『ガナトン』と『ガスモチン』、同じ胸やけ・胃炎の薬の違いは?~ドパミンとセロトニンへの作用と効果・副作用
記事の内容
回答:相互作用が少ない『ガナトン』、便秘傾向に使いやすい『ガスモチン』
『ガナトン(一般名:イトプリド)』と『ガスモチン(一般名:モサプリド)』は、どちらも慢性的な胃炎による吐き気や胸やけといった症状を抑える薬です。
『ガナトン』は、代謝にCYPが関わらないため相互作用リスクが低い薬です。
『ガスモチン』は、吐き気・胸やけの他に便秘にも効果が期待できる薬です。

どちらも副作用が少なく使いやすい薬ですが、他にたくさん薬を使っている場合は『ガナトン』、便秘気味の人には『ガスモチン』、といった使い分けができます。
回答の根拠①:多剤併用の人に使いやすい「イトプリド」~代謝にCYPが関係しない
「イトプリド」は、慢性胃炎などによる吐き気・胸やけ・胃の不快感といった症状に効果のある薬です1,2)。
この「イトプリド」の代謝・分解には、代謝酵素CYP(CYP1A2、2A6、2B6、2C8、2C9、2C19、2D6、2E1、3A4)がどれも関わっていない3,4)ため、CYP誘導・阻害による相互作用リスクの心配が必要ありません。
そのため、既に色々な薬で治療を行っていて相互作用リスクが心配な人、あるいは強力なCYP誘導作用・阻害作用をもつ薬を使っている人にとっても、安全に使いやすい薬と言えます。

1) N Engl J Med.354(8):832-40,(2006) PMID:16495395
2) World J Gastroenterol.18(48):7371-7,(2012) PMID:23326147
3) ガナトン錠 添付文書
4) Drug Metab Dispos.28(10):1231-7,(2000) PMID:10997945
血液脳関門を通過しにくく、錐体外路症状も少ない
「イトプリド」はもともと副作用の少ない薬1)ですが、『ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)』や『プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)』と同じドパミンD2受容体遮断作用を持つにもかかわらず、錐体外路症状もほぼ起こさないことが確認されています5,6)。
これは、「イトプリド」が強い親水性3)で、血液脳関門をほとんど通過しないことが関係している、と考えられています。

5) World J Gastroenterol.18(48):7371-7,(2012) PMID:23326147
6) Therap Adv Gastroenterol.18:17562848251321123,(2025) PMID:39989849
回答の根拠②:便秘傾向の人に適した「モサプリド」
「モサプリド」も、吐き気や胸やけ、胃の不快感といった症状を改善する薬です7)。「イトプリド」との優劣はわかっていませんが、作用の違いから、やや”得意分野”が異なります。
「モサプリド」は、セロトニン5-HT4受容体を刺激することで効果を発揮します8)が、セロトニンは腸管の働きにも大きく関わっています。そのため、「モサプリド」では吐き気や胸やけの他に、便秘の症状にも効果が報告されています9)。

このことから、「モサプリド」は便秘傾向のある人にとって一石二鳥を期待できる薬と言えます。ただし、逆に副作用で下痢を起こしやすい8)、という点には注意が必要です。
7) Arch Med Sci.15(1):23-32,(2019) PMID:30697251
8) ガスモチン錠 添付文書
9) Diabetes Res Clin Pract.87(1):27-32,(2010) PMID:19889470
薬剤師としてのアドバイス:ピロリ菌の感染や、機能性ディスペプシアにも注意
「イトプリド」や「モサプリド」は、値段が安く、副作用も少ないことから比較的使いやすい薬ではありますが、あくまで吐き気や胸やけなどの自覚症状を和らげる薬です。
そのため、例えばピロリ菌に感染している場合には除菌治療を行うなど、その症状の根本的な原因に対する治療を優先させる必要があります。
また、明らかな病変が無いにも関わらず胃の痛みや胸やけの症状が続く場合には、「機能性ディスペプシア」の可能性もあります。この場合は食事・生活習慣を見直すとともに、『アコファイド(一般名:アコチアミド)』など専用の薬を使うことも検討する必要があります。
薬本来の目的を忘れて、漫然と使い続けることがないよう注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 『ガナトン(イトプリド)』は、CYP関連の相互作用リスクが低い
2. 『ガスモチン(モサプリド)』は、吐き気や胸やけだけでなく、便秘にも効果が期待できる
3. どちらも副作用の少ない薬だが、漫然と使い続けないよう注意が必要
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
イトプリド | モサプリド | |
先発医薬品の名称 | ガナトン | ガスモチン |
薬理作用 | ドパミンD2受容体遮断薬 | セロトニン5-HT4受容体作動薬 |
適応症(成人) | 慢性胃炎における消化器症状(腹部膨満感、上腹部痛、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐) | 慢性胃炎における消化器症状(腹部膨満感、上腹部痛、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐) 経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助 |
用法 | 1日3回、食前 | 1日3回 |
特徴的な副作用 | プロラクチン上昇、錐体外路症状 | 下痢・軟便 |
代謝に関わるCYP | なし | 主にCYP3A4 |
機能性ディスペプシアのガイドライン | 推奨(弱)・エビデンスレベルB | 推奨(弱)・エビデンスレベルB |
胃食道逆流症(GERD)のガイドライン | (掲載なし) | 治療の選択肢として掲載あり |
国際誕生年 | 1987年 | 1998年 |
世界での販売状況 | (資料なし) | 中国、韓国、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジア |
規格の種類 | 錠(50mg) | 錠(2.5mg,5mg)、散(1%) |
代表製剤の製造販売元 | ヴィアトリス製薬 | 住友ファーマ |
同成分のOTC医薬品 | 『イラクナ』 | (販売されていない) |
+αの情報①:「モサプリド」をPPIに追加する治療
胃食道逆流症(GERD)では、PPIに「モサプリド」を追加することで、上乗せの治療効果が得られることが報告されています10)。PPI単独では満足できるほど効果を得られない場合には、「モサプリド」の併用は良い選択肢になります。
10) Aliment Pharmacol Ther.33(3):323-32,(2011) PMID:21118395
+αの情報②:妊娠中の安全性評価
「イトプリド」や「モサプリド」の妊娠中の安全性についてはデータが少ないですが、添付文書では特に妊娠中の使用に制限がかけられていません3,8)。特に、「モサプリド」に関しては、日本の調査で胎児の先天異常とは関連しない、という報告11)もあることから、妊娠中でも十分に選択肢になると考えられます。
11) Dig Dis Sci . 2025 Jul 9. doi: 10.1007/s10620-025-09197-3. Online ahead of print. PMID:40632383
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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