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薬学コラム

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開発時には「思いもしなかった使われ方」をしている薬~創薬 Advent Calendar 2017

 本来、薬というのは「血圧を下げる薬を作ろう」「痛みを和らげる薬を作ろう」という明確な意図を持って研究・開発されます。しかし、中には研究・開発段階では思いもしなかった”意外な使い方”が見つかることもあります。

 今回は、そんな「開発時には思いもしなかった使われ方」をしている薬を「創薬 Advent Calendar 2017」の11日目の記事として紹介します。

①【ワーファリン】牧場の危機から見出された抗凝固薬

抗凝固薬『ワーファリン』の1mg錠
 『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』は、心筋梗塞や脳梗塞を防ぐための薬、血液をサラサラにする抗凝固薬です。
 PT-INRで効果を客観的に判定できること、ビタミンKで簡単に解毒できること、何より値段が安いことなどから、数々の新しい抗凝固薬(DOAC)が登場した2017年現在でも第一線で使われ続けています

 この『ワーファリン』は、1920年頃に北米を襲った牧場の危機と、その後に続いた偶然によって見出された薬です。

時代背景~牛肉大好きアメリカ人の牧場拡大作戦

 アメリカは「No Beef, No Life.」と言わんばかりの勢いで牛肉を消費する国ですが、それは今も昔もあまり変わりません。

 20世紀初頭、アメリカはほぼ全土に鉄道網が整備されたことで商業が大きく発展します。その結果、遠く離れた土地で作られた農産物・畜産物も、都市部で手に入るようになりました。
 事実、富裕層だけでなく一般的な家庭でも、週に2~3回はビーフステーキを食べられる(食べ過ぎ)ようになったことが記されています1)。

 1) The Ladies Home Journal.1904年9月号

 この「牛肉大量消費時代」を迎え、牧場主たちは更に大量の牛を飼育するようになります。近郊で牧場にする土地が足りなくなると、寒くて痩せた土地が広がる北緯40度以北の亜寒帯地域(北米~カナダ近辺)にまでその範囲を広げて牛を飼育し、都市部に牛肉を供給し続けようとしました。

萌芽~牧場を襲った謎の奇病

 このように「牧場拡大作戦」を続けていたアメリカですが、1920年ころ異変が起こります。若くて食欲旺盛な牛たちが、次々に出血して死んでいくという奇病が流行したのです。牧場主たちは「新たな伝染病だ!」と恐怖します。Alexander Flemingが抗生物質の「ペニシリン」を発見したのは1928年のことです。つまり、この頃はまだ「伝染病=死の病」、その恐怖はいわんやなになにをや。

 ちょうどこの頃と時期を前後して、北米やカナダで行われていた「牧場拡大作戦」の中で、1つ大きな変化がありました。それは牧草を「スイートクローバー」に切り替えたことです。
 マメ科シナガワハギ属の「スイートクローバー」は牧草の一種ですが、雑草に強く、痩せた土地・寒い気候でも豊富な収穫量を確保できることから、大量の牛を飼育するための飼料確保として、主に北米~カナダの牧場で新たに導入されていました。

 この「スイートクローバー」に目を付けたカナダの獣医病理学者Frank W.Schofieldらが、1922年、腐敗もしくはカビの生えた「スイートクローバー」を食べさせることがこの奇病の原因である、とする研究結果を報告します2)。これによって、牛の出血死は「スイートクローバー中毒」として広く知れ渡るようになります。

 2) Can Vet J.25(12):453-5,(1984) PMID:17422488  ※原著は1922年
 ※『ワーファリン』のインタビューフォームでは「腐敗」、原著では「mould(カビ)」と記載

 その後の研究で、「ムラサキウマゴヤシ(ビタミンKを豊富に含む)」を牛に食べさせるなどの対策は立てられつつありましたが、依然として「スイートクローバー中毒」が何故起こるのか、そのメカニズムはわからないままでした。

誕生~ジクマロールの単離と、殺鼠剤「warfarin」の登場

 1933年2月、北米ウィスコンシン州のある牧場の牛が「スイートクローバー中毒」で全滅の危機に瀕します。アメリカは世界恐慌の真っ只中、牧場主は破産の危機を何とかしようと、腐敗したスイートクローバー・死んだ牛・牛の固まらないままの血液を大量にトラックに積み込み、助けを求めて奔走しました。

 この大量のサンプルを受け取ったのが、ウィスコンシン大学の生化学者Karl Paul Gerhard Linkです(大雪で獣医師が休みだったため、たまたま生化学研究所にサンプルが持ち込まれたとする逸話もあります)。
 彼は「スイートクローバー」の名の由来でもある、特有の甘い香りを放つ物質「クマリン」に目をつけ、研究を始めます。そして、その後10年に渡る研究の末、「スイートクローバー」が腐敗すると「クマリン」が「ジクマロール」に変化すること、またこの「ジクマロール」が出血誘発物質であることを突き止めます3)。

 さらに1948年、この「ジクマロール」の出血作用をより強力にした物質が「殺鼠剤」として販売されるようになります。この物質は、Karl Paul Gerhard Linkの研究所である「Wisconsin Alumni Research Foundation」の頭文字に、クマリン系物質の語尾である「arin」をつけ、「warfarin」と名付けられました3)。

 3) ワーファリン錠 インタビューフォーム

 殺鼠剤「warfarin」を大量に摂取したネズミは内臓出血で死に至ります。また少量の摂取であっても、眼の内出血を起こして視力が低下するため、鈍い動きで明るい場所に出てくるようになり、退治が簡単になります。この非常に便利な殺鼠剤は、現在でも使われています(なお、warfarin耐性ネズミも登場しています)。

臨床へ~偶然から判明した簡単な解毒と有用性

 しばらく殺鼠剤として使われていた「warfarin」ですが、1951年、アメリカ陸軍の軍人が自殺目的で大量服用する事件が起こります。当時、「warfarin」はあまりに強力な出血誘発物質で、ヒトに使うには危険過ぎるものだと考えられていました。

 ところが、この軍人は病院で解毒剤「ビタミンK」の投与を受けるだけで全快(uneventful-recovery)します4)。
 この報告を受けて、「warfarin」がヒトの心筋梗塞や脳梗塞を防ぐ「抗凝固薬」として使えるのではないか?という可能性が一気に広がり、臨床研究が進むこととなりました。

 4) J Am Med Assoc.148(11):935-7,(1952) PMID:14897690

 『ワーファリン』は、20世紀の牧場の危機で見いだされ、殺鼠剤として使われている中で、偶然にヒトへの有用性が見つかりました。21世紀に入って、明確に凝固システムをターゲットにして創薬された『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』や『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』などの新しい経口抗凝固薬(DOAC)と、そんな偶然の産物の薬が、未だ互角に張り合っていることは、非常に面白いことです。

 

②【ニトロペン】爆薬工場の「憂鬱な月曜日」から見出された狭心症の薬

『ニトロペン』舌下錠(期限2017年8月分)
 『ニトロペン(一般名:ニトログリセリン)』は、狭心症の発作時に使う血管拡張薬です。
 飲み込んでしまうと効き目がなくなるため、舌下に入れて使います。厄介な副作用も少なく、1~2分で効果が出るなど即効性にも優れた薬のため、1879年に見出されて以来130年以上が経った現在でも広く使われています。

 この『ニトロペン』は、爆薬工場で働く人が決まって月曜日に体調不良になる「Blue Monday(憂鬱な月曜日)」から見出された薬です。

時代背景~世界有数の銀山でも「黒色火薬」しか使えなかった

 2007年、島根県の「石見銀山」が世界遺産に登録されました。
 「石見銀山」は、1592年にポルトガル宣教師Luís Teixeiraが描いた世界地図に「Hivami(石見)」と「Argenti fodinae(銀鉱山)」という表記が残っている5)ほど、西洋世界でも有名な銀山でした。というのも、15~16世紀の全盛期には世界の銀の3分の1を産出していたからです6)。
  当時の人は、その莫大な量の銀を「ツルハシ」と「槌」、そして「黒色火薬」だけで掘り出していました。

 5) 「地球の舞台 1595年版」オルテリウス/テイセラ日本図
 6) 「石見銀山遺跡とその文化的景観」Webサイト

 「黒色火薬」は今でも花火やクラッカーに使われていますが、つまり、少量ではその程度の爆発力しかありません。そして湿気に弱く、大量の煙と煤を出します。いくら火薬を使っていたとは言え、とても作業効率の良いものではありませんでした。
 そんな中、1847年にイタリアの化学者Ascanio Sobreroが、1滴でガラスのビーカーを吹き飛ばすほどの強力な爆薬「ニトログリセリン」の合成に成功すると、土木建築に革命が起こり始めます。

萌芽~なぜか「ニトログリセリン」を舐めてみる化学者たち

 「ニトログリセリン」は甘い香りがします。そして、実際に舐めてみると甘く刺激的な味がします7)。

 7) ニトロペン舌下錠 添付文書

 目の前に甘美な香りのする物質があれば味見してみたくなるのが人情、当時の化学者もなぜか「ニトログリセリン」をよく舐めてみたようです。そして、頭痛がするだの、心臓がバクバクするだの、耳鳴りがするだの、絞首刑にされたみたい(体験したことあるのか?)だの、実に色々な健康被害を報告しています。
 爆薬を舐めるとかアホなんじゃなかろうかと思う反面、薬剤師もよく薬の味見をする(※お薬ソムリエ)のでなんだか似たり寄ったり、好奇心には抗えないのかもしれません。

 こうした身体を張った諸々の実験の結果、「ニトログリセリン」には血管を広げる作用があることがわかります。
 そして1853年、アメリカの医学者Constantin Heringは、この「ニトログリセリン」の血管拡張作用は狭心症の治療薬として利用できるのではないか、と発表します8)。日本ではちょうど幕末、黒船が来航した年です。

 8) Springer-Verlag Berlin Heidelberg「Organic Nitrates」 (1975)

誕生~効く・効かないの大論争と、Blue Monday(憂鬱な月曜日)現象

 狭心症治療薬として注目された「ニトログリセリン」ですが、すぐに薬としては実用化されませんでした。最も大きな障害となったのは、学者によって効く・効かないの報告が入り乱れ、その効果のばらつきの理由を説明できなかったからです。

 そんな折、1871年にスウェーデンの化学者Alfred Bernhard Nobelが、「ニトログリセリン」を利用した爆薬「ダイナマイト」として開発すると、それまでの「黒色火薬」と入れ替わり、瞬く間に世界的ベストセラーとなります。
 土木建築や軍事の領域で爆発的に拡大した需要に対応するため、工場はフル稼働で「ニトログリセリン」を生産するようになります。そんな中、工場の労働者たちに不思議な現象が起こります。

 「月曜日の朝は、いつも胸が痛んで苦しい」

 まさにBlue Monday(憂鬱な月曜日)、休日明けの月曜日の朝は誰でも億劫なのです。以上、証明終わり…と片付けるわけにはいきません。当初は工場で扱う薬品による新たな病気ではないかという説も浮上しましたが、調査を進めると、この現象は元から狭心症の持病を持つ人に起きていることがわかります。さらに、「ダイナマイト工場で働いている間は、狭心症の発作が起こらない」という症例も見つかります。

 このBlue Monday現象は、以下のように説明することができます9)。

①平日 →工場で揮発した「ニトログリセリン」を皮膚や粘膜から吸収しているので、狭心症を起こさない
②休日 →自宅で過ごし、「ニトログリセリン」の効果が切れる
③月曜日→朝、「ニトログリセリン」の効果が切れた状態で労働するので、狭心症を起こす

 9) 公益財団法人 日本心臓財団「爆薬が心臓を癒す」

 イギリスの医師William Murrellはこの不思議な現象に眼を付け、「ニトログリセリン」は飲み込むのではなく粘膜から吸収させる必要があるのではないか、と考えます。実際、学者によって効く・効かないの報告が入り乱れていたのは「ニトログリセリン」の投与方法が、内服(飲み込む方法)と舌への滴下(粘膜から吸収させる方法)でバラバラだったからです。
 そして1879年、「ニトログリセリン」で狭心症を治療するためには舌下投与が必要である、ということを報告します10)。最初に狭心症治療薬としての可能性が指摘されて、20年近くもの歳月が流れた後のことです。

 10) Lancet.1(2890):80-1,(1879)

臨床~「舌下錠」や「テープ剤」としての利用

 「ニトログリセリン」を普通に飲み込むと、効果を発揮する前に肝臓でほとんど分解されてしまいます。そのため、内服では全く効果は得られません5)。このことから、現在でも「ニトログリセリン」製剤は肝臓での分解(初回肝通過効果)を避けるために「舌下錠」や「テープ剤」で使用します。

※ニトログリセリン製剤
『ニトロペン(舌下錠)』→舌下で溶かし口腔粘膜から吸収させる
『バソーレーター(テープ)』→皮膚に貼りつけて経皮的に吸収させる
(注:舌下錠をうっかり飲み込んでしまった場合には、次の新しい1錠を舌下で使う必要があります)

 当然ながら、こうした医薬品に使われている「ニトログリセリン」は爆発しないように添加物によって制御されています。ただし元が揮発性の高い物質のため、使用期限が過ぎていたり、包装から出したまま放置していたりすると、効き目は弱まってしまいます。
 御守のように『ニトロペン舌下錠』を財布などに入れている方は少なくありませんが、いま一度、使用期限が切れていないか、包装が破れていないか、確認することをお勧めします。

 

薬の開発経緯は病気との闘いの歴史

 20世紀の最も偉大な発明の1つとされる抗生物質「ペニシリン」は、培養シャーレにカビの胞子がうっかり混入した事故(コンタミ)から見出されました。
 ED治療薬として人気の『バイアグラ(一般名:シルデナフィル)』は、当初は狭心症治療薬として研究が進んでいましたが、妙にオジサンたちに人気だったことからその有用性が明らかになりました。
 また抗精神病薬の「クロルプロマジン」は、元は染料、次にアレルギー治療薬、最後に精神医学領域へ応用されるに至った異色の経歴を持っています。

 研究者たちの日々の努力によって少しずつ進歩する医薬品ですが、時々こうした「瓢箪から駒」が起こり、飛躍的なブレイクスルーを起こすことがあります。これは、思いもよらぬ結果が出た時に「失敗だ」と捨ててしまうのではなく、なぜそんな結果が出たのか、何が起こったのかを探求する精神が大切だということに他なりません。

 しかし、本来新薬の開発には莫大なお金と時間・労力がかかります。つまり、その薬にはそれだけ大きなリソースを割くだけの社会的意義や見返りがある、と思われなければ開発が始まりません。
 そのため、薬の開発経緯を紐解いていくと、そこには当時の社会情勢や公衆衛生、文化的側面が色々と見えてきます。その頃はどんな生活環境で、何が不治の病と思われていて、それに立ち向かった人たちは何に眼をつけどのような苦労をして薬を見出してきたのか。薬の開発経緯は病気との闘いの歴史でもあるのです。

 我々薬剤師は、その先人からの英知を引継ぎ、今を生きる人たちが治せる病で苦しむことのないよう、医薬品の適切・効果的なな使用のために日々活動しておりますので、今後ともご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします ( ゚Д゚)< 薬局での待ち時間とか!

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★PharmaTribuneにて連載中

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