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SSRI・SNRI 薬の誤解

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SSRIやSNRIなどの抗うつ薬は、根本治療になり得るのか?~脳由来神経栄養因子BDNFという鍵

回答:根本治療になる可能性がある

 既存の抗うつ薬(SSRIやSNRINaSSAなど)は、うつ病の症状を緩和する対症療法であって、根本治療にはならない、と認識している人は少なくありません。

 しかし、近年はSSRIなどの既存の抗うつ薬が、うつ病の「根本治療」になり得る可能性が多く示唆されています。その一つが「BDNF仮説」です。
 「BDNF仮説」では、SSRIやSNRIが投与開始から2~4週間ほど効果が現れないのは何故か、という疑問に対しても説明が可能で、非常に興味深い説と言えます。

回答の根拠①:BDNF(脳由来神経栄養因子)とは

 脳には、神経細胞に栄養を供給し、シナプスや神経細胞の数を増やすように働きかける因子が存在します。これを、「脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)」と言います。

 健康な人であればBDNFが活発に活動しているため、脳のシナプスや神経細胞には栄養が十分に供給されています。

 しかし、人体にストレスがかかり、ストレスホルモン(コルチゾール等)が分泌されると状況は変わってきます。短期的な分泌であれば問題ありませんが、長期に渡ってストレスホルモンが分泌され続けると、特に脳の「海馬」にあるBDNFが減少してくることが報告されています1)。

BDNFとうつ病の発症メカニズム
 1) BMC Neurosci.11:4,(2010) PMID:20074340

 BDNFが減少することによって、神経回路の形成異常や神経伝達障害など、脳の機能に実害が生じることが報告されています2)。
 また、実際にうつ病患者ではBDNFの量が減少していることも報告されています3,4)。

 2) Neurosci Lett.437(3):229-32,(2010) PMID:20219632
 3) Int J Neuropsychopharmacol.11(8):1169-80,(2008) PMID:18752720
 4) Biol Psyshiatry.64(6):527-32,(2008) PMID:18571629

回答の根拠②:抗うつ薬のBDNFへの作用

 SSRIやSNRIなど既存の抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンの回収を阻害し、その量を増やす作用があります。このとき増加したセロトニンやノルアドレナリンが、BDNFを増加させる働きをすることが報告されています5)。
BDNFと抗うつ薬の効果
 5) Nature.455(7215):894-902,(2008) PMID:18923511

 また、抗うつ薬の効果が現れた場合には血清BDNF濃度が大きく上昇する一方、十分な効果が得られなかった場合には血清BDNF濃度も上昇していないことも報告されています6)。

 6) 精神経誌 109:822-833,(2007)

 これらのことから、BDNFは抗うつ薬の効果判定にも利用できる可能性が示唆されています。

回答の根拠③:SSRIやSNRIの効果に、タイムラグが生じる原因

 SSRIやSNRIは通常、服用を始めてから2~4週間が経過しなければ効果が現れてきません。この原因については様々な説がありますが、このBDNFに焦点を当てることで極めて単純に説明することができます。

 SSRIやSNRIなどの抗うつ薬が、うつ病の症状に対して効果を発揮するためには、以下の3ステップを経る必要があります。

1.薬理作用としてセロトニンやノルアドレナリンを増やす
2.増えたセロトニンやノルアドレナリンによって、BDNFが増加・機能回復する
3.数が増えたBDNFによって栄養供給が改善し、シナプスや神経細胞の機能が回復する

 つまり、実際に脳の傷害が回復するという3段階目まで治療が進むのには、2~4週間程度の時間がかかる、ということになります。

 

薬剤師としてのアドバイス①:抗うつ薬は「根本治療にもなるんだ!」と思って飲む

 BDNF仮説はあくまで未だ仮説であり、うつ病は他の要因も複雑に関与している可能性があります。しかし、少なくとも既存の抗うつ薬には、根本治療になり得る可能性が十分にあると言えます。

 薬は、「こんなもの効くのか?」と疑いながら飲んでもあまり効きません。逆に、ただの片栗粉であっても「これは素晴らしい薬だ!」と思い込んで飲むと、何かしらの効果が得られることがあります(プラシーボ効果)。

 抗うつ薬も、「どうせ対症療法にしかならないし、飲んでもあまり効果ないだろう」と思って飲んでいては、せっかくの効き目も弱まってしまいます。「根本治療にもなるんだぞ!」と思って服用することで、より大きな効き目を引き出すことも不可能ではありません。

薬剤師としてのアドバイス②:治療に対する希望や、今の状態は正しく主治医に伝えよう

 医師は、処方した薬は服用している前提で診断をします。

 しかし薬剤師として勤務していると、何らかの事情で処方された薬を飲んでいないにも関わらず、その事実を医師に伝えていない、といったケースに頻繁に遭遇します。
 これでは医師も正確な状況を把握できず、「薬を飲んでいるのに一向に良くならない」と考え、薬の量を増やすしかなくなってしまいます。そんな状態で「薬ばかり出す」と医師を批判するのは暴論です。

 薬を飲んでいないのであれば、何故飲まなくなったのか、その理由も含めて医師に正直に伝えることが治療への第一歩です。良い医師であれば、きちんと理由を話せば、納得いく説明をしてくれたり、薬を変更したりといった対応をしてくれるはずです。

 基本的に医師と患者も人間関係です。合う、合わないは少なからず存在します。どうしても話ができない場合には、まずは自分に合った医師を探すことから始める必要があります。

 
 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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