『ゾフルーザ』と『タミフル』、同じインフルエンザ治療薬の違いは?~治療効果と服用回数・値段・使用実績
記事の内容
回答:1回の服用で良い『ゾフルーザ』、安価で使用実績も豊富な『タミフル』
『ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)』と『タミフル(一般名:オセルタミビル)』は、どちらもインフルエンザの治療に使う抗ウイルス薬です。
『ゾフルーザ』は、1回の服用で治療が終わる、服用の手間が非常に少ない薬です。
『タミフル』は、値段が安く、使用実績も豊富な薬です。

便利さでは『ゾフルーザ』が優れていますが、コスト面や、特に子ども・妊婦といった患者層に対する使用実績の豊富さから『タミフル』が優先的に選ばれる場面もたくさんあります。
回答の根拠①:1回の服用で治療が終わる「バロキサビル」の便利さ
「バロキサビル」と「オセルタミビル」は、どちらも内服(飲み薬)のインフルエンザ治療薬です。基本的な効果は、インフルエンザの症状を24時間ほど短縮するくらいのもので、どちらもほとんど変わりません1,2)。
ただ、1日2回の服用を5日間続ける必要がある「オセルタミビル」3)に対し、「バロキサビル」は1回の服用だけで済みます4)。これは、「バロキサビル」の半減期が95.8時間と非常に長く4)、身体に長時間残り続けて効果を発揮し続けることが関係しています。
服用回数 | 半減期 | |
バロキサビル | 1回のみ | 95.8~99.6時間 |
オセルタミビル | 1日2回、5日間 (全10回) | 5.1~7.0時間 |
「バロキサビル」は1回の服用で治療が完了するため、服薬の負担が非常に少ないだけでなく、治療途中で服薬を自己判断で止めてしまったり、余った薬を他人に譲渡してしまったりといった、耐性化のリスクにつながる不適切使用が起こり得ない、という点でも便利な製剤と言えます。

1) N Engl J Med.379(10):913-923,(2018) PMID:30184455
2) Lancet Infect Dis.20(10):1204-1214,(2020) PMID:32526195
3) タミフルカプセル インタビューフォーム
4) ゾフルーザ錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:安価で使用実績も豊富な「オセルタミビル」~半減期が短いことの利点
2018年に登場した「バロキサビル」に比べ、1999年から使われている「オセルタミビル」は薬の値段がかなり安めで、かかる薬代は1/4以下です。「オセルタミビル」には更に安価なジェネリック医薬品(後発医薬品)もあるため、経済的負担を抑えるのにも良い選択肢になります。

※1回の治療にかかる薬価(2025年改定時)
・バロキサビル:1535.40(10mg錠)、2438.80(20mg錠)
→10~20kgの人:10mgを1錠=1535.40円
→20~40kgの人:20mgを1錠=2438.80円
→40~80kgの人:20mgを2錠=4877.60円
→80kg以上の人:20mgを4錠=9755.20円
・オセルタミビル:189.40(1Cap)
→1日2回を5日間で1,894円 (※後発医薬品であれば、1,077~1,116円)
「オセルタミビル」は、子どもや妊婦・重症患者への使用実績も豊富
「オセルタミビル」は、「バロキサビル」よりも古くから使われているぶん、幅広い患者層に対する使用実績が豊富です。そのため、特に小さな子どもや妊婦・重症患者に対しては、国内外のガイドライン等でも「オセルタミビル」の方が推奨度は高く設定されています5,6,7)。
特に12歳未満の子どもの場合、「バロキサビル」では23.4%に耐性が生じ、ウイルス排出や症状が長引くリスクがあるという報告8)もあるため、通常は「オセルタミビル」が優先的に使われます。

5) Obstet Gynecol.143(2):e24-e30,(2024) PMID:38016152
6) CDC 「Treating Flu with Antiviral Drugs」
7) 日本小児科学会「2024/25 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」
8) Clin Infect Dis.71(4):971-981,(2020) PMID:31538644
何回も服用しなければならないことの、意外なメリット
「オセルタミビル」は1日2回5日間、合計10回の服用が必要なため、「バロキサビル」に比べると服薬は確かに面倒です。
しかし、そのぶん”薬を中止すれば速やかに血中濃度が下がる”ため、何か副作用が現れた際にも対応は簡単です。また、万が一、薬を飲んだ後に嘔吐してしまった場合でも、「オセルタミビル」であればまだ9回分の薬が残っているので、そこから治療を再開しやすい、というメリットもあります。
薬剤師としてのアドバイス:薬の有無に関わらず「異常行動」には注意を
「オセルタミビル」が原因で起こると大きく報道された「異常行動」ですが、薬を使っていない子どもでも同じ頻度で起こっていることから、薬の服用とは関係なく、インフルエンザそのものによって起こるものだと結論づけられています9,10)。
つまり、薬を飲んでいなければ安心…というわけではない、ということです。

テレビや週刊誌・SNSなどでは、未だに「薬が原因で起こる」という間違った情報が流れることがありますが、これは薬を飲んでいない子どもの「異常行動」に対する注意の意識を薄れさせるという、非常に危険なものです。
子どもがインフルエンザで発熱しているとき、特に異常行動の70%が集中する発熱2日以内の間10)は、薬の有無に関わらず、異常行動による事故を防ぐために「1階に寝かせる」「部屋の窓の鍵を閉める」といった対策を行うことを強くお勧めします(※厚生労働省の注意喚起ポスター ※PDF)。
9) J Infect Chemother.20(12):789-93,(2014) PMID:25284815
10) Pharmacoepidemiol Drug Saf.28(4):434-436,(2019) PMID:30834626
ポイントのまとめ
1. 『ゾフルーザ(バロキサビル)』は、1回の服用で治療が完了するため、非常に手間が少なく便利
2. 『タミフル(オセルタミビル)』は安価で、小児や妊婦・重症例に対する使用実績も豊富
3. インフルエンザによる「異常行動」は、薬を使っていなくても起こることに注意
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
バロキサビル | オセルタミビル | |
先発医薬品名 | ゾフルーザ | タミフル |
薬効分類 | エンドヌクレアーゼ阻害薬 | ノイラミニダーゼ阻害薬 |
投与経路 | 内服 | 内服 |
服用回数 | 1回のみ | 1日2回を5日間 |
半減期 | 95.8~99.6時間 | 5.1~7.0時間 |
適応症 | A型・B型インフルエンザウイルスの感染症とその予防 (※10mg錠は治療のみ) | A型・B型インフルエンザウイルスの感染症とその予防 |
投与のタイミング | 発症から48時間以内 | 発症から48時間以内 |
国際誕生年 | 2018年 | 1999年 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | オーストラリア基準【B1】 |
剤型の規格 | 錠(10mg、20mg)、顆粒(2%) | カプセル(75mg)、ドライシロップ(3%) |
世界での販売状況 | 世界75ヵ国 | 世界76ヵ国 |
先発医薬品の製造販売元 | 塩野義製薬 | 中外製薬 |
同成分のOTC医薬品 | (なし) | (なし) |
+αの情報①:「バロキサビル」のB型インフルエンザに対する効果
子どものB型インフルエンザに対して、「バロキサビル」は「オセルタミビル」よりも症状緩和の効果が高いとする報告があります11)。ただし、子どもに対する「バロキサビル」の使用実績は少なく、特に6歳未満の子どもには”積極的には推奨されていない”という点には注意が必要です7)。
11) Pediatr Int.64(1):e15169,(2022) PMID:32526195
+αの情報②:1日で治療が終わっても、すぐ学校に行けるわけではない
インフルエンザを発症した場合、「発症した後5日間を経過し、かつ解熱した後2日(幼児では3日)を経過するまで」は出席停止の期間と定められています12)。
特に、1回で治療が終わってしまう「バロキサビル」では、服薬から2~3日後に「症状も治ったし、薬も飲んでいないし、もう治っただろう」と勘違いして外出してしまうことがよくあります。周囲の人に感染を広げてしまわないよう、出席停止の期間は正確に把握しておくことが大切です。
12) 学校保健安全法施行規則第19条
+αの情報③:インフルエンザの治療中に重症化してきた場合は?
インフルエンザの「重症化」とは、高熱が出たり、強い関節痛が現れたりすることではなく、”生命に関わるような重篤な事態に陥ること”を意味します。療養中に下記のような症状が現れてきた場合は、本当の意味での「重症化」の恐れがあります。すぐに病院に連絡し、今後の対応を相談するようにしてください。
※インフルエンザ重症化の兆候(緊急で病院受診した方が良い状況)13)
(成人)
・呼吸困難や息切れ
・胸や腹部に痛みや圧迫感
・突然のめまい
・意識の混濁、混乱
・ひどい嘔吐、持続する嘔吐
・一旦症状が治まってからの再悪化
(小児)
・呼吸困難、呼吸が速い
・肌が青みがかっている
・十分に水を飲まない
・反応が鈍い、反応がない
・抱っこを嫌がるほどイライラしている
・一旦症状が治まってからの再悪化
13) CDC 「Influenza(Flu) What are the emergency warning signs of flu sickness?」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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