『マイスリー』を躁うつ病、統合失調症の不眠に使えないのは何故?~”うつ病”の不眠には使えるのか


回答:不眠の原因となっている疾患の治療を優先すべき、という観点

 『マイスリー(一般名:ゾルピデム)』は、統合失調症と躁うつ病に伴う不眠症に対する有効性は期待できない、とされています。
 この文言が記載されている理由は、「原疾患の治療が優先されるべき」という注意喚起のため、とされています。

 そのため、統合失調症やうつ病に伴う不眠症に『マイスリー』を処方する場合、保険適用外の使い方になることに注意が必要です。


 しかし、『マイスリー』はベンゾジアゼピン系の睡眠薬と比べると副作用も少なく、非常に使いやすい薬です。

 実際には、こうした疾患伴う不眠症に対して『マイスリー』が処方されることも多く、この点は薬局の個別指導でも頻繁に指摘されている項目のため、何らかの理論武装が必要です。


 また、添付文書上は”躁うつ病”と記載されていますが、診断名が”うつ病”であっても査定で切られる事例が報告されています。これも、「原疾患の治療が優先されるべき」という観点からの査定と考えられます。



回答の根拠①:ニトラゼパムに対する非劣性を証明できなかった

 『マイスリー』の適応症は、不眠症(統合失調症と躁うつ病に伴う不眠症を除く)とされています1)。

 1) マイスリー錠 添付文書

 実際に、治験段階で『マイスリー』は統合失調症と躁うつ病に伴う不眠に対する効果が検証されています。

 この検証において、ベンゾジアゼピン系睡眠薬である『ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)』と比較し、効果の非劣性が証明できていません2)。
 このことが、「統合失調症と躁うつ病に伴う不眠症を除く」とされた理由です。

 2) 臨床医薬.9(1):107-136,(1993)


 ただし、この文言は「原疾患の治療が優先されるべき」という立場から、”注意喚起の意味で設定している”との記載もあります3)。

 3) マイスリー錠 インタビューフォーム



回答の根拠②:海外では統合失調症や躁うつ病にも使っている

 海外でも『マイスリー』と同じ薬は広く使用されています。

 アメリカでは『Ambien』という名前で同じ「ゾルピデム」製剤が使用されていますが、適応症に日本のような除外項目はありません。

※Ambienの適応症 4)
 indicated for the treatment of insomnia, characterized by difficulties with sleep onset and/or sleep maintenance.
 直訳:入眠障害あるいは睡眠維持の困難を特徴とする不眠症治療に適応する。

 4) Ambien CR 添付文書


 また、SSRIを服用中の「大うつ病性障害」の患者に対して『Ambien』を投与することで、入眠時間の改善、睡眠維持と総睡眠時間を改善する効果が実証されています5)。

 5) Sleep.31 Suppl:A1-382,(2008) PMID:18574901



+αの情報:”うつ病”でも保険適用外か?

 ”うつ病”と、”躁うつ病”は、異なる疾患です。

 いわゆる”うつ病”とは、「大うつ病性障害」のことで、うつ状態が続く疾患です。
 一方、”躁うつ病”とは、「双極性障害」のことで、うつ状態と躁状態を繰り返す疾患です。

 世界保健機構(WHO)の定義「ICD-10」においても、”うつ病”は「F32:うつ病エピソード」と「F33:反復性うつ病性障害」、”躁うつ病”は「F31:双極性感情障害<躁うつ病>」と、別の疾患として定義されています6)。

 6) WHO(世界保健機構)の疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版

 先述のように、「大うつ病性障害」に対しては効果が実証されていることから、”うつ病”に対しては保険適用だと考えることも可能です。

 しかし、”原疾患の治療を優先すべき”という観点から、実際の保険査定において”うつ病”への処方であっても保険が切られたという事例も報告されています。
 こうした場合、処方した医師と協議し、必要であれば申し立てを行う、診断名に「不眠症」を別途記載するなどの対応が必要になる場合もあります。



薬剤師としてのアドバイス:日本で薬を使う以上、保険適用には従うべき

 海外での使用実績や検証から、統合失調症や躁うつ病に伴う睡眠障害にも効果は期待できる、と考えることもできます。

 ただし、日本で保険を使って薬を使う以上、保険適用には基本的に従うべきです。そのため、個別指導時にも”原疾患の治療が優先されるべき”とする保険適用に対する理解を示す必要があります。


 なお、『マイスリー』はω受容体への選択性から、抗不安作用や筋弛緩作用はほとんどありません。そのため、強い不安や緊張を伴う不眠に対しては、ベンゾジアゼピン系の薬の方が適しているとも言えます。



 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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コメント

コメント一覧

    • なにわっこ
    • 2015年11月24日 10:50
    • はじめまして。
      他の薬剤を調べていて、このブログにたどり着きました。
      とても分かりやすく、感謝しております。

      ところで、この「『マイスリー』をうつ病、統合失調症の不眠に使えないのは何故?」というタイトルですが、
      内容を見ると、「躁うつ病と統合失調症の不眠」に対して保険適用できないのですよね?
      うつ病に対しては、保険適用ですよね?
      実際、私は、うつ病ですが、マイスリーを処方されています。
      このタイトルでは誤解を生じるので、修正された方が良いのではないのでしょうか?
      ご検討をよろしくお願いいたします。
    • Fizz
    • 2015年11月24日 12:30
    • >>なにわっこさん
       コメント、ご指摘ありがとうございます。
       ”躁うつ病”と”うつ病”の表記が入り混じっていた点、確かに誤解を招きかねない状態でしたので、加筆・修正を行いたいと思います。わざわざご指摘ありがとうございます。

       本文中にもあるように、いわゆる”うつ病”=大うつ病性障害に対しては、海外でも『マイスリー』の効果が実証されています。
       また、”うつ病”=大うつ病性障害と”躁うつ病”=双極性障害は別の疾患なので、”うつ病”に対して保険適用だと考えることも可能です。

       しかし、どうも日本の保険査定という「事務手続き」の上では、”うつ病”と”躁うつ病”に明確な線引きがされていないことがあり、”うつ病”への処方であっても保険が切られてしまう、といった事例があるようです。「原疾患の治療を優先すべき」という大義名分が、”うつ病”に伴う不眠症にも波及する場合、こうした査定をされる可能性が考えられます。

       今回のご指摘を受けて、”うつ病”と”躁うつ病”の診断上の区別と、こうした事務手続き上の問題とを個別に加筆することとしました。


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