『ラミシール』と『イトリゾール』、同じ内服の水虫薬の違いは?~爪白癬に対する抗真菌薬の効果の強さと幅、相互作用の差
記事の内容
回答:一般的な爪白癬によく効く『ラミシール』、カンジダや体・頭の白癬にも応用が利く『イトリゾール』
『ラミシール(一般名:テルビナフィン)』と『イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)』は、どちらも爪の水虫(爪白癬)の治療に使う「抗真菌薬」の飲み薬です。
『ラミシール』は、皮膚糸状菌による一般的な爪白癬に対して効果が高く、併用禁忌も無い薬です。
『イトリゾール』は、爪カンジダに対して効果が高く、体・頭の白癬にも応用が利く薬です。

そのため、爪に感染している真菌の種類によって使い分けるのが一般的ですが、他にも爪以外の症状への効果、相互作用を起こしやすい薬なども大きく異なることから、様々な面で使い分けを行います。
なお爪水虫は、症状が軽いものであれば塗り薬で治療するという方法もあります。
回答の根拠①:一般的な爪白癬の”第一選択薬”になる「テルビナフィン」
「テルビナフィン」と「イトラコナゾール」は、足や体、爪、頭といった白癬症の治療に使われる、内服の抗真菌薬です1)。ガイドラインでは、どの部位の白癬症に対しても基本的に並列で同じように推奨されているため、明確な使い分けの基準はなく、どちらの薬でも治療を行うことができます。
※ガイドラインでの推奨度
足白癬 :どちらも【A:強く勧める】※外用薬が優先
体・股部白癬:どちらも【A:強く勧める】※外用薬が優先
爪白癬 :どちらも【A:強く勧める】※内服薬が優先
頭部白癬 :どちらも【A:強く勧める】※内服薬のみ
ただ、足白癬では特に優劣は確認されていない2)ものの、内服薬での治療が基本となる爪白癬では「テルビナフィン」の方が優れる3,4)とする報告が多く、海外では「テルビナフィン」を爪白癬の”第一選択薬”としているところもあります。
爪白癬は、ぶり返しも多く完治が難しい疾患のため、何か特別な事情がなければ、治療効果を重視して「テルビナフィン」を選ぶのが一般的です。

1) 日本皮膚科学会「日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019」
2) Cochrane Database Syst Rev . 2012 Oct 17;10(10):CD003584. PMID:23076898
3) BMJ.318(7190):1031-5,(1999) PMID:10205099
4) Br J Dermatol.141(Suppl 56):5–14,(1999) PMID:10730908
「テルビナフィン」に”併用禁忌”の薬はないが、注意は必要
「テルビナフィン」には、一部の薬の代謝・分解に関わる酵素「CYP2D6」を阻害する作用がある5)ものの、”併用禁忌”に指定されている薬もなく、併用薬の多い人でも使いやすい薬6)とされています。
しかし、その「CYP2D6」阻害作用は中等度~強力で7)、”併用禁忌”の薬がある「パロキセチン」の影響力とあまり変わらない可能性があります8,9)。
そのため、「CYP2D6」で代謝される「アミトリプチリン」や「デキストロメトルファン」などとの併用には注意する必要があります。
5) ラミシール錠 インタビューフォーム
6) Indian Dermatol Online J.8(5):310-318,(2017) PMID:28979861
7) Drug Metab Pharmacokinet.100414,(2021) PMID:34666290
8) J Clin Psychopharmacol.17(4):284-91,(1997) PMID:9241008
9) J Clin Pharmacol.42(11):1211-8,(2002) PMID:12412819
回答の根拠②:異なる菌種や体・頭の白癬にも応用が利く「イトラコナゾール」
爪白癬の多くは「皮膚糸状菌」によるものですが、一部に「カンジダ属」など別の菌種によって起こるもの(爪カンジダ)が混ざり込んでいることがあります。こうした爪カンジダには、「テルビナフィン」よりも「イトラコナゾール」の方が効果とされています10)。

また、体部・股部白癬に対しても「イトラコナゾール」の方が優れる、という報告がある11)ほか、頭部白癬でもMicrosporum感染によるものには、汗腺や脂腺から分泌されやすい「イトラコナゾール」の方が有用とされています1,12)。
そのため、爪からカンジダ属が検出された場合や、原因菌がはっきりしない場合、あるいは爪のほかに体や頭にも白癬症がある場合などには「イトラコナゾール」が優先的に選ばれることがあります。
10) Clin Cosmet Investig Dermatol.2:49-63,(2009) PMID:21436968
11) Indian J Pharmacol.51(2):116-119,(2019) PMID:31142947
12) Mycopathologia.182(1-2):87-93,(2017) PMID:27599708
「イトラコナゾール」は”併用禁忌”の薬が非常に多い
「イトラコナゾール」は、多くの薬の代謝・分解に関わる「CYP3A4」のほか、薬の排泄に関係する機構「P-糖タンパク」を強力に阻害するため、非常に多くの薬と”併用禁忌”の指定があります13)。
不用意に他の薬と併用すると思わぬ副作用を起こすことがあるため、「イトラコナゾール」を使う際には併用薬を必ず確認し、必要に応じて薬の量を調節したり、あるいは別の薬を切り替えたりといった対応が必要になります。

※併用禁忌の薬の数
テルビナフィン :0個
イトラコナゾール:30種以上
13) イトリゾールカプセル インタビューフォーム
薬剤師としてのアドバイス:爪が綺麗になるのには時間がかかる
足の水虫(足白癬)は、簡単で副作用も少ない”塗り薬”の抗真菌薬で治療することができます。しかし、その薬を爪に塗っても、爪の水虫(爪白癬)の治療にはなりません。薬が爪の奥深くまでは浸透せず、白癬菌を十分に退治できないからです。
そのため、爪白癬は「テルビナフィン」や「イトラコナゾール」といった内服の抗真菌薬を使って治療するのが基本になります1)。
ただし、症状がまだ進行し切っていない軽症の段階であれば、『クレナフィン(一般名:エフィナコナゾール)』や『ルコナック(一般名:ルリコナゾール)』といった、爪白癬専用の塗り薬で治療できることもあります。
なお、これらの抗真菌薬は爪白癬の原因菌を退治する薬であって、濁った爪を綺麗にする作用はありません。そのため、爪の見た目が綺麗になるのには、爪白癬の治療が成功してから爪がすべて生え変わるまで、さらに数ヶ月以上の時間がかかります。
”見た目が変わらない”ことを理由に、治療途中で挫折してしまわないように注意してください。

ポイントのまとめ
1. 『ラミシール(テルビナフィン)』は、皮膚糸状菌による爪白癬が得意で、CYP2D6を阻害する
2. 『イトリゾール(イトラコナゾール)』は、爪カンジダや体・頭の白癬が得意で、CYP3A4を強力に阻害する
3. 濁ってしまった爪が綺麗になるのには、”爪が生え変わる”のを待つ必要がある
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| テルビナフィン | イトラコナゾール | |
| 先発医薬品名 | ラミシール | イトリゾール |
| 系統 | アリルアミン系の抗真菌薬 | イミダゾール系の抗真菌薬 |
| 適応症 | 深在性皮膚真菌症、表在性皮膚真菌症 | 内臓真菌症、深在性皮膚真菌症、表在性皮膚真菌症 |
| ガイドラインの推奨 | 足白癬:【A】 爪白癬:【A】 頭部白癬:【A】 体部/股部白癬:【A】 | 足白癬:【A】 爪白癬:【A】 頭部白癬:【A】 体部/股部白癬:【A】 |
| 皮膚白癬に対する用法用量 | 1日1回125mg | 1日1回50~200mg |
| 爪白癬に対する用法用量 | 1日1回125mg (※24週間の投与が基本) | 「1回200mgを1日2回、1週間服用の後、3週間休薬」を3サイクル繰り返す |
| 爪カンジダに対する用法用量 | 1日1回125mg (※24週間の投与が基本) | 1日1回100mgを連日投与 (※約6ヶ月で効果判定) |
| 代謝酵素への影響 | CYP2D6を阻害 | CYP3A4を強力に阻害 |
| 併用禁忌の薬 | (なし) | 30種以上 |
| 血液検査の必要性 | 定期的な肝機能検査・血液検査の必要性について、警告文あり | 深在性真菌症に用いる場合は推奨 |
| 国際登場年 | 1990年 | 1988年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B1】 | オーストラリア基準【B3】 |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L3】 | MMM【L3】 |
| 世界での販売状況 | 世界116ヵ国 | 世界95ヵ国 |
| 剤型の規格 | 錠(125mg)、クリーム(1%)、外用液(1%) | カプセル(50mg) |
| 先発医薬品の製造販売元 | サンファーマ | ヤンセンファーマ |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:「テルビナフィン」の日本と海外の用量の違い
日本で使われている「テルビナフィン」は、海外の通常量の半分(1日125mg)になっています。これは、日本人を対象にした臨床試験で、1日250mgと1日125mgで効果に差は無く、また1日125mgの方が副作用は少なかったことが確認されているからです5,14)。
14) 日皮会誌.118:3089-97,(2008) CiNNi:130004708578
+αの情報②:治療期間と薬代の違い
爪白癬の治療において、1日1回の服薬で良い「テルビナフィン」に比べると、「イトラコナゾール」は「1日2回の服薬を1週間続けた後、3週間は休薬」を3サイクル繰り返す「パルス療法」という、複雑な服用が必要になります13)。
ただ、「テルビナフィン」での爪白癬治療には通常24週間かかる5)ことを踏まえると、この「パルス療法」では約12週間と半分の期間で治療が完了します。

そのため、「イトリゾール」の方が実際の服薬回数は少なく、初期コストも低く抑えることができますが、完治までのコストを考える際には”「テルビナフィン」の方が効果は高い”という要素も含めて検討する必要があります。
※1回の爪白癬治療にかかる期間や服薬回数、薬代の目安
| 治療期間 | 服薬回数 | 薬代(先発医薬品) | |
| テルビナフィン | 24週間 | 168回 (1日1回×24週間) | 54.80×168=9,206.40円 |
| イトラコナゾール | 12週間 (4週サイクル×3) | 42回 (1日2回×1週間×3) | 111.70×42=4,691.40円 |
+αの情報③:爪白癬治療の新薬『ネイリン』
『ネイリン(一般名:ホスラブコナゾール)』は、1日1回の服用を12週間続けることで爪白癬を治療することができる15,16)、2018年に登場した新しい抗真菌薬です。
「テルビナフィン」や「イトラコナゾール」との優劣はまだわかっていませんが、「テルビナフィン」のような定期的な肝機能・血液検査は不要で、なおかつ「イトラコナゾール」よりもCYP3A阻害作用が控えめと、それぞれの薬の弱点を補いつつ、爪白癬専用の外用薬では治らないような重症例への効果も確認されている17)など、有効性・安全性の両面から新しい可能性が期待されています。
ただし、まだ使用実績も少なく、また1回の治療で薬代が68,000円近くかかることもあり、現状では他の薬が適さない場面で使うような選択肢になっています。
15) ネイリンカプセル インタビューフォーム
16) J Dermatol.45(10):1151-1159,(2018) PMID:30156314
17) J Dermatol.50(8):1014-1019,(2023) PMID:37157898
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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