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薬学コラム 薬物動態学

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光学分割した薬の用量設定~光学異性体の特性と、半分量ではない理由

光学分割で改良された薬とは

 『ザイザル(一般名:レボセチリジン)』や『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』、『ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)』『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』など、光学異性体の「R体」・「S体」のうち、薬として有用な片方の異性体だけを抽出(光学分割)した薬が登場しています。
 こうした薬は、その光学異性体の性質によって元の薬よりも様々な面で改良されているのが特徴です。

 しかし、片方だけを分離したからといって、薬の量が単純に全て半分になっているわけではありません
光学分割された薬と、その用量
 これには、それぞれの光学異性体の性質によって「なぜ光学分割したのか」という理由、薬が開発された際の最新の考え方の違いが関係しています。

『ザイザル』~『ジルテック』の効果の主体「R体」だけを抽出し、半分の量に

 『ジルテック(一般名:セチリジン)』の光学異性体「R体」と「S体」は、薬としての強さ・効き目の長さが大きく異なります。

※『ジルテック』の光学異性体の特性 1)
効き目の強さ:「R体」は「S体」よりも30倍強い
効き目の長さ:「R体」は「S体」よりも17倍長い

 『ザイザル』は、この薬として効果の高い「R体」だけを抽出した薬です1)。
ザイザルの光学分割2
 1) ザイザル錠 インタビューフォーム

 このとき、『ザイザル』5mgと『ジルテック』10mgでは、同じ効果が得られることがわかっています2)。
 つまり、『ジルテック』の効果の主体は「R体」で、「S体」はほとんど薬の効果に関係していないことを意味しています。
ザイザルとジルテックの用量設定
 2) Allergy.56(1):50-7,(2001) PMID:11167352

※有効成分の比較(通常の1日量)
ザイザル(5mg) ・・・・ 「R体」5mg
ジルテック(10mg)・・・「R体」5mg + 「S体」5mg

 そのため、『ザイザル』の用量は『ジルテック』のちょうど半分、「R体」だけの分になっています。

『クラビット』~『タリビッド』の効果の主体「S体」だけを抽出し、更に増量

 『タリビッド(一般名:オフロキサシン)』の光学異性体「R体」と「S体」では、薬としての作用に大きな違いがあります。

※『タリビッド』の光学異性体の特性 3)
R体:ラセミ体と比べ、抗菌活性が1/10~1/100程度
S体:ラセミ体と比べ、抗菌活性が2倍
(ラセミ体:「R体」と「S体」が1:1で混ざっている状態)

 『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』は、この抗菌活性が強力な「S体」だけを抽出した薬です4)。
クラビットとタリビッド
 3) Antimicrob Agents Chemother.29(1):163-4,(1986) PMID:3460520
 4) クラビット錠 インタビューフォーム

 このとき、『クラビット』100mgと『タリビッド』200mgでは、同じ効果が得られることがわかっています4)。そのため、本来であれば『ザイザル』と『ジルテック』のように、『クラビット』は『タリビッド』の半分量になるはずです。

 しかし、『クラビット』の用量は通常500mgと、『タリビッド』の300~600mgと比べて半分以上になっています。

※有効成分の比較(1日最大量)
クラビット(500mg)・・・「S体」500mg
タリビッド(600mg)・・・「S体」300mg + 「R体」300mg

 これは、「S体」は毒性も低いこと3)、またキノロン系抗菌薬は血中濃度を一度に高めた方が効果的であること4)から、1日量がより高用量で再設定されたことが要因です。
クラビットとタリビッドの用量
 つまり、『クラビット』は『タリビッド』よりも強力になった抗菌薬だと言えます。

『ルネスタ』~『アモバン』の効果の主体「S体」を抽出し、更に減量

 『アモバン(一般名:ゾピクロン)』の光学異性体「R体」と「S体」では、「S体」が効果の主体です5)。『ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)』は、効果の高い「S体」だけを抽出した薬です6)。
ルネスタの光学分割
 5) J Med Chem.51(22):7243-52,(2008) PMID:18973287
 6) ルネスタ錠 インタビューフォーム

 そのため、本来であれば『ザイザル』と『ジルテック』のように、『ルネスタ』は『アモバン』の半分量になるはずです。しかし、『ルネスタ』の用量は1~3mgと、『アモバン』の7.5~10mgと比べて半分以下になっています。

※有効成分の比較(1日最大量)
ルネスタ(3mg)・・・・「S体」3mg
アモバン(10mg)・・・「S体」5mg + 「R体」5mg

 これは、そもそも『アモバン』が1日5mgでも効果が確認されていること7)、『アモバン』が開発された1989年より『ルネスタ』が開発された2012年の方が、睡眠薬の使用についての考え方が厳しく、より厳格な用量設定が行われたことが要因と考えられます。
ルネスタとアモバンの用量設定
 7) アモバン錠 インタビューフォーム

 つまり、最大用量で使えば効果は同じ(『ルネスタ』3mg=『アモバン』10mg)、とはならないことに注意が必要です。

『ネキシウム』~『オメプラール』のうち個人差の小さい「S体」だけで同じ量に

 『オメプラール(一般名:オメプラゾール)』の光学異性体「R体」と「S体」は、薬としての作用に大きな違いはありませんが、代謝のされ方が異なります。

※『オメプラール』の光学異性体の特性 8)
R体・・・全体の98%が、代謝酵素「CYP2C19」によって代謝される
S体・・・全体の6~7割程度が、代謝酵素「CYP2C19」によって代謝される

 この代謝酵素「CYP2C19」は、遺伝的によく働く人とあまり働かない人とが居ます。
 「R体」は、ほぼ全てが「CYP2C19」によって代謝されるため、この遺伝的体質によって効き目にも大きな個人差が出ます。
 一方で「S体」は「CYP2C19」以外の酵素でも代謝されるため、こうした遺伝的体質による個人差は小さく、より安定した効果が得られます。
ネキシウムの光学分割
 『ネキシウム』は、この「CYP2C19」の影響を受けにくく、個人差の小さい「S体」だけを使った薬です8)。

 8) ネキシウムカプセル インタビューフォーム

 ただし、「R体」にも薬としての効果はあるため、単純に「S体」だけの半分量にしてしまうと、薬の効果も半減してしまいます。そのため、『ネキシウム』が『オメプラール』と同じ効果を発揮するためには「R体」を取り除いた分だけ「S体」を増やす必要があります。
ネキシウムとオメプラールの用量設定

※有効成分の比較(通常の1日量)
ネキシウム・・・・「R体」10mg
オメプラール・・・「R体」5mg + 「S体」5mg

 このことから、『ネキシウム』は『オメプラール』を光学分割した薬ですが、用量は同じになっています。

光学分割された薬は他にも色々ある

 光学分割された薬は、飲み薬だけでなく貼り薬などでも登場しています。

※光学分割された医薬品の例
『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』・・・「シタロプラム(日本で未承認)」の「S体」
『ロコア(一般名:エスフルルビプロフェン)』・・・『ヤクバン(一般名:フルルビプロフェン)』の「S体」

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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