■サイト内検索


スポンサードリンク

SSRI・SNRI 薬物動態学

/

『パキシル』を急に止めると、頭痛や耳鳴りがするのは何故?~非線形薬物は血中濃度変化が大きい

回答:SSRIは減らすときも徐々に

 『パキシル(一般名:パロキセチン)』などの「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」は、薬の飲み始めも、薬を止めるときも、徐々に減らしていく必要があります。

 それまで40mgを服用していたのに、ある日突然0mgにしてしまうと、体内の薬の濃度が急に下がり、頭痛・吐き気・耳鳴り・めまいなどの離脱症状を起こす恐れがあります。

 『パキシル』は特に、薬の血中濃度が大きく変動しやすい、という特徴があります。
 そのためSSRIの中でも離脱症状を経験する人が多く、より気を付けて減量する必要があります。絶対に自己判断で薬を減らしたり止めたりしないようにしてください。

回答の根拠:『パキシル』は非線形薬物

 10mgの薬を毎日飲んでいる人と、20mgの薬を毎日飲んでいる人の薬の血中濃度を比較すると、1:2になるのが普通です。倍の量を飲んでいれば、血中濃度も倍になります。

 ほとんどの薬はこうした特徴を持つ「線形薬物」です。
線形薬物

 しかし、薬の中にはこうした単純計算ができないものがあり、『パキシル』もその1つです。

※『パキシル』服用時の、最大血中濃度 1)
10mg服用時・・・Cmax 1.93ng/mL
20mg服用時・・・Cmax 6.48ng/mL
30mg服用時・・・Cmax 26.89ng/mL

 1) パキシル錠 添付文書

 このように、『パキシル』は飲む量を10mgから倍の20mgに増やすと、血中濃度は約3倍になります。
 20mgから1.5倍の30mgに増やすと、血中濃度は約4倍になります。

 このように飲んだ量と血中濃度が比例しない薬が存在します。こうした特徴を「非線形性」と呼びます。
非線形薬物

 こうした「非線形」の薬は、薬の量を2倍にしたとき、血中濃度は3倍にも4倍にも上昇する可能性があります。同様に、薬の量を半分にしたとき、血中濃度は50%にも25%にも低下する可能性があります。

 つまり「非線形」の薬は、単純な予想よりも遥かに大きく血中濃度が変動する薬、と言えます。

 『パキシル』の減量や中止で離脱症状が起こりやすいのは、このように血中濃度が大きく変動する「非線形性」が要因の1つです。

薬剤師としてのアドバイス:薬の量は、医師と相談の上で決める

 薬をなるべく飲みたくない、という気持ちに無理はありません。
 しかし、だからと言って自己判断で薬を止めてしまったり、飲む量を変えてしまったりすると症状が悪化し、かえって治療が長引いてしまうことになります。

 自分がどういった治療を望むのか、医師にしっかりと伝えて相談し、納得のいく治療を進めるようにしてください。

 その中で、薬に関する疑問や不安は、ぜひ薬剤師も頼って欲しいと思います。

+αの情報:非線形薬物の例

 「非線形」を示す薬は、『パキシル』の他にもARBである『ミカルディス(一般名:テルミサルタン)』、水虫治療薬である『イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)』などが存在します。

 また、単独では「非線形」を示さない薬であったとしても、他の薬との飲み合わせによって、複合的に「非線形」を示す可能性もあります。

 薬の血中濃度は効果や副作用に大きく関係しています。単純な計算では予測できないケースが多々ありますので、自己判断で薬の量を変えたり、飲み方を変えることは絶対にやめましょう。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 『デパケン』・『インデラル』・『ミグシス』、同じ片頭痛予防薬…
  2. 『ジスロマック』と『クラリス』、同じマクロライド系抗菌薬の違…
  3. 『アイトロール』と『ニトロール』、同じ硝酸薬の違いは?~初回…
  4. 『アムロジン』・『ワソラン』・『ヘルベッサー』、同じCa拮抗…
  5. 乗り物酔いのOTC、どんな選び方をすれば良い?~予防・治療の…
  6. 『バイアグラ』・『レビトラ』・『シアリス』、同じED治療薬の…
  7. 『メルカゾール』と『チウラジール』、同じ甲状腺の薬の違いは?…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP