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薬剤師のありかた 子どもの薬

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精神系の薬を処方されている子どもやその家族に対して、薬剤師にできることはないか?~薬剤師と心理士の対談企画 1

 精神系の薬を処方されている子どもやその親に対して、薬剤師が服薬指導のほかに有効なアプローチを行えているか?と問われると、熟練者のなかでもYesと答えられる方は少ないのではないかと思います。

 今回、そのような”難しいアプローチ”の第一歩として何か具体的な提案ができないかと思い、薬剤師と臨床心理士による対談・意見交換を行いました。

まずは毎回の声掛けで、印象を残しておくことから

■薬剤師:精神系の薬が処方されている場合、薬局では事務的な対応だけで終わってしまうことが少なくありません。親御さんも「早く帰りたい」という想いの方が強いのか、なかなか、薬局では相談してもらえません。

■心理士:カウンセラーとして活動していても、最初から何でもかんでもお話をしてもらえるわけではありません。親が「この先生なら相談しても良いかな」と思ってくれるよう、関係を築く必要があります。

■薬剤師:確かに、それがベストですね。でも、その関係を築くために、”具体的に何をすれば良いのか?”がわからない薬剤師が多いと思います。特に、経験も知識も浅い新人薬剤師では、どんなことから始めたら良いのでしょうか。

■心理士:例えば、毎回薬を渡すときに「何か薬のことで疑問や不安はありませんか?」という問いかけをして、それを継続して行のはどうでしょうか。毎回そのような言葉かけがあれば、いざという時に「あ、あの人に聞いてみようか」と思い出してくれるはずですし、尋ねやすいと思います。こうした声掛けが、思っている以上に印象に残っているものです。

■薬剤師:なるほど。そうした声掛けならば、今日から新人薬剤師でも始められますね。

■心理士:我々も薬について勉強していかなければと思っていますが、薬剤師ほど詳しくはありません。しかし、臨床心理士との面談で「薬についての不安や疑問」をこぼされる患者さんは多くおられます。”薬の専門家”である薬剤師のニーズはあるはずです。

不安や疑問は、情報不足も原因の一つ

■心理士:カウンセリングでもよく言われるのが、「何故この薬を飲まなければならないのか」、「本当にこの薬を続けて飲んでいても大丈夫なのか」、といった不安や疑問です。適切な情報を提供することでその不安や疑問が解消し、前向きに服薬をなさるようになる方もいらっしゃいます。これにはぜひ薬剤師の方にその役割を担っていただけるといいなと思っています。

■薬剤師:そうですね。医師も薬剤師も、患者にとってデメリットになると思って薬は使いません。現時点から、患者さんにとって最大のメリットを得られるように、という大原則があって処方されていることを知ってもらえていたらと思います。薬剤師に不安や疑問をぶつけてもらえれば、きちんと必要性や安全性について説明しますので、解消できると思います。

■心理士:現状では、不安や疑問を抱えたまま本当は飲ませたくないけど、処方されたから飲まないといけない・・・といった矛盾を抱えている患者さんは多そうです。残念なことですね。

■薬剤師:更にこういった不安や疑問をそのままにしておくと、患者さんはネットを使って自力で調べようとします。ネット上には根拠のない話や極端な話も多いので、それを鵜呑みにしてしまうと余計に不安や疑問が大きくなってしまいます。医師も薬剤師も、メリットとデメリットを考えて薬を使いますが、患者にとってデメリットになるような情報は敢えて提供しない、ということもあります。患者さんが自分にとって都合のよい情報だけを取り入れて判断することは危険とも言えます。

■心理士:心理士たちの間でも、薬を飲んだら自殺のリスクが高くなるのではないか?・・・といった議論もありますね。

■薬剤師:はい、そういった議論は確かにあります。しかし、よくテーマになるSSRIの中でも、『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』は若年層(12~17歳)に対しても有効性と安全性が証明されている1)ように、薬は1つずつ大きく特徴も異なりますので、ひとまとめで語るのは賢明ではありません。それに、人それぞれの個別の状況や環境によって、適切な薬も変わります。自分に処方された薬に疑問や不安がある場合は、きちんと”薬の専門家”である薬剤師に相談してほしいと思います。

 1) レクサプロ錠 インタビューフォーム

子どもに薬を飲ませることに対して、罪悪感を抱いている親もいる

■心理士:親御さんのお話を伺っていると、お子さんに精神系の薬を飲ませることに対して、”罪悪感”を抱いている方は多くおられるようです。こうした罪悪感の解消も何とかしなければなりません。

■薬剤師:そうですね。そういった場合、「薬を飲み始めてから、授業で怒られることが少なくなったよ!」と薬の肯定的な評価を子どもが親にフィードバックできれば、こうした罪悪感は減り、「服薬してよかった」と思えるはずです。ただ、そううまく言葉で言えない子どももたくさん居ますし、それをどうやって促せば良いのかは難しいですね。

■心理士:仰る通りです。さらに、こうした精神系の疾患では、良くなっている事実”に本人たちが気づかないことも少なくありません。そうした場合、本人も気づいていない症状の改善に気づかせる、ということは治療へのモチベーションを高める意味でも大事ですね。

■薬剤師:例えばカウンセラーの方々は、そうした事実に”気づかせる”ために、どういったことをされているのでしょうか。

■心理士:例えば、「以前は〇〇と仰っていましたが、今はどうですか」といったように、以前お伺いしていた問題について改めて聞いてみる、ということをします。数値化させるのもポイントです。10段階で8くらい辛い、と言っていたのが、今は6くらいとなっていれば、それだけでも十分に”改善した事実”として,患者さんと一緒に確認することができます。

■薬剤師:なるほど。確かにそれがわかれば、「薬を飲んで良かった」というフィードバックになりますね。しかし、それもまた経験の浅い新人薬剤師には難しい問診かもしれません。何か第一歩としてできることはないでしょうか。

■心理士:新しい薬が処方された時や、薬が変わった時が、アプローチしやすいと思います。例えば、薬を飲み始めてから3~4週間ほど経った時に、学校の教師へ「最近、変化はありますか?」と聞いてみてください、とアドバイスするのはどうでしょうか。学校には複数の教師の目があるので、子どもの変化を把握しやすい環境です。予め、薬を飲み始める前にも「今日から薬が変わります」と伝えておくのも良いかもしれません。教師の情報から子どもの変化を客観的に評価できるので、薬の効果を実感できることになります。

■薬剤師:そのアドバイスはしやすいですね。特に、3~4週間後に教師から意見をもらおうとするならば、薬も続けて飲む必要があります。薬を処方されても飲まずに黙っている、という患者さんも多く、実際の服薬率は医師が考えているよりも相当低いことも指摘されています2)。こうしたアドバイスで服薬コンプライアンスの向上につなげられるかもしれません。

■心理士:医師も、同様のアドバイスをされていると思いますが、診察室では緊張してしまう人がたくさん居ます。その結果、そういった細かなアドバイスは忘れてしまっていることも少なくありません。薬局でも薬剤師の方からこうしたアドバイスを”念押し”してもらえると効果的だと思います。

 2) Psychiatr Serv.58(6):844-7,(2007) PMID:17535946

 ⇒対談記事2:

~対談を終えて(心理士の寄稿)

 スクールカウンセリングでは、子どもが発達障害の診断を受けて服薬しており、保護者が薬に対しての不安や疑問を心理士に尋ねてくることも少なくない。保護者は、そのような不安や疑問について診察時に医師と十分に話ができないのかもしれない。
 このように、専門家の支援を欲していても、それを自分からうまく伝えられない方が少なくないと感じている。

 利用できるリソースは多ければ多いほど、そのいずれかの専門家に支援を求めることができる。この対談を通して、薬剤師の方にそのリソースの一翼を担っていただけることを、心理士としてとても心強く感じた。

 ※対談は、2015年10月31日に行いました

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることがすべてのケースにあてはまるわけではありません。治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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【執筆】
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薬ゼミ、診断と治療社
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【講演・シンポジウム等】
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学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

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