『クレストール』・『リピトール』・『リバロ』、同じコレステロールの薬の違いは?~効果の強さ、腎障害時や相互作用のリスク
記事の内容
- 1 回答:強力な『クレストール』、腎障害時も使いやすい『リピトール』、相互作用が少ない『リバロ』
- 2 回答の根拠①:LDL-C値を下げる作用が最も強力な「ロスバスタチン」~増量できる余地も大きい
- 3 回答の根拠②:腎障害時にも使いやすい「アトルバスタチン」
- 4 回答の根拠③:相互作用のリスクが低い「ピタバスタチン」」~代謝酵素CYPの関与
- 5 薬剤師としてのアドバイス:「横紋筋融解症」の副作用に、どうやって注意すれば良いか
- 6 薬のカタログスペックの比較
- 7 +αの情報①:週刊誌などのネガティブキャンペーンに注意
- 8 +αの情報②:スタチン服用中に「筋肉痛」を感じたら?
- 9 +αの情報③:「クラリスロマイシン」はCYP3A4だけでなくOATP1B1も阻害する
回答:強力な『クレストール』、腎障害時も使いやすい『リピトール』、相互作用が少ない『リバロ』
『クレストール(一般名:ロスバスタチン)』、『リピトール(一般名:アトルバスタチン)』、『リバロ(一般名:ピタバスタチン)』は、いずれもLDL-コレステロール(LDL-C)値を下げる「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」です。
『クレストール』は、用量の幅が大きく、最も強力な効果を期待できます。
『リピトール』は、腎機能が低下している人でも使いやすい薬です。
『リバロ』は、代謝酵素CYPの関与がなく、相互作用リスクが少ない薬です。

いずれも作用が強力な”ストロング・スタチン”に分類される薬ですが、基本的な効果や副作用に大きな違いはないため、LDL-C値や腎機能、併用薬などの観点から選ぶのが一般的です。
回答の根拠①:LDL-C値を下げる作用が最も強力な「ロスバスタチン」~増量できる余地も大きい
”ストロング・スタチン”に分類されるこれら3つの薬は、有効性・安全性に大きな違いはなく、ガイドライン等でもひと括りで扱われています1,2)。
実際、1日量を 「ロスバスタチン」2.5mg、「アトルバスタチン」10mg、「ピタバスタチン」2mgで服用した場合、LDL-C値を下げる効果や副作用の頻度は同じ3)だったことが確認されています。
ただ、「ロスバスタチン」は用量の幅が広く、ここから最大8倍の20mgにまで投与量を増やし、その作用を強めることができます4)。そのため、より大きくLDL-C値を下げる必要がある場合に適した薬です。

※同等だった用量からの増量幅 4,5,6)
ロスバスタチン:2.5mg → 最大20mg(8倍)
アトルバスタチン:10mg → 最大40mg(4倍)
ピタバスタチン:2mg → 最大4mg(2倍)
1) 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022 年版」
2) 日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン2018年改訂版」
3) Circ J.75(6):1493-505,(2011) PMID:21498906
4) クレストール錠 インタビューフォーム
5) リピトール錠 インタビューフォーム
6) リバロ錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:腎障害時にも使いやすい「アトルバスタチン」
腎機能が低下している人でも、LDL-C値が高い場合には心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らすため、「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」を使った治療が推奨されています7)。
しかし、「ロスバスタチン」や「ピタバスタチン」は、腎機能が低下していると薬の血中濃度が大きく上がりやすく8)、横紋筋融解症のリスクも高くなってしまいます9)。
その点、「アトルバスタチン」は腎機能による血中濃度変化が起こりにくい5,10)ため、安全に使いやすい選択肢になります。慎重なモニタリング下では、腎機能が重度に低下している人でも通常量での投与が可能なケースもあります11)。

7) KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease.
8) Clin Investig Arterioscler.29(1):22-35,(2017) PMID:27863896
9) Drug Healthc Patient Saf.13:211-219,(2021) PMID:34795533
10) J Clin Pharmacol.37(9):816-9,(1997) PMID:9549635
11) Int J Cardiol.101(1):9-17,(2005) PMID:15860377
回答の根拠③:相互作用のリスクが低い「ピタバスタチン」」~代謝酵素CYPの関与
「ピタバスタチン」の代謝には、代謝酵素CYPがほぼ関与しない6)ため、CYPに関連した相互作用リスクを起こしにくい、という特徴があります。
そのため、他の薬との飲み合わせが問題になることが少なく、併用薬が多い人でも安定した治療を行いやすい薬と言えます。

※代謝に関わるCYP 4,5,6)
ロスバスタチン:わずかにCYP2C9やCYP2C19、CYP2D6、CYP3A4が関係
アトルバスタチン:主にCYP3A4
ピタバスタチン:関与しない
OATPに関係した相互作用には注意が必要
「ロスバスタチン」「アトルバスタチン」「ピタバスタチン」は、いずれも「有機アニオン輸送ポリペプチド(Organic anion transporting polypeptide:OATP)」によって肝臓に取り込まれます。
そのため、「OATP1B1」を阻害する作用を持つ『ネオーラル(一般名:シクロスポリン)』などと併用すると、血中濃度が大きく上昇する恐れがあります。
「ピタバスタチン」や「ロスバスタチン」は、CYPに関係した相互作用を起こしにくいのは確かですが、こうしたOATPに関係した相互作用には注意が必要です。
※「シクロスポリン」と併用した場合の血中濃度上昇 4,5,6)
ロスバスタチン:AUCが7倍に上昇(併用禁忌)
アトルバスタチン:AUCが8.7倍に上昇(併用注意)
ピタバスタチン:AUCが4.6倍に上昇(併用禁忌)
薬剤師としてのアドバイス:「横紋筋融解症」の副作用に、どうやって注意すれば良いか
「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」の代表的な副作用に「横紋筋融解症」があります。その名前の”怖さ”からよく話題になりますが、筋肉が溶けてドロドロになるようなものではなく、筋肉が損傷を受け、そのときに生じた老廃物で腎臓に大きな負担がかかる、というのが問題になる副作用です。
スタチンを服用している人では、1,000~10,000人に1人程度で起こる稀な副作用12)ですが、早めに兆候に気づいて対応できれば、大きな問題にはなりません。
「運動もしていないのに筋肉痛になった」、「手足に力が入らない」、「尿の色がコーラみたいな赤褐色になった」といった症状に気づいたときは、早めに医師・薬剤師に相談するようにしてください。
12) Eur Heart J.36(17):1012-22,(2015) PMID:25694464
ポイントのまとめ
1. 『クレストール(ロスバスタチン)』は、用量の幅が広く、最も大きな作用を期待して使える
2. 『リピトール(アトルバスタチン)』は、腎機能障害があっても血中濃度が変動しにくい
3. 『リバロ(ピタバスタチン)』は、代謝酵素CYPに関連した相互作用リスクが低い
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ロスバスタチン | アトルバスタチン | ピタバスタチン | |
先発医薬品名 | クレストール | リピトール | リバロ |
適応症 | 高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症 | 高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症 | 高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症 |
用法 | 1日1回 | 1日1回 | 1日1回 |
用量 | 2.5~20mg | 10~40mg | 1~4mg |
腎障害時の血中濃度変化 | CmaxやAUCは、軽~中等度障害で1.8倍、重度障害で3倍に上昇 | 大きな変化なし | Cmaxは1.7倍、AUCは1.9倍に上昇 |
関与する代謝酵素CYP | わずかにCYP2C9やCYP2C19、CYP2D6、CYP3A4が関係 | 主にCYP3A4 | 関与しない |
併用禁忌の薬 | シクロスポリン | グレカプレビル・ピブレンタスビル | シクロスポリン |
妊娠中の安全性評価 | 禁忌 オーストラリア基準【D】 | 禁忌 オーストラリア基準【D】 | 禁忌 オーストラリア基準【D】 |
授乳中の安全性評価 | 禁忌 MMM【L3】 | 禁忌 MMM【L3】 | 禁忌 MMM【-】 |
「エゼチミブ」との配合剤 | 『ロスーゼット(ロスバスタチン+エゼチミブ)』 | 『アトーゼット(アトルバスタチン+エゼチミブ)』 | 『リバゼブ(ピタバスタチン+エゼチミブ)』 |
Ca拮抗薬との配合剤 | – | 『カデュエット(アトルバスタチン+アムロジピン)』 | – |
国際誕生年 | 2002年 | 1996年 | 2003年 |
世界での販売状況 | 世界120ヵ国以上 | 世界100ヵ国以上 | 世界28ヵ国 |
剤型の規格 | 錠(2.5mg、5mg)、OD錠(2.5mg、5mg) | 錠(5mg、10mg) | 錠(1mg、2mg、4mg)、OD錠(1mg、2mg、4mg) |
先発医薬品の製造販売元 | アストラゼネカ | ヴィアトリス製薬 | 興和 |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:週刊誌などのネガティブキャンペーンに注意
「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は、LDL-C値が高い人の心筋梗塞や脳卒中のリスクを確実に下げてくれる薬です。心筋梗塞や脳卒中は、ひとたび起こせば生命に直結する13)だけでなく、運よく一命をとりとめても健康寿命が大幅に縮まる14)ため、このリスクを軽減できることは人生にとって非常に大きな意味があります。
しかし、この薬は効果を実感しにくいこともあり、週刊誌やインターネットで”無意味”、”医師は飲まない”などといった誹謗中傷に曝されることがよくあります。
実際、オーストラリアでも無用の不安を煽るようなテレビ番組が放送された結果、60,000人近い患者の服薬状況に悪影響を及ぼし、その結果、本来は防げたはずの心筋梗塞による死者が5年で1,500~2,900人発生した、という事態も起こっています15)。
自己判断で薬を止めてしまうことは非常に危険です。自分でも色々な情報収集をすることは大切ですが、もし気になったことがあれば必ずかかりつけの医師・薬剤師に相談するようにしてください。
(※LDL-C値が下がると治療が”完了”したと思って薬をやめてしまう人も多いですが、次は”その状態を維持”し続けることが重要です)
13) Circ J.85(3):319-322,(2021) PMID:33563866
14) JAMA Neurol.78(6):709-717,(2021) PMID:33938914
15) Med J Aust.202(11):591-5,(2015) PMID:26068693
+αの情報②:スタチン服用中に「筋肉痛」を感じたら?
「横紋筋融解症」の初期症状として「筋肉痛」だけが強調されると、日常生活の中でもそればかり気になって、副作用でもないのに「筋肉痛」を感じるようになってしまうことがあります16)。
実際には、「筋肉痛」を感じていてもクレアチニンキナーゼの上昇が確認されなければスタチンの服用は継続できる17)ことも多く、必ずしも「筋肉痛」=「副作用なので服薬中止」とは限りません。
「横紋筋融解症」の早期発見には、筋肉痛などの初期症状に注意してもらうことは必要ですが、そもそも非常に稀な副作用であることも含めて、過剰に恐れる必要はない、というところも押さえておく必要があります。
16) Lancet.389(10088):2473-2481,(2017) PMID:28476288
17) 日本肝臓学会、日本動脈硬化学会 「スタチン不耐に関する診療指針2018」
+αの情報③:「クラリスロマイシン」はCYP3A4だけでなくOATP1B1も阻害する
「クラリスロマイシン」は、CYP3A4だけでなくOATP1B1も阻害します。そのため、代謝にCYP3A4があまり関係しない「ロスバスタチン」や「ピタバスタチン」との併用時にも相互作用リスクがある18,19)、という点に注意が必要です。
18) CMAJ.187(3):174-80,(2015) PMID:25534598
19) Basic Clin Pharmacol Toxicol.126(4):307-317,(2020) PMID:31628882
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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【加筆修正】
『クレストール(一般名:ロスバスタチン)』と『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』の相互作用について、代謝酵素CYP3A4が主に関与したものではないことが正確に伝わる表現へ修正しました(参考文献7ほか)。
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【加筆修正】
CYP3A4・OATP1B1阻害による相互作用について加筆し、全体の構図を変更しました。