『ビビアント』と『エビスタ』、同じ骨粗鬆症の薬の違いは?~SERMの骨折予防効果と使用実績
記事の内容
回答:骨折リスクの高い人向きの『ビビアント』、使用実績が豊富な『エビスタ』
『ビビアント(一般名:バゼドキシフェン)』と『エビスタ(一般名:ラロキシフェン)』は、どちらも閉経後の骨粗鬆症に使う、SERM(選択的エストロゲン受容体調節薬)です。
『ビビアント』は、骨折リスクの高い人でより高い効果を期待できる薬です。
『エビスタ』は、古くから使われているぶん使用実績が豊富な薬です。

用法だけでなく、副作用や値段もほとんど変わらないため、骨密度の低さ(骨折リスク)で使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:ハイリスクな人で高い効果を期待できる「バゼドキシフェン」
女性ホルモンである「エストロゲン」は骨代謝に深く関係しているため、閉経で「エストロゲン」が減ると骨が脆くなる傾向にあります。しかし、単純に「エストロゲン」を増やす(ホルモン補充療法)と、血栓ができやすくなったり、乳がんのリスクが高まったりと、様々な問題を起こします。
そのため、安全に治療するためには、骨では「エストロゲン」の作用を強めながら、乳房など他の場所では「エストロゲン」の作用を強めない、といった複雑な作用をさせる必要があります。
この複雑な作用をするのが、「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」といった「選択的エストロゲン受容体調節薬(Selective Estrogen Receptor Modulator:SERM)」に分類される薬です1,2)。
どちらも骨密度を上昇させるのに推奨されている薬3)ですが、特に骨密度が大きく低下している高い集団では、「バゼドキシフェン」の方が高い骨折予防効果を期待できる4,5)ため、骨折リスクの高い人には「バゼドキシフェン」が優先的に選ばれる傾向にあります。

1) ビビアント錠 インタビューフォーム
2) エビスタ錠 インタビューフォーム
3) 日本骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(2025年版)
4) J Bone Miner Res.23(12):1923-34,(2008) PMID:18665787
5) Osteoporos Int.24(10):2561-9,(2013) PMID:23595562
回答の根拠②:使用実績が豊富な「ラロキシフェン」~乳がんの予防効果なども確認されている
通常の骨粗鬆症患者に対する効果は、「バゼドキシフェン」と「ラロキシフェン」でほとんど差はありません4)。薬の値段もほとんど同じため、費用対効果もほぼ同じとされています6)。
さらに、”ほてり”や血栓症といった副作用の現れ方、乳房・子宮内膜に対する影響にも大差ない7)とされています。

そのため、骨折リスクが特に高い人でなければ、10年以上前から使われていて使用実績の豊富な「ラロキシフェン」を選んでも問題ありません。
※SERMの国際誕生年
バゼドキシフェン:2009年(日本では2010年)
ラロキシフェン :1997年(日本では2004年)
6) J Bone Miner Res.28(4):807-15,(2013) PMID:23165656
7) BMC Musculoskelet Disord.11:130,(2010) PMID:20569451
「ラロキシフェン」では、乳がんの予防効果も実証されている
「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」は、乳がんの薬『ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)』と同じ作用の薬(SERM)です。実際、「ラロキシフェン」では「タモキシフェン」とほぼ同等の乳がん抑制効果が確認されており8)、アメリカやオーストラリアでは”乳がんの発症予防”の薬としても承認されています2)。
「バゼドキシフェン」も作用は同じため、同様の効果が期待はされていますが、まだ使用実績が少なく実証されていません。

こうした事情から、乳がんのリスクが高い人には「ラロキシフェン」が優先的に選ばれることがあります。
8) JAMA.295(23):2727-41,(2006) PMID:16754727
薬剤師としてのアドバイス:身体を長期間にわたって動かさないときには”休薬”が必要
「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」には、血栓ができやすくなる副作用があります。通常、この副作用によって血栓症を起こすことは非常に稀ですが、入院などで、長期間にわたって”寝たきり”や”あまり動かない状態”になる場合には、そのリスクが高くなることがあります。
また、大規模災害が発生して避難生活を送る際、特に窮屈な「車中泊」などをしている場合には、こうした血栓症を起こしやすくなることが知られています9,10)。

水分摂取量が少なくなる、身体をあまり動かさない期間が長く続く、といった状況では、「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」といったSERMの服薬は一時的に”休薬”することがあります。入院や災害などの際には薬をどう調整するのか、事前に医師や薬剤師と相談しておくことが大切です。
9) Ann Vasc Dis.16(1):54-59,(2023) PMID:37006862
10) Phlebology.29(4):257-66,(2014) PMID:23422297
ポイントのまとめ
1. 『ビビアント(バゼドキシフェン)』は、骨密度が特に低い人で高い効果を期待できる
2. 『エビスタ(ラロキシフェン」)』は、使用実績が豊富(乳がんの予防効果も確認済)
3. SERMの血栓リスクは、長期の”寝たきり”や”災害時の避難生活”などで顕在化するため要注意
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| バゼドキシフェン | ラロキシフェン | |
| 先発医薬品名 | ビビアント | エビスタ |
| 薬効分類 | SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター) | SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター) |
| 適応症 | 閉経後骨粗鬆症 | 閉経後骨粗鬆症 |
| 用法 | 1日1回 | 1日1回 |
| ガイドラインの推奨度 3) | 骨密度上昇:推奨 骨折予防:提案 | 骨密度上昇:推奨 骨折予防:提案 |
| 軽度~中等度の腎障害時 1,2) | AUCが最大1.2倍程度に上昇 | AUCが1.4倍程度に上昇 |
| 海外での効能・効果 | 閉経後骨粗鬆症 | 閉経後骨粗鬆症、浸潤性乳癌のリスク抑制 |
| 国際登場年 | 2009年(日本では2010年) | 1997年(日本では2004年) |
| 妊娠中の安全性評価 | 禁忌 – | 禁忌 オーストラリア基準【X】 |
| 授乳中の安全性評価 | – | MMM【L4】 |
| 世界での販売状況 | ドイツ、イタリア、スイスなど13ヵ国 | 世界90ヵ国以上 |
| 剤型の規格 | 錠(20mg) | 錠(60mg) |
| 先発医薬品の製造販売元 | ファイザー | イーライリリー |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:乳がんの治療中は、「SERM」を使えないことがある
乳がんの治療を『アリミデックス(一般名:アナストロゾール)』などのアロマターゼ阻害薬で行っている場合、骨粗鬆症治療に「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」といったSERMを使うのは避けた方が無難、とされています11)。
これは、併用するとアロマターゼ阻害薬による乳がんの再発抑制効果が弱まってしまう可能性が指摘されている12)からです。

乳がんと骨粗鬆症は、高齢の女性で併発することの多い組み合わせですが、それぞれ別の病院で薬を処方されているとこの組み合わせに気づかないこともあります。病院を受診する、薬局で薬を受けとる際には必ず「お薬手帳」を提示して、薬の飲み合わせを確認してもらうことを強くお勧めします。
11) 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版」
12) Lancet.359(9324):2131-9,(2002) PMID:12090977
+αの情報②:自覚症状の乏しい骨粗鬆症の治療を続けるのは難しい
「バゼドキシフェン」や「ラロキシフェン」は、きちんと服用すれば骨粗鬆症による骨折リスクを40%ほど軽減してくれる薬です4,5)。しかし、そもそも骨粗鬆症は自覚症状も乏しいため、服薬を途中で挫折してしまうことも少なくありません。
実際、骨粗鬆症治療に用いるSERMの服薬アドヒアランスは、1年で56%、3年で35%程度13)と、多くの人が服薬を継続できていない実情が報告されています。
13) Climacteric.14(2):228-35,(2011) PMID:20964548
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











申し訳ありません、ご指摘の通り『ビビアント』と『エビスタ』のmgが逆になっておりました。教えて頂きありがとうございます。
誤)『ビビアント』1錠60mg、『エビスタ』1錠20mg
正)『ビビアント』1錠20mg、『エビスタ』1錠60mg
含有量が間違ってます。