『ムコダイン』と『ムコソルバン』、同じ去たん薬の違いは?~痰や鼻水、粘膜への作用と使い分け
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回答:『ムコダイン』は痰や鼻水に、『ムコソルバン』は粘膜に作用する
『ムコダイン(一般名:カルボシステイン)』と『ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)』は、どちらも痰(たん)を出しやすくする「去たん薬」です。
『ムコダイン』は、痰のねばつき(粘度)を減らすことで、排出しやすくする薬です。
『ムコソルバン』は、気道の粘膜を滑らかに整えることで、痰を排出しやすくする薬です。

名前もよく似ていてほぼ同じ目的で使う薬ですが、”粘液”と”粘膜”という全く別のところに作用するため、症状によって使い分けたり、より高い効果を期待して併用したりします。
回答の根拠①:作用メカニズムの違い~粘液と粘膜のどちらに作用するか
「カルボシステイン」と「アンブロキソール」は、どちらも痰(たん)を出しやすくする、という共通の目的で使われますが、「カルボシステイン」は粘液=痰、「アンブロキソール」は粘膜=気道と、作用するポイントが異なります。

※薬効分類
カルボシステイン:粘液調整薬
アンブロキソール:気道潤滑薬
粘液=痰に作用する「カルボシステイン」
喉や鼻の粘膜は常に粘液を出し、細菌やウイルスなどの外敵をひっつけて捕まえることで、体内への侵入を防いでいます。

喉や鼻に入ってくる外敵の量が増えてくると、外敵をより捕まえやすくするために高い粘度の粘液を作るようになります。このとき、粘度を高めるために「シアル酸(α-N-Acetylneuraminic acid:Sialic Acid)」や「フコース(α-L-Fucose)」といった糖を増やします1)。
通常は、こうした適度な防御機能によって身体が守られていますが、あまりに粘度が高くなってしまうと、痰や鼻水が絡み付き、吐き出せなくなるようになります。
「カルボシステイン」は、この「シアル酸」や「フコース」といった糖の割合を適度に整えることによって、異常にねばついた痰や鼻水をサラサラにし、出しやすくする作用があります2,3)。

1) 日本気管支研究会雑誌 8(3),312-20,(1986) ※PubMed外
2) ムコダイン錠 インタビューフォーム
3) Pharmaceutics.14(6):1261,(2022) PMID:35745833
粘膜=気道の粘膜細胞に作用する「アンブロキソール」
気道では、「表面活性物質(サーファクタント)」と呼ばれる物質が分泌され、粘膜の滑りを良くしています。「アンブロキソール」は、気道の粘膜細胞に作用してこの物質を増やすことで気道の滑りを改善するとともに、気道の線毛の運動も改善することで、痰を外に出しやすくする作用があります4)。

4) ムコソルバン錠 インタビューフォーム
併用すると、別方面からアプローチできる
「カルボシステイン」は粘液、「アンブロキソール」は粘膜と、それぞれ作用するポイントが異なため、併用することで別方面から「去たん」という目的にアプローチすることができます。

このことから、「カルボシステイン」と「アンブロキソール」の併用は理に叶っており、OTC医薬品でもこの2つの薬が一緒に配合されている風邪薬が販売されています(例:パブロンSゴールドW錠)。
回答の根拠②:効果の違いと使い分け
「カルボシステイン」と「アンブロキソール」は、どちらも風邪5,6)やCOPD7,8)の症状を和らげる効果が確認されています。効果に目立った違いは確認されていないため、こうした呼吸器疾患に対してはどちらの薬を使うこともあります。
ただ、粘液に作用する「カルボシステイン」は”鼻水”など他の分泌物の粘度も下げるため、副鼻腔炎9)や滲出性中耳炎10)の症状にも効果が確認されている一方、粘膜に作用する「アンブロキソール」は”喉の痛み”を和らげる効果が期待できる11)など、作用するポイントの違いで得意な症状がやや異なる傾向があります。

このことから、”粘液”と”粘膜”のどちらの症状かによって使い分けるのが一般的です。
5) Cochrane Database Syst Rev. 2013 May 31;(5):CD003124. PMID:23728642
6) Cochrane Database Syst Rev. 2014 Mar 10;(3):CD006088. PMID:24615334
7) Lancet.371(9629):2013-8,(2008) PMID:18555912
8) Expert Opin Drug Saf.17(12):1211-1224,(2018) PMID:30372367
9) Auris Nasus Larynx.39(1):38-47,(2012) PMID:21636230
10) Acta Otolaryngol Suppl.458:56-62,(1988) PMID:3072830
11) BMC Fam Pract.15:45,(2014) PMID:24621446
どちらも副作用は少ない
「カルボシステイン」と「アンブロキソール」は、どちらも重大な副作用の報告は少なく、安全性は高く評価されています5,6,8)。
また、小規模な研究ながら、妊娠中に使っても胎児への悪影響はなかったことも確認されている12)ため、子どもから妊娠中の女性、高齢者までよく選択肢になる薬と言えます。
12) Congenit Anom (Kyoto).64(3):91-98,(2024) PMID:38445786
薬剤師としてのアドバイス:薬を飲むと、一時的に痰や鼻水がたくさん出ることもある
「カルボシステイン」や「アンブロキソール」などの去たん薬を飲むと、痰や鼻水がたくさん出てくることがありますが、これは薬によって痰や鼻水が出てきやすくなったことの証拠でもあります。
”症状が悪化している”と勘違いしてしまうことがありますが、去たん薬は痰や鼻水を「出しやすくする薬」であって「消し去ってしまう薬」ではない、という点に注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 『ムコダイン(カルボシステイン)』は、痰や鼻水、膿(粘液)の粘りを減らす薬
2. 『ムコソルバン(アンブロキソール)』は、気道(粘膜)の滑りを良くして整える薬
3. 別の作用でアプローチできるため、併用することもある
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
カルボシステイン | アンブロキソール | |
先発医薬品名 | ムコダイン | ムコソルバン |
薬効分類 | 気道粘液調整・粘膜正常化剤 | 気道潤滑去痰剤 |
適応症 | 急性気管支炎・気管支喘息・慢性気管支炎・気管支拡張症・肺結核の去痰、慢性副鼻腔炎の排膿 上気道炎の去痰、滲出性中耳炎の排液(小児) | 急性気管支炎・気管支喘息・慢性気管支炎・気管支拡張症・肺結核の去痰、慢性副鼻腔炎の排膿 塵肺症、手術後の喀痰喀出困難の去痰 |
用法 | 1日3回 | 1日3回 (L錠は1日1回) |
販売が確認されている国 | イギリスほか | ドイツほか |
剤型の規格 | 錠(250mg、500mg)、シロップ5%、ドライシロップ50% | 錠(15mg)、L錠(45mg)、シロップ0.3%、ドライシロップ1.5%、内用液0.75% |
先発医薬品の製造販売元 | 杏林製薬 | 帝人ファーマ |
同成分のOTC医薬品 | 『ムコダイン去たん錠Pro500』など | 総合感冒薬などに配合 (※単剤商品は無い) |
+αの情報①:「ブロムヘキシン」は、粘液を溶かす去たん薬
去たん薬としては、「カルボシステイン」と「アンブロキソール」のほかに「ブロムヘキシン」もあります。
「ブロムヘキシン」は粘液を溶かすタイプの去たん薬ですが、同様に風邪13)やCOPD14)に対する有効性が報告されています。ただ、「ブロムヘキシン」の有効性はやや弱めの傾向にある15)ため、現在は他の薬にはできない”注射”や”吸入”の薬としてよく用いられています。
13) Phytomedicine.22(13):1195-200,(2015) PMID:26598919
14) Respiration.56(1-2):11-5,(1989) PMID:2690235
15) Arzneimittelforschung.28(5a):918-21,(1978) PMID:373777
+αの情報②:粘度の高い“たん”は、気道を閉塞させることもある
気管支喘息などでは、炎症で狭くなった気管支に粘度の高い痰(たん)が引っ掛かることで気道が閉塞し、窒息死してしまうことがあります。そのため、痰の粘度を高める作用を持つ「コデイン」は、喘息に対しては“禁忌”に指定されています16)。
また、「コデイン」は風邪の咳にはほとんど効果が期待できない17)ため、風邪で痰の絡む咳が出ているときにも避けた方が無難です。
16) コデインリン酸塩散1%「タケダ」 添付文書
17) Cochrane Database Syst Rev.(11):CD001831,(2014) PMID:25420096
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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