『ベシケア』と『ベタニス』、同じ過活動膀胱の薬の違いは?~抗コリン薬とβ3刺激薬、副作用の違いと適した年齢
記事の内容
回答:若い世代に使いやすい『ベシケア』、中高年に使いやすい『ベタニス』
『ベシケア(一般名:ソリフェナシン)』と『ベタニス(一般名:ミラベグロン)』は、どちらも過活動膀胱に使う薬です。
『ベシケア』は、生殖器系への影響が少ないため、若い世代に適した抗コリン薬です。
『ベタニス』は、抗コリン作用を持たないため口渇や便秘、認知機能の低下を起こしにくく、高齢者に使いやすいβ3刺激薬です。

過活動膀胱に対する治療効果は変わらないため、起こりやすい副作用から薬を選ぶのが一般的です。片方の薬で効果が不十分な場合には、併用することもあります。
回答の根拠①:「ソリフェナシン」と「ミラベグロン」~膀胱への作用と治療効果
「ソリフェナシン」と「ミラベグロン」の過活動膀胱に対する効果は、ほぼ同じであることが確認されています1)。そのため、ガイドラインでも推奨グレードはどちらも【A】で同じ評価になっています2)。
一方で、抗コリン薬である「ソリフェナシン」とβ3刺激薬である「ミラベグロン」では作用メカニズムが全く異なるため、現れやすい副作用は大きく異なります。使い分けを考える際には、この副作用の違いが重要な判断材料になります。
1) Neurourol Urodyn.38(1):22-30,(2019) PMID:30350884
2) 日本泌尿器科学会「過活動膀胱診療ガイドライン 第3版」
「ソリフェナシン」と「ミラベグロン」の作用の違い
膀胱は尿を溜めておく場所です。排尿する時には、膀胱を絞るように周りの筋肉(平滑筋)が「収縮」します。過活動膀胱では、膀胱の筋肉が「異常な収縮」を起こし、排尿の回数が増えてしまっています。
「ソリフェナシン」や「ミラベグロン」は、どちらも膀胱平滑筋に作用してこの「異常な収縮」を解消し、膀胱に尿を溜めておくことができる状態に戻す薬です。
「抗コリン薬」である「ソリフェナシン」は、「ムスカリンM3受容体」をブロック(遮断)することで、膀胱平滑筋の異常な収縮を和らげます3)。その結果、膀胱の緊張状態が解消され、尿意を感じる回数が減ります。

「β3刺激薬」である「ミラベグロン」は、「アドレナリンβ3受容体」を刺激することで、膀胱平滑筋を弛緩させます4)。その結果、膀胱に溜めておける尿の量が増えます。

3) ベシケア錠 添付文書
4) ベタニス錠 添付文書
回答の根拠②:抗コリン薬の「ソリフェナシン」に特徴的な副作用~高齢者には注意が必要な理由
「ソリフェナシン」のような「抗コリン薬」が作用する「ムスカリン受容体」は、膀胱だけでなく、口(唾液腺)・消化管(腸)・目(網様体)など全身の様々な臓器にも存在しています。
そのため、副作用は全身の色々な場所で現れやすく、特に口が渇く、便秘になる、眼が渇くといった症状が出やすい傾向にあります1,5)。
特に高齢者では、抗コリン作用は認知機能の低下を引き起こすこと、自覚なく抱えている前立腺肥大の症状を悪化させて尿閉(※強い尿意があるのに尿が出ない状態)を起こすリスクがあることから、「ソリフェナシン」のような抗コリン薬はとりわけ慎重な投与が必要とされています6)。

これらの点から、中高年から高齢者の過活動膀胱の治療では、こうした厄介な抗コリン作用を持たず、認知機能の低下も起こさない「ミラベグロン」7)の方が優先的に使われています6)。
5) Int J Clin Pract.60(8):959-66,(2006) PMID:16893438
6) 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(2025)」
7) BMC Geriatr.20(1):109,(2020) PMID:32183741
回答の根拠③:β3刺激薬の「ミラベグロン」に特徴的な副作用~若い世代には注意が必要な理由
「ミラベグロン」は抗コリン作用を持たないため、口渇や便秘などの不快な副作用は少なく1)、治療も継続しやすい8)ことがわかっています。
しかし「ミラベグロン」は、動物実験の段階で精嚢や子宮など生殖器系への悪影響が確認されていることから、若い人(生殖可能な年齢)への投与はできる限り避けるべきと添付文書に警告文が掲載されています4)。

ただし、これはあくまで実験動物に対して高用量を使った際のデータに基づいたもので、ヒトで明確な害が確認されているわけではありません。実際、海外ではそこまで警戒されていませんが、日本では潜在的なリスクを避けるため、やや強めの制限がかけられています。
このことから、若い世代には「ソリフェナシン」の方が使いやすくなっています。
8) Low Urin Tract Symptoms.10(2):148-152,(2018) PMID:27911988
β3刺激薬の「ミラベグロン」では心血管系への影響にも注意
「ミラベグロン」が作用する「β3受容体」は、心臓にも多く分布していることがわかっています。そのため、特に頻脈や血圧上昇といった心臓に関係した副作用が現れやすい傾向にあります9)。

このことから、「ミラベグロン」を使う際には心電図検査を行うよう注意喚起がされています4)。
9) Sci Rep.12(1):14219,(2022) PMID:35987885
薬剤師としてのアドバイス:男性の場合、前立腺肥大に伴う症状であることも多い
過活動膀胱は、尿意切迫感(※急に、我慢できないような強い尿意を感じること)を伴う頻尿の症状のことを指します。「ソリフェナシン」のような抗コリン薬、「ミラベグロン」のようなβ3刺激薬は、どちらも過活動膀胱の第一選択薬ですが、男性の場合は最初からこれらの薬が最優先で選ばれるとは限りません。
それは、特に中高年以降の男性では、その症状の原因が前立腺肥大にあるケースが多いため、『ハルナール(一般名:タムスロシン)』のようなα1遮断薬や『ザルティア(一般名:タダラフィル)』といった、前立腺肥大に伴う排尿障害の薬を優先的に使うことがよくある2)からです。
また、若い男性の場合は、脊柱管狭窄症などの神経疾患や前立腺炎などの病気が潜んでいる可能性もあることに注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 抗コリン薬の『ベシケア(ソリフェナシン)』は、抗コリン作用による口渇・便秘・認知機能の低下が起こりやすく、高齢者には不向き=若い世代向き
2. β3刺激薬の『ベタニス(ミラベグロン)』は、抗コリン作用による不快な副作用は少ないが、生殖器系への影響への懸念から若者には不向き=高齢者向き
3. 中高年以降の男性では、前立腺肥大に伴う排尿障害の薬が優先されることも多い
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ソリフェナシン | ミラベグロン | |
先発医薬品の名称 | ベシケア | ベタニス |
作用機序 | 抗コリン薬 | β3刺激薬 |
適応症 | 過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁 | 過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁 |
過活動膀胱のガイドライン 2) | 推奨グレード【A】 | 推奨グレード【A】 |
抗コリン薬リスクスケールの評価 | 【3】 | – |
高齢者の安全な薬物治療ガイドライン 6) | 常に慎重な投与を要する薬 | 開始を考慮すべき薬 |
特徴的な副作用 | 口の乾き、便秘、眼のかすみ | 高血圧、尿閉 |
服用後の自動車運転 | 禁止 | (制限なし) |
警告文の記載 | (記載なし) | 生殖可能な年齢への投与はできる限り避ける |
代謝酵素への影響 | CYP3A4で代謝される | CYP3A4で代謝される、CYP2D6を阻害する |
同種同効薬 | 『トビエース(一般名:フェソテロジン)』、『ステーブラ(一般名:イミダフェナシン』 | 『ベオーバ(一般名:ビベグロン)』 |
国際誕生年 | 2006年 | 2011年 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | オーストラリア基準【B3】 |
授乳中の安全性評価 | MMM【L4】 | MMM【L3】 |
世界での販売状況 | 世界93ヵ国 | アメリカ、イギリス、カナダ |
規格の種類 | 錠(2.5mg,5mg)、OD錠(2.5mg,5mg) | 錠(25mg,50mg) |
代表製剤の製造販売元 | アステラス製薬 | アステラス製薬 |
同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:抗コリン薬とβ3刺激薬の併用
「ソリフェナシン」と「ミラベグロン」を併用すると、それぞれを単独で使うよりも高い効果が得られる10,11)ため、片方の薬で十分に症状が改善しない場合の選択肢になります。
ただし、併用すると抗コリン作用とβ3刺激作用どちらの副作用も現れやすくなることに注意が必要です。
10) Ther Adv Urol.7(4):167-79,(2015) PMID:26445596
11) BJU Int.120(4):562-575,(2017) PMID:28418102
+αの情報②:β3刺激薬の新しい薬『ベオーバ(一般名:ビベグロン)』
過活動膀胱の治療に使うβ3刺激薬には、『ベオーバ(一般名:ビベグロン)』という新しい薬が登場しています。
「ビベグロン」と「ミラベグロン」で基本的な効果は同じ12)ですが、「ビベグロン」の方が血圧や心拍数への影響は少ない13)ため、高血圧や不整脈のある人でもやや使いやすくなっています。
また、「ビベグロン」は「ミラベグロン」と違って”生殖可能な年齢への投与制限”もない14)ことから、若い世代にも使いやすい薬になっています。
12) Low Urin Tract Symptoms.15(4):129-138,(2023) PMID:37143383
13) Blood Press Monit.27(2):128-134,(2022) PMID:34699409
14) ベオーバ錠 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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