記事の内容
- 1 回答:作用の強さが異なるため、症状や部位によって明確に使い分ける
- 2 回答の根拠①:ステロイド外用薬、5段階のランクと使い分けの目安
- 3 回答の根拠②:皮膚の厚さと薬の吸収率~厳密な使い分けが必要な理由
- 4 薬剤師としてのアドバイス:ステロイド外用薬を”悪者”のように扱う偽健康情報に注意
- 5 薬のカタログスペックの比較
- 6 +αの情報①:アメリカではより詳細に「7段階」にランク分けされている
- 7 +αの情報②:ステロイド外用薬で、皮膚は黒くならない
- 8 +αの情報③:ステロイド外用薬は、保湿剤との重ね塗りが効果的
- 9 +αの情報④:虫刺されには、Ⅴ群のステロイド外用薬が”便利”
- 10 +αの情報⑤:ステロイド外用薬は、妊娠中でも使える
- 11 +αの情報⑥:『リンデロン』の塗り薬は4種類ある
回答:作用の強さが異なるため、症状や部位によって明確に使い分ける
『デルモベート(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)』、『アンテベート(一般名:ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)』、『ボアラ(一般名:デキサメタゾン吉草酸エステル)』、『ロコイド(一般名:ヒドロコルチゾン酪酸エステル)』は、いずれもステロイドの外用薬(塗り薬)です。
ステロイド外用薬は、その作用の強さによって5段階にランク分けされています。
『デルモベート』は最も作用の強いⅠ群(strongest)の薬で、主に”切り札”として使われます。
『アンテベート』は次に作用の強いⅡ群(very strong)の薬で、手足などの強い症状によく使われます。
『ボアラ』は5段階中3番目に強いⅢ群(strong)の薬で、ちょうど中間くらいの強さです。
『ロコイド』は作用がやさしめのⅣ群(medium)の薬で、皮膚の薄い場所や子どもにもよく使われます。

安全かつ効果的にステロイド外用薬を使うためには、部位ごとに適切なランクの薬を選ぶ必要があります。
回答の根拠①:ステロイド外用薬、5段階のランクと使い分けの目安
日本では、ステロイド外用薬は最も強力な「Ⅰ群」から、最もやさしい「Ⅴ群」まで、全部で5段階にランク分けされています1)。その中で、『デルモベート』はⅠ群、『アンテベート』はⅡ群、『ボアラ』はⅢ群、『ロコイド』はⅣ群に分類される薬です。
Ⅰ群:strongest
ステロイド外用薬として最も強力なランク。手や足といった皮膚の厚い場所の、特に症状のひどい場所に、短期間に限って使うような”切り札”の薬です。
Ⅱ群:very strong
上から2番目に強いランク。主に手や足のほか、体幹などの症状がひどい場所に対して、こちらも一時的に使用する薬です。
Ⅲ群:strong
5段階中3番目、ちょうど中間のランク。お腹や首といった皮膚のやや薄い体幹や、子どもの手足などにもよく使われているランクです。このランクの薬はOTC医薬品としても販売されています。
Ⅳ群:medium
5段階中4番目で、ステロイドとしては作用が比較的やさしめな薬が分類されるランクです。顔などの皮膚の薄い場所や、小さな子どもの身体にはこのランクの薬が選ばれるのが一般的です。
Ⅴ群:weak
ステロイド外用薬としては最も弱いランク。医療用医薬品としては眼や耳にも使える特別な薬、OTC医薬品では虫刺されなどにも配合されている薬が該当します。
| ランク | 該当する薬 |
| Ⅰ群 strongest | デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル) ダイアコート、ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル) |
| Ⅱ群 very strong | フルメタ(モメタゾンフランカルボン酸エステル) アンテベート(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル) トプシム(フルオシノニド) リンデロンDP(ベタメタゾンジプロピオン酸エステル) マイザー(ジフルプレドナート) ビスダーム(アムシノニド) ネリゾナ、テクスメテン(ジフルコルトロン吉草酸エステル) パンデル(酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン) |
| Ⅲ群 strong | メサデルム(デキサメタゾンプロピオン酸エステル) リンデロンV、ベトネベート(ベタメタゾン吉草酸エステル) エクラー(デプロドンプロピオン酸エステル) ボアラ(デキサメタゾン吉草酸エステル) フルコート(フルオシノロンアセトニド) |
| Ⅳ群 medium | リドメックス(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル) アルメタ(アルクロメタゾンプロピオン酸エステル) キンダベート(クロベタゾン酪酸エステル) ロコイド(ヒドロコルチゾン酪酸エステル) レダコート(トリアムシノロンアセトニド) |
| Ⅴ群 weak | プレドニゾロン(プレドニゾロン) テラ・コートリル、オイラックスH(ヒドロコルチゾン) |
1) 日本皮膚科学会 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン (2024)」
回答の根拠②:皮膚の厚さと薬の吸収率~厳密な使い分けが必要な理由
人間の皮膚は、場所によって厚さが大きく異なるため、同じ薬を塗っても吸収される量は変わります。例えば、皮膚の薄い「顔」と皮膚の厚い「足のうら」では、薬の吸収率は100倍近く異なることがわかっています。
※薬の吸収率の比 2)

皮膚が薄い顔に、Ⅰ群やⅡ群の強いステロイド外用剤を使うと、皮膚が薄くなるなどの副作用が強く現れる恐れがあります3)。逆に、皮膚が厚い手足に、Ⅳ群やⅤ群の弱いステロイド外用剤を使っても、十分な効果を得られないことがあります。
そのため、同じような症状であっても、塗布する場所によって適切なランクのステロイド外用薬を選ぶ必要があります。
2) J Invest Dermatol.48(2):181-3,(1967) PMID:6020682
3) J Am Acad Dermatol.20(5 Pt 1):731-5,(1989) PMID:2654214
「皮膚の厚さ」だけでなく、「重症度」によっても選ぶランクは変わる
ステロイド外用薬は、「皮膚の厚さ」だけでなく、「重症度」にも応じて適切なランクを選ぶ必要があります。
そのため、たとえば子どもの顔には「Ⅳ群」か「Ⅴ群」といった”やさしめ”のステロイド外用薬を選ぶのが基本ですが、重症のアトピー性皮膚炎などの場合には、まずは速やかに症状を抑えるために「Ⅲ群」の薬を使う、といった選択をすることもあります1)。
薬剤師としてのアドバイス:ステロイド外用薬を”悪者”のように扱う偽健康情報に注意
アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬を長く使い続ける必要があるために、途中で挫折してしまったり、薬の効果や意義に疑問を抱いてしまったりするケースがよくあります。こういったタイミングで、インターネットやSNSに出回る「ステロイド外用薬は使わない方が良い」などといった情報を見つけると、非常に魅力的な話のように感じられてしまうかもしれません。
しかし、こうしたステロイド外用薬の中断を行った人の3人に2人が、その後に”人生で最も重い症状への悪化”を経験しています4)。
さらに、アトピー性皮膚炎の重症化・合併症による入院例の44%は、根拠のない民間療法による”不適切な治療”が原因とされています5)。
つまり、不用意にステロイド外用薬を中断してしまうことは、非常に分の悪い、危険な判断になってしまう、ということです。
ステロイド外用薬は、際限なく使い続ける薬ではなく、”ゴール”や”止め時”を考えることも必要です。また、現在はステロイド外用薬以外にもアトピー性皮膚炎の治療に使える薬が色々あります。治療に疑問や不安を感じた際は、インターネットやSNS上の不確かな情報ではなく、主治医と相談して、自分に合った治療方針を考えるようにしてください。
4) Drug Healthc Patient Saf.7:57-62,(2015) PMID:25897263
5) 日皮会誌.110(7):1095-8,(2000)
ポイントのまとめ
1. ステロイド外用薬は、その作用の強さで5ランク(Ⅰ群~Ⅴ群)に分類される
2. 皮膚の厚さによって薬の吸収率は異なるため、部位ごとに適切なステロイド外用薬のランクは変わる
3. アトピー性皮膚炎の治療において、ステロイド外用薬を”悪者”のように扱うデマ情報に要注意
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| クロベタゾールプロピオン酸エステル | ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル | デキサメタゾン吉草酸エステル | ヒドロコルチゾン酪酸エステル | |
| 先発医薬品名 | デルモベート | アンテベート | ボアラ | ロコイド |
| 強さのランク | Ⅰ群:strongest | Ⅱ群:very strong | Ⅲ群:strong | Ⅳ群:medium |
| 顔への使用 | 注意の記載あり | – | – | – |
| 症状改善後の対応 | より緩和な薬へ切り替え | 使用を中止 | – | – |
| 国際登場年 | 1973年 | 1993年 | 1986年 | 1975年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【B3】 | – | – | – |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L3】 | MMM【L3】 | MMM【L3】 | MMM【L2】 |
| 世界での販売状況 | 欧米各国 | – | – | アメリカなど数十か国 |
| 剤型の規格 | 軟膏(0.05%)、クリーム(0.05%)、スカルプローション(0.05%) | 軟膏(0.05%)、クリーム(0.05%)、ローション(0.05%) | 軟膏(0.12%)、クリーム(0.12%) | 軟膏(0.1%)、クリーム(0.1%) |
| 先発医薬品の製造販売元 | グラクソ・スミスクライン | 鳥居薬品 | マルホ | 鳥居薬品 |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) | (販売されていない) ※Ⅲ群のステロイド外用薬としては、『リンデロンVs』がある | 『ロコイダン』 |
+αの情報①:アメリカではより詳細に「7段階」にランク分けされている
日本では「5段階」のランクに分けられているステロイド外用薬1)ですが、アメリカではもっと細かく「7段階」のランクに分けられています6)。
日米で薬の強弱が大きく変わっていることはありませんが、アメリカでは軟膏かクリームかといった剤型の違いも踏まえた、より詳細なランク分けになっています。
※アメリカの7段階のランク
class1:superpotent
class2:potent
class3:upper mid-strength
class4:mid-strength
class5:lower mid-strength
class6:mild
class7:least potent
6) Clinical and Basic Immunodermatology (Springer Science & Business Media 2008)
+αの情報②:ステロイド外用薬で、皮膚は黒くならない
アトピー性皮膚炎の治療でステロイド外用薬を使っていると、皮膚が黒っぽくなってきたように見えることがあります。これをステロイド外用薬の副作用だと勘違いして、治療を中断してしまうことがよくありますが、ステロイド外用薬に皮膚を黒くする作用はありません。
この皮膚の黒ずみの本当の原因は、アトピー性皮膚炎によって強い炎症が起きたことで生じる「炎症後色素沈着」と、痒みによって何度も皮膚をこすってしまうことで起こる「摩擦性黒皮症」です7)。

そのため、皮膚が黒っぽくなってしまうのを避けるためには、炎症や痒みを早く治めること、つまりステロイド外用薬をしっかり使って治療することが重要になります。
7) Dermatology.229(3):174-82,(2014) PMID:25227244
+αの情報③:ステロイド外用薬は、保湿剤との重ね塗りが効果的
ステロイド外用剤は、『ヒルドイド(一般名:ヘパリン類似物質)』などの保湿剤と一緒に使うことで、より高い効果を得ることができます8)。
このとき、塗布順序で薬の効果や安全性に大きな違いが生じるわけではない9)ため、どちらの薬を先に塗布しても問題ありません。

通常は、塗布する範囲の広い「保湿剤」を使ってから、「ステロイド外用薬」をピンポイントで重ね塗りすることが多いですが、「保湿剤」だけを塗って満足してしまうと治療にならないため、より重要な「ステロイド外用薬」の方を先に塗布することもあります。
8) Pediatr Dermatol.25(6):606-12,(2008) PMID:19067864
9) Pediatr Dermatol.33(2):160-4,(2016) PMID:26856694
+αの情報④:虫刺されには、Ⅴ群のステロイド外用薬が”便利”
虫刺されで起こる一時的な炎症には、たとえ足のような皮膚の厚い場所であっても、「Ⅴ群」の弱いステロイド外用薬でも十分に効果的とされています10)。そのため、虫刺されにステロイド外用薬を使う場合は、足でも顔でも、”どこを刺されても使える”ように「Ⅴ群」のような、作用がやさしめの薬がよく選ばれます。

10) 皮膚.29(2):310-317,(1987)
+αの情報⑤:ステロイド外用薬は、妊娠中でも使える
ステロイド外用薬は、妊娠中に使っても胎児に悪影響を与えることは基本的にありません11,12)。そのため、妊娠を理由にステロイド外用薬の使用を止めたり避けたりする必要はありません。
ただ、海外ではより安全を期して、妊娠中には「Ⅲ群」や「Ⅳ群」の薬を中心に、少しランクの低い薬で対応しているところもあります13)。
11) Teratology.56(5):335-40,(1997) PMID:9451758
12) JAMA Dermatol.157(7):788-795,(2021) PMID:33950165
13) Br J Dermatol.165(5):943-52,(2011) PMID:21729030
+αの情報⑥:『リンデロン』の塗り薬は4種類ある
『リンデロン』という名前のステロイド外用薬には、「DP」「V」「VG」「A」の4種類の製剤があります。この4種は、ステロイドとしての強さや配合成分も異なる、全く異なる薬です。似た名前の薬ですが、混同して使わないように注意してください。
※4種の『リンデロン』の違い
リンデロンDP:Ⅱ群(一般名:ベタメタゾンジプロピオン酸エステル)
リンデロンV:Ⅲ群(一般名:ベタメタゾン吉草酸エステル)
リンデロンVG:Ⅲ群+抗菌薬(一般名:ベタメタゾン吉草酸エステル+ゲンタマイシン)
リンデロンA:Ⅴ群相当+抗菌薬(一般名:ベタメタゾンリン酸エステル+フラジオマイシン)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











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