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知っておくべきこと 高血圧

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高血圧の治療は、120mmHgと140mmHgのどちらを目標にするのが良い?~SPRINTの結果と厳格な降圧目標の問題点

 血圧は自分でも測定でき、さらに客観的な数値で評価されるため、周りの人たちと自分の数値が異なると不安に感じる人が少なくありません。
 特に、120mmHgと140mmHgのどちらを目標に治療するのか、人によって医師から説明された内容が異なるために、どちらが正しいのか混乱してしまっているケースもあります。

 結論から述べると、120mmHgと140mmHgのどちらが良いのかは、その人の状況によって異なります。周りの人と自分とは状況も違いますので、自分が医師から言われた数値を目標に治療するようにしてください。

回答:人によって違う

 収縮期血圧(SBP)は、低い方が血管に与える負荷は少なくなります。
 実際、140mmHgよりも120mmHgを目標に治療した方が心筋梗塞や脳卒中などのトラブルが少なくなる、とする調査報告があり、話題になっています。

 しかし、120mmHgを目指して薬を増やすと、血圧が下がり過ぎて低血圧を起こすといった副作用も起こりやすくなります。
 そのため、総合的に考えると、140mmHgを目指した治療を行う方が良いという場合もあります。
血圧は120か140か
 こういった背景から、120mmHgまで下げるべき、と言われる人も居れば、140mmHgくらいで良い、と言われる人も居る、という状況になっています。

回答の根拠①:120mmHg未満を目標にした方が良い場合がある

 収縮期血圧(SBP)120mmHg未満を目指す厳格な降圧治療と、140mmHg未満を目指す普通の降圧治療を比較した調査があります。
 この調査では、120mmHg未満を目指す厳格な降圧治療を行った方が、心筋梗塞や脳卒中などのトラブルを少なく抑えることができる、とされています1)。

 1) N Engl J Med.373(22):2103-16,(2015) PMID:26551272 通称:SPRINT

回答の根拠②:必ずしも120mmHgを目標にした方が良いとは限らない

 日本高血圧学会は、通常は140mmHg未満を目指すこととし、広く一般的に120mmHg未満を目指すことは勧めず、副作用にも十分注意しながら慎重な判断をするように言及しています2)。

 2) 日本高血圧学会 「SPRINTの結果発表を受けて:厳格な降圧治療の有用性と有害事象への注意」

 これには、いくつか理由が考えられます。

140mmHgでも良いと言われる理由①~持病による違い

 この調査は、糖尿病を合併していない人を対象に行われたものです。

 糖尿病を合併していると、収縮期血圧(SBP)を120mmHg未満を目指す厳格な降圧治療を行っても、合併症のリスクは変わらない、という報告がされています3)。

 3) N Engl J Med.362(17):1575-85,(2010) PMID:20228401

 このように、年齢や性別、生活環境などの他に、持病や病歴によっても治療目標は違ってきます。

140mmHgでも良いとされる理由②~副作用のリスクが増える

 高血圧の治療では、ARBやACE阻害薬Ca拮抗薬利尿薬β遮断薬などを組み合わせて使います。

 当然ながら、厳格な降圧治療を行うには、より多くの薬が必要です。実際、この調査でも平均2.8個と平均1.8個と、使った降圧薬の数も平均1個多くなっています。
 その結果、低血圧や腎臓への負担など、薬による副作用も増えてしまっています1)。

 特に、腎臓への負担は臨床研究では細かにチェックできますが、日常的な診療・診察の中では細かくチェックすることは難しいのが実情です。

薬を増やすかどうか
 こういった点から、副作用が増えるデメリットが、血圧を下げるメリットよりも上回ってしまうケースは少なくありません。
 その場合には、総合的に考えると薬を増やさず140mmHg未満を目指した方が良い、という判断をされることになります。

140mmHgでも良いとされる理由③~日米の処方実態の違い

 この調査が行われたアメリカでは利尿薬が使われることが多いですが、日本ではARBやCa拮抗薬の処方が多く、利尿薬はそれほど多くは使われていません4)。

 4) 東京大学 「次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業(レセプト情報等利活用に関する調査・検証)」 平成23年度事業報告書

 こうした点から、日本でもARBやCa拮抗薬を使って120mmHgまで血圧を下げた方が良いかどうかは、未知数の部分があります。
 このように、使っている薬によっても、目指す血圧の数値が異なってくる場合があります。

140mmHgでも良いとされる理由④~臨床的・経済的な意義

 この調査では、より厳格な降圧治療によって、年間2.19%のリスクを1.65%にまで下げることができる、としています1)。

 しかしこの場合、治療必要数(Number Needed to Treat [NNT])が200近くなるなど、臨床的・経済的にはそれほど意味がないとする意見もあります。

※NNT=200が意味するもの
 140mmHgを目標にした治療でも、心筋梗塞や脳卒中の予防効果はあります。その予防効果をより高め、心筋梗塞や脳卒中を防げる人を1人上乗せするためには、200人の治療目標を120mmHgに変える必要がある、という意味です。
 なお、大きな注目を浴びた『ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)』の心血管抑制効果では、NNT=62.5です。

薬剤師としてのアドバイス:友人・知人の数値に惑わされない

 血圧は客観的な数値で見えるために、つい友人・知人と比べてしまいがちです。
 しかし、数値だけを比較していると、自分の治療に不必要な不安を抱いてしまうことに繋がりかねません。
血圧目標の比較
 高血圧の治療はその人の持病や状況によって、目標とする数値も異なれば、使う薬も全く違ってきます。最近は、血圧の高い時間帯によって薬の飲み方も変わることがあります

 疑問や不安を抱いたときは医師・薬剤師などの専門家に相談し、不必要な不安を煽られないようにしてください。

+αの情報:薬の量を増やさず、血圧を下げられる方法もある

 ひとことに「高血圧」と言っても、ずっと血圧が高めの普通の高血圧から、朝に血圧が急上昇する「早朝高血圧(Morning surge)」や、夜間に血圧が高いままの状態が続くタイプ(non-dipper型)、病院でだけ血圧が上がる「白衣高血圧」など、血圧がどの時間帯、どういったタイミングで高くなるのか、人によって様々に異なります。

 こうした色々なタイプの「高血圧」を、一つの決まった方法だけで治療することはできません。それぞれのタイプに適した治療方法を選ぶ必要があります。
 そのために、その人の血圧を24時間継続して測定し、血圧変動の特徴を見極めるが行われるようになっています。

 特に、夜間に血圧が高いままの状態が続くnon-dipper型の高血圧では、朝に服用している薬を夕方に変更することで、治療効果を安定させることができる場合があります

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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