイブリッド〜
【Re: 論文至上主義をゼロから考える薬局】根本真吾先生
→テーマ:インプットとアウトプットの”同時並行”と、メタ認知のための”言語化”

立てよ薬剤師-プロジェクト ブログを書く理由
【お薬のこと】たけちゃん先生
→テーマ:学んだことを、実際に現場で使えるようにするための”アウトプット”の場

ブログを始めた理由を振り返る。そして一歩でも前に
【ぼくのパパはおくすりやさん】ふーた先生
→テーマ:現場の薬剤師が書いているから、現場で使える

原点
【程々の薬剤師ブログ】程々先生
→テーマ:アウトプットを”前提”とした勉強の良さ

私が薬剤師としてブログを書いている理由
【波波の独り言】波波先生
→テーマ:反応が得られる→もっと勉強するようになる、という好循環

新薬情報オンラインの発足と運営~薬剤師ができる正しい情報発信の推進~
【新薬情報オンライン】新薬情報オンライン
→テーマ:人に読まれる→もっと質を高めよう、という意欲への繋がり

私がシコシコと〇〇をかき続ける理由
【むむろぐセカンド】むむ先生
→テーマ:インプット→自分のものに消化→アウトプット…という一連のツール

⑦その他

私が記事を書く理由
【note】慶史先生
→テーマ:機械やAIにはできないことをする

立てよ薬剤師。そして…
【薬剤師のプログミング備忘録】NOCHIKA先生
→テーマ:災害支援で感じた”会話から情報を引き出す能力”と”情報を簡潔にまとめて記す能力”

薬剤師の価値に満足してますか?
【一問一答!薬剤師・薬学生のためのプライマリケア】こつぶ先生
→テーマ:薬剤師の”存在感”の向上

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コメント

  • コメント (1)

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    • りちお
    • 2018年 9月 26日

    ハッシュタグ #立てよ薬剤師 から来ました!
    先日のポスター発表、会場の方々からの発信を拝見しました。お疲れさまでした。

    記事中の
    〜「いま健康な人」は、普段あまり病院や薬局を訪れないため、予め信頼できる医師や薬剤師を見つけておく、ということが難しいケースもあります。〜
    これは確かにあると思います。
    だから「ググる」んですよね、とにかくググる。
    専門家でもなければ、ググっても、ググった情報の評価や精査はできないんですが… (だから鵜呑みにもなる)
    検索上位に正しい情報が上がること、そして、それを共有したり教えあったりすること。
    薬剤師さんまかせでなく、我々にもできることがあるように思います。
    読ませていただき、ありがとうございました。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

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