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似た薬の違い 去痰・鎮咳薬

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『メジコン』と『アスベリン』、同じ咳止め薬の違いは?~風邪の咳に対する効果と、子どもの副作用

回答:効果の高い『メジコン』、副作用が少ない『アスベリン』

 『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』と『アスベリン(一般名:チペピジン)』は、どちらも咳止めの薬です。

 『メジコン』は、咳を止める効果の高い薬です。
 『アスベリン』は、副作用が少なく、小さな子どもに使いやすいです。

 特に『メジコン』は、”風邪の咳”にも効果が確認されている数少ない咳止めとして重宝しますが、副作用の問題から小さな子どもには『アスベリン』が選択されることもあります。

  

回答の根拠①:実際に咳の症状を和らげる効果が確認されている「デキストロメトルファン」

 「デキストロメトルファン」は、風邪などの「急性の咳」1,2)と、長引く「慢性の咳」3)の両方に効果が確認されている、数少ない薬です。

 風邪のような急性上気道炎では色々な症状が現れますが、なかでも”咳”は生産性や睡眠の質を著しく低下させる4)最も厄介な症状と言えます。そのため、咳止めの薬は多くの人から求められる、需要の高い薬です。
 ところが、「リン酸コデイン」を含めたほとんどの鎮咳薬は、”咳を止める作用”を持つ薬ではあるものの、風邪などの「急性の咳」に対してはほとんど効果を期待できない、偽薬(プラセボ)と同程度の効果しかない5)ことがわかっています。

 また、風邪のあとに長引く感染後咳嗽のような「慢性の咳」に対しても、「デキストロメトルファン」は”強力とされる”「リン酸コデイン」と優劣をつけられないくらいの効果が確認されています3)。つまり、「デキストロメトルファン」は急性・慢性どちらの咳にも高い効果を期待できる薬と言えます。

 一方で「チペピジン」は、急性・慢性どちらの咳に対しても実際の効果はほとんど報告がなく、期待できる薬学的なメリットは極めて限定的である、と考える必要があります。

 1) Cochrane Database Syst Rev . 2018 Apr 10;4(4):CD007094. PMID:29633783
 2) Pediatr Pulmonol.58(8):2229-2239,(2023) PMID:37232330

 3) Chest.144(6):1827-38,(2013) PMID:23928798
 4) Curr Med Res Opin.31(8):1519-25,(2015) PMID:26073933
 5) Cochrane Database Syst Rev. 2014 Nov 24;(11):CD001831 PMID:25420096

 

回答の根拠②:小さな子どもでも副作用の少ない「チペピジン」

 「デキストロメトルファン」と「チペピジン」は、どちらも保険適用上は乳幼児から使うことができます6,7)。
 しかし、「デキストロメトルファン」を子どもに使うと3人に1人の割合で副作用が出るという報告がある8)ほか、年少者の薬物濫用に悪用されることも多い9)ことから、子どもにはあまり気軽に使えません。

 その点、「チペピジン」は目立った副作用がなく10)、濫用のリスクも低いため、子どもにも使いやすい咳止めと言えます。

 6) メジコン配合シロップ 添付文書
 7) アスベリン錠 添付文書

 8) Indian J Pediatr.80(11):891-5,(2013) PMID:23592248
 9) Neuropsychopharmacol Rep.44(1):176-186,(2024) PMID:38299253

 10) Neuropsychiatr Dis Treat.10:147-51,(2014) PMID:24493927

 

薬剤師としてのアドバイス:風邪の咳にはどう対処すれば良いか

 風邪やインフルエンザ、新型コロナなどの感染症による”急性の咳”に対して、科学的にも有効だと確認されている咳止めの薬はほとんど無い、というのが実情です。そのため、”薬以外”のものにも目を向けて対応を考える必要があります。

 たとえば、「ハチミツ」は風邪の咳に対して「デキストロメトルファン」とほぼ同等の高い効果が確認されています1)。特に、「ハチミツ」を寝る前に10g程度(ティースプーン1杯)ほど摂取すると、夜間の咳が減って睡眠の質も改善することが報告されている11)ことから、風邪のときの咳止めとして活用が推奨されています12)。
 ただし、「ハチミツ」は1歳未満の子どもには使用しないよう注意が必要です(※乳児ボツリヌス症

 あるいは、胸や喉に塗布する『ヴェポラッブ』も、子どもの咳症状には効果が報告されている13)ため、試してみても良いと考えられます。

 なお、副作用の少ない「チペピジン」などの薬を”プラセボ代わり”に使うケースもありますが、“プラセボ代わり”であれば「のど飴」や「ラムネ菓子」でも十分に代わりは務まります。無理に咳止めの薬を使う必要はありません。
 特に、麻薬性鎮咳薬の「コデイン」は”最強”の咳止めというイメージで語られることが多いですが、風邪に伴う咳には効果がない、ということが確認されています14,15)。むしろ、「コデイン」は気道分泌を抑制することで痰(たん)の粘度を高める作用があるため、風邪で湿った咳をしているときには症状を悪化させる可能性すらあり、お勧めはしていません。

 11) Pediatrics.130(3):465-71,(2012) PMID:22869830
 12) BMC Pediatr.23(1):34,(2023) PMID:36670372
 13) Pediatrics.126(6):1092-9,(2010) PMID:21059712
 14) J Clin Pharm Ther.17(3):175-80,(1992) PMID:1639879
 15) J Pharm Pharmacol.49(10):1045-9,(1997) PMID:9364418

 

ポイントのまとめ

1. 『メジコン(デキストロメトルファン)』は、風邪の咳にも効果が確認されている咳止め
2. 『アスベリン(チペピジン)』は、副作用や濫用リスクが低く、子どもにも使いやすい
3. 風邪の咳には「コデイン」も効かないため、「ハチミツ(※1歳以上限定)」なども選択肢に考える

 

 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

デキストロメトルファンチペピジン
先発医薬品名メジコンアスベリン
適応症感冒・上気道炎(咽喉頭炎・鼻カタル)・急性/慢性気管支炎・肺炎・肺結核・気管支拡張症に伴う咳嗽感冒・上気道炎(咽喉頭炎・鼻カタル)・急性/慢性気管支炎・肺炎・肺結核・気管支拡張症に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難
用法1日1~4回1日3回
有効性を報告する論文多いほとんど無い
濫用薬物としての報告 8)2022年から急増特になし
使える年齢3ヶ月~
(※配合シロップ)
下限の設定なし
(1歳未満から使用可)
剤型の規格錠(15mg)、散10%、配合シロップ錠(10mg、20mg)、散10%、ドライシロップ2%、シロップ0.5%
先発医薬品の製造販売元シオノギファーマニプロ
同成分のOTC医薬品『メジコンせき止め錠Pro』など総合感冒薬などに配合
(※単剤商品は無い)

 

 

+αの情報①:感染後咳嗽には漢方薬や吸入薬という選択肢

 風邪のあとに残った乾いた咳(感染後咳嗽)は、時間とともに自然と治っていきますが、「コデイン」を含め多くの咳止めも効果的です。ただし、咳止めよりも漢方薬の『麦門冬湯』の方が効果は高いとされている16)ほか、症状がひどい場合には抗コリン薬の吸入薬17)などが優先的に使われます。 

 16) J Ethnopharmacol.178:144-54,(2016) PMID:26666732
 17) Pulm Pharmacol Ther.29(2):224-32,(2014) PMID:25111667

 

+αの情報②:長引く咳には”咳止め”ではなく根本的な治療を

 咳は体力を奪い、また肋骨の骨折にも繋がるため、必要に応じて咳止めを使うことも検討します。しかし、「デキストロメトルファン」や「チペピジン」などの咳止めが、全ての咳に効果的というわけではありません。

 喘息による咳には、咳止めは逆効果になることがあります。そのため吸入ステロイドを用いた根本的な喘息治療が必要です。
 逆流性食道炎による咳には、PPIやH2ブロッカーといった胃酸を抑える薬が必要です。
 鼻炎を起こしていると、鼻水が喉に流れ込むことで咳が続く(後鼻漏)ことがあります。この場合、ステロイド点鼻薬を含めた鼻炎の治療を行った方が効果的です。
 また他にも、子どもの咳の原因は”家族の喫煙”が原因であることもあります。その他、ACE阻害薬のように使い始めに咳が出やすい薬があったり、就寝時に横になると咳が酷くなるのは心不全の兆候である場合もあります。

 咳止めを使っても良くならない場合は、薬を飲み続けるのではなく、咳の原因が何かを一度明確にし、根本的解決のための改善案を考える必要があります。

 

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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