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回答:使用実績が豊富な世界標準の薬『バルトレックス』、腎障害時に使いやすい『アメナリーフ』
『バルトレックス(一般名:バラシクロビル)』と『アメナリーフ(一般名:アメナメビル)』は、どちらも主に帯状疱疹の治療に使う抗ウイルス薬です。
『バルトレックス』は、全世界で使われている、使用実績の豊富な薬です。
『アメナリーフ』は、腎障害があっても用量調節が不要で使いやすい、日本独自の薬です。

基本的な有効性・安全性に違いはないため、通常は安価でもある『バルトレックス』が選ばれますが、腎機能が低下している恐れのある高齢者などでは『アメナリーフ』も選択肢になります。
回答の根拠①:使用実績が豊富な「バラシクロビル」~帯状疱疹治療の世界標準
帯状疱疹は、発症から3~5日以内に抗ウイルス薬を使って治療することが強く推奨されています1)。これは、早めに薬を使うことによって、疱疹の増加を防いたり、痛みを軽減したりする効果をより期待できるからです。
このとき、「バラシクロビル」と「アメナメビル」で、帯状疱疹に対する基本的な治療効果に大きな違いはありません2)。
ただ、「アメナメビル」は2017年から主に日本でしか使われていないのに対し、「バラシクロビル」は1994年から全世界で広く使われている世界標準の薬で、使用実績は圧倒的に豊富です。さらに、薬の値段も「バラシクロビル」の方が安価なため、何か事情がない限りは「バラシクロビル」を使うのが一般的です。

※登場した年と使われている国
バラシクロビル:1994年に登場、世界100ヵ国以上で承認
アメナメビル :2017年に登場、承認は日本のみ
※帯状疱疹1回の治療にかかる薬価(2025年改訂時)
バラシクロビル:1回1,000mgを1日3回、7日間(145.40×2錠×3回×7日間=6,106.80)
アメナメビル :1回400mgを1日1回、7日間(1,177.50×2錠×1回×7日間=16,485.00)
1) 日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」
2) J Dermatol.44(11):1219-1227,(2017) PMID:28681394
「バラシクロビル」は適応症も広い
使用実績が豊富な「バラシクロビル」は、帯状疱疹のほかにも単純疱疹や性器ヘルペス、水痘などにも保険適用があり、「アメナメビル」よりも活用の場面は多くあります。
※適応症の違い 3,4)
バラシクロビル:帯状疱疹、単純疱疹、造血幹細胞移植における単純疱疹の発症抑制、性器ヘルペスの再発抑制、水痘
アメナメビル:帯状疱疹、再発性の単純疱疹
3) バルトレックス錠 インタビューフォーム
4) アメナリーフ錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:腎機能が低下している人でも使いやすい「アメナメビル」
主に腎臓で排泄される「バラシクロビル」は、腎機能の低下している人が使うと薬が身体に蓄積しやすく、脳症などの精神症状を起こすリスクが高くなります3)。そのため、腎機能に応じて細かく用法・用量を調節する必要があります。
その点、排泄に腎臓はあまり関わっていない「アメナメビル」は、腎機能が低下している人でも特に用量調節は不要4)とされています。そのため、腎機能が正確にわからない高齢者などでも使いやすい薬と言えます。

ただし、「アメナメビル」は代謝酵素CYP3A4の影響を受けやすいだけでなく、「アメナメビル」自身も代謝酵素CYP3A4やCYP2B6を誘導する4)ため、併用薬の内容によってはその血中濃度が大きく増減する5)ことがあります。そのため、併用している薬が多い人の場合には慎重に扱う必要があります。
5) Adv Ther.34(11):2466-2480,(2017) PMID:29076107
「アメナメビル」は1日1回の服用で良く、治療は簡単
帯状疱疹の治療では1日3回の服用が必要な「バラシクロビル」に比べて、「アメナメビル」は1日1回の服用で済みます3,4)。そのため、治療に際して服薬の負担が少なく、また飲み忘れも大きく減らせるという点では非常に便利な薬です。

薬剤師としてのアドバイス:帯状疱疹は「ワクチン」で防ぐこともできる
帯状疱疹は、80歳までに1/3の人が発症する6)ほど、多くの人が経験します。「バラシクロビル」や「アメナメビル」といった薬はあるものの、ひとたび発症すると強く不快な痛みが長く続く上に、1/5の人には神経痛(帯状疱疹後神経痛)が残ってしまう7)など、非常に厄介な疾患です。
そのため、帯状疱疹の発症そのものを減らす”予防”の対策も非常に重要になります。この帯状疱疹の発症予防に効果的なのが、帯状疱疹のワクチンです。
特に、近年新しく開発された『シングリックス(一般名:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)』は、接種から3年間は97~98%、接種から10年後も70%以上の発症予防効果を得られる8)、非常に効果的なワクチンです。
さらに、ワクチンを接種していれば、もし運悪く発症してしまったとしても、帯状疱疹後神経痛が残るリスクは90%近く軽減できます9)。

やや高額なのがネックですが、発症してから治療するよりは身体的・経済的な負担は少なく抑えることができます。自治体によっては助成金が出るところもあるため、ぜひ前向きに検討してみてください(※効果の持続期間は短いものの、少し安価なワクチンもあります)。
6) Open Forum Infect Dis.4(1):ofx007,(2016) PMID:28480280
7) J Epidemiol.25(10):617-25,(2015) PMID:26399445
8) Open Forum Infect Dis.9(10):ofac485,(2022) PMID:36299530
9) N Engl J Med.375(11):1019-32,(2016) PMID:27626517
ポイントのまとめ
1. 『バルトレックス(バラシクロビル)』は、全世界で帯状疱疹の治療に使われている世界標準の薬
2. 『アメナリーフ(アメナメビル)』は、腎機能が正確にわらかない人にも用量調節せず使える
3. 帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛は、ワクチン接種で大幅に減らすことができる
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| バラシクロビル | アメナメビル | |
| 先発医薬品名 | バルトレックス | アメナリーフ |
| 薬効分類 | 抗ヘルペスウイルス薬 | 抗ヘルペスウイルス薬 |
| 適応症 | 帯状疱疹、単純疱疹、造血幹細胞移植における単純疱疹の発症抑制、性器ヘルペスの再発抑制、水痘 | 帯状疱疹、再発性の単純疱疹 |
| 帯状疱疹を治療する際の用法 | 1日3回 | 1日1回(食後) |
| 腎機能低下時の対応 (帯状疱疹の治療) | 通常:1回1,000mgを1日3回 30≦CCr<50:1回1,000mgを1日2回 10≦CCr<30:1回1,000mgを1日1回 10<CCr:1回500mgを1日1回 | (減量基準なし) |
| 影響する代謝酵素 | 特になし | CYP3A4で代謝される CYP3A4とCYP2B6を誘導する |
| 併用禁忌 | なし | リファンピシン |
| 国際誕生年 | 1994年 | 2017年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | – |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L2】 | – |
| 世界での販売状況 | 世界100ヵ国以上 | 日本のみ |
| 剤型の規格 | 錠(500mg)、顆粒(50%) | 錠(200mg) |
| 先発医薬品の製造販売元 | グラクソ・スミスクライン | マルホ |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:「バラシクロビル」服用時に”水分補給”が重要な理由
「バラシクロビル」は、急性腎障害の原因にもなりやすい薬10)ですが、特に帯状疱疹では痛み止めとしてNSAIDsを併用することも多いため、より注意が必要になります11)。
こうした急性腎障害のリスクは脱水状態になるとさらに高まる12)ため、「バラシクロビル」を服用中はしっかりと水分補給を行うことが大切です1)。
10) J Clin Pharm Ther.44(1):49-53,(2019) PMID:30014591
11) Front Pharmacol.10:874,(2019) PMID:31440161
12) Nat Rev Nephrol.10(4):193-207,(2014) PMID:18540687
+αの情報②:「アメナメビル」は、髄液移行性の悪さがデメリットになる可能性
高齢者の帯状疱疹では、「アメナメビル」で治療を行った際の髄膜炎が複数報告されています13,14)。この原因として、「アメナメビル」は髄液移行性が悪いために、三叉神経領域の帯状疱疹をきちんと治療できない可能性が示唆されています。
そのため、特に免疫不全の高齢者など中枢神経合併症リスクが高いケースでは、「アメナメビル」は避けた方が無難です。
13) Cureus.16(2):e54775,(2024) PMID:38524092
14) J Neurol Sci.475:123559,(2025) PMID:40505351
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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